揺らぐ気持ちと恐怖 小学生時代第11話(美山麗子編2)
放課後になり、私は旭に言われた通り体育館裏に行くことにした。あそこも中庭と同じようにほとんど人が来ることがない場所だ。旭と幸香の2人と一緒に行こうとしたが教室を見渡すと2人はいない。もう体育館裏へ向かったのだろうか。私も行くことにしよう。
向かっている最中、私はふと思った。行かなかったらどうなるのだろう。このままバックレたら私は旭のグループから抜け出せるのかな?抜け出していじめっ子から卒業できるのかな。そもそもどうして私はいじめっ子グループにいるのだろう。私は思いにふけっていた。
私と旭が出会ったのは小学1年生の時。最初に会った時は旭はいたって普通の女の子だった。私ははきはきしていてしっかりしている彼女のことが好きになり友達になった。幸香と出会って友達になったのもその時だったっけ。昔は旭は決して他の子をいじめたり傷つけるような子じゃなかった。
だけど学年が上がるにつれて性格がきつくなったり、他の子を見下すような言動が増えたりするようになった。旭は頭を宇宙人にすり替えられちゃったんだとか思って心配したこともあったな。
だけど今になって何となく理由がわかる。多分親のせいだろう。親が凄い権力者だから、親が凄い特別な存在だから、親が『旭も特別な人間なんだ』っていうことをいつも言っていたんだろう。旭が『お父さんとお母さんの様に私も特別なのよ。他の奴らとは比べられないほど凄いの。2人とも特別な私の友達なんだからありがたく思うことね。』なんて言っていたこともあったし。
そのように他の人に対して横柄な態度になってからも私と幸香は旭と一緒だった。この頃からかな、他の皆が私たちを避けるようになっていったのは。最初は旭と一緒にいることで私は少し優越感を感じていた。凄い存在である旭と友達であることがうれしかった。でもどんどんと友達じゃなくて暴走していく旭の言いなりになっていく。いつの間にか旭の言うことに逆らえない空気になってしまっていた。
そんな彼女が6年生になっていじめに手を出すようになった。ターゲットは大安寺彩芽。内気でおどおどしているから旭の格好の的になった。友達である私と幸香もいじめに参加させられた。最初の頃はちょっとからかったり、つついたり、ふざけ合ったりするだけだった。今思うとその時に止めようと勇気を出して言うべきだったんだ。でも私たちグループに漂う空気のせいで言い出せなかった。
周りの皆がいじめを見て見ぬふりをしたり、注意をしなかったから旭は調子に乗り、いじめはどんどんエスカレートしていったという訳だ。
昔の旭に戻ってほしい。いじめも止めたい。でもそんなこと言っても旭は絶対に聞く耳もたないと思うし、旭が怒って次は私がいじめられるかも。怖い。
そんなことを考えながらゆっくり歩いているとある女の子に出会った。藤島だ。この子は頭も良いしかわいいし、そして思いやりの子だと思う。ちょっとドライな感じはするけど。こんな子と友達になりたかったな。真里菜が羨ましい。
「あっ、藤島じゃん。もう帰るの?」
私はいつの間にか自然と藤島に声をかけていた。
「・・・・・うん。学校終わったし。」
「何もそんな警戒しなくてもいいじゃん。昼休みは旭がちょっと言い過ぎちゃって悪かったね。それじゃ。」
私は藤島から離れようとする。
「どこ行くの?」
藤島に呼び止められる。私に1つの考えが頭をよぎった。もしここで『いじめを止める協力をしてほしい』って言ったら藤島は私に協力してくれるかな。何であんたがそんなこと言うのとか怪しまれそうだけど、そこは真里菜経由で言ってもらおう。言っちゃおうかな。
「どこでもいいでしょ。私用事あるから、それじゃ。」
結局言えなかった。勇気が出なかった。私は何も変わらないまま、何も変えられないままいじめに手を貸し続けるんだな。無言のまま私は体育館裏へ向かった。
