52

『オーイ、着いたヨー!』


 おじさんの声で我に返り、固く閉じていた瞳をゆっくりと開けてみる。


 そこは、トンネル……。まるで雲の中にでも居るような、白いもやでできた幻想的な空洞。

 ところどころにある隙間からは、微かな金色の光が洩れ……。3人の足元から延びる白い道は、大理石のように優雅な光を放っていた。


“なんか、懐かしい”


 聖也が、両手を伸ばして深呼吸をする。


「そう言われてみれば、前に来たことがあるような……、夢で見たことがあるような……」


 不思議な感覚に浸りながら、3人それぞれに、その道を一歩ずつ進んでいく……。


 やがて、出口を予感させる眩しい光が差し込んできた。

 光に向かって息を上げながら走っていき、長いトンネルを抜けでる。


「えっ……」


 そこには、信じられない光景が……。


 突如、目の前に広がったのは、クリスタルのように輝きながら、ゆったりと流れている大きな川。

 水面には青い空が鮮明に映しだされ、遥か向こうには緑色に煌めく山々が立ち並んでいる。

 まさに、天然色がキラキラと輝く、広大無辺な世界……。


「綺麗〜っ…………」


(あれっ! もしかして、ここは天国? ってことは、私、もう戻れないんじゃないの!?)


 おじさんがニヤニヤと笑いながら、夏祈の顔を覗き込んで言った。


『大丈夫ダヨ、ナツキは天国には行けないカラ』


(あっ、また、心読まれた! だけど、天国には行けないって……、どういう意味よ!)


 おじさんに誘導されるがまま、軽やかな足取りで進んでいく聖也。

 キョロキョロと辺りを見まわしながら、夏祈も急ぎ足で付いていく。


 白く光る道は煌めく川を渡り……、その先に見える丘の麓にまで繋がっていた。

 更に、麓からは、同じ光を放つ階段に変わる。


「この道、いったいどこまで続いてんの?」


『モー、到着シテルヨ』


 階段を一段一段上がりながら、夏祈は見上げてみた。


「う、わぁ〜っ♪」


 そこには……、

 古代ギリシャの神殿を思わせる、尊厳に満ち溢れた白亜の建造物がそびえ立っていた。


“すげーっ!”


 その風貌に圧倒されながらも、勢いよく駆け上がっていく聖也。

 規則正しい浮き彫りが施されたいくつもの柱を抜けて、その中へと入っていく……。


「ちょ、ちょっと、待ってよ!」


 戸惑いながらも、夏祈もあとに続く。


 湾曲しながら続いているロビーを進んでいくと、近くに設置されたスピーカーから、聞き覚えのあるクラシック音楽と見知らぬ声が流れてきた。


「間もなく、三崎聖也13歳の人生ドラマが上映されます♪」


“えっ、俺の!?”


 高い天井に響き渡るアナウンスに、仰天する聖也。


『ソッ』


 ニッコリと微笑みながら、おじさんが手をかざすと、目の前にある重厚な扉がゆっくりと開かれた。


『サァ、中へ』


 おじさんの声に背中を押され、2人並んで足を踏み入れる。


「うそっ!?」


“まじ!”


 扉を越えると……、一瞬にして空気が変わった。


 透明感のある、神聖な空間……。


 正面の舞台には、金色の光を放つ煌びやかな祭壇が飾られている。

 その祭壇に向かい合うように設置された座席は、ざっと300はある。

 まるで、西洋の礼拝堂のようなホールの左右には、扉がズラリと並んでいる。

 祭壇に向かって右側は、金色の扉から始まり、銀色、黄色、オレンジ、ピンク、黄緑……。色鮮やかな、明るい色の扉が10戸ほど続いている。

 逆に、左側は、唐紅色の扉から始まり、深い緑色、濃紺、渋い紫……。どんよりとした、暗い色の扉がやはり10戸ほど続いている。最後にある、深い闇のように黒い扉は、もう異様な空気を漂わせていた。

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