うっとうしい日常 小学生時代第5話(藤島美佳編5)

「おはようー美佳さん。もう起きる時間とかなんじゃないの?学校遅れちゃいまっせ。」

 誰かが私を呼んでいる。お母さんかな?いや違う。この声はあの黒フード悪魔だ。

 目を開くと目の前でデュナミがコッペパンのようなものをかじりながら床に座っていた。

「・・・・・何食べてるの?」

「パンだよパン。悪魔にも朝飯は必要なんだなこれが。」

 デュナミは笑いながらパンをむしゃむしゃ食べている。まあいいや。顔洗いに行こう。私は部屋を出た。もちろん、いや本当はもちろんではないのだが、デュナミも一緒についてきている。何でついてきているんだこいつは。にんまりしているいし気持ち悪い。

「一緒についてついてきても良いけど話しかけるのだけはやめてね。」

「善処はするよ。昨日も言ったけど悪魔は気まぐれだから。」

 全く話にならない。とにかくもし話しかけられても無視に徹しよう。そう決めて私は洗面台へ向かった。

 1階へ行くと既にお母さんとりんが朝ごはんを食べていた。

「おはよう、お母さん、りん。」

「おはようお姉ちゃん。」

「おはよう美佳。」

りんに続いてお母さんも朝の挨拶をした。

「今日早いね。どうしたの?」

「りんね、今日はみーちゃんと一緒に学校に行くんだ。朝にみーちゃんが家に来てくれるの。」

 どうやらりんは今日は友達と一緒に学校へ行くらしい。だけど小学1年生だけで大丈夫かな?ちょっと心配だ。だけど思い返してみると私も小学1年生の時、みのりと2人だけで学校に行っていたっけ?ここは治安も良いし大丈夫だろう。

「ごめんね美佳。お母さんも今日は早くに出ないと駄目なのよ。その分今日は早く帰ってこれるからね。お父さんももう会社に行っちゃって。ごめんね。」

 お母さんが申し訳なさそうな表情で私に言った。そんなの気にしてないのにな。

「ううん。大丈夫。私も準備したら学校行くね。」

 そう言って私は洗面台で顔を洗い歯磨きをし、制服へ着替えるために部屋へ戻った。部屋へ戻る途中の階段で「いってきまーす」という大きな声が聞こえた。りんが友達のみーちゃんと一緒に家を出たのだろう。りんの声が聞こえた後、お母さんの声も聞こえた。

「美佳。お母さんもそろそろ出るけど、テーブルに置いてある朝ごはん食べて学校に行ってらっしゃいね。」

「はーい。」

 お母さんに返事をして私は自分の部屋へ入った。さて、制服に着替えて朝ごはんを食べちゃおう。クローゼットにある制服に手を伸ばした時、あの声が聞こえた。

「朝は慌ただしいな。人間は毎日あんな感じなのか?もっとゆっくりのんびりしたら良いのによ。それにしてもテーブルに置いてあった朝飯うまそうだったな。お前の家良い食い物しか出てこないのかよ。昨日の晩飯もそうだし子どものくせに良い物ばっかり食いやがって。俺なんて朝飯パンだけだぞパン。ハムや卵もないし、ジャムもなけりゃ、バターもない。パンオンリーだよ。パンオンリー。」

 えらく長く喋るなこいつは。良い物食べてるって言うけどそんなの他の家もそんな感じでしょ。それに子どもって言ったかこいつは。お前だって見た目子どもじゃん。しかも私よりも年下。ただ見た目だけであって、悪魔(?)だから本当は何歳か知らないけど。まだぐちぐち喋ってるし。もう無視して着替えよう。

 私はパジャマを脱ごうとしている時、あることに気が付いた。

「あの、デュナミ。私着替えるんだけど。」

 デュナミは面を食らったような顔をしている。

「うん。だからどうしたの?」

「だからどうしたのじゃないよ。着替えるんだから部屋から出て行ってよ。」

「はぁ?何で出て行かないといけないんだよ。ああ、あれか。着替えているところ見られるの恥ずかしいとかそういうことか。大丈夫、大丈夫。俺人間の女には全然興味ないし。だからさっさと着替えたら。」

「私が気にするのよ。早く出て行って。」

 私は声を荒げた。その甲斐あってかデュナミもちょっと萎縮したようだった。

「わかった、わかったよ。そんな怒るなって。な?出ていくから。着替えのぞかないから。」

 そういうとデュナミは壁を通り抜けて部屋から出て行った。全くデリカシーっていうのがないのかあいつは。私はそそくさと制服に着替えて昨日準備したランドセルを持って一階へ向かった。

 リビングではデュナミが椅子に座ってテレビを観ていた。何でお前はテレビを観ているだ、というツッコミはせず私もご飯を食べるために椅子に座った。周りを見るとお母さんの姿はない。どうやらもう仕事へ行ってしまったようだ。

「暗いニュースが続いてんなぁ。おい美佳、テレビ観てみろよ。自殺を苦に中学生男子自殺だってさ。何やってんだよ。自殺なんて駄目だよ。何で自殺なんてするんだよ。自ら命を絶つなんて駄目だよ駄目。論外。」

 殺人殺人とか昨日さんざん言っていた悪魔のお前が自殺は駄目とか言うのかよ。言っていることがハチャメチャだけど、ちょっとは人の心はもっているのか?悪魔だけど。少し見直したかな。そんなことが頭をよぎったが、私は黙々と朝ごはんを食べることに専念した。

『ここで学校教育に詳しい教育評論家の豊涼さんに詳しいお話を伺いたいと思います。』

 テレビからアナウンサーの声が聞こえる。

『豊さん。こちらの男子中学生の方はいじめを苦に自殺をしたと警察は結論付けているわけですが、その原因のいじめを減らすにはどのようにしたら良いのでしょうか。』

『やはり教師と生徒のコミュニケーションの時間を増やすことが重要でしょう。コミュニケーションを常にとることで生徒の微妙な変化を察知することができます。生徒の微妙な変化を察知することも教師の大切な役割です。その変化が生徒の悩みやいじめに由来する可能性が高いと考えております。ですので教師は常に生徒とコミュニケーションをとること、これがいじめの抑止力になると思います。そして道徳教育も必要ですね。いじめは駄目なんだと生徒に常に教えることが重要です。』

『なるほど。』

 デュナミはテレビを凝視している。今流れているのがそんなに面白いか?

