入るとすぐに、耳を塞ぎたくなるようなうめき声が聞こえてきた。

 

 右側のベッドで、若い男が生々しい傷の手当てを受けている。看護師2人に押さえつけられ、痛みに悶え苦しんでいる。


 左側のベッドでは、首にコルセットを取り付けられた中年女性が、瞬きもせず冷静に医師の説明を見つめている。


 更に、その先に進んでいった時、夏祈は激しい衝撃で全身が震えた。

 まさに、今亡くなったことを告げられた家族が、ベッドを囲んで悲痛な叫びを挙げている。


(まじ! これって……、リアル?)


 赤ちゃんを抱いた女性の隣りには、小学生にも満たない男の子の姿もある。

 永遠の眠りに就いたのは、そこに居る子供達の父親のようだ。


 先程までテレビ番組の時間を気にしていた夏祈の目の前に、次々に現れる残酷な現実。


(勘弁してよーっ! まじで無理‼︎ もう帰りたいっ)


 完全にメンタルをやられ、引き返したい衝動に駆られる。


 重い足を引きずり、ようやくたどり着いた1番奥のベッドには、変わり果てたその人が……。

 痛々しい器具を鼻や口に取り付けられ、頭部を包帯でグルグルに巻かれた聖也が横たわっている。


(なんで、なんで!? せーやは不死身じゃなかったの! みんながインフルエンザで死にそうになってた時だって、1人平気な顔で学校に行ってたじゃないっ)


 誰よりも元気な聖也のその姿に、夏祈はショックを隠せない。


「こうして、しっかりと手を握って声を掛けてあげてね」


 傍で作業をしていた看護師が、夏祈の手を取り聖也の右手を握らせた。


(えっ……。せーやの手、こんなに大きくなってたの?)


 重なり合った2つの手をまじまじと見つめる夏祈。


 聖也の手には、まだ温もりがある……。

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