第32話 真っ先に死ぬ奴って大体わかる

土地があまりまくっている田舎の公園に何故かあるヘリポートに俺たちは集合した。

周りを見ると多くの半魚人たちでにぎわい、俺が言うのもなんだがシュールな光景だ。

アメコミ映画でもこうはいかないだろう。全身をテカテカさせて色とりどりの人型が歩き回っている光景はなんとも言い難い脳が汚染されているような気分だ。


「やあやあ初めましてだね!君が例のGOMAネードに突撃したっていう勇者かい?」


なんか妙になれなれしい上半身はが青くて下半身が黄色いグラデーション模様になっている奴に話しかられる。

顔立ちは男。俺やブロケードのようなへんてこな模様はないけれども目のまわりに歌舞伎のような黒い隈取がある。

俺より小柄な体格をしているが結構鍛えているのだろう、筋肉質な体付きをしている。

ていうか俺の無鉄砲勇者キャラどこまで広まってんだよ。


「ああ、鮫島優二だ。お前は?」

「俺は金子銀。いやー、まさか俺たちがゴマモンガラ・起源オリジンをぶっ倒す勇者に選ばれるなんてさぁ、感激だよなあ。そんでこの作戦が終わったらきっと英雄だぜ俺たち!一生遊んで暮らせる金が手に入るんだろーな!そう思わねえか?」

「お、おう。それな」


オタクみたいなマシンガントークに圧倒される。コイツ一人でかなりしゃべり倒すな。

確かに金は手に入りそうだがそれが自分のものかはわからねえぞ。

2階級特進ってやつかもしれんしな。


「だよなあ!あ、俺のベースは『オウゴンニジギンポ』って魚なんだけどさ、お前のは何なの!? 変な模様だけどそんな魚いるんかいねぇ?」

「ホンソメワケベラっていうらしい。っつーかお前のベースどんな名前してんだよ。黄金で虹で銀とかどういう色なんだよ。属性盛りすぎなうえに黄金しかあってねーじゃねーか」


どんな魚だ。ネーミングしたやつ出て来いよ。トゲアリトゲナシトゲトゲ並みにセンスねえ名前だ。


「それな! おれも初めて聞いたときポカーンとしちゃってよぉ!そんで調べてみたらカラーリング俺とそっくりだっての! マジうけるわ」

「お、おう」


妙にテンションの高いやつだな。なんかサメ映画だと真っ先に殺されそうだ。

マスコミとこういうお調子者は高確率で死ぬのはベタベタな話だ。


「それでお前はどこのヘリ? 俺は3番なんだけどさ、なんか名簿だとブロケード何とかっていう外人なんだけどさ、しゃべれんの?コミュニケーションとか大丈夫なの? 俺英語なんてからっきしだぜ」

