永遠の輝き

71

 ピピッ、ピピピピッ、ピピッ、ピピピピッ……。アラームの音で目覚める、いつもの朝。


「夏祈ーっ、起きてるー!?」


「起きてるっ、けど、眠い……」


 ベッドに潜り込み、再び眠りに就く。


「もーっ、早くしないと遅刻するわよ!」


 母親の声が、だんだん強くなる。


「……はぁ~っ、学校かぁ」


 半分寝たまま起き上がり、トーストの香ばしさが漂うリビングに向かう。


 今日から2学期。

 夢のような島の生活から、ごくごく平凡な日常に戻る……。



「おはよー!」


 少し緊張しながら、教室のドアを開けると、


「夏祈ーっ!」

「もう、大丈夫なの?」


 クラスメートが走り寄ってくる。


「うわっ、灼けたねーっ」

「真っ黒じゃん!」


 一気に囲まれ、夏祈はなぜか嬉しくなる。


「うん! ほとんど毎日泳いでたから」


 自分の腕の色を改めて確認しながら満足げに言っていると、未来がアップで迫ってきた。


「いいなー、聖也くんの弟も一緒だったんでしょ。今度は私も連れてってよ!」


「うん。行こーっ! 友達いっぱい連れてったら、おばあちゃんも喜ぶよ」


「えっ、まじで言ってんの?」


「なんで? まじだけど」


「へえ~っ……。なんか、夏祈、変わったね」


「はっ!?」


「だって、みんなと居ると疲れるって……。島には1人で行きたいって、いつも言ってたじゃない」


「そう……、だったかもね」


「あっ! もしかして、南の島で素敵な出逢いがあったとか?」


「何、言ってんの! 人口の7割が年寄りの島なんだよ」


「えっ! 若者は居ないの?」


「若者は……、あっ、チャラいのが1人居た」


「えっ、1人?」


「それより、今日、部活あるよね?」


「あっ……、コンクールのこと、彩から聞いてない?」


 未来の顔色が変わる。


「えっ、何?」


 中途半端なところでチャイムが鳴り、一斉に体育館へと移動した。



“夏休みは終わりました……。皆さん、気を引き締めて……”


 気合いの入った校長先生の、長い挨拶。


(暑い〜っ……、いい加減にして〜)


 貧血者続出の始業式を、なんとか乗り切り、


「夏祈、行こーっ」


 1ヶ月ぶりの部活に移動する。

 音楽室に向かって歩きだした夏祈は、始業式前に未来が何か言おうとしていたことを思い出した。


「そう言えば、さっき、彩からコンクールのこと聞いてないとかなんとか言ってなかった?」


「あ〜っ……。見ればわかるよ!」


 そのドアを開けた瞬間、夏祈の全身に衝撃が走った。

 いつも夏祈が座っている席に、彩が座っている。そして、なんと、クラリネット担当の彩が、トランペットを抱えている。


「どういうこと?」


 混乱している夏祈に、部長が近付いてくる。


「大島! もう大丈夫なのか?」


「あっ、はい。すみませんでした」


「これ、新しい楽譜。担当替えしたから! 次のコンクール、大島はクラリネットで」


 プリントを手渡され、部長は廊下に消えていった。


(クラリネットって……、彩と交換ってこと?)


 夏祈に気付いた彩が、ハッとしたような視線を向けている。


(嘘……。私の方が、断然、上手なのに!)


 ショックのあまり、その視線に応えることはできない。


「ごめんね。夏祈、トランペット担当になって凄く喜んでたから、言い出せなかったの」


 未来が隣りで、申し訳なさそうに呟いている。


(あーっ、最悪! もう、部活、やめちゃおっかなぁ)


 とりあえず、未来と一緒にクラリネットのパートに加わり、放心状態のまま部活を終える。



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