何もできない私 小学生時代第9話(橋立真里菜編3)
夜、私は自分の部屋のベッドで仰向けになっていた。ちゃんと言えなかった自分の無力さ悔しい。しかも友達にも嫌な思いをさせちゃった。
でもまだチャンスはあるはず。私はあきらめない。そのためには情報を集めないと。万全の準備をすればきっと豊にも勝てるはず。
今日はもう部屋にいるかな?私は窓ガラス越しで隣の家の部屋の窓を見る。部屋の明かりがついている。きっと部屋の中にいるはずだ。
私はスマホを手に取り、メッセージアプリを起動させ、ある人物にメッセージを送った。
『今、部屋にいるんでしょ?ちょっとお話しない?(‘ω’)』
私がメッセージを送るとすぐに返事が返ってきた。
『何で?』
相変わらず素っ気ない文章だな。私もすぐに返事を返した。
『今日のことで話があるの。窓を開けて出てきてくれない?』
『嫌』
嫌って返ってきた。そんな。お願いだよ、君だけが頼りなんだよ。私はめげずに返事を打った。
『お願い。君だけが頼りなんだ。私はいじめを止めたいの。力を貸して。ちょっとだけでも良いの。話をさせて。』
すぐに私のメッセージは既読になった。だけど返事は返ってこない。もしかしていわゆる既読スルーってやつ?もう無視されちゃったかな。私はスマホをベッドに置き、また横になった。ここでもこの子に頼らないといけないなんて、本当に情けないな。そう思った矢先、私のスマホが振動した。メッセージアプリを確認すると返事がきている。
『いいよ』
やった。私は急いでカーテンを開き、窓を開けてあの子が自分の部屋の窓を開けるのを待っていた。しばらくすると隣の家の部屋のカーテンが開き、窓が開いた。
「ありがとう。麗子ちゃん。」
私の目の前にいるのは美山麗子ちゃん。実は私は麗子ちゃんとは幼馴染で家は隣同士。麗子ちゃんは名前の通りとても綺麗な女の子。私たちは幼馴染で家が隣同士ということもあり、昔はよく遊んだり、こうやって窓越しでお喋りをしたりしていた。小学校に上がってからはグループが別れてちょっと疎遠になっちゃったけど窓越しでのお喋りはたまにしていた。豊が大安寺さんのいじめを始めてからもだ。私たちがこうやって繋がっているのは多分だけど他の子たちは知らないはず。私が仲の良い美佳ちゃん、亜紀ちゃん、貴理子ちゃんにも言っていないし、気づいているような感じもない。内緒にしようと言ってきたのは麗子ちゃんだ。私と仲が良いと噂されると真里菜にとって良くないことがあるかもしれないと麗子ちゃんが言ってきたのだ。
そして今日のいじめ現場が中庭だという情報を聞き出したのも麗子ちゃんからだ。頼みに頼みまくって何とか情報を聞き出したんだ。
「ありがとう、麗子ちゃん。出てきてくれて。」
「別に。」
麗子ちゃんは目線を斜め下に向けながら髪の毛を触っている。
「それで何?」
あ、そうだった。本題に入らないと。
「その、今日は本当にごめん。せっかく教えてくれたのに、ちゃんと豊に言えなくて。でも次はちゃんとやるよ。だから教えてほしいんだ。豊が明日行きそうな場所とかわからない?」
私は必死に麗子ちゃんにお願いする。すると麗子ちゃんは大きくため息をついた。
「あのさぁ、前にも言ったけど、旭が行きそうな場所なんて私はわからないの。私も幸香も大安寺を、その・・・・いじめたりする場所を当日聞かされるんだから。私たちはただ旭についていくだけ。今日の中庭のやつはたまたま前日に旭が言ったから伝えただけよ。ていうかどうしていじめ現場にこだわるのよ。」
「それは、その・・・・・実際の現場で指摘した方が動かぬ証拠になると思って。」
麗子ちゃんは呆れた顔をしていた。
「真里菜って本当に馬鹿ね。実際の現場で旭にいじめを指摘しても、言い返されるだけよ。あの子あの手この手で相手を言いくるめるんだから。あんたなんかが束になっても勝てっこないよ。」
「いや、でもそんなのわかんないじゃん。」
「わかんない?じゃああんたの今日のあれは何なの?旭の前で立ちすくんで何もできなかったじゃないの。それにあんた自分1人じゃ不安だから藤島たち連れてきたでしょ。自分1人じゃ何もできない、他の人たちを巻き込んでも何もできない奴が旭なんかに勝てっこない。」