「なるほどー。この教育評論家良いこと言うじゃねぇか。えーっと誰だっけ?豊・・・・・りょうって読むのかこれ?」

「涼(すずみ)って読むんだよ、その名前。」

ご飯を食べ終わった私はデュナミに言った。

「涼しいって書いてすずみって読むのか。変わった名前だな。お前この評論家知ってるのか?」

「まあね。有名だし。ていうかアナウンサーの人名前言ってたでしょ。聞いてなかったの?」

「・・・・・そんな強く言わなくても良いじゃん。美佳は性格きついなぁ。」

 あんたがいらつくから強く言ってるの。別に誰に対しても強く言ってる訳じゃないから。私はテレビを消して、朝ごはんで使ったお皿を流し台へ持って行った。

「どうしてテレビ消すのさ。まだ朝の占い観てないんだけど。」

 何で悪魔が朝の占いがあるって知ってんのよ。デュナミの声を無視して私はお皿を洗っていた。


 通学時、私はいつものようにみのりと合流し、学校へ向かっていた。

「今日はりんちゃんいないのね。」

「うん。今日は友達と一緒に学校に行ったんだよね。」

「えっ、小学一年生なのに大丈夫?」

 みのりは私と同じ心配をしている。

「大丈夫だよ。私たちも小学1年生の時2人だけで学校行ったりしてたでしょ。」

「そうだけど、今と昔じゃちょっと違うし。」

「大丈夫だって。ここ治安も良いし、変な事件の話も聞かないでしょ。」

 私はみのりに言い聞かせた。実際に変なニュースは聞いたことがない平和な街だ。

「そうだよね、ごめん変なこと言っちゃって。でも慎重であることに越したことはないからりんちゃんには気をつけるように言っておいてね。」

「わかった。言っておくよ。」

 みのりは良いお姉ちゃんになるな、私はそう思った。みのりは一人っ子だけどね。

 歩いている途中、またみのりが私に話しかけてきた。

「そりゃそうと、美佳。今日何か元気なくない?」

 えっ。もしかしてデュナミが一緒についてきていることが嫌なのが顔やしぐさに出ていたかな?みのりに心配かけないようにしないと。

「そんなことないよ。いつも通り元気だよ。」

 私は笑顔を振りまいた。

「そう?なら良いけど。」

 みのりは何事もなかったように歩きだした。何とかごまかせたかな?

「お前、このみのりって奴と一緒に学校行ってるのか。仲良いんだな。」

 デュナミが話しかけてくる。だから人前で話しかけるなって言ったでしょ。またみのりに変なように思われたらどうするの。そう言いたかったが、みのりもいるし周りにも学校へ向かう子たちがいたのでぐっと我慢した。


 学校に着き、教室に入ると真里菜、亜紀、貴理子の3人が既に教室にいた。3人でお喋りしている。私は自分の席にランドセルを置いて3人のところへ向かった。

「おはよう皆。」

「おはよう美佳ちゃん。」

真里菜が私に挨拶をした。他の2人も「おはよう」と続けた。真里菜はちょっと元気がなさそう。どうしたんだろう。もしかして昨日のことまだ引きずっているのかな。

「大丈夫?真里菜。」

 私は真里菜に問いかけた。

「えっ、どうして?」

「いや、元気なさそうだったから、大丈夫かなと思って。」

「そんなことないよ。元気いっぱいだよ。」

 そうかな、それなら良いけど。にしても真里菜、昨日とちょっと雰囲気違うな。あ、昨日つけていた髪留めを今日はつけていない。どうしたんだろう。今日は朝忙しくて髪留めつけるの忘れちゃったのかな。似合っていたのにもったいない。

 私たちはしばらく談笑していると、あの3人が教室へ入ってきた。少し時間をおいて大安寺も。あの3人は席に座らず揃って話をしていた。何の話をしているのだろう。どうせろくでもない話だ。私は3人グループをじっと見ていると、豊と目が合ってしまった。私はすぐに目をそらした。私と目が合った時、豊はニヤッと笑っているような気がした。

 

 朝の会、午前の授業、給食、昼休み、午後の授業、そして帰りの会。今日もいつも通りの学校が終わった。違うところはただ1つ、デュナミがいることだ。

デュナミは今日学校では私には確かに一言も喋りかけてこなかった。それはありがたい。私は授業や友達との会話だけに集中できるし、やたらめったら喋りかけられてストレスを感じることもなかった。でもこいつは単独で学校中を探索しているようだ。移動教室や休み時間の時に廊下でデュナミとすれ違うことが結構あった。何勝手に学校うろちょろしてんのよ。学校をうろちょろしても良いなんて言ってないでしょ。駄目とも言ってないけど。本当に目障りだな。これはこれでストレスの溜まる学校生活になりそうだ。

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