30
「もーっ、なんだよなつき〜」
目を擦りながらピアノの前まで来た祐也は、突然、ぱちりと目を覚ました。
「おじさーん!!」
『ヘッ!?』
そこに居る誰よりも、その変な生き物が1番驚いている。
「やっぱり、ほんとだったんだーっ!」
飛び上がって、喜ぶ祐也。
そしてその時、夏祈の目の前にはっきりと、野球部のユニフォームを着た聖也の姿が浮かび上がった。
「せっ、せっ、せーや! どうなってんのーっ」
壁に貼り付いた状態で、完全に固まる夏祈。
“おじさん! 俺の弟の祐也です”
聖也が祐也を見下ろしながら、丁寧に紹介している。
おじさんは、シャツを整えながら立ち上がった。
『ナルホドー! 弟のユーヤはセーヤにそっくりダナァ』
聖也と祐也を、交互に見るおじさん。
「えっ、おじさん、俺のこと知ってんの?」
自分の名前を呼ばれた祐也は、嬉しそうにピアノにしがみ付いている。
『知っテル、知っテル』
「すげーっ、感激ーっ!」
事態を理解できない夏祈は、ピアノに近付いていき、舞い上がる祐也の肩をツンツンと突っついた。
「ねぇ、ゆーや! この生き物見えてるの?」
「当たり前じゃん!」
祐也は振り返って、大きく頷いた。
「じゃあ、隣りに居るせーやは?」
「なんで、兄ちゃんが居んだよ!」
(えぇーーっ!! この変な生き物は見えてるのに、せーやは見えないのーっ!)
“えっ、なつき……。俺のこと見えてんの?”
聖也を見て、夏祈はゆっくりと頷いた。
“そっか、見えてんだ……。で、おじさんも見えるようになったんだ?”
(あっ、この生き物、おじさんっていうんだぁ)
おじさんを、まじまじと見つめる夏祈。
『ヤット、気付いてくれたみたいダナァ』
聖也とおじさんが、微笑み合っている。
(へぇ〜、このおじさんにはせーやが見えてるんだぁ……。でも、ゆーやにせーやは見えてない……。いったい、どことどこが繋がって、誰と誰がわかり合ってんの!?)
若干、パニックになっていく夏祈。
「そうだ! ねぇ、しんご。今、ここに居る人の名前、全員言ってみて」
祐也の右側で呆然としていた真悟が、キョロキョロと辺りを見まわしながら言った。
「なっちゃんと、ゆうやと、このおじさん?」
(ってことは、ゆーやと同じパターン?)
「あっ、ゆうや! 野球始まってるよ」
真悟が壁にある時計を気にすると、祐也も同じように時間を確認した。
「やべーっ!」
2人揃って、テレビのある居間に走っていく。
(えっ、ちょっと、待ってよ! この状況でそっち選択するーっ? 気まずい……、ちょー気まずい)
“あっ、俺も見よーっ”
そのあとを追うように、聖也も消えた。
(死んでも野球って……。もー、意味わかんない!)
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