「あ、そいつ知り合いだわ。日本語で問題ないぜ」

「まんじ?なら助かるわ。やっぱ日本なら日本語しゃべらねーとな。グローバル化なんてクソッタレだぜ」

「おまえゴマモンガラに日本滅ぼされたらどーすんだよ…」


GOMAネードのことを忘れたのかよこの野郎。俺たちもいつまで日本にいられるかわかんねーんだぞ。


「おっと」


強烈な風が吹いて埃を巻き上げながら最初のヘリが出発する。

1番のヘリ。俺とコイツは次の次のヘリに乗り込むんだ。ヘリは3台で各ヘリに半魚人6人が配置されている。

俺は背中に背負ったの荷物をヘリに積み込んで登場した。思ったより乗り心地悪くないな、これ。


「やあユージ、それと彼が銀くんだね。よろしく」


シマシマの先客が金子に手を差し出す。いつみても変な模様だ。俺が言えたセリフではないが。


「おう!よろしくな!金子銀だ。お前がブロケードってやつだな。ってかすげえ模様だな!」

「おらおら、騒いでなんでさっさと乗るぞ。これから俺たちゴマモンガラと殺し合いに行くんだからな」


まったく、うるさい同乗者だ。辟易しながらヘリの開いているスペースに座り込み、長い旅が始まる。

中には俺ら以外の半魚人数名と水中での戦闘に使う兵器群。

プロペラが回転を始め、少しの揺れとともに離陸が始まり、地上は思ったより速く小さくなっていった。



****************************************


「お二人さんはゴマモンガラとの実戦経験者なんだろ? あいつらってどんだけ強いんだ?」


ババババババとプロペラの騒音が響く機内でそれに負けないうるさい男がそんな質問をしてきた。

ヘリは順調に進んでいき、空と海以外何も見えない風景は流れていく。

俺とこのお調子者はヘリで3人仲良く死地へ赴くクソッタレヘリコプターの人員ようのスペースでゴマモンガラ談議に花を咲かせていた。

ブロケードは「英気を養う」とか言って睡眠を始めた。3日以上溜めまくった糞みたいに神経の太いやつだ。

それにほかの人員も格納庫に入って戦闘の準備を始めている。このヘリ3号機にいる半魚人は6人。

金子と俺とブロケード。

文字通り日本刀みたいな姿をしたどこぞの錬金術漫画の腰に大総統みたいにたくさん剣をぶら下げている太田って奴。

上半身が黒で手や足の先が黄色くなっていくグラデーション模様で目のあたりが隈取のように紫色に輝いている女。たしかジェニー・スカイウォーカーとかいったか。どこぞのSF大作の主人公みたいな名前だ。俺たちが相手にするのはB級映画みたいな連中なんだが。

もう一人は黄色の地に黒い網目模様をしたゴリマッチョ、松下一。見た目としてはファンタ〇ティック・フォーの岩男みたいな感じ。見るからに堅そうというか防御力にステータスガン振りしていそうだ。

本当にB級アメコミ映画みたいになってきたな・・・・・・。


「いや、お前もアイツらに殺されかけた口だろ。お前が経験したまんまだろ」


A-GOMA手術を受けている時点で金子は人間時代にゴマモンガラと交戦したことがあるのだと思っていたが返答は意外なものだった。


「いや、違うよ?俺は生きてるゴマモンガラはGOMAネード以外で生で見たことねえぞ。」

「は?」

「いやー、俺さぁ。バイクで調子んのって事故ってそのせいで首から下が動かなくなっててさあ、そしたらA-GOMA手術てのを進められてさ。このまま寝たきりの生活ならいっそのこと、みたいな感じで受けたのよ。そしたらこの通り半魚人ってなわけだ。」

