GOMAMONGARA

留確惨

第1話 冥府からきたジョーズ、もといゴーズ

この読者に先んじて言いたいことがある。

————俺はサメが好きだ。

繰り返す、俺はサメが好きだ。

サメ映画が好きだ。


シュモクザメが好きだ。ホオジロザメが好きだ。

イタチザメが好きだ。カグラザメが好きだ。

ダブルヘッド・ジョーズが好きだ。トリプルヘッド・ジョーズが好きだ。

ジョーズが好きだ。ディープブルーが好きだ。

メガシャークが好きだ。メカシャークも好きだ。


海で 海岸で 空中で 湖で 宇宙で 地上で アメリカで 日本で 地下鉄で アニメで 資料映像で CGで


この世界に存在するありとあらゆるサメが大好きだ。


海に入ったリア充が資料映像とともに現れたサメに食われて殺されるのが好きだ。

船上に残された片割れが地に染まった海を発見して戦慄するところなど心が躍る。

巨躯のサメがその巨大な口で船ごと人間を丸のみにするのが好きだ。

ビーチでキャッキャうふふしている連中が半狂乱になって逃げだす姿など胸がすくような心地だった。

獰猛なサメの群れが善良な市民を囲んで食事するのを見るのが好きだ。

お腹がすきすぎたサメが既に息絶えている人間を何度も何度もかじっているシーンなど感動すら覚える。

最初に出てくるセクシーなお姉さんが絶叫を上げながら飲み込まれていく様などはもうたまらない。

泣き叫ぶモブキャストたちが荒れ狂う空模様とともに空から襲い掛かるサメたちにバタバタとなぎ倒されるのも最高だ。

製作スタッフが小学生レベルの発想力で安易にただサメの頭の数を増やしていっている映画を見る時など絶頂すら覚える。


サメが出ないサメ映画でサメの登場ををただ待っているのが好きだ。

さんざん50分近く待たされたあげく爆発落ちみたいなノリで最後の10分だけ申し訳程度に出される作品を見るのはとてもとてもつらいものだ。

ポケモンのレート大戦でサメハダーを使ってボコボコにされるのが好きだ

IK〇Aのサメのぬいぐるみを抱いて寝る夜はまるで無重力空間にいるような寝心地だ。



だがこれから俺を待っていたのは愛すべきサメではなかった。

そう。ゴマモンガラという奇妙な魚が俺たちを、人類を滅ぼさんと襲い掛かってきたのだ。

これは人類がゴマモンガラと戦う話で、半魚人の話で、そして何よりサメ映画のような話だ。






****************************************




平成最後となってしまった夏休み、俺は友人たちと高校最後の海水浴に来ていた。

受験戦争への不安など今の俺たちの脳内には欠片も残されていない。

それを象徴するように天気は晴天、気温は熱く、太陽はさんさんと照り付けている。

周りを見れば水着や濡れTシャツでボディラインがはっきりと見えてしまう程露出の高い女性たちが楽し気に青春を満喫している。

肌の浅黒いグラサンのおっさんがクーラーボックスを抱えながらアイスを行商し、チャラそうな男の集団が昼間っから酒を飲み始める。

要は絶好の海水浴日和だ。


「あー、サメいないかな・・・」

「あのねぇ、優二。そんなの出たらビーチ閉鎖になっちゃうでしょ。サメ好きもいいけどたいがいにしなさいよね、全く。」


周囲の喧騒とは裏腹にぼやく俺に突っ込みを入れるのは宇藤朱鷺子。

この俺、鮫島優二の幼馴染だ。

短めの黒髪ボブカットに少しばかり童顔気味の可愛らしい顔立ちの少女。

細めだが健康的な肢体を少し大人な水着で着飾っている。・・・・・・エロイな。

人のつながりが薄くなりがちな現代において俺と男女での幼馴染という化石のような関係を維持出来ているのは奇跡に近く、よくもまぁこんなサメオタクの俺とずっと仲良くしていられるなぁと我ながら感心している。

