第4話 まるでトゲナシトゲアリトゲトゲのような
「あの子たちは帰ったようね。」
おふくろと朱鷺子が帰った後すぐにニーナがグラサンのSPを連れて戻ってくる。
相変わらず高慢ちきなロリだ。もう誰も来ないだろうし容赦なくぬるぬるにしてやろうと思うが、俺に残っている人間の理性がそれを押しとどめる。
コイツが言ったい何歳なのかは知らないが事案であることは間違いないし何より背後に仁王立ちするグラサンが怖い。
「あーら、その眼、貴方いったい何考えてるのかしら?」
「ぬるぬるにしてやろうと思っただけだが。」
「貴方、順応性すごいわね・・・もう自分が半魚人と認めてあまつさえそれを利用としてるなんて・・・」
俺のセクハラよりも半魚人慣れしてるほうにドン引かれる。
別にホンソメワケベラはヌタウナギみたいに粘液を出す魚ではないらしいが。
流石に調子に乗りすぎたのかSPが威圧的に静止してくる。
「お嬢様にこれ以上の粗相は許しませんよ」
「大丈夫よ、ゴリウス。こいつそんな根性ないから。」
コイツ、ゴリウスっていうのか、ゴリラみてえな名前だな。お似合いじゃねえか。
ニーナの静止でゴリウスはしずしずと下がり、いつもの位置で待機する。
「それでなんか用かよ。もう話は終わったんじゃないのか。」
「全然終わってないわ。まだ3割くらいよ。」
げ。あの情報密度で3割かよ。このままいくと俺の魚脳がパンクするぞ。
頭のいい魚を選んでもらったらしいけれど。
「今まで話したのは貴方のこれまでの話。今から話すのは貴方の今後の処遇の話よ。」
今後の処遇。そりゃそうだ、命を助けるためとはいえこんな人体実験のようなことをしたんだ。
俺の存在が公になって困るのはむしろニーナのほうだ。
まぁ、あの口の軽いおふくろに情報が回っている時点で機密も何もないと思うのだが。
「で?俺に何をしてほしいんだ?まさかこのまま人類のために戦ってくれとか言うんじゃないよな?」
精一杯ニーナを睨みつける。ゴリウスを視界から外しながら。
しかし流石半魚人にセクハラされてもひるまない女ニーナ。俺の魚眼の眼光など気にすることなくつらつらとしゃべりだす。
「まさか。人類もバカじゃないわ。陸に上がったゴマモンガラは自衛隊、米軍の共同で殲滅して防衛ラインは安心して守られているわ。」
よかった。この流れだと人類に栄光あれ!みたいなノリで戦わされるのかと思った。
正直ナショナリズムは苦手だ。
敗戦した後に生まれた今の日本男児の負け犬根性ではそんな思考にはとてもじゃないがなれない。
「ただ問題は海でのことでね。あいつら船だって食えるから食料、燃料の輸入のために護衛の潜水艦を輸送船につけなくちゃいけないし漁業が壊滅しているからいま日本は未曽有の食料、燃料不足になっているのよ。」
「やべえじゃねえか!」
島国で国土面積少ないくせに無駄飯喰らいがわらわら沸いているこの国ニッポンでその状況は絶望的だ。
食料と化石燃料の自給率どれだけあるのかは知らない、だがこの国の産業、生活資源の多くを輸入に頼っているのは知っている。
その流通ラインをゴマモンガラに破壊された。
直接的な殺戮などせずとも海外とのつながりを断って孤立されれば日本という国家はこうも容易く滅びるのか。
日本という国が輸出入に頼らないと存続すらできないのはGHQ陰謀論とかいう半信半疑なオカルト説があったが、今のゴマモンガラという現実を見せられると納得せざるを得ない。
─────────────日本は弱い。理不尽な暴力にすぐに屈するほど脆弱なんだ。
「ええ。実際に今現在日本国民の三分の一が国外にいる状況ね。日本は先進国から対ゴマモンガラの前線基地になったのよ。」
俺が寝ている間にとんでもない状況になってる。
ゴマモンガラマジ怖い。
「ゴマモンガラパねえな。そんな恐ろしい魚なのかよ。」
「いえ、凶暴性は図一で海での負傷者の生産量ならサメより高い魚だけど、本来は人間どころかほかの魚を捕食すらしない生物よ。食性は雑食で、甲殻類、貝類、ウニ、サンゴ等を食べる魚なの。言ったでしょ、マエコウのせいだって。」
ここで出てくるマエコウ。漫画によくある超進化を促す謎の物質。話が見えてきた。
「なるほど。日本近海で最もマエコウに適応して形質が変化したのがゴマモンガラだったというわけか。」
「そう。飲み込みが早くて助かるわ。それで日本政府はこの事態に非常事態宣言を出してこの生物をこう名付けたの。」
ニーナは一呼吸置くと改めてこちらに向き直り人類の仇敵たる魚の名を口にする。
「Great Odd Marder Aberrantモンガラ。日本語訳すると『超キテレツで常軌を逸した殺人モンガラ』ね。通称GOMAモンガラよ。」
「結局ゴマモンガラじゃねーか!」
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