「はあ、そういうこともあるんか」


確かに五体不満足や感覚器の喪失、難病をマエコウの力で強引にリセットすれば期待するには頼りなさすぎる確率ではあるが半魚人として第2の生を手に入れられるのか。

人生を取り戻すためのギャンブルとしては確かに悪くはないのかもしれない。この先ゴマモンガラと殺し合うことを除外できるなら。


「だからさ、俺はあいつらがどうやべえのか実態として知らねえわけだよ。なあ、教えてくんねえか? やっぱ何でも食うの?」

「あいつら何でも食うぞ。人から鉄から猫まで。自販機食い破ってジュースまで飲んでやがった」

「マジかよおい!」


そういえばあのジュースのゴマモンガラは何に進化したんだろう。

お茶ならともかくもしコーラやファンタで進化したらいったい何になったんだろうか想像がつかない。

あれ化学合成甘味料くらいしか入ってねえだろうに。


「それにアイツら飛ぶしな」

「飛ぶっつってもあれだろ? トビウオの羽で台風の上昇気流を利用してやっと飛べるってやつだろ?」

「いや、マジで飛ぶ。鳥を喰って翼生やした奴がいた」

「はぁ!? マジで言ってんのそれ!」


俺の意識を刈り取った下手人はカラスのような黒翼のゴマモンガラだったし金属加工場には多くの鳥ゴマモンガラが襲撃していた。

それに自衛隊の報告書によると虫になったゴマモンガラがいるらしい。蝶くらいなら何とかなりそうだがトンボとか蜂とか来たら絶対に嫌だ。

アイツら絶対速いじゃん。


「おまえ資料とかいろいろ読まなかったのか・・・」

「いや、見たけどやっぱ実際に戦うのと伝聞じゃあ違うじゃん? それにアンタたちは唯一実戦を経験したエースだろ? 秘訣とかそーゆーのねえかなってさぁ」

「ねえよ。運がよかったのとホンソメワケベラの能力で狙われなかっただけだ」

「能力? まあ俺にもあるけど背景と同化するみたいな能力なのか? そんな目立つルックスしといて」

「そんな便利なもんじゃない。毒々しいゲテモノに食欲がわかないみたいに本能的に食欲を抱きづらいってだけ。」

「はえー。俺なんて歯に毒があるだけだぜ。羨ましいわー」

「いつどこでゲテモノ食いが現れるかわかんねえけどな。それに今ゴマモンガラに何の動きもないってのが余計に怖えよ」


あんな超進化するやつ相手に常識も前例も当てにならない。

正直言って今洋上でゴマモンガラの襲撃を受けていないということが既に信じられないんだ。

確かにこの晴天の洋上で”翼”の確保は難しいと思えるが、既に空まで飛んでいる連中に油断なんてしていられない。

不安に駆られて外を見てみる。

鳥の群れのような黒点群が空に見える。そう遠い距離じゃないが何の鳥かは分からない。

恐らくは渡り鳥なのだろうそれはヘリの速度についてこれるわけもなく小さくなっていった。


「大丈夫だろ!ここ海面から何メートルあると思ってんだよ、それに海じゃあ学ぶべき翼なんて確保できないだろ。お前は意外に心配性だな」

「油断すんなよ。サメ映画だとお前みたいなやつから死んでくんだぜ」


戦場のジョークのつもりでバカなことを言ってみる。

マスコミと間男と慢心するやつとデブは高確率で死ぬんだ。

あと愛犬家もヤバい。あいつらは画面に映る前に死んだほうがいいと思う。


「アッハッハッハ。もし死ぬとしても海の中だろ、こんなヘリのなかで死ぬなんてありえな────────────────」


おしゃべりの隙をつくように爆ぜる航空素材の窓と強襲を知らせる甲高い音。

金子は最後まで「ありえない」としゃべり切ることもなできずに首を背後の窓を叩き割って飛び込んできたゴマモンガラの角のようなものに貫かれた。


「馬鹿野郎──────‼ ベタなこと言うから死ぬんだよこの死亡フラグ建築士が────────────────っ!!!」


翼が割れたガラスに引っ掛かって動けないゴマモンガラと、そいつに串刺しにされて動けなくなる金子。

窓を突き破って侵入してきたゴマモンガラは口から鋭い角のようなものが生えていているが、窓を破壊した衝撃でへし折れている。

白く大きな翼をもっていて、前頭部はカニみたいな甲羅に覆われている。

相も変わらずイカレた目玉と狂気以外の表情の読めない顔はまるで油断しきった人類を殺しに来た使徒のよう。

動けない謎のゴマモンガラの目をかいくぐって立てかけてあるAPS水中銃を手に取って構え、引き金を引く。

しかし引き金は頑なに動いてくれなかった。


「なんでなんだよ────────────っ!!」


半狂乱になりながら動かない引き金を握りしめる。


「バードストライク。いや、GOMAストライクだ!!」


プロペラの騒音を貫いてコックピットから聞こえてくる悲鳴と警告。バードストライクってあれか。

飛行機とかに鳥の群れが突っ込んでって起きる事故のこと。

だが鳥の群れとこいつらでは目的が違う。鳥はただぶつかってしまった事故だがこいつらは自分から突っ込んで攻撃する意思とそのための進化を成した事件だ。


「クソッタレがーーーっ!!」


窓が盾になっていたのか金子の傷は浅く、振り向いてゴマモンガラを背ビレから噛みつく。

いつもの連中のように肉を食い破ることは無かったが、何故かゴマモンガラは動かなくなる。

オウゴンニジギンポの毒。下あごの犬歯に仕込まれたそれは即座に全身に回って効能を発揮したのだ。

しかし効果があったのは最初の一匹だけ。ヘリ3号機に突き刺さるゴマモンガラは当然の如く1匹では済まなかった。

蛋白質のミサイル群に蹂躙されるヘリコプター。窓を叩き破って侵入してくる2匹目に金子は頸椎を貫かれて絶命した。

飛んできた2匹目のゴマモンガラは金子を冷たい鉄の床にたたきつけ、血の花を咲かせる。その衝撃で機体は大きくぐらつき、窓は大きく割れる。

いや、ぐらついたのはコイツのせいだけじゃない。

進行方向に向ていたコックピットはここよりも被害は尋常で操縦士は全滅している。

コントロールを失った機体はオートパイロットで動き始める。


「安全装置外して!」

「お、おう!」


睡眠から起きたブロケードの声で気づく。テンパって訓練よりか手際は悪いが何とか安全装置を外す。

そのまま割れた窓から近づくゴマモンガラを撃つがなかなか当たらない。

弾道は狙ったような軌道を描かずあらぬ方向にそれていく。


「クソッタレのポンコツガンが───っ!! 裁縫道具かてめえは————!!」


この時俺は失念していたがAPS水中銃は陸上だと集弾性と命中率が低い。

独特な弾頭と大きな口径のお陰で威力は水中よりも格段に高いが当たらなければどうということは無い。

それにアイツらには前頭部の甲殻のせいで当たっても一撃で殺せない。


「ユージ、これ使うから手伝って!」

「んあ!?なんだよそれ!?」

「機銃だよ!ないよりマシだろ!」


ブロケードが持ってきたのはマシンガン。ヘリのドアから乱射するドアガンと呼ばれるものだ。

そいつを二人で運び出して床に固定。突き破られて意味を失った扉を開けて銃口を取りの群れに向ける。

広がった視界に映る2号機もゴマモンガラの襲撃に会い、傾いていく。

射線上からすぐに戻るとプロペラ音とは違う騒音が鳴り響いて、毎秒何発か数える気も失せるほどの鉛玉が射出され始める。

予想以上に速い開戦は鼓膜が破れるほどの轟音とともに海上で血を流し始めた。

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