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朝から慌ただしく、煮物に火を入れる祖母……。全開された仏壇には、団子や果物が賑やかに供えられている。
食卓を、いつもより丁寧に拭く夏祈。ふと、祖父や先祖が並ぶ遺影が目に入ってくる。
(全く、毎度大袈裟にみんなで集まるけど……、お盆ってほんとに意味あんの?)
「あらっ、なつきちゃん、久しぶり〜! いい娘さんになっちゃって〜」
煌々と灯されるろうそくの火に導かれるかのように、この島に住んでいる母方の親戚が続々と現れる。
「あっ、おばちゃん! あそこに立ってるの、せーやの弟だよ」
祐也が、廊下から軽く会釈をする。
「そうだと思った! お兄ちゃんに似てるもん」
「おばちゃん、せーやのこと覚えてるの?」
「覚えてるわよ! おばちゃん、イケメンは忘れないの」
夏祈をちらちらと気にしながら、祐也が愛想笑いをしている。
居間いっぱいに親族が揃ったところで、顔馴染みのお坊さんがお経を読み始める……。
そのお経に呼び寄せられるように、聖也も入ってきた。
「あっ、せーや……」
前列の端に座っている夏祈に、近付いてくる。
“あっ!”
驚いたように野球帽を外し、聖也は仏壇の横の壁に向かって丁寧に一礼をした。
「どうしたの、誰か居るの?」
キョロキョロと部屋を見渡しながら、夏祈は小声で話し掛ける。
“なつきんとこの、じーちゃん!”
聖也は当たり前のように応えて、夏祈の隣りに座った。
「えっ、おじいちゃん!」
うっかり叫んでしまった夏祈。祐也が横から、冷たい視線を送っている。
(ヤバい……)
「で、ほんとなの?」
今度は誰にも気付かれないように、ひそひそと話し掛けてみる。
“今、なつきの前に居る! 大きくなったなぁ、だって……”
(そんな、そんなバカな……。死んだ人間が本当に還ってくるなんて、映画じゃないんだから! でも……、せーやもこうして居る訳だし……)
目の前の空間を、まじまじと見つめてみる。
“プッ、なつきが綺麗になったって……”
「なんで笑うの?」
それから暫く、聖也と亡くなった祖父との会話が続いていた……。
意味不明な長いお経のあとは、今を生きる人達への説法が熱く語られる。
「人、1人の命は、大勢のご先祖様から頂いた尊いもの……」
(暑っーい! 海、行きたーいっ)
最もらしい説教に、飽き飽きしてくる夏祈。
「ねぇ、せーや……。おじいちゃん、まだ居る?」
野球帽を被り直しながら、聖也が部屋を見渡した。
“あっち行っちゃったよ。今、ばーちゃんの左側で、肩抱いてる”
「えっ!」
すぐにその視線の先に目を向けると、祖母は瞳を閉じて、右の肩をゆっくりと撫でていた。
(うっそーっ!)
儀式は滞りなく終わり……、祖母の家に元の静けさが戻ったのは、陽も完全に落ちた午後8時過ぎだった。
「お疲れさま〜。今日はお手伝いしてくれてありがとね。助かったよ〜」
食卓でくつろぎながら、祖母が1人1人の顔を嬉しそうに見つめている。
「ばあちゃん、俺、お小遣いいっぱい貰っちゃった……。いいのかなぁ?」
困ったような顔で、祖母の隣りに寄り添う祐也。祖母は、祐也の頭をなでながら言った。
「いいんだよ! それで、祐也君の欲しいものを買えば、おじちゃんやおばちゃん達も喜ぶよ! バットやグローブかな?」
「えっ、ばあちゃん! なんで、俺の欲しいもの知ってんの?」
「ばぁちゃんは、なんでも知ってる
よ〜」
「すげっ!」
祖母が祐也の頭を抱え、楽しそうにじゃれ合っている。
(なんか、凄い
夏祈の気持ちは複雑だった。
叔父や叔母がくれたお小遣いの合計金額が、祐也と全く同じだったからだ。
(ゆーやは小学生で、私は中学生だっていうのに…。うちの親戚って、どういう感覚してんの?)
ブツブツと呟きながら部屋に戻り、ベッドの上で、貰ったお金を数え始めた。
“なつき! ちょっといい? 話したいことがあるんだ”
ピアノの椅子に座って、おじさんと話し込んでいた聖也が、クルリと向きを変えた。
「なーに? お風呂入るから、手短かにねっ」
お金をバラまいたまま、聖也と向かい合う。
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