個人的は別にラブコメ展開など期待してはいなかったが14年何も無いと少しばかりは傷つく。

ちなみに彼氏持ち。一度は心惹かれなくもなかったが、生憎先に取られてしまった。

ということが青春の一ページに刻まれてしまったが、それでもなぜか俺たちの関係にひびが入ることはなかった。


「それもそうか。」

「そうよ。ほら、せっかく海に来たんだし泳ご!」


朱鷺子に手を引かれ、砂浜を駆けだす。手が触れたことにドキドキするのは思春期な俺だけで朱鷺子は気にもしていなかった。


「なんだよ。なんでお前らそれで付き合ってないんだよ。」

「うっせえ。」

「あたしと優二はそんな関係じゃないもん。」


スイカボールを片手に二人を茶化すのは青木五郎。

朱鷺子と違い、高校からの友人だったが、俺たちとはすぐに打ち解け、いまではこの3人で海水浴まで来る仲になった。

先の発言をしていながら当の朱鷺子の彼氏本人だったが、彼の人柄からかなぜか親友になっている。

三角関係にすらなっていない微妙な関係。

人間的には尊敬出来るやつなので朱鷺子を取られた件で個人的な評価はプラマイゼロ。


「へー!五郎いいの持ってんじゃん!早速やろう!」

「いいぜ」

「OK]


俺たちは波打ち際から少し進み、膝がつかるくらいの水深のところでビーチバレーを始めた。

押し寄せる波が俺たちを歓迎するかの如く潮風を運ぶ。


「そっち行ったぞ!」

「まっかせてー、それ!」


くるぶしがつかるくらいの水深の場所から五郎のトスが上がり、海風に吹かれて朱鷺子の頭上に落ちる。朱鷺子はそれに思いっきりアタックをかました。

勢いよく射出されるスイカボールは吸い込まれるように俺の顔面にストライクした。

バシャーン、と高く水しぶきが上がり、お約束のように俺は派手にすっころんだ。


「あちゃー。ゆーじー、だいじょーぶー?」

「俺取ってくるわ。」


間の抜けた声とともに朱鷺子が近寄り、五郎は沖に流されようとしたスイカボールを取りに向かった。

その海の中に何が泳いでいるのかも知らずに。


「うわっぶ!?」


間抜けな声を上げて五郎がすっころぶ。

派手な水しぶきが上がり、塩水が風に乗って朱鷺子にまでかかる。


「気ぃつけろよー」

「大丈夫だ。ってえ??」


その時五郎は何か柔らかいものを踏んだように感じた。

タコか海綿かなにかだろう。そう勘違いして立とうとすると、右にバランスを崩してまた転ぶ。


「ゑ?????」


よく見ると水面が赤い。コレハナンダ?それに

それに足首は動かないしうまく立てない。

そして遅れて走り出す激痛。


「うわあ゛あああああああああああああああああああああああああああ!足があああああ!!俺の足がああああ!!」


五郎は恐怖のあまり過ぎに陸に向かおうとする。

しかし右足首を失ったばかりでは立っては転びの繰り返し。

そんな五郎をあざ笑うかのように今度は陸側のほうから何か魚のようなものが飛びかかって来た。



五郎を襲ったものを俺ははっきりと認識していた。体長は50センチほどの魚だ。

大好きなサメの洗練された、水の抵抗を完全に計算しつくしたフォルムとは違い、ずんぐりむっくりしたフグみたいな体格に平たいカワハギのような縦に細長い座布団のようなフォルム。

鰓より頭部分、顔にあたるところは目の上に黒と黄色の水玉模様、頬にあたるところは黄色く染まり、口から下は白くなっている。

胸鰭から尻尾の付け根付近まではウロコの配置がわかるような白と黒の幾何学模様で、尻尾は踏切のバーのような黄色と黒でなぜか付け根のところだけ白く染まり、黒い斑点が少し散らばっている。

