第6話 ゴマモンガラは森に棲む
窓から飛び出した俺は身体能力こそマエコウの力で強化されているものの、重力には逆らえずに地に落ちる。っつか高い高い高い!
俺が飛び出したのは地上五階くらいの高さだったらしい。普通のマンションでも高いのに病院の5Fだ。
普通の人間なら自殺コースまっしぐらのフリーフォール。
半魚人の俺がどれだけ耐えきれるかは未知数だが、無事で済むなんてとてもじゃあないがそんな楽観なんてできやしない。
しかし飛び出した以上俺にできることなど何もなかった。
唯一の幸運と言ったら俺の真下にはスピードを和らげるかもしれない木が生えていることだけ。
「うおおおおお!」
体に刺さってくる木の枝でさえ利用しながら体をひっかけてなんとかスピードを殺す。
次々と木の枝を折りながら地面に着地すると、肉がグチャっと潰れるような嫌な感覚がした。
予想外の地面の感触に俺はバランスを崩して濡れた芝の上に叩きつけられる。
「あ゛あああああああああ!足が、足がああああああああああ!」」
足を抑えて転げまわる。やべえ、グチャっつったよグチャって!
俺はアホか。アホなのか!?
なんでよりにもよって高さを確認することなく飛び降りたんだよ!
助けに行くはずなのに落ちてケガして再入院とか笑い話にもならない。
もう膝から下の感覚がない。
今度ごろ俺の足はグチャグチャの肉片に・・・・・なってないなかった。
脚の触覚は痺れてわからないが、足を抑える手のひらからは俺のすねがついている感覚が返ってくる。
下半身を見るとちゃんと俺の足はくっついている。
「あれ?俺の足ついてる?なんで?」
流石に半魚人といえどあの高さでは無事で済むわけがない。
なのに俺はこうして五体満足で生きている。
まさか、俺には五点着地法の才能があったのか?
と思ったら俺が着地した地点を中心に骨や肉や血液が飛び散っている。
文字通り死んだ魚の目になったゴマモンガラのお頭も含めて。
どうやら俺はゴマモンガラの上に着地してクッションにすることで無事に生き残れたらしい。
しかし俺の人生たった2か月で1回ゴマモンガラに殺されて2回ゴマモンガラに助けてもらったのか。
どんな人生してんだよ俺。
「これでキルスコア2か。幸先いいのか悪いのか」
偶然とはいえ助かった。だがこの場所がどこかわからないことには朱鷺子の位置も掴めない。
見上げると確かにここは病院だ。が、見覚えがないわけではない。これはーー
「筑波大学病院か。免許持ってねえおふくろと朱鷺子なら移動手段につくばエクスプレスを使用するはず。なら!」
運よく俺が搬送された場所は土地勘のある場所だった。
一度オープンキャンパスに行った甲斐あってつくば駅周辺の地理なら大体把握している。
ここからつくば駅まではすぐ。走れば間に合う。
しかしつくばは本当に未来都市なんだな。
まさか半魚人を作る技術を確立しているとは。ただの大学のある森と侮っていた。
よく見ると吹きすさぶ嵐の中、剪定用の小型のチェーンソーが落ちている。
筑波は植樹が盛んで無計画に植えられた木の根っこが舗装されたアスファルトをボコボコにすることで有名な場所だ。
なら偶然にもここに木を管理、剪定するチェーンソーがあっても不思議ではない。
ここが森であることに感謝だ。トリガーを引くとちゃんと回ってくれる。
シャークネードの主人公であるフィン・シェパードのメインウェポンがこれだがまさか自分がそれを踏襲するとは思いもしなかった。
足元のゴマモンガラといい変な悪運に恵まれている。いや、そもそもあの状況下で半魚人になったとはいえ生き残っている時点で俺の悪運はかなりいいんだ。
「いやぁ、持ってる男は違うな、やっぱり」そんな独り言をつぶやいて病院を抜けて南へと走り出す。
つくばの町はゴマモンガラの雨に侵食されつつあった。
電柱や電線は噛み千切られ、車の窓ガラスを突き破ったゴマモンガラが運転手が食いちぎられて車が至る所で事故を起こしている。
そもそもが大型犬サイズの質量を持った物体が空から落ちてくる時点で爆撃と大差ない。
ゴマモンガラの爆撃はまるで特殊部隊の効果作戦のように次々と人類を殺す使徒を送り込んでくる。
大規模台風の影響で冠水しかけている道路ではゴマモンガラが気持ちよさそうビチビチと飛び跳ねている。
ところどころから感じられる血の臭いと赤い水。
パニック映画でさんざん目にした光景がそこに広がっていた。
「なんだよこれ・・・」
これでは公道はいつ交通事故にあうか危なくて使えない。だが問題ない。
つくば駅から南北に延びる車通行禁止の道路、ペデストリアンデッキを経由して駅まで向かう。
車が使用禁止なら交通事故にあわなくて済むし、駅まで直通している。
そんな期待をもって俺は走った。
途中で巨大なロケットの模型や巨大な輝く鉄球が見える、つくばエキスポセンターだ。
そこまで来て俺は自分の悪手を悟った。
エキスポセンター西にある普段は鯉が放たれている人口池だ。
その中で文字通りの水を得た魚と化したゴマモンガラが辺りを喰らいつくして破壊の限りを尽くしている。
公園の木々は食いちぎられて倒され、人やネコを喰らって手足を生やしたゴマモンガラが4足歩行や2足歩行で走り回る。
池の中の鯉やカモはすべて食い散らかされ、無残な死体を水面に浮かべている。
羽を生やして嵐の中を自由自在に飛び回る奴までいる始末だ。
エキスポセンターの象徴でもある巨大なロケットの模型は根元を虫食いのように食われて今にも倒れそう。
地獄だ。あの海水浴場を超える360度ゴマモンガラしかいないこの世の地獄がここにあった。
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