第18話 偽なる黒き一物
「GOOD,いいね!その殺意。気に入った!」
ブロケードは強めに指パッチンして指をさす。どうやらお気に召したらしい。
羨ましいもんだ。
俺にはパッチンする指が食いちぎられているというのに。
そんなことを思って自分の青い手を見たら包帯やガーゼで覆われることなく傷がふさがっており、その下からモゾモゾと気持ち悪い感覚がする。
しかし俺はそれを無視して今度は気になったことを聞いてみる。
「んで、ちなみにお前は何の半魚人なんだ?」
「キリンミノカサゴだよ」
「なにそれかっけえ!」
ものすごいかっこいい名前の魚だ。
特に麒麟の部分。
麒麟といえば雷属性と相場が決まっている。
電気ウナギのように電気でも発生させることができるのだろうか。
「ちなみにどんな能力なんだ?」
「このビラビラしたひれから毒針出すだけだよ」
「それでもかっけえ!」
なんか暗器使いみたいで憧れる。
こっちのほうが戦術的には重要らしいけど如何せん俺は珍妙な模様になっただけだ。
キリンミノカサゴ・・・・・・いいなあ。
そんな無駄なあこがれを抱いていたらまたドアが開き、ソプラノボイスが響き渡った。
「待たせたわね!ニーナ先生の解説タイムよ!・・・・・・あれ?なんでブロケードいるの?」
颯爽と登場していつもの説明をしようとしてきた銀髪幼女だったが、思わぬ来客に目をぱちくりさせる。
「それはボクが彼に事情とエーゴマ隊について説明していたからですよ」
「そ、そう。手間が省けたわ。ありがとう」
表面上はお礼を言っているが声が上ずっている。
説明大好きで説明は自分でしたかったんだなあのロリ。
「それでね!分析が完了したのよ!貴方が舐めた私の左足はゴリウスが舐めた右足に比べて古い角質層が60%以上とれていたのよ!貴方やっぱりホンソメワケベラの才能あるわよ!」
ホンソメワケベラの才能ってなんだよ。それホンソメワケベラとマエコウの功績であって俺が足を舐める奴隷の才能があるって訳じゃあないだろ。
誤解を招きかねない発言をするな。
「それでニーナ、感想は?ホンソメワケベラの舌使いはどうだった?」
ブロケードもブロケードでさらっととんでもないことを聞いてやがる。
いや、何でさらっと足を舐めたことスルーしてんだよ。
突っ込んでほしくはないけどそこはスルーするなよ。そこは。
「そ!それは・・・・その・・・・・・」
「なんだって?具体的にお願い」
うわあコイツ鬼畜だ。幼女に足を舐められた感想を事細かに聞きに言ってやがる。
ただものではない変態だ。
流石は半魚人になってもヘラヘラしているだけのことはある。
「き・・・きもち・・・・・・って言えるわけないでしょーが!!」
ニーナおなじみのローキックがブロケードのすねに入る。
その後の展開はお察し通りニーナの自爆で終わる。
っていうかそこで止めるな。
気持ちいいか気持ち悪いかはっきりしてくれ。
「お嬢様、それで用件は何なのですか」
冷静なゴリウスのフォローが入って場がリセットされる。
本当、こいつら漫才やっているみたいだ。
「ええ。学会への報告レポートについての最終確認、それと彼の能力の総括ね。あと追加情報」
「俺の能力の総括?」
「そう、あなたはもう気づいているでしょう。貴方に宿ったホンソメワケベラの能力を」
「ああ」
あの何故かゴマモンガラに襲われなくなる能力のことか。
「あれは貴方の模様がホンソメワケベラの模様と同様の効果をもたらすことによってゴマモンガラに敵視されないという能力よ。決してステルス能力じゃない、敵意を外す能力、これを意識的ステルス能力と呼称するわ」
「それとこれは貴方がゴマモンガラに敵対行動をとらない限り続くわ。だから貴方は必殺の一撃を無条件で1回だけ当てられる。ただこれを行うと貴方はホンソメワケベラではなくニセクロスジギンポと思われ、攻撃対象にされるでしょうね」
聞いたことのない魚の名前が出てきた。
「偽黒すじチンポ?なんだその卑猥な名前?」
「ニセクロスジギンポよ!なに勝手に聞き間違えてんのよ!」
いつもの通りのニーナの蹴り。
ただ今回はハイキックで顔に当たったのでかなり痛い。
「ぶえ!」という悲鳴とともに枕に叩きつけられる。
ブロケードの野郎が「いやぁ、キミもやるものだね」なんて親指を立てているが無視する。
さすがにあんな変態ではない。
「ニセクロスジギンポよ!ホンソメワケベラに擬態して魚の身体の一部を食べる魚のこと!わかったら返事!」
「はい・・・・・・」
今更ながらニーナの地雷がわかってきた。
こいつ、魚をバカにすると切れるタイプだ。
「それで、ニーナ様、追加情報とは」
いつもの通りゴリウスが乱れた場を戻す。この光景何回目だ。
「ええ。実はあなたが目撃した電車、あれが再度つくば駅をでて流山で発見されたわ」
「なん・・・・・だと・・・・・・」
あの恐怖の人肉とゴマモンガラの箱詰め列車がつくばから移動した?