全体的に統一感のない黄色と黒と白のサイケデリックな模様は見目麗しい南国の魚の中でも一際異質なように感じた。

口は小さかったが、海水で洗えるのにもかかわらず血に濡れている。

そのおちょぼ口に反して異常に肥大化して発達した歯はまるで二つのギロチンのようだ。

何よりその眼が恐ろしい。出目金のように飛び出て焦点の定まらない四白眼はせわしなく周囲を見渡し、麻薬中毒者のような形相でただひたすら周囲を威圧する。

眼球には意味のあるかわからない文様がいくつも並び、まるで悪魔か呪いのようなものを周囲に放っている。

ヤバい。こんな魚俺は知らない。それでも体が、本能が叫んでいる。

と─────────


「逃げろ!朱鷺子!」

「でも五郎が!」


とっさに朱鷺子の手を引いて走り出す。

あんな生き物知らない。あんな化け物俺は知らない。

だがあんなの相手に水中で丸腰の人間になにができるってんだ。

ためらいもなく五郎を見捨ててしまった自分が憎らしいが今はとにかく朱鷺子を守らなくては————


「おい!優二!助けてくれよ!俺たち友達だろ?なあ!おい!聞いてんのかこの────────────────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」


振り向くと五郎には何匹もの魚が組み付き、体のパーツを削り取っていた。

右の二の腕、左ひざ、続いて左脇腹に右耳。

まるで悪趣味な彫刻だ。本来人体になければならないものを根こそぎ奪い、削り、捕食する。

これから先は振り返ることすらできずに見ることは敵わなかった。

一人の人間が魚にガリゴリ食われて削られる異様な光景と絶叫に周囲も気づき、大パニックが巻き起こる。


「どけよ!邪魔だ!」「きゃああああああ!」「逃げろおおおお!」


パニックは拡散を繰り返し、楽しい海水浴場は一転、血の海地獄と化した。

まるでサメ映画だ。俺が余計なことを望んだせいか?だったら帰ってくれ。

たとえ冗談だとはいえ俺が望んだのは洗練されたフォルムとスピードで獲物を喰らうサメであって、断じてこんな醜い魚ではない。

魚は五郎以外にも被害者を出し、えさを求めて砂浜まで飛んで噛みついてくる。

まるで巨大なピラニアだ。肥大化したピラニアの群れのようなものが浮かれ気分の海水浴客を襲い、砂の上でビチビチ跳ねる。


「何なのよ優二!あんたお得意のサメ!?」

「違う!あんなサメ居るかよ!それに人を襲えるサメなら単独で行動するはず・・・」

「なんでもいいからって、きゃあ!」


朱鷺子は不安定な砂浜で転んだ。この緊急事態に致命的なミス。

優二は朱鷺子を起こそうとすると砂の中からの何かに気付いた。

ビーチ・シャークで予習したおかげか。砂中からの奇襲に気付いて飛びかかる魚に蹴りを入れる。

幸い水中でないと弱体化するのか、魚は真横に吹っ飛び、地に落ちてのたうち回るが、俺の代償も大きかった。


すねの一部が削りとられている。

皮膚はちぎれ、中から血液やピンク色の肉どころか白いものまで露出している。

鋭利ではない歯でやられたせいか、焼き付くような痛みが刹那ののちに俺の脳髄に電気を送りこんだ。


「ああああぁあ!」

「優二!」


俺の情けない悲鳴に気をとられて朱鷺子が振り返って足を止める。

背後には海岸線から飛び出してくる謎の怪魚の群れと砂の中から感じられる不気味な気配。

まずい。このままでは共倒れだ。

俺達は足をとめずに少しでも内陸に走らないときっとあの魚に追いつかれる。

何としてもそれだけは避けなければ————


「俺に構わず行け!」

「でも!」

「いいから!」


とどまろうとする朱鷺子を突き放す。

ちくしょう、よりにもよって一番重要な足を怪我してしまった。

自分のペースにつき合わせてしまったら朱鷺子も助からない。

朱鷺子は渋々走り出し、俺はその背中を追った。

しかし負傷した脚を引きずってしかも足場の悪い砂浜。

朱鷺子の背中は少しづつ小さくなっていった。


