5
幼い頃、聖也と夏祈は常に行動を共にしていた。家族ぐるみの付き合いがあり、休日には山や海に一緒に出掛けたこともある。
その関係に変化があったのは、2人が小学4年生に進級した春だ。
聖也は友達に誘われて、地元の野球チームに入った。そこからは、明けても暮れても白球を追い掛ける毎日……。
夏祈の方も、なんとなく通っていた音楽教室や学習塾の回数が増え、それぞれに別の忙しい日々を送るようになった。
中学に入学すると、夏祈は吹奏楽部に入部し、1番人気のトランペットを担当することになった。
当然、聖也との接点はなくなり、すれ違いざまに挨拶を交わす程度の仲に……。
おまけに、聖也には彼女ができた。
野球にしか興味のない聖也の心を動かした女子・
夏祈はなんとなく聖也が好きだった。だから、彼女の存在を知った時はショックだった。
けれども、すぐに立ち直った。
その恋はあまりにも幼過ぎて、自覚症状もないままに終わっていた。
気が付くと、そこに居る全員の視線が夏祈に集中しいた。
(あれ、なんか見られてるけど……。そっか、名前とか呼んだ方がいいんだよね?)
夏祈は、看護士が声を掛けてあげてと言っていたことを思い出した。
「せーや! せーや、大丈夫? 大丈夫な訳ないか……」
その時、閉じた聖也の
「あっ……」
思わず、夏祈の声も零れる。
「あなたの声が聞こえてるのよ」
そう言って優しく微笑みながら、点滴を確認する看護士。
「せーや、もう起きなよ! 明日からまた部活でしょ! 休んでたら試合出してもらえないよ」
母親の泣きじゃくる声が、規則正しい電子音と重なる。
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