気づかされる気持ち 小学生時代第6話(藤島美佳編6)

 帰りの会が終わった後、私は真里菜、亜紀、貴理子にさよならし、学校の玄関でみのりを待っていた。少し待っていると、みのりが急いてでこちらに少し早歩きで向かってきた。

「どうしたの急いじゃって。私そんなに待ってないから。」

「ごめん美佳。私今日学級委員の仕事で放課後少し残らないといけなかったんだ。言うの忘れてて。待たせるの悪いし先に帰ってて。」

 それを言うために急いでいたのか。そんな急がなくても良いのに。でもそんなみのりの責任感のあるところが私は大好きだ。

「大丈夫。終わるまで待ってるよ。」

 私がそう言うと、みのりは申し訳なさそうな表情をしながら言った。

「そんな大丈夫だよ。家にはりんちゃんがいるんでしょ。早く帰ってあげないと。お姉ちゃんなんだから。」

 私は半ば押し切られるような形でみのりとさようならした。みのりがそう言うならしょうがない。今日は一人で帰るか。私は一人で校門まで歩いて行った。

 校門には生活指導の男の先生が立っていた。校門を通る児童たちにさようならと言っている。

「先生さようなら。」

 私も他の子たちと同じように先生に挨拶をした。

「うん、さようなら。気をつけて帰るんだぞ。」

 私は校門を通り抜けた時に気づいた。そういえばデュナミがいないな。もちろんいない方が良いんだけど。まだ学校探索でもやっているのだろうか。何か変なことを学校でやらかしたりしないだろうな。ちょっと気になってしまう自分がいる。いやいや、デュナミのことは無視だ無視。そんなこと考えている時間もエネルギーももったいない。放っておいて早く家に帰ろう。私は足早に家へと向かった。

 

「ただいまー。」

 家の玄関扉を開ける。足元を見ると見慣れない靴がりんの靴の隣にある。大きさはりんの靴と同じくらいだ。もしかしてりんが友達を家に連れてきているのか。

リビングへ向かうとりんともう一人女の子がいた。そしてあの黒フードも。

「お姉ちゃんおかえりー。」

「お邪魔してます。」

 りんともう一人の女の子は立ち上がり私に挨拶した。元気そうなりんの隣の女の子は少し緊張気味のようだ。三つ編みの髪形をしている。この子がみーちゃんか。

「お姉ちゃん、紹介するね。この子がね、友達のみーちゃん。」

「初めまして、定友みゆきです。よろしくお願いします。」

 三つ編みの女の子はペコリとかわいくお辞儀をした。なるほど、名前がみゆきだからみーちゃんののね。私はかがんでみーちゃんと同じ目線で話しかけた。

「いつもりんと遊んでくれてありがとうね。何もないけどゆっくりしていってね。みーちゃん。」

「そんなことないです。とても大きい家でテレビも大きくて、それにソファも大きくて凄いです。」

「そう、ありがとう。」

 私は笑顔でみーちゃんの頭をなでた。そんな勢いで家を褒められるなんてちょっと気恥しい。私の家そんなに凄いのかな。普通だと思うけど。するとりんは観ていたテレビを消して「みーちゃん私の部屋に行って遊ぼう」と言い、階段を駆け上がっていった。みーちゃんはまた私にペコリとお辞儀をし、りんについて行った。礼儀正しい子だな。お世辞も言えちゃったりするし。そう思った矢先、りんでもみーちゃんでもない声が私の耳に入ってきた。

「おかえり、美佳お姉ちゃん。」

 デュナミだ。こいつ私をからかってるのか。私は無視して台所へ行き、冷蔵庫からお茶を取り出してグラスに注いだ。

「いやー。今日は疲れた。お前の小学校意外とでかかったな。小学校って全部あんな感じなのか?」

 デュナミが問いかけてくる。私はお茶を飲みながらリビングへと行き、ソファに座った。

「私のところの小学校は県内でも大きい方なの。だからあの小学校が普通って訳じゃないと思うよ。」

「へぇー。それはそうとさ、給食旨そうだったなぁ。あんなもん毎日食えるなんて小学生は恵まれてるなぁー。」

 こいつ口開いたら食い物の話ばかりしているような気がするのは私だけだろうか。私だけというのもおかしいな。そもそもこいつと会話できるのが私だけなんだから。デュナミが給食話をひとしきりした後、デュナミが別の話題を切り出した。

