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「もーっ、なんだよなつき〜」


 目を擦りながらピアノの前まで来た祐也は、突然、ぱちりと目を覚ました。


「おじさーん!!」


『ヘッ!?』


 そこに居る誰よりも、その変な生き物が1番驚いている。


「やっぱり、ほんとだったんだーっ!」


 飛び上がって、喜ぶ祐也。

 そしてその時、夏祈の目の前にはっきりと、野球部のユニフォームを着た聖也の姿が浮かび上がった。


「せっ、せっ、せーや! どうなってんのーっ」


 壁に貼り付いた状態で、完全に固まる夏祈。


“おじさん! 俺の弟の祐也です”


 聖也が祐也を見下ろしながら、丁寧に紹介している。

 おじさんは、シャツを整えながら立ち上がった。


『ナルホドー! 弟のユーヤはセーヤにそっくりダナァ』


 聖也と祐也を、交互に見るおじさん。


「えっ、おじさん、俺のこと知ってんの?」


 自分の名前を呼ばれた祐也は、嬉しそうにピアノにしがみ付いている。


『知っテル、知っテル』


「すげーっ、感激ーっ!」


 事態を理解できない夏祈は、ピアノに近付いていき、舞い上がる祐也の肩をツンツンと突っついた。


「ねぇ、ゆーや! この生き物見えてるの?」


「当たり前じゃん!」


 祐也は振り返って、大きく頷いた。


「じゃあ、隣りに居るせーやは?」


「なんで、兄ちゃんが居んだよ!」


(えぇーーっ!! この変な生き物は見えてるのに、せーやは見えないのーっ!)


“えっ、なつき……。俺のこと見えてんの?”


 聖也を見て、夏祈はゆっくりと頷いた。


“そっか、見えてんだ……。で、おじさんも見えるようになったんだ?”


(あっ、この生き物、おじさんっていうんだぁ)


 おじさんを、まじまじと見つめる夏祈。


『ヤット、気付いてくれたみたいダナァ』


 聖也とおじさんが、微笑み合っている。


(へぇ〜、このおじさんにはせーやが見えてるんだぁ……。でも、ゆーやにせーやは見えてない……。いったい、どことどこが繋がって、誰と誰がわかり合ってんの!?)


 若干、パニックになっていく夏祈。


「そうだ! ねぇ、しんご。今、ここに居る人の名前、全員言ってみて」


 祐也の右側で呆然としていた真悟が、キョロキョロと辺りを見まわしながら言った。


「なっちゃんと、ゆうやと、このおじさん?」


(ってことは、ゆーやと同じパターン?)


「あっ、ゆうや! 野球始まってるよ」


 真悟が壁にある時計を気にすると、祐也も同じように時間を確認した。


「やべーっ!」


 2人揃って、テレビのある居間に走っていく。


(えっ、ちょっと、待ってよ! この状況でそっち選択するーっ? 気まずい……、ちょー気まずい)


“あっ、俺も見よーっ”


 そのあとを追うように、聖也も消えた。


(死んでも野球って……。もー、意味わかんない!)

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