行動編

突き動かす友達 小学生時代第13話(行動編1)

 私がデュナミと出会ってから数か月経った。私がこのクラスが嫌いなことは変わらない。そして、いじめ解決のために何か行動を起こさないといけないと思いつつ、ずるずると何もできていないもどかしい気持ちも変わらないままだった。

 しかし変わったこともある。それは2つ。1つはデュナミが毎日学校について来ること。はっきり言って滅茶苦茶ウザい。ウザ過ぎてウザ過ぎて堪らない。授業中は教室中を飛び回っているし、私がクラスメイトとお喋りしている時に変顔をして私を笑わせてくる。頭イカれてるのかこいつは。こいつに話しかけたり、変顔中に笑ったりすると周りから変な奴だと思われちゃうからぐっと我慢してるけど。あと時々ジェスチャーで豊を殺せと言ってくる。目障りで仕方がない。あともう1つは大安寺が休みがちになったこと。先生は風邪とか体調不良とか言ってるけどどうだろうか。いじめが嫌だから学校に行きたくないだけなんじゃないのか。あの3人を見ても特に変わった様子も無い。そして今日も大安寺は学校を休んでおり、休んでいる大安寺の机にはデュナミが座ってくつろいでいる。何で学校でくつろいでるんだ、お前は。

 今は帰りの会。学級委員長の男の子が前に立ってプリントを配っている。

「僕たちのクラスでは卒業文集に将来の夢というテーマでの作文と色々なクラスのランキングを載せることにしました。今配っているプリントに作文とそれぞれのランキングテーマに合いそうなクラスメイトの名前を来週までに書いてきてください。」

 私は前の席から渡されたプリントを受け取る。

「先生、これ大安寺さんの分ですけど。」

「ありがとうございます。これは先生が預かっておきますね。」

 宮前は一ノ宮先生へプリントを渡した。そういえば大安寺が休みの時、プリントの受け渡しや宿題の連絡は誰にお願いしているんだろう。このクラスの子にはお願いしていないようだけど。先生が直接持って行っているのか。それとも他のクラスに大安寺の家の近所に住んでる子がいるのかな。

 帰りの会が終わり、私は家に帰る準備を始める。さっき貰ったプリントをランドセルの中に詰め込む。

「やっと学校終わったな。今日もつまんなかったなぁ。」

 話かけてくるなって言っただろ。私はランドセルと背負い、教室の扉へと歩いていく。その途中で貴理子に話かけられた。

「美佳ちゃん。さっきの作文のことだけど、美佳ちゃんは何かもう将来の夢とかあるの?」

 将来の夢か。考えたこともなかったな。私は将来何になりたいのだろう。

「わかんない。将来の夢とか考えたことなかったし。貴理子は?」

「えっと・・・・・そうなんだ、私もわからないかな。ありがと。また明日ね。バイバイ。」

 貴理子は先に教室を出て行ってしまった。どうしてこんなこと訊いてきたんだろう。もしかして私の将来の夢を参考にして作文を書きたかったのかな。そうだとしたら悪いことしちゃったかも。

 私は廊下に出ると「美佳」と私を呼ぶ声が聞こえた。みのりだ。みのりの隣には見慣れない女の子が1人。

「この子は北堀麻衣さん。私と同じクラスなの。」

「どうも、北堀です。」

 彼女が会釈をしたので私も同じように会釈をした。北堀?誰だろう。聞いたことないな。

「北堀さんはどうしてみのりと一緒なの?」

 私が尋ねる。その後、みのりが口を開いた。

「美佳のクラスに大安寺さんって子いるでしょ。北堀さんはね、その大安寺さんのお友達なの。それで北堀さんから聞いたんだけど、その大安寺さんが最近学校を休みがちになってるって。美佳、大安寺さんに何か変わったことはなかった?」

 大安寺の友達がみのりと同じクラスにいたなんて知らなかった。もしかしてこの子がクラスのプリントとかを大安寺に渡しに行っているのか。大安寺に何か変わったことがなかったかって訊いてきたけど絶対いじめだよな。こんなところでいじめについて言うのはちょっと危ないかも。とりあえずごまかしておこう。

「ごめんね。私大安寺さんとはあまり話したことがないからよくわかんないや。」

 「そっか」とみのりが言い、隣にいる北堀さんも肩を落としているように見えた。

「北堀さんって大安寺さんが学校を休んだ時に、家にプリントとか持って行ってるの?」

「うん、そうだよ。帰り道に彩芽ちゃんの家があるし、昔からお友達だったから彩芽ちゃんが休んだ時はプリントとかを持って行くのを一ノ宮先生に頼まれてるの。今日も今から職員室に行ってプリントを貰いに行くの。」

 やっぱりそうだ。この子にいつも持って行ってもらっていたんだ。持って行った時、大安寺には会うのかな?