私は何も言い返せなかった。麗子ちゃんの言う通りだ。私は1人では何もできない。
「あと、あんたみたいな中途半端な正義が1番誰かを傷つけるってことわかった方が良いよ。」
「どういうこと?」
私は麗子ちゃんのその言葉の意味がわからず訊き返した。
「今日さ、旭に呼ばれたのよ。放課後に体育館裏に来いって。それで行ってみたらびっくり。大安寺がもう旭にボコられてるの。旭めちゃくちゃキレててさ。昼休みにあんたたちに邪魔されたことが相当むかついてたんだろうね。いつも以上にボコってたよ、大安寺のこと。さすがの私も引いちゃったもん。『お前があいつらを呼んだのか』とか『誰かに助けを求めても無駄だからな』とか大安寺に言いながら、もうめちゃくちゃするのよ。あんたの中途半端な正義が大安寺を必要以上に苦しめたってこと。」
「・・・・・そんな。」
「落ち込んでる暇があったら反省しなよ。あんたのせいで今日、大安寺はボコボコよ。あんたが大安寺のことを本当に想っているなら何もせず、ただじっとしていれば良いの。そうすれば大安寺も必要以上の危害は加えられないでしょ。それにあんまり余計なことしてると真里菜も旭に目をつけられるかもしれないから、もうこれ以上変な真似しない方が良いよ。」
「・・・・・そんなの私できないよ。大安寺さんを犠牲にするなんて。それに私ね、大安寺さんだけじゃなくてと麗子ちゃんも助けたいの。豊にいじめを止めるように言って豊たちのグループをバラバラにして2人を助けたい。麗子ちゃんも豊に苦しめられてるんじゃないの?私に今日のいじめ場所を教えてくれたのは麗子ちゃんもいじめを止めたいとか豊から距離を置きたいと思ってるからだと私は思ったの。そうなんでしょ?」
「適当なこと言ってんじゃないわよ。」
麗子ちゃんが大声で私の声をかき消した。こんなに大きな声を出す麗子ちゃんは初めてかもしれない。私はびっくりした。
「私を助けたい?思い上がるのもいい加減にしてよ。それに私が旭に苦しめられているですって?そんなことないから。私の友達をあまり悪く言うの止めてくれる?あと、私が今日のいじめ場所をあんたに言ったのはあんたがしつこく訊いてきたから仕方なくよ。・・・・・いじめを止めたいとかそんなんじゃないから。」
心なしか麗子ちゃんがどんどんと元気がなくなっていっているように見えた。
「それにはっきりと言わせてもらうけどあんたは何もできないし、何も変えることはできない。そういう人間なの。だからいじめを解決したいとか私を助けたいとかいう叶えられない夢なんてもつんじゃないわよ。ラッキーアイテムも意味なかったね。それじゃ、おやすみ。」
私の呼びかけにもむなしく、麗子ちゃんは窓を閉め、カーテンも閉じてしまった。私も肩を落とし、窓を閉め、カーテンを閉じた。
私が思っていたことをそのまま麗子ちゃんに言われちゃった。何もできない自分が悔しい。豊に向かって行けない自分が情けない。情けなくて駄目駄目な私だけど、いじめはいけないことだし、麗子ちゃんが苦しんでいるのはわかっている。だから大安寺さんと麗子ちゃんを助けてあげたい。心が悔しさと情けなさと良心とでぐちゃぐちゃになっている。気持ち悪い。いつの間にか涙も出てきた。麗子ちゃん最後に言ってたな。ラッキーアイテム意味なかったって。確かにそうだね。
突然私のスマホが振動した。麗子ちゃんからメッセージが届いた。
『もう私や旭に関わらないで。』
そのメッセージを見て私の目からどんどん涙があふれてきた。
「そんな。」
ボソッとつぶやいた私は袖で目をふき、スマホを机に置いて目をギュッと瞑り、ベッドへ横になり眠りについた。
次の日、学校で美佳ちゃんに会うと美佳ちゃんは「大丈夫?」と私に訊いてきた。マズい。昨日の昼休みのこと、昨日の夜のことを引きずっているのがばれちゃう。私は無理矢理作った笑顔で美佳ちゃんを心配させないようにした。
しばらくして豊が教室に入ってきた。豊が教室に入ってきてから、私は豊を見ることなく下の方を向いていた。前髪が私の目にずっとかかっていた。
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