美山麗子編

許しちゃいけない日常 小学生時代第10話(美山麗子編1)

 今日も朝がやってきた。カーテンを開き、外を見る。あの子はもう起きたのかな?昨日あんなこと教えちゃったけど大丈夫かな?いや、そんなこと私には関係ない。どうするかはあの子次第だ。私は鏡の前で髪をとかしていた。ブラシを置き、制服を手に取る。さっさと着替えよう。私はパジャマから制服に着替えてリビングへ向かった。

 リビングには誰もいない。パパは仕事が凄く忙しい。毎日夜遅くに帰ってきて仕事も朝早くに行かないといけないらしい。平日だけじゃなくて休日も仕事に行っている。何でそんなに忙しいんだろ。1回訊いたことあるけど「少ない人数で仕事を回しているから」とか「お客さんから滅茶苦茶な注文されてるから」とか言ってたっけ?人が少ないのならたくさん人を呼べば良いし、お客さんもちゃんと注文を考えてほしいよ。パパの顔最近見てないな。ママも朝早くからパートに出かけている。今日も一人で朝ごはんだ。

 テーブルには作りおきのご飯がラップされていた。『レンジでチンして食べてね。ママより』ラップの上にはそのように書かれた紙が置いてあった。

 私は紙をどかし、ラップされたままレンジに入れた。レンジで温めている間にテレビをつける。テレビでは朝の占いのコーナーが流れていた。出た。『熱血ボディビルド星座占い』だ。私この占い嫌いなんだよね。何で朝からこんな暑苦しい男の筋肉見させられないといけない訳。超意味わかんないんだけど。一回一回ポーズを決めて運勢やラッキーアイテムを発表するのが何か腹が立つ。

『今日の運勢、第5位はぁぁー、みずがめ座のあなたーーーー。そんなみずがめ座のあなたのラッキーアイテムはぁぁー、髪留めだぁぁ。』

 ボディビルダーの人がみずがめ座の順位とラッキーアイテムをポーズを決めながら言った。そんな一回一回ポーズ決めなくて良いから。それにしてもみずがめ座のラッキーアイテムは髪留めか。確かあの子もみずがめ座だったな。もしかしてあの子願掛けで今日髪留めつけてくるんじゃないでしょうね。そんな、まさかね。

 チン。ご飯が温まったようだ。私はレンジからご飯を取り出し、テーブルに置き、朝ご飯を食べ始めた。

「今日もやるのか。」

 私は小さい声でぼやいた。


 学校に着いた私は玄関でいつもある2人と合流して教室に行くことになっている。この待っている時間があまり好きではない。心が締め付けられるような感じがする。

「抜け出せたら楽になるのかな?」

 そうつぶやいているとその2人がやって来た。豊旭と和田幸香だ。私たちは同じグループで、そしていじめ加害メンバーだ。

 豊旭。彼女がこのグループのリーダー格だ。性格がきつくて、自分の思い通りにならないと怒ったりするわがままな性格だ。それはたぶん甘やかされて育ったのもあると思うけど、自分が権力者だと思い込んでいるからかもしれない。実際に旭の親はかなり凄い。旭はのパパは凄い実力者で色々なところで顏が利くらしい。県庁や国のお偉いさんや教育委員会にも繋がりがあるって旭がこの前言ってたっけ?それにママは超有名な教育評論家だ。コメンテーターとしてテレビに出まくっている。そんな親をもっているから自分も親と同じように権力があり、凄いと勘違いしているんだろう。だから教室での態度はとても横柄だし、「自分がクラスメートのトップだ」とか、「クラスメートは私の言いなりよ」なんて言ってたな。確かに旭に何か言ってくる子は見たことない。

 旭の隣にいるのが和田幸香。ただの旭の取り巻きだ。力のある旭にいつもついて行って教室内のカースト上位にい続けようとしている。だから自分も力があると勘違いし始めているからたちが悪い。実際は全くそんなことないのに。イタい子だ。そんな私もただの旭の取り巻きだけどね。

「おはー、麗子。今日もかったるいな。」

「おはよう、麗子ちゃん。」

 旭と幸香が私に話しかけてくる。

「おはよう、旭、幸香。」

 私もすかさず笑顔で挨拶をした。作り物の笑顔でだ。合流した私たちは喋りながら教室へ向かった。

 私たち3人が教室へ入ると教室の雰囲気が一気に変わる。皆私たち3人を、いや旭を怖がっているだけだ。旭はある女の子が座っている席へスタスタっと歩いていく。私たちも旭の後ろについて行く。その女の子は大安寺彩芽だ。私たちがいじめのターゲットとしている女の子。旭は大安寺に近づき、「おはよう、彩芽ちゃん。」と言いクスクス笑っていた。幸香も笑っている。私も空気を読んでクスクス笑っておくことにした。