「その時には大安寺さんには会うの?」

「うん、会うよ。いつも直接会って渡してるから。」

「その時は大安寺さんはどんな感じなの?」

「うーん。いつも通りだよ。笑顔だし元気だし。でも私が何で休んでいるか訊くと『ちょっと体調が悪くて』って言うの。最近そんなことが多くて。だから心配なの。私ね、彩芽ちゃんが何か隠してる気がするの。だから何でも良いから気になったところを教えて。」

 うっ、心苦しいな。いじめについて言ってしまおうか。

「大安寺は豊たちにいじめられてるってもう言っちゃえよ。楽になるぜ。」

 デュナミがささやいてくる。それが簡単にできたら苦労しないっつーの。私が出てきた扉とは違うもう一方の教室の扉を見ると豊たち3人の姿が目に入った。このタイミングで言うのはマズい。豊たちに聞かれたらどうなるかわからない。

「ごめん。今は何も思いつかないや。何か気づいたら連絡するね。」

 私は急いでその場から離れた。「待って、美佳」と後ろの方からみのりの声が聞こえる。急ぎ足で歩く私の隣にはデュナミがぴったりとついて来ていた。

「何で言わないんだよ。扉からちょうど出てきた豊たちに指さして『こいつらが大安寺彩芽をいじめてます』って言えば良かったのに。」

「そんなこと言える訳ないじゃない。返り討ちにあうだけよ、馬鹿じゃないの。あと学校では話しかけないで。」

 小声でデュナミに言う。「ほーい」という乾いた返事しかしないデュナミに苛立ちを覚えながら私は黙々と歩いていた。

「美佳、ちょっと待ってよ。」

 みのりが後ろから追いかけてきた。

「もう、勝手に行かないでよ。」

「ごめん、ごめん。」

 私はみのりに謝り、一緒に校門へ向かった。校門にいる先生に帰りの挨拶をして学校を出た後、私はみのりとお喋りしながら家に帰る途中であった。しばらく話をした後、みのりが別話題を切り出してきた。

「美佳、さっきの話だけど。」

 さっきの話って北堀さんの話か。みのりは私の顔をじっと見ている。私の顔を見て何か探ってるのか。私はみのりから顔をそらした。

「美佳さ、やっぱり何か知ってるんじゃない?大安寺さんについて。さっき北堀さんと話してた時様子変だったよ。何て言うんだろう、あまり話したくない感じがしたんだよね。」

 うーん。みのりは鋭いなぁ。それとも私がわかりやすいだけなのかな。

「バレテーラ。美佳ちゃんわかりやすいもんね。」

 隣にいるデュナミが笑いながら言う。こいつに言われるともの凄く腹立つな。私はデュナミを睨みつけた。

「美佳、どうしたの?そんな怖い顔して。やっぱり様子変だよ。」

「いやいや何でもないよ。本当に何でもない。」

「嘘ね。絶対何か隠してる。私たち親友でしょ?美佳の力になりたいの。」

 もう言わないといけない感じになっちゃたよ。どうしよう。左にはもの凄い目力で私をじっと見続け、『私に包み隠さず言いなさいと』言わんばかりのみのりと、右には「言―え、言―え」とコールするクソむかつく黒フード悪魔。何このサンドイッチ状態、生まれて初めてだよ。天使と悪魔の話は聞いたことあるけど、そうじゃなくて今この状態は友達と悪魔状態だよ。しかも両方とも私の隠し事を言う方向に話をもって行こうとしてるし。確か元の話では両者は違う立場だったはずだよね。2人に挟まれた私は重い口を開いた。

「・・・・・わかった。話すから、そんな怖い顔でじっと見ないでよ。私の家で話すからさ。」

「良いよ。」

 そう言って私はみのりと一緒に私の家に行くことになってしまった。心の中に話したい私と話したくない私とがいる。いじめに向き合う恐怖心とみのりに話すことで何かが変わる期待が入り混じったカオスな気持ちとなり、家への私の足取りはとても重かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る