がんばれ私、フレフレ私 小学生時代第8話(橋立真里菜編2)

 昼休みになった。実行開始の時がやってきた。

実は私はある情報を事前に手に入れていた。今日豊旭は中庭で大安寺さんのいじめをやるという情報である。多分嘘じゃない。中庭へ急ごう。

中庭にソロっと行こうとしたけど、あれ、どうしてだろう。足が動かない。急に心臓もドキドキしてきた。言うって決めたのに、くそっ何でどうして。

うつむいている私を心配したのか、亜紀ちゃんと貴理子ちゃんが話しかけてきた。

「真里菜、どうしたの。」

 私は両手をグッと握って、絞り出すように声を出した。もちろん心配かけないように無理して作った笑顔で。

「美佳ちゃんのところ行こ。」

 私たち3人は美佳ちゃんの席へ向かった。私は美佳ちゃんの目の前に立ちとうとう言ってしまった。

「ねぇ、美佳ちゃーん。せっかくの昼休みなんだから教室にいないでどこか行こう。学校探検しよ。」

「いや、私たちもう6年生だから学校隅から隅まで知ってるし。今更探検する場所無いでしょ。」

「えー。でも天気もいいのに教室にばっかりいるのもったいないよ。今日はさ、天気がいいから中庭に行ってお喋りしよ。」

 最低だ私は。本当に最低。自分だけじゃ無理だとわかっちゃったから今回も友達の美佳ちゃんを巻き込もうとしている。本当に何してるんだろ私。

「話すだけだったら教室でもいいじゃん。ていうかいつも外に行きたいとか学校歩き回りたいとか言うよね、真里菜は。」

 それは一緒に歩き回って万が一いじめ現場に出くわしたら一緒に戦ってくれるかなと思っていたからだ。最低だよね私。自分で自分が嫌になる。

「私活発な女の子なんで。」

 とっさに嘘をつく。ごめんね美佳ちゃん。本当にごめん。

「・・・・・わかったよ。今日は天気いいし中庭行こ。」

「やったー。貴理子ちゃんも亜紀ちゃんも行くよね。」

 こうやって仲の良い友達を巻き込んでいく。巻き込んでいくことでさっきの緊張が少しずつ収まってきた。私って自分1人じゃ何もできないのかな。

 私たちは早速中庭へ向かった。その間私は周りを常に見渡していた。もしかしたら中庭じゃないかもしれない。その可能性を考えてどこかに豊たちがいないか確認するためだ。まぁ、もちろん見つけられる訳もなく。最後の望みの中庭へ私は向かった。

 中庭に着くと私たちはベンチに座りお喋りを始めた。周囲を見渡しても中庭には人気は感じられない。もしかして中庭での話は嘘だったのか。私は美佳ちゃん、亜紀ちゃん、貴理子ちゃんとお喋りをしていたがずっと心ここにあらずの状態だった。

 お喋りしてしばらく経った時、亜紀ちゃんが私たちに向かって言った。

「何か声しない?」

 声?私は耳を澄ましてみる。豊たちの声だ。やっぱり情報は本当だった。今日豊たちは本当に中庭で大安寺さんを。

「ちょっと行ってみよう。」

 私は立ち上がった。でも美佳ちゃんは行きたくなさそうな顔をしている。

「えっ?真里菜、本気?絶対あの3人だって。関わってもいいことないよ。」

 そりゃそうだよね。ここで「じゃあ、私1人だけでも行くよ」って言えれば良かったんだろうけど、豊の声を私たちの他に誰もいない中庭で聞いたせいか緊張で言うことができなかった。代わりに出てきたのがこの言葉。

「でもちょっと気になるじゃん。奥の方で何してるか。」

 美佳ちゃんたちに気を引かせる卑怯な作戦だ。自分でもわかっている。でも、あくまでも美佳ちゃんたちにはついてきてもらうだけ。実際にいじめを止めろって言うのは私。私は唇をグッと閉じて祈った。美佳ちゃんお願いついてきて。