 自分の席に座り、1時間目の算数の準備をする。今日は昼休みに私たちは大安寺を中庭に連れだしていじめることになっている。

 大安寺はいつも私たちに言われるがままいじめを行う場所にやって来る。無視したらよりひどい仕打ちを受けることを知っているからだ。正直に言ってかわいそう。私はこんな風にはなりたくない。朝の会が始まっても私はずっとそんなことを考えていた。


 昼休み。私は旭と幸香と一緒に中庭へ向かった。向かっている途中の旭はとても活き活きとした表情をしている。これから大安寺をいじめる奴の表情じゃないよ。私は心の中でそう思った。向かっている最中、幸香が旭に問いかけた。

「ねぇ旭ちゃん。今日はどんなことするの?」

「今日か?そうだな、腹パンでもやっとく?」

「あはは、面白ーい。」

 旭と幸香がクソみたいな会話をしている。どこが面白いんだよ。それのどこが。

「あ、そうだ。漫画みたいなことするのも面白いかも。制服脱がして裸にしてスマホで写真撮るの。それでその写真をSNSで拡散、みたいな。」

「きゃー、痺れるー。」

 お前の脳みそが痺れて思考がマヒしてるよ。そんなことしたら大問題になっちゃうよ。

「まぁでも、SNSで拡散は駄目だな。私たちが炎上しちゃうのはわかりきってるし。でも裸の写真を撮ってこれからの脅しのネタにするのは良いかもね。」

 旭の語りを私はただ黙って聞いていた。

中庭に到着した私たちは周囲を見渡す。人はいない。昼休み中庭に人が来ることはほとんどない。旭は中庭に人がいないことを、そして中庭を囲む学校の窓から誰かが覗いていないかもどうかを用心深く確認する。旭の確認が終わった後、私たちは大安寺が中庭に来るのをただじっと待っていた。私たちは大安寺とばらばらで集合するようにしている。タイプの違う私たち3人と大安寺が一緒にいると先生から疑問に思われるんじゃないかと旭が言って今のような形になった。なかなか筋の通った考えかもしれない。

 そうこうしているうちに大安寺が私たちの前に現れた。相変わらずおどおどしている。

「遅いんだよ、バーカ。」

 旭がそう吐き捨て、大安寺の腕を掴み、茂みの中へ連れて行った。

 連れて行くと旭はいきなり大安寺のお腹にパンチをくらわせた。大安寺がその場に倒れこむ。

「あひゃー、旭ちゃん。いきなりかますね。もっとやっちゃえ。」

 幸香が煽る。旭は大安寺の体や腕、足を蹴り続けている。

「本当にこいつ無抵抗だし、陰キャでおどおどしてるからやりがいがあるんだよな。」

 大安寺は何も喋らずただずっと下を向いている。胸糞悪い。けど旭に合わせて私もクスクス笑うようにしていた。

 しばらくの間、旭の罵倒や暴力が続いた後、旭はまた大安寺を立ち上がらせ、お腹にパンチをくらわせた。大安寺は座り込み、口元を両手でおさえた。吐くのを必死で我慢しているようだ。

「腹パンかましてお腹の中にある給食を全部吐き出させようかとも考えてたんだけど、今日は超良いこと思いついちゃってさ。大安寺制服ここで脱いで。脱いだらスマホで写真撮るから。さあ、早くして。」

「えっ、旭。本当にやるの?」

 ふいに私は言葉を発してしまった。

「何だ?駄目なの?心配すんなって。写真撮るだけでSNSには上げないからさ。ほら早く脱げよ、大安寺。」

「ほら早く脱げ脱げ。」

 幸香も一緒になって大安寺に言う。無表情だった大安寺が少し驚いた表情になり困惑しているように見えた。そりゃそうだ。裸の写真を撮るなんて言われたら誰だってそうなるよ。かわいそうだが私も「早くして」と2人に合わせるように大安寺に言った。

 その時私は後ろの方で複数の声がすることに気づいた。振り返るとそこには藤島、新町、深江、それに真里菜まで。まさか真里菜が本当にやって来るなんて。

「何やってんだよ大安寺、さっさと脱げ。自分で脱げないのなら私が脱がすの手伝ってやるよ。」

 大安寺に手を伸ばす旭に私は耳元でささやいた。

「旭、ちょっと待って。藤島たちがいる。」

「はぁ?」

 驚いた旭は後ろを振り向き、真里菜たちの存在を確認する。チッという舌打ちが聞こえた。「麗子、もし奴らがこっちに来る気配がしたら私に教えろ。無言でだ。そうだな、私の腰あたりに手を触れて合図するようにしろ。」