「そうだ、美佳。お前に訊きたいことがあるんだけど。お前が前言ってたいじめられてる子って大安寺とかいう女子だろ。」

 私はドキッとした。顔の表情を悟られないように私はグラスを口につけてお茶を飲むふりをする。デュナミは続ける。

「そんでもって、大安寺をいじめているいじめっ子が、豊旭、美山麗子、そして和田幸香の3人っていう訳だ。そうだろ?」

 何で知っているんだ。どうやって調べたんだこの悪魔は。

「俺見ちゃったんだよね。あの3人が大安寺をいじめているところを。俺が放課後学校をウロウロしてた時で、確かどこかの踊り場で見ちゃったんだよ。あれはかわいそうだったねぇ。3人に囲まれていじめられてるのさ。正確には豊だけが大安寺に危害を加えて、他2人は後ろでクスクス笑ったり煽ったりしてたんだけどね。豊が大安寺に悪口を言ったり、体を蹴ったりしてたのよ。それで豊の取り巻きの、特に和田が煽ってより暴力をエスカレートさせているって感じでさぁ。あれはひどかった。ひどかったねぇ。」

 私はうつむきながらお茶を少しずつ飲んでいた。するとデュナミは嬉々とした表情になり話を続ける。

「それでさ、ここからが面白いのよ。あの3人が大安寺と別れた後、俺はいじめっ子3人衆の方を追いかけたの。そしたら3人のうちの美山が『もういじめ止めようよ』的なことを豊に言い出したのさ。」

 嘘、あの美山が。信じられない。ずっといじめっ子グループにいた美山があの豊に物申したってこと?

「まぁ、言ったのは良かったけど、豊が『文句でもあるの』とか『私たち友達でしょ』とか『大丈夫だから』的なこと美山に言って美山はしり込みしちゃたけどね。もう一押しだったと思ったんだけどな。」

 まさかあの美山がいじめを止めたがっているなんて知らなかった。それにいじめの構図も。私はてっきり3人が寄ってたかって大安寺をいじめていると思っていたが、実際は豊だけが大安寺に直接危害を加えていて他の2人はその危害を煽っていじめをエスカレートさせていたのか。いや、それも十分悪いことだけど。ていうかそもそもこの悪魔の言っていることを信じて良いのか。

「なぁ、美佳。もしかしてお前だけじゃなくてクラスの皆もこのいじめに気づいているんじゃねぇのか?あの3人が教室に入ってきた時に教室の雰囲気が少し変わったし、皆あの3人を怖がっているように見えた。クラスの皆はあの3人がいじめ加害者ってことを知っているから怖がったり、牽制したりしてんじゃねぇのか。まぁ、ただ怖がっているだけかもしれねぇけど。特にあの豊って女、凄く怖いし。」

