告白 小学生時代第15話(行動編3)

 今日の学校の時間はとても早く過ぎていったような気がする。いつの間にか放課後になっていた。今日も大安寺は来ていない。心配だけど、今はそんなこと考えている暇はない。みのりと一緒に職員室へ行って全てを話す、そして大安寺を助ける、そう決めたんだ。私は駆け足で廊下へ出た。

 廊下に出ると既にみのりが私を待っていた。

「みのり、お待たせ。」

「ううん、大丈夫。私のクラスも今帰りの会が終わったところだから。じゃあ、行こうか。」

「うん。覚悟はできてる。」

 私たちは一緒に職員室への歩を進めた。

 階段で1階へと降りて行き、玄関前の廊下を通り過ぎ、職員室へたどり着いた。当番の日に日誌を先生の元へ届けたりする時に職員室へ来ることはあるが、今日ほど職員室の扉がこんなに大きく、そして重そうに感じたことはなかった。

「えーっと。感じたことはなかったと。でも私は不思議と緊張はしていなかった。隣にデュナミという超イケメン悪魔がいるからだろうか。」

 こいつ何勝手にナレーションしてんだ。ちょっと首をデュナミの方に向けるとデュナミが満面の笑みでピースしている。これから真剣な話を先生にしに行くのに迷惑な奴だ。でもデュナミの言っていることは本当だ。緊張はしていない。それはデュナミではなくてみのりがいるからだけど。

 私は深呼吸して職員室の扉を開けた。

「失礼します。」

 私とみのりは職員室の中へ入った。職員室にいる先生の数は少なく、数人しか席に座っていなかった。帰りの会が終わったばかりだから先生たちもまだ職員室に戻っていないのかな。でも低学年の先生たちもほとんどいない。打ち合わせってやつに行ってるのかな?

 私たちが要があるのは一ノ宮先生だ。一ノ宮先生は、・・・・・いた。席に座っている。私たちは先生の席へわき目も振らずに歩いて行った。

「あの、一ノ宮先生。」

「あら、藤島さんと、確か1組の水谷さんよね。学級委員長の。どうしました2人揃って?」

 私はみのりをチラッと見ると、みのりは1回だけコクっとうなずいた。

「実は先生にお話があるんです。」

「お話?何でしょう。」

「大安寺さんについてです。」

 そう私が言うと、先生の眉毛がピクッと動いたように見えた。

「大安寺さん?大安寺さんがどうかしたんですか?」

「大安寺さんなんですけど、実は、いじめを受けています。」

 言った。とうとう先生に言った。先生はどういう反応をするだろうか。焦って『どういうこと』とか『詳しく聞かせて』とか言ってくるのかな。でも実際の反応は私が予想していたものとは違っていた。先生は私の発言を聞いてもいたって普通だ。落ち着いている。不思議に思っていた時、少しため息交じりで先生が訊いてきた。

「いじめ?誰が大安寺さんをいじめているんですか?」

「えーと、美山さんと和田さん、あと豊さんです。」

「その3人が大安寺さんをいじめているっていう証拠はありますか?」

「証拠はあります。」

 私は昨日みのりに話したことをそのまま先生に話した。これで先生も動いてくれるはずだ。

「そうですか。そんなことがあったのですね。」

「そうなんです。ですから先生の力を借りたくて。なので―」

「でもその話では本当に美山さんと和田さんと豊さんが大安寺さんをいじめていたかどうかはわからないですよね。」

 えっ。予想外の返事が返ってきた。まるでいじめを否定したいような言い方だ。

「大安寺さんは本当に3人にいじめられていたのでしょうか。藤島さんの考え過ぎじゃないですか。」

「考え過ぎじゃないです。大安寺さんは確かに3人に怯えていたんですよ。」

「藤島さんの見間違いじゃないですか。藤島さんが大安寺さんがいじめられていると思い込んでいるからそのように見えただけなのではないですか。」

 そんな。これまで見てきたのは私の勘違いだって言うの。そんなことない。ここで引き下がっちゃ駄目だ。

「じゃあ、大安寺さんが最近学校を休みがちですよね。それはどうしてですか。」

「大安寺さんが学校を休んでいるのはただの体調不良です。大安寺さんのお母さんから電話で連絡を受けているんですよ。」

 それを聞いて私は黙り込んでしまった。せっかく勇気を出して言ったのに先生は協力的じゃない。どうして?

