第17話 ホンソメワケベラは掃除したい

「どういう・・・ことだ・・・・・・」


今ブロケードは何を言った?水中での戦闘、調査活動だと?

俺はモルモットにされるどころかあの恐ろしい魚と戦う尖兵にされるというのか?

俺は2度もあの化け物と戦った。もう二度といや、三度と御免だ。

最初にしろ二度目にしろ俺は朱鷺子がいたから戦えたんだ。

アイツ以上のモチベーションなんて存在しないしもうこの一件でアイツは保護されたんだ。


「ブロケード様、それは」

「いんだよ、僕たちはその為に作られた。それを隠す必要性はないしなにより彼の能力は最大の武器だ」


「どういうことって言ってんだ!!説明しろよ!!」


俺を無視して話し合おうとする二人に怒鳴り散らす。

正直に言って訳が分からなかった。

俺の能力が最大の武器?こんな戦闘能力はどない形質を持たされ、もともと戦闘向きではない魚で手術されたんだ。

なぜ俺がそんなことをしなくてはならない。


「もちろん説明するさ。マエコウ適応人間、まあ俗にいう僕たち半魚人は海水魚の形質を取り込むことで無限に近い速度で湧き出しているゴマモンガラの起源を突き止め、倒すために作られた新人類で実験体なんだ」

「どうしてだよ、そんなの自衛隊や米軍に任せておけばいだろ。潜水艦とか使えばなんとかかるんじゃないのか」

「それはもう試して既に数十隻もの潜水艦が消息不明になってる。潜水艦ほどの巨大な的を守り切れるほど人間の技術は進んでいない。だから見事にゴマモンガラに迎撃されたよ」


そんな。人類の英知の結晶ですらあの獰猛極まるゴマモンガラに勝てないのか。


「じゃあどうすんだよ、地上に上がってくるゴマモンガラを一匹残らずぶっ倒せば人類は勝てるのか?」

「それも難しい。ゴマモンガラは海中で増殖し、地上に上がってくるから海で奴らを叩かないと決定打にならないし、自衛隊や米軍の使える鉛玉の数にも限りがある」

「じゃあどうすんだよ!俺たちはジリ貧じゃないか!」


人類はこのまま緩慢にゴマモンガラに殺されるのか。

いや、あのGOMAネードの一件を見るにそんな長期戦にならず人類はあの平べったい魚の爆撃で殺される。そんな未来が見えた。

だがブロケードは希望の言葉も投げかけてくれた。


「これはDNA鑑定をした結果なんだけど、だったんだ」

「どういうことだ?アイツらはクローンとでも言いたいのか?」

「Exactly、アイツらはクローンで増殖し、各々の捕食したものの形質を取り込んで進化する。だからベースは単一で塩基配列の差異は捕食して取り込んだ情報分に過ぎない。先のGOMAネードだってあいつらのDNAはトビウオ分か食べた人間分しか違わなかったんだよ」

「成程な。それがどうゴマモンガラを倒す糸口になるんだ?」


ゴマモンガラの性質は解った。奴らの恐ろしさは単体の戦闘能力ではなく数と超進化能力。

それは俺が前もって体験していたことだ。


「実はこういった仮説が出ている。ゴマモンガラには発生起源となる個体、つまりはクローンの元となった個体が存在すると。全てのゴマモンガラの生みの親。僕たちはそいつを、ゴマモンガラ・起源オリジンと呼んでいる。」


————ゴマモンガラ・起源オリジン、確かにそんな奴がいるとしたらそいつを倒せばゴマモンガラの増殖はなくなり、戦力の供給源を失ったゴマモンガラは人類の英知たる鉛玉によって殺されるだろう。

だがオリジンを殺せなければ人類は圧倒的物量によって殺される。

海という地球の7割を占領したに等しいゴマモンガラ相手に3割しか把握していない人類が敗北するのは自明の理なのだ。


「成程、仮にそのゴマモンガラ・起源オリジンがいるとしてどうやって見つけるんだ?潜水艦じゃ駄目だったんだろ?」

「それは勿論僕たちの仕事さ。鎖骨のあたりに触れてみなよ、鰓があるだろうから」

「あ?」


言われたとおりに鎖骨のあたりに触れるとドクンドクンと確かな鼓動がする裂け目みたいなものが存在し、触れると生傷に触れたような不快感が返ってくる。


「成程。俺たちに水中呼吸能力を持たせてそのまま海中探査か。たしかにこれなら呼吸は大丈夫そうだが奴らの土俵に生身で入るようなもんだろ。鎧でも着ていくのか?」

「いいジョークだねそれ、ちなみに死刑囚に宇宙服を着せて調査させたらしいけど、ものの見事にたかられて骨も残らなかったらしいよ」

「オイオイ大丈夫なのかよそれ・・・・・・」

「追い詰められた人類は怖いからね。こっちだって必死なんだよ」


ブロケードに言われた実験内容がことごとく狂気的な血なまぐさい実験ばかりで戦慄するしかない。

死刑囚にそんなことすんのデスノートくらいかと思ってたわ。


「だから人類をマエコウに適応させてゴマモンガラに敵視されない人員を作って調査させる。それが僕たちの悲願だった。それが今キミという形で叶ったんだよ」

「は?俺?」


俺は決して戦闘向けじゃない。ミスドの件だってそうだ、雑魚のクローンにあれだけ苦戦したんだ。

ゴマモンガラの大群を敵の土俵で相手にすることなんてできない。

ましてや、ゴマモンガラ・起源オリジンの居場所を突き止めて殺すことなんて————


「いや。俺の能力なら、ゴマモンガラ・起源オリジンを『暗殺』できる?」

「Exactly!!素晴らしく理解力が高くて助かるよ!」


俺の推測にブロケードは歓声を上げ、無表情なゴリウスも確かにうなずいている。

————俺が、人類の希望。

正直そんな自覚はない。俺の背中に世界は重過ぎる。

あの凶暴で残忍なゴマモンガラの相手なんてできっこない。

でも、それで朱鷺子が、お袋が、友達が救えるなら。五郎をぶっ殺した魚野郎を一匹残らず殺せるのなら。

青く湿った手のひらを握りしめる。

己の殺意を自覚し、俺は決意する。

たとえ便所だろうが深海だろうがどこに隠れようが見つけ出してぶっ殺してやる。


「分かった。俺がゴマモンガラ・起源オリジンを殺してやる。そんで、世界とやらを救ってやる」

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