 この悪魔察しが良いな。こいつどこまで気づいているんだよ。私は無視してテレビをつけてお茶を飲み続ける。

「なぁ、どうなんだよ。」

 デュナミが顔を近づけてきた。しょうがない。正直面倒なことになるのは目に見えていたが正直に言おう。

「多分、多分だけど気づいていると思う。」

「やっぱりそうかー。ていうことは皆いじめを知っているのに無視してるってことだろ。冷たい奴らだなぁ。本当に血が通った人間か?悪魔の所業だな。」

 それを悪魔のお前が言うか。デュナミはため息交じりで話を続ける。

「それで、何で皆無視するの?こんなの先生にチクれば一発で解決じゃん。」

「そんな単純な問題じゃない。先生に言っても何にも解決しない。」

「何でだよ。何のための先生なんだよ。こういう時にこそお前らは大人の力を借りる必要があるんじゃねぇの?」

 私は沈黙し続けた。見かねたデュナミがまた口を開く。

「そうだ、もう一つお前に訊きたいことがあったんだった。あのいじめっ子の豊旭ってもしかして朝のニュース番組に出てたあの教育評論家の豊りょうの娘さん?」

「りょうじゃなくてすずみね。そうだよ。豊旭は豊涼の娘だよ。」

 この言葉を発した瞬間にデュナミは唐突に大笑いを始めた。

「マジか。教育評論家の娘が学校でクラスメイトをいじめてんの?こりゃ傑作だ。世も末だな。」

「笑いごとなんかじゃない。」

 私はグラスをテーブルにたたきつけ立ち上がりデュナミに叫んだ。デュナミを睨みつけていると笑い収まったデュナミの口がゆっくりと開いた。

「すまん、すまん。ちょっとツボっちゃって。でさ、何で先生に言うのが意味ないんだよ。別に意味ないことはないだろ。」

「・・・・・先生にチクったことがばれて豊たちを怒らせるのが怖いし、怒らせたら次は私がいじめのターゲットになっちゃうかもしれないじゃん。特に豊はかなり性格きついし、怒らせたら何されるかわかんないよ。」

「なるほどな。」

「それに豊のお母さん、豊涼は有名な教育評論家で県内の教育委員会と繋がりがあるらしい。それに豊のお父さんは凄い実力者でこの人も教育委員会とか行政とか、お偉いさんと繋がりがあるんだって。それを皆知ってるんだよ。皆はもう小学6年生だし、何となくそういう力の強い人に逆らったらどうなるかわかるんだよ。」

「ははーん。豊旭自身の怖さと豊旭のバックにある権力の2つが皆何もしようさせない原因になっているんだな。」

 私はコクっとうなずいた。うなずくと同時にデュナミはニヤりと笑い私にささやきかけてきた。悪魔のささやきだ。

「そんな時に使えるのが昨日あなた様が手に入れた、10年間誰でも殺害できる権利ですよ。これは殺す相手が怖かろうとなかろうと、権力があろうとなかろうと関係ございません。サクッと豊を殺っちゃっていじめも解決しちゃって正義のヒーロー、もといヒロインになりましょうぜ旦那。」

「誰が旦那よ。昨日も言ったけど、私はそんな権利使う気全くないから。そんなこと言われても気持ちは揺らがないからね。」

 私はテーブルにたたきつけたグラスを持ち、グラスに残っていたお茶を一気に飲み干した。空になったグラスをテーブルに置き、テレビを観始める。するとデュナミがまた喋り始めた。

「にしてもいじめられてる奴もしょうがねぇ奴だよな。あの大安寺とかいう女、気も弱そうだし、終始おどおどしてるしさ。やられても何もやり返さないんだもん。俺だったら絶対にやり返すぜ。やり返さないから相手が調子に乗っていじめがエスカレートしていくんだよ。いじめっ子にとっては格好のいじめのターゲットだよな。こりゃ大安寺も悪いし、いじめられても仕方ないね。」

 私はその発言を聞いて堪忍袋の緒が切れた。

「いじめられてる子が悪いだなんてそんなこと絶対にありえない。いじめは絶対にどう考えてもいじめてる奴が悪いに決まってる。」

「いや、いじめられてる奴も悪いね。相手の言いなりになって何もしない。言い返しもしない。いじめを受けないようにしようとする努力が足りねぇんだよ、努力が。そんな努力をしないから相手に付け込まれるんだ。自業自得だ。」

「自業自得なんかじゃない。そういう子だっているのよ。言い返したくてもできない。やり返したくてもできない。そんな性格の子が。いじめを受けないようにする努力が足りない?努力がどうとかそんな話じゃないのよ。ふざけたこと言わないで。いじめられてる子が悪いだなんて、そんなひどいこと言うの止めてよ。この悪魔。」

 デュナミはニヤッと笑い顔を近づけてきた。

「そうさ、俺は悪魔だよ。最初に会った時そう言っただろ。忘れたのか。あとこの怒りを俺にぶつけるのはいささかお門違いじゃねぇか。この怒りを俺じゃなく豊たちにぶつけたらどうなんだ。」

 私はその言葉を聞いてソファに座り込んだ。確かにそうかもしれない。私はこれまで色々と理由をつけていじめという現実から目を逸らしていた。自分には関係ないと言い聞かせ、自分の保身しか考えてこなかったんだ。それにいつか時間が解決してくれるだろう、いつかいじめが自然となくなるだろうと思っていたけど、実際は違っていた。いじめは時間じゃ解決しない。誰かが解決しようと行動するしかないんだ。私はいつの間にか目から涙を流していた。

「まぁ、これからどうするかじっくり考えてみることだな。」

 デュナミはそう言い残してスッとその場から姿を消した。

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