「う、うん。わかった。」

 私はうなずいた。うなずくと同時に旭は大安寺の胸ぐらを掴み、木の幹に大安寺をたたきつけた。たたきつけたと同時に幸香がクスっと笑った。

「お前があいつらを呼んだんだろ。そうだろ。じゃないとこんなところに人なんて来るか。どうなんだ。」

 旭は大安寺に問いただす。大安寺は黙って目をギュッと瞑りながら首を横に振る。彼女たちを、正確には真里菜を呼んだのは私だ。呼んだというか今日のいじめ場所を教えただけではあるけど。でも本当に来るなんて思わなかった。真里菜は臆病な性格のはずなのに。でもどうして真里菜だけではなくて藤島、新町、深江の3人もいるんだ?もしかしてあいつ一人だけだと不安だし怖いから仲間連れてきたな。何てことしてくれたんだ。

「くそ。昨日のうちに場所を言っておいたのがやっばり間違いだった。昨日ひとしきりやった後、私が『明日は昼休みに中庭な』って言ったからお前がここに来るようにあいつらに言ったんじゃないのか。違うのか。おい、嘘つくんじゃねぇぞ。」

「さっさと本当のこと言えよこの卑怯者。」

 旭も幸香もそんなに大きな声を出したら見つかっちゃうよ。

「藤島たちがいるんだから2人とも落ち着いて。」

 私はとにかく気づかれないように2人、特に旭を落ち着かせようとした。

「うるさい。こいつが本当のことを喋らないから悪いんだ。そんなに喋らないのなら嫌でも喋れるようになるまでぶん殴ってやるよ。」

 少し大きい声を出しすぎてしまったのか、案の定後ろから真里菜たちが近づいて来る気配を感じた。ハッとして私は言われた通り、旭の腰あたりに手を触れて真里菜たちが近づいてきていることを知らせる合図をする。私が旭の腰に触れると旭は大安寺を放し、黙ってその場に立っていた。とうとうここまでかと感じているのか。いや違う。真里菜たちを迎え撃つ準備をしているんだ。

「何してるの?」

 彼女たちの中で最初に口を開いたのは藤島だった。旭は振り返り、ニヤりと笑った。

「何ってあんたたちと同じだよ。仲良しグループで遊んでるんだよ。」

「・・・・・じゃあ、その・・・もっと別の場所で遊んだら?どうしてこんな茂みの中にいるの?」

「はぁ?なんであんたにそんな指図されないといけない訳?意味わかんないんだけど。そもそもあんた人に指図できる立場の人間な訳?口出しするのやめてくれる。うざいから。」

 私はじっと旭と藤島のやり取りを見つめていた。旭の高圧的な態度は相変わらずだ。

「用というか。その、声が聞こえてきたから、何やってるのかなぁと思って・・・・・」

 真里菜が喋った。よく見るとこの子本当に髪留めしてるし。ラッキーアイテムを身に着けて、この調子で『ここで大安寺のいじめをやっていたんじゃないのか』とか旭に面と向かって言うのか。そう思った矢先、旭は強い口調で言い返した。

「だからさぁ、さっきも言ったよね?休み時間だからグループでつるんでただけだって。あんた頭大丈夫?記憶力ないの?脳みそ足りてる?」

「あっ、いや・・・・・そうなんだね。そうだよね。」

 真里菜は縮こまってしまった。これは駄目だ。他の3人も何も言い出さない。このままだとマズい。旭の一人舞台だよ。暴走する前に止めないと。

「旭止めなよ。怖がってんじゃん。」

 私は無理矢理笑うようにして、この4人を馬鹿にしているふりをしながら旭を止めた。こうすれば何の疑問ももたれず、自然な流れでこの場をやり過ごせると考えたからだ。幸香の方を見たが、彼女はただクスクス笑っているだけだった。

 キーンコーンカーンコーン。昼休みが終わる合図のチャイムが鳴り響く。助かった。これで旭と真里菜たちを引き離すことができるし、大安寺のいじめを終わりだ。

「あーあ。あんたたちと絡んでたから時間なくなっちゃったよ。本当に最悪。行こ皆。」

 旭は真里菜と藤島を睨みつけて、私と幸香、そして大安寺を連れて中庭を出た。

 教室に戻る最中、旭は私たちにこう言った。

「放課後、体育館裏に集合な。麗子も幸香も。大安寺お前もだ。絶対に来いよ。来なかったらどうなるかわかってるよな?」

 旭は1人だけで足早に教室へ向かって行った。私と幸香は黙って顔を見合わせ、その後、後ろにいる大安寺をチラッと見た。大安寺は怖さからなのか、旭に蹴られたことによる痛みからなのか、右手で左腕をギュッと握っていた。

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