でもあの電車に人間は生存できなかったはずだ。いったい誰が電車を動かした。
いや、一体だれが電車を停止させてドアを開けたんだ?
「それってつまりは・・・・・・」
「ええ。そのゴマモンガラは電車の動かし方を学習した。そういうことになるわね」
それってことはまさかあの電車に乗ったゴマモンガラは知恵をつけたということか!?
いままでは目につくものを喰らいつくすミュータントで戦術も戦略もなかったがあのGOMAネードの一件と言いアイツらは確実に着実に
「人類がゴマモンガラとの戦いに残された猶予はもはや長くはない。そういことか・・・・・・」
ブロケードのコメントで青ざめる。ヤバイ。ヤバイ。これはヤバい。
そしてニーナが次にもたらした情報はさらにとんでもないものだった。
「その電車に乗っていた被害者たちは全員頭蓋骨を粉砕されて、脳を執拗に捕食されていていたわ。恐らく人間の脳を喰らうことで奴らはエデンの知恵の実を手にしようとしているのよ。そして、マエコウがあればそれができると理解しているのよ」
人間の脳みそを喰らって知恵をつけ始めたゴマモンガラがいる。
そのようなおぞましいニーナ仮説を聞き、俺たちは戦慄する。
「じゃあそのゴマモンガラの行方はつかめているのか?」
「分からないわ。監視カメラの映像から頭部が肥大していて外から巨大な脳みそが透けて見える個体だってことは解っているのだけど流山もまだまだ鎮圧が終わってないから確認すら取れていない状態よ」
ニーナがタブレット端末をいじり、件の監視カメラ映像を再生すると、その画面を見せてくる。
全身を血に染めた汚らしいゴマモンガラだ。
人間の手と足を生やして4足歩行する気味の悪い個体。
いつも通りの逝っちまっている目にぬらぬらした体表とウロコに統一感のない文様。
だがコイツは確かに通常のゴマモンガラとは大きく異なる特徴を有していた。
頭部の胡麻模様の部分が大きく肥大化し、風船のように膨らんでいる。
一瞬シュモクザメを連想したがこれは違う。
まるで人造人間サイコショッカーのような水槽の中に浮かんでいる脳。
水槽は水風船のように揺れていて、いかにも動きにくそうな印象を受ける。
皆が絶句する中ブロケードが口を挟む。
「同物同治っていう中国の薬膳の考え方があったよね。体の中の不調な部分を治すには、調子の悪い場所と同じものを食べるのがいいっていう奴。ボク正直そういったオカルト信じてないんだけどこいつはそれを実践したってこと?」
「そうね。同物同治は現代医学では完全に否定されたオカルトだけれどもマエコウがあれば話は別よ。だって食べたものすべてなんの拒絶反応もなく素直に学習しちゃうんだもの」
なんツーことだ。
受験生が頑張ってDHAをとって少しでも頭がよくなろうとするようにこいつはスナック感覚で脳みそを食べて頭をよくして言ってるというのか。
「私たちはこのゴマモンガラをゴマモンガラ
ニーナはそう言って話を締めくくる。ゴマモンガラ
今後最大の強敵となるかもしれないそいつの名を名付け、話はひと段落付いた。
「それで話は変わるけれども鮫島君、貴方はどうせ拒否権はないのだけど我々エーゴマ隊のメンバーとして一緒に戦ったくれるのよね」
「ああ、俺は俺の復讐をする。アイツらをこの地上から消し去ってやる」
「気に入ったわ。それでこそよ」
そう言ってニーナは手を差し出してくる。
「これは?」
「握手よ。これから一緒に戦うのだもの挨拶はきちんとしないと。かなり先延ばしになっちゃったけれどもね」
「俺の手、ぬるぬるだけどもいいのか?」
「今更よ」
俺は粘液に濡れた手でをニーナの小さな手のひらを握った。久しぶりのの人肌。
俺が失ったものがそこにあった。
ニーナは俺のぬるぬるを気にもせずに手を握り返す。
「それと貴方にプレゼントよ。ゴリウス!」
「はっ」
ゴリウスが大きな袋を持ってくる。
中から出てきたのはIK○Aのサメのぬいぐるみだった。
「お前分かってんじゃん!これで今日から安眠できる!!いやー、いい上司に恵まれたぜ!」
一瞬で手のひらを返してお礼を言う。
いままで糞上司とかブラック企業とか頭ゴマモンガラとか思って悪かったなニーナ!
「それじゃあお休み。皆、引き上げるわよ」
「それではおやすみなさいませ鮫島様」
「また来るねー」
そうして三者三葉の別れの挨拶を残して俺の病室にいた多くの客人は去っていった。
俺は早速サメを抱いて寝た。
いままで昏睡状態でさっきまで意識を失っていたにもかかわらず、俺の意識はいともたやすく睡魔の手に落ちていった。
そして翌日。件の台風18号、通称GOMAネードは日本上空を去り、太平洋に抜けていった。
あさは台風明けの爽やかでカラッとした陽気に包まれ、鳥たちはちゅんちゅんと歌い、朝を告げる。
「ふあ~~あ」
寝ボケまなこをこすって背伸びをして病室のベッドから抜け出す。
俺の隣には粘液がこびりついた後乾燥してカピカピになってしまった何だかいけないことをしてしまったような気分にさせるI〇EAのサメが横たわっていた。
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