旅立ちの時

61

『オーーーッ!』


 先程まで聖也の人生が映し出されていたスクリーンを見て、大袈裟に叫ぶおじさん。


“おじさん、どーしたの?”

「あれ、なーに!?」


 聖也と夏祈も、スクリーンに目を向ける……。

 そこには、棒グラフのようなものが表示されていた。聖也の年齢や出来事が詳しく書き込まれ、黄色やオレンジ、時々、黄緑色などが色付けされている。


『アレが、LQ《エルキュー》ダヨ! ホラ、地上デモ、評価されるようになったIQ《アイキュー》じゃナクテ、LQ!! セーヤのLQは、凄い高評価になってルヨ』


「エルキュー? あっ、さっきも言ってた謎の言葉!」


『IQは知能指数デショ! EQ《イーキュー》は、最近、心の指数と言われてるヨネ? ソシテ、人間に1番大切だと言われているコノLQは、愛の指数!』


「愛の指数って……、そんなの数字で表せるの?」


 難しい話に、顔をしかめる夏祈。

 聖也も、じっとおじさんを見つめている。


『表せルヨ! 生まれてから死ぬまでに貯金した、愛の得点、アッ、ラブさんの量ダカラネ』


「愛とか、ラブさんとか……、なんか、おじさんが言うと、ちょっとキモいんだけどっ」


『失礼ダナ! ラブさんは全てでアッテ、基本ダヨ。ナンタッテ、このLQの評価で、次に行く世界が決まるのダカラ』


「次に行く世界って、この扉の向こうにある世界のこと?」


『ソッ』


 色とりどりに並んだドアを、夏祈は改めて見つめてみる……。


『マァ、大きく分けると、こっち側が天上界!』


 おじさんが、右側に並んだ色鮮やかな10戸の扉を説明する。


『ソシテ、アッチ側が下界!』


 今度は、左側に並んでいる暗い色の10戸の扉を見る。


『とは言っテモ、この扉からあの扉までは、ほとんど地上界と変わらないようダケドネ』


 おじさんが右側後方の3つの扉と、左側前方の3つの扉を指差した。


「下界って……」


 夏祈は、おじさんが恐ろしい世界だと言っていた黒の扉をまじまじと見た。


「じゃあ、あのダークな扉の向こうに行く人は、殺人者とか犯罪者?」


 恐る恐る、指差す。


『ア〜、あの扉の向こうは……、LQの低い人が行くことにナッテルヨ』


「LQの低い人?」


『主に、人を苦しめたり、傷つけたりした人ダネ!』


「えっ!」


 浜中をいじめていた時の映像が、夏祈の脳裏に蘇る……。

 そんな2人のやり取りを、横目で笑う聖也。


『アッ、ソレカラ、ココだけの話ダケド……』


 ドアップで迫るおじさんが、小声で話し始める。


“なになに?”

「なんなの!」


『実は、コノLQってヤツは、ラブさんを貰った人の貯金になるのではナク、ラブさんをあげた人の貯金になってるラシイ』


「そんな〜つ。どう考えても逆でしょ! だいたい、愛をあげるって……、彼氏が居ない人はダメじゃん!」


 自分に不利に思えるシステムに、夏祈はだんだん苛立っていく。


『彼氏が居なくても、出来るヨ! ラブさんってのは、人に優しくしたり、励ましたり、困っている人を助けてあげたり……。人を思うアッタカ〜イ気持ちの事だかラネ。マッ、イジメはマイナス?』


 嫌な笑顔を夏祈に向けてから、おじさんは正面に向き直した。


「えっ、マイナス?」


“俺、なんかわかる気がするよ”


 おじさんに共感する聖也。


「わかっちゃうんだぁ……」


(なんか、アウェー感……)


 夏祈は、1人取り残された気分になる。


『ホラ、見てオクレ! やっぱり、アレはミラクルのゾーンだったんダヨ! セーヤが、野球チームのレギュラーになれなかった時!』


「えっ」

“まじ?”


 2人は、棒グラフを見直した。

 おじさんが指差す、小学4年の野球の部分は無色でキラキラと輝いている。


『コノ、ミラクルのゾーンは、得点が大きく変わルンダ! 不満を言いながらも乗り越えタラ2倍、文句も言わずに乗り越えタラ3倍……』


 目を細めながら、スクリーンを確認するおじさん。


『ウォーッ、ホホ! セーヤは5倍にナッテル! 凄い事ダヨ! 自分が苦しいのに、沖田君の気持ちを考えたからダネ』


 みるみるうちに、その部分が金色に変わっていく……。


「まじ! 5倍は凄い、私のマイナスも挽回できる!」


『モーッ、最高レベルのラブさんダヨ!』


 尊敬の眼差しで、聖也を見つめるおじさん。

 聖也も嬉しそうに、自分のLQ評価を見つめている。


(そうだよね……。せーやはいつでも優しくて……、どんな時も楽しくしてれた……)


 改めて、夏祈も、そのグラフを真剣に見つめる。

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