幼い頃、聖也と夏祈は常に行動を共にしていた。家族ぐるみの付き合いがあり、休日には山や海に一緒に出掛けたこともある。


 その関係に変化があったのは、2人が小学4年生に進級した春だ。

 聖也は友達に誘われて、地元の野球チームに入った。そこからは、明けても暮れても白球を追い掛ける毎日……。

 夏祈の方も、なんとなく通っていた音楽教室や学習塾の回数が増え、それぞれに別の忙しい日々を送るようになった。


 中学に入学すると、夏祈は吹奏楽部に入部し、1番人気のトランペットを担当することになった。

 当然、聖也との接点はなくなり、すれ違いざまに挨拶を交わす程度の仲に……。


 おまけに、聖也には彼女ができた。


 野球にしか興味のない聖也の心を動かした女子・岸本きしもと 遥香はるかは、別の小学校から来た同級生。


 夏祈はなんとなく聖也が好きだった。だから、彼女の存在を知った時はショックだった。

 けれども、すぐに立ち直った。

 その恋はあまりにも幼過ぎて、自覚症状もないままに終わっていた。


 気が付くと、そこに居る全員の視線が夏祈に集中しいた。


(あれ、なんか見られてるけど……。そっか、名前とか呼んだ方がいいんだよね?)


 夏祈は、看護士が声を掛けてあげてと言っていたことを思い出した。


「せーや! せーや、大丈夫? 大丈夫な訳ないか……」


 その時、閉じた聖也のまぶたから涙がスーッと零れ落ちた。


「あっ……」


 思わず、夏祈の声も零れる。


「あなたの声が聞こえてるのよ」


 そう言って優しく微笑みながら、点滴を確認する看護士。


「せーや、もう起きなよ! 明日からまた部活でしょ! 休んでたら試合出してもらえないよ」


 母親の泣きじゃくる声が、規則正しい電子音と重なる。

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