期間限定の恋
32
南国の甘い香りに包まれて、暑い島の毎日はのんびりと過ぎていく……。
夏祈達が、この島に来てから1週間が経過した。
流行りのマリンスポーツも一通りクリアし、祐也はボードの上に立って、小さな波なら乗れるくらいにまで上達していた。
「おじさーん、早く来てっ」
夕食が終わると、祐也は必ずピアノの前に直行する。おじさんが、ゲームの戦略において達人レベルだという事実が発覚してしまったからだ。
『フワァ〜ッ……。今日は寝かせてオクレ』
うたた寝に入ろうとしていたおじさんが、あくびをしながら寝返りをうつ。
「おじさん、お願い!」
両手を合わせて頼み込む祐也。
「ゆうや、ずるいぞ! 今日は俺だからな」
その背後から、真悟もやって来る。
結局、おじさんは強引に連れていかれ、夏祈は自分にしか見えない聖也と2人きり……。
“おじさん、大人気だな”
ピアノの椅子に座っていた聖也が、3人の後ろ姿を見送りながら嬉しそうに言った。
「ほんと、ゲームのどこがいいんだか!」
仲間に入れてもらえず、夏祈は若干ふてくされている。
幼い頃も、そうだった。なぜか、聖也には素直な自分を見せてしまう。
1人でお留守番するのは怖い……。
ママが居ないのは淋しい……。
母親の不在を我慢しなければならなかった、小さな夏祈。本当の気持ちを話せるのは、聖也だけだった。
“なつき! ちょっと、こっち来いよ”
テラスに出た聖也が、急かすように手招きしている。
「えっ、なーに?」
ベッドに座っていた夏祈も、首を傾げながらテラスに出ていく。
同時に、透き通った夜空を見上げた。
「うわ〜っ……」
“すげ〜っ!”
2人の真上に、今にも降ってきそうな満天の星。
街灯のない真っ暗な海にも、眩いほどに映し出されている。
「ねぇ、せーや! あの時みたいじゃない?」
“あの時って、どの時?”
「ほら、夏祭りの帰り道! 毎年、せーやママが連れていってくれたじゃない。星を見ながら、一緒に歩いたよね……。せーや、覚えてない?」
“あーっ、覚えてる、覚えてる! 浴衣着て……。あの時のなつき、可愛かったよな。ほらっ、ここにだんご2つ乗せてさぁ……”
聖也の指先が、髪に触れる。
「えっ……、あっ、髪型?」
幽霊とは思えないその感触に、夏祈は思わずドキッとしてしまう。
(ちょ、ちょっと? 急になんなの! )
“あっ……”
夏祈の反応に、聖也も戸惑いながら、その手をフェンスへと移動させた。
(なんか、変な空気! 話題変えなきゃ)
「ねぇ、あれ、天の川じゃない?」
しらじらしく、無数に広がる星屑を指差す夏祈。
“えっ、違うだろ”
「じゃあ、あれ?」
“う〜ん……”
星の知識は全くないけれど……。
2人で見上げる夜空は、なぜかキラキラと眩しい。
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