「・・・・・私もちょっと気になるかも。皆で行けば大丈夫だよ。」

 そう亜紀ちゃんが言った。亜紀ちゃんナイス。その後すぐに貴理子ちゃんも2人が行くならと言ってくれた。

 美佳ちゃんも納得してくれたようで私たちは声のする方へ向かって行った。そこには豊たちとそして大安寺さん。

 私がいじめを止めろって言うんだ。豊が目の前にいる。ヤバい。心臓のドキドキが止まらない。出そうと思っていた声が全然出ない。どうしよう。

 私がすくんでいると美佳ちゃんが言葉を発していた。

「何してるの?」

 豊たちが私たちの方を見た。豊がニヤりと笑っている。

「何ってあんたたちと同じだよ。仲良しグループで遊んでるんだよ。」

 そんな訳ないだろ。私は唇を噛みしめる。

「・・・・・じゃあ、その・・・もっと別の場所で遊んだら?どうしてこんな茂みの中にいるの?」

 美佳ちゃんが豊に引き下がらない。私も、私も言わないと。

「はぁ?なんであんたにそんな指図されないといけない訳?意味わかんないんだけど。そもそもあんた人に指図できる立場の人間な訳?口出しするのやめてくれる。うざいから。」

 うっ、やっぱり怖い。でも言わなくちゃ。私が少し口を開けようとする前に豊が口を開いた。

「ていうか、何?私たちに何か用?」

「用というか。その、声が聞こえてきたから、何やってるのかなぁと思って・・・・・」

 何やってるんだ私。「いじめ止めろ」とは程遠いことを言ってしまった。多分、私の頭がとっさに防御反応をとったのだろうか。ここで「いじめ止めろ」と言うと絶対に自分に危害が加わる。無意識に頭がそう判断したのだろうか。いや違う。そんなんじゃないよ。ただ怖かっただけ。逃げただけだ。

 目の前では豊がため息をついたと思ったら、強い口調で言い返してきた。

「だからさぁ、さっきも言ったよね?休み時間だからグループでつるんでただけだって。あんた頭大丈夫?記憶力ないの?脳みそ足りてる?」

「あっ、いや・・・・・そうなんだね。そうだよね。」

 私は豊のその発言を聞いて、完全に委縮してしまった。もう無理だ。

「旭止めなよ。怖がってんじゃん。」

 美山麗子が笑いながら止めに入った。彼女は豊をなだめている。大安寺さんは暗い表情でうつむいていた。2人とも本当にごめんなさい。

キーンコーンカーンコーン。昼休みが終わる合図のチャイムが鳴り響く。豊は舌打ちをした。

「あーあ。あんたたちと絡んでたから時間なくなっちゃったよ。本当に最悪。行こ皆。」

 豊は私と美佳ちゃんを睨みつけ、大安寺さんを連れて中庭を後にした。

 私は何て駄目なんだろう。美佳ちゃんたちを巻き込んで、しかもやろうと思っていたことを全然できずに終わってしまった。後で皆に謝ろう。

「・・・・・私たちも教室戻ろうか。授業に遅れちゃうし。」

 美佳ちゃんが私たちに優しく語りかけてくれた。私はただうなずくしかなかった。


 帰りの会が終わると同時に私は亜紀ちゃんと貴理子ちゃんのところへ行き、今日のことについて謝った。「嫌な思いさせてごめん」って。

 2人は「別に良いよ」と言ってくれた。それから私たちは美佳ちゃんのところにも行き謝った。

「大丈夫。全然気にしてないから。私も、その・・・・・ちゃんと言えばよかったよね。ごめんね。」

 美佳ちゃんはそう言ってくれた。美佳ちゃんは謝ることないよ。元はと言えば私が悪いんだ。美佳ちゃんたちを利用して、人数の多さで私の意気地のないところをカバーしようとしたんだから。本当のことを言おうと思ったけど、それも言葉にすることができなかった。

 私たちは少しお喋りをした。美佳ちゃんと貴理子ちゃんの妹さんの話、美佳ちゃんのお父さんとお母さんの話。美佳ちゃんのお父さんとお母さんは有名な会社に勤めている。凄い。それに美佳ちゃんはかわいいし、頭も良い。皆を引っ張っていく力もある。私にないものを全部持っている気がする。羨ましいな。いじめとかそういう皆が困っている問題を解決できる人って美佳ちゃんみたいな人なのかな。

「じゃあ、私帰るね。また明日学校で。バイバイ。」

 美佳ちゃんがそう言って帰り、私たちもそれぞれ家に帰ることになった。帰る途中、私は悔しさと悪いことをした気持ちで押しつぶされそうになっていた。

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