 隣にいたいのりが私を見て代わりに話を進めてくれた。

「でも一ノ宮先生。体調不良ってそんなに頻繁に起こるものなんですかね。私のクラスに北堀さんっていう大安寺さんとお友達の子がいるんですけど、その子が言うにはここ最近頻繁に学校を休んでいると聞いてます。先生は変だとは思わないんですか。」

 確かにそうだ。そんなに頻繁に休むのは変だ。何かあったんじゃないかと考えたりするだろう。

「確かに変かもしれないですね。でも親御さんから特に変わった連絡は受けていないんですよ。ただ休みますという連絡しか受けていないんです。だから問題ないと思っていますよ。」

「大安寺さんの親からの連絡で判断するのではなくて、一ノ宮先生から見て大安寺さんの様子はどのように感じたんですか。」

「うーん。私も特に変わった様子は見受けられませんでしたね。学校に来ている大安寺さんを見る限り普通だった思いますよ。いじめを受けているようには見えませんでしたね。」

「そうですか。それじゃあ、さっきの美佳の話はどうなんですか。」

「さっきの藤島さんのお話ですか。うーん、ですからその話だけではいじめられているかどうかわからないとさっき言いましたが。」

「確かにいじめの証拠としては不十分かもしれません。だけどいじめと疑うには十分なんじゃないですか。だから先生があの3人に話をしてほしいんです。実際のところどうなんだっていうことを。」

「水谷さん、いいですか。確かな証拠もないのに『あなたたちが大安寺さんをいじめているという話を聞いたのですが本当ですか』なんて訊くのはなかなか難しいですね。憶測だけでそんな話をしてしまったらその3人の自尊心を傷つけてしまうことになるんですよ。私は教師としてそんなことはできないんです。ごめんなさいね。」

「そんな。」

 みのりがガックリとしている。私も先生の言葉を聞いて何とも言えない気持ちになってしまった。

 ここでデュナミが言っていた大安寺のいじめの話をしてしまおうか。駄目だ。悪魔から聞いたいじめの話なんて先生の前でできない。頭がおかしい子だって思われちゃう。

「一ノ宮先生。そろそろ会議の時間ですよ。」

「はい。今行きます。先生今ちょっと忙しくて、あなたたちの不確かなことに構っている時間はないんですよ。ごめんなさい。また明日ね。さようなら。」

「そんなのあんまりです。そんなこと言ったらいじめをなくしたり防いだりすることはできないんじゃないですか。いじめをどうにかするのも先生の大切な仕事なんじゃないですか。」

 私は悔しくて一ノ宮先生に荒々しく言葉をぶつけてしまっていた。

「藤島さん、先生忙しいから。」

 ちょっと待って。そう言おうと思ったが先生は呼びにきた別の先生と一緒に職員室を出てしまっていた。

 私たちはがっくりと落ち込んでしまった。それと同時に先生が協力してくれなかった怒りがふつふつと込み上げてきた。勇気を出して言ったのにあんな対応はあんまりだよ。直接言っても返り討ちにあうだろうし、先生に頼るのも駄目。どうすれば良いんだよ。みのりも悔しそうな表情をしている。

「あちゃー、駄目だったか。お前ら頑張ったのにな。でも先生とかに頼ろうとするから悪いんだよ。先生だって人間だ、完全じゃない。そんな不完全な奴に頼ろうとするのがそもそもの間違いだ。だからさ、何度も言ってるじゃん。俺の、悪魔の力を使えって。あの3人をサクッと殺しちゃえば万事解決さ。そうすれば大安寺を助けられるし、教室から豊たちを排除することで重苦しい空気もなくすことができる。それに不安要素が取り除かれた大安寺は学校へきて自身のいじめを気兼ねなく暴露。あの女教師もギャフンと言わせることができるって寸法よ。一石二鳥、いや一石三だなこりゃ。はっはっはー。」

 デュナミがベラベラと話しかける。今はお前の苛立つ声は聞きたくない。黙ってろ。

 するとその場で黙り込んでいる私たちに誰かが話かけてきた。

「藤島さん、水谷さん。今の話って本当?」

 誰だろう。声のする方に顔を向けるとそこには中野先生が立っていた。中野先生はみのりの担任の先生だ。

「さっきの話、先生に詳しく聞かせてくれる?」

 先生の目は真剣で、私たちの話を何でも受け止めてくれるように見えた。

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