体育館裏に近づくと音が聞こえてきたので見てみると旭が何かを言いながら大安寺をゲシゲシ蹴り続けている光景が目に入ってきた。幸香は旭の後ろで突っ立っている。私は慌てて3人に近づいて行った。
「お前が今日あいつらを呼んで私たちの邪魔したんだろ。クソが。」
旭は完全にブチ切れていた。こうなってしまった旭は誰も止めることができない。大安寺は地べたに倒れこみ、腕、足、体を蹴り続けられていた。
「旭、ちょっとやりすぎじゃない?」
「麗子。今来たのか。遅かったな。」
「うん。ごめん。ちょっと色々あって。」
「まぁ良いや。で、何?やりすぎって?私に口答えするの?」
「いや、そんなんじゃないけど。」
旭が私を睨みつける。背筋がゾッとし、私は目線を斜め下の方に落とし黙り込んでしまった。
「にしてもむかつくな、あいつら。せっかく良いところを邪魔しやがって。次邪魔してきたらただじゃおかねぇからな。」
旭が舌打ちをする。舌打ちを聞いてまた背筋がゾッとした。次あの子たちが何かしてきたら旭のターゲットになってしまうかもしれない。心の中で考えていた。
すると旭がハッとした顔をして大安寺を向いて喋り始めた。
「お前もしかして1組の北堀にいじめ場所のこと言ったのか。確かお前と北堀は仲が良かったはずだよね。そして北堀が1組の委員長の水谷に相談して、相談を受けた水谷が仲の良い藤島に言ったんだ。それで今日藤島が仲間を連れて私たちのところに来た。そうだろ。」
旭が自身の推理を話すと、また藤島に暴力をし始めた。違う。私がただ単に橋立真里菜に場所を言ってしまっただけだ。それを受けて真里菜が仲間を引き連れてきただけなんだ。私の身勝手な行動で目の前の悲惨なことに繋がってしまうなんて思ってもいなかった。
大安寺は絞り出すような小さい声で「そんなことしてない」と何度も言っているのが聞こえる。そんなことを無視して旭は大安寺を蹴り続けていた。
「嘘つくな。このゴミくず。お前が誰かに助けを求めても無駄だからな。」
そう大声で言うと旭は大安寺の顔を蹴り飛ばし、赤い液体が少し飛び散るのが見えた。大安寺は「うぅ」とうなり声を上げて手で顔を抑えている。
「旭。顔はマズいって。顔は。」
私は急いで旭を止めに入った。これ以上やったら大変なことになる。私は「もう今日はこれくらいにしておこう」とか「これ以上やったら先生に怪しまれるかも」と言い、旭の暴走を落ち着かせようとした。横を見ると鼻から血が出ている大安寺の姿があった。
「そうだな。今日はこれくらいにしておくよ。でも覚えておけよ大安寺。次変なことをしたら今日みたいなことじゃ済まないからな。行こ、皆。」
旭が歩いていくのに続いて私と幸香も後ろからついて行く。後ろをチラッと振り返ると大安寺が虚ろな目で鼻血を出しながら地べたにまだ座りこんでいた。目から涙も流しているようにも見えた。
歩いている途中、前を向きながら旭が私たちに喋りかけてきた。
「お前たちさ、藤島と、あと水谷には気を付けた方が良いよ。特に水谷な。」
「うん?どういうこと。ていうか水谷って誰?今日みたいに私たちの邪魔をしてくるってこと?」
幸香が訊き返して、旭はうなずいた。
「水谷って言うのは1組の委員長な。藤島と仲が良いんだって。多分だけど彼女たちが私たちを邪魔するんだとしたら、私たちに直接言いに来るんじゃなくて、先生に助けを求めたりとかちゃんと考えて行動してくると思うよ。」
「どうしてそう思うの?水谷なんてクラスも違うし。でもそうなったらマズくない?」
私が質問すると、旭は私を見てニヤッと笑った。
「勘よ、私の勘。それに大丈夫。先生にチクられたからって何にもならないよ。」
そんなことを言えるのは旭にはお父さんとお母さんの大きな権力があるからだろうか。そう考えると私の背筋がまたゾッとするのを感じた。
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