第30話 5つ葉のクローバー

場所は埼玉県秩父市のとある平原、本来なら子供たちが走り回って遊んでいるべきその場所はゴマモンガラによる人口減少とGOMAネードの影響によって人っ子一人いない状態だった。

いや、人はいないが何か動く生物は存在する。

太くてごついバッタのような足と薄く透明な翼を生やした気味の悪い魚、GOMAネードの一件で東京に駆け付けた自衛隊唯一泥を塗ったゴマモンガラ・飛蝗グラスホッパーだ。

彼はその岩すらかみ砕くその歯を使って草を食べ続けていた。

口を緑色に汚しながら身をかがめて地面にキスしながら三つ葉の草を食べて食べて食べ続ける。

基本的にゴマモンガラは肉食魚だ。

マエコウを得るまでは海底のウニやサンゴなどを食べ、マエコウを得てからは何故か無性に人間が食べたくなったがバッタとしての形質を手に入れてからは人間を捕食対象とは思えなくなっていた。

彼自身理由はわからない。

ただ確かなのは彼にとって人間よりそこらの草のほうがおいしかったのだ。


ブチブチと三つ葉の植物ををちぎり、その城門のような歯で咀嚼してすりつぶし、嚥下する。

彼自身は預かり知らぬことだったが、飛蝗グラスホッパーはその消化器官、臓器をバッタに寄せ過ぎてしまった。

その結果として食性を変え、彼は草食系ゴマモンガラとなっていたのだ。

もはやこうなってしまっては彼がトノサマバッタなのかゴマモンガラなのかすら区別がつかない。

境界は既に踏み越えられ、ゴマモンガラたちはマエコウの力ですべてを超越せんと日々学習を続ける。

度重なる進化によってもはや人を殺す必要が無くなってしまった飛蝗グラスホッパーであったが、人を喰わないからと言って人類に害をなさないと決まったわけではない。

事実彼は多くの人間を『食う』ためではなく『殺す』ために殺した。


Geeeeeeeeギィ───


羽根を鳴らして声を上げる飛蝗グラスホッパー、彼は別に頭脳ワイズとは違い考えて戦略を立ててことはしない。

彼は彼自身の欲求に従って生きているだけ。

彼が食べている草がやけにクローバーが多いこともその欲求に従っただけ。

だが彼の中のマエコウは違う。マエコウはマメ科の植物の根に必ずついている丸いものに着目していた。

そしてその情報をロードし始める。

今口にした四つ葉は幸運を、さっき口にした五つ葉は悪魔を宿すなんていうらしい。

何をいまさら。悪魔なんてもうとうに体中の隅から隅まで楽しそうに踊っているというのに。


飛蝗グラスホッパーがクローバーの捕食に夢中になっているころ、その様子を背後から見つけたものがいた。

ゴマモンガラの身体にはやした蜘蛛のような8本足。

前進と骨格を黒光りする鋼鉄で覆い、全身からギシギシと音を立てながらそいつは歩いていた。


Peeyoピーヨr-r-r-r-rロロロロロ


ゴマモンガラ同士でさえわかるかどうかさえ不安だった挨拶に飛蝗グラスホッパーは振り向いた。出会ってしまった。

『生物以外』を学習し始めたゴマモンガラと『考えて進化する』ゴマモンガラ。

であってはならない邂逅に人類文明崩壊の足音が強まっていく。

人殺し二人は仲良く笑い合った。

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