「ちくしょう、ここまでかよ…」


最悪なことに背後から砂音が近づいてくる。1つだけではない。二つ、三つ。いや、もっとか。

負傷した脚での逃走を諦め、踵を返して立ち向かう。


「こりゃぁ、朱鷺子を先に行かして正解だったな。俺、かっこいいぜちくしょう。」


そんな無駄な独り言を言いながら落ちていたパラソルを手に取り、眼前の恐怖と対峙する。

恐怖も緊張で体はガチガチ、生存本能が逃げろ逃げろとうるさくサイレンを鳴らす。

だが何より朱鷺子を守らなけらばと、そう誓った。

砂音が一層強くなり、飛び散っていく砂塵とともに魚が飛び出してくる。


「ワンパターンかよ!甘え!こちこら毎日イメトレ欠かしてねーんだっつーの!!」


イメトレ相手はこの正体不明の魚ではなくサメであったが、成果はあったのか、パラソルは口腔内部から魚を貫く。

魚は強靭な歯でパラソルを折るが、串うちになってまで生きながらえない。

それにこの魚の悪手のおかげで武器はまだ使える。

それどころか途中で噛み切られたパラソルは余計な傘が外れ、ヤンキーが使う鉄パイプみたいになって使いやすくなった。


砂の中から2匹目が飛び出てくる。同じようにパラソルだったものを突き出して魚を串刺しにしようとする。

しかし魚は空中で身をひねって即興の槍を回避してすれ違いざまになまくらの歯をもって俺の右肩を削りとっていく。


「糞があああ!!!」


痛む肩を抑えてうずくまる。右肩はごっそりと削られ、血や肉どころか白い何かまで露出している。

戦場で隙を見せる悪手。だが俺は何の訓練も受けていないただのサメ映画が好きなだけの高校生だ。

「ひるむな、戦え」と言うほうが無茶な話だ。

俺は戦士でも軍人でもましてや映画の主人公でもないんだから————


しかし、その悪手が逆に救われた。

先ほどまで俺の頭があった場所を何かが高速で通過する。

かろうじて黄色と黒のコントラストのようなものが残像を残した。

その何かの軌跡を辿るとコンクリートの壁に激突して頭がつぶれた魚の死体があった。


「嘘だろオイ、海から何メートルあるってんだ・・・」


何かの正体は海からミサイルのように高速で射出された魚だ。よく見ると胸鰭が翼のように発達していて、トビウオのように海から飛んできたのだろうか。


さっきのミサイルに気を盗られているとお次は足元付近から正体不明の奇音がさっき肩を抉った魚から聞こえる。

ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ、ビュッ!

音の正体はった。

まるでエイリアンや不死身の吸血鬼のように魚から体液や粘液に濡れたが生えてきた。


余談ではあるがホウボウという魚がいる。日本各地に生息する赤く輝く体と派手な鰭が特徴の魚だが、それには鰓や胸鰭の下あたりに海底を歩くための6本の足が存在する。

こいつに生えた移動用の足はそれに近い人間の腕に酷似した一対の足。

ただ、ホウボウと違うのは、陸上でも動けるような太くて大きい。

中にはきちんとした骨格もありそうで、まるで人間の手ような────────────────


「なんで腕なんて生やしてんだ!てめぇ魚類だろーが!」


俺の罵倒など気にすることなく海中でしか生きられない魚が次第に陸上の環境に適応していく。

人間の遺伝情報を取り込んだ結果なのか、魚は独自の進化をして腕を突っ張って立ち上がり、鋭い牙ではなく切れ味などまるでない歯を剥く。

陸上のハンディキャップが無くなり、これで地上でも無敵だといわんばかりに襲い掛かる魚だったもの。

腕の生えた魚は腕立て伏せをするように地面を押してその反動で跳躍する。

俺は避けきれずに魚の腕を掴んで自分を守る。

すると魚からさらに足が生え、地面に足をつける。

足場を得て踏ん張りが効くようになったのか、魚の力は以前とは比べ物にならないほど強くなっていく。

力負けする。まずい、このままでは。

魚は恐ろしい力で足を火っけ掛けて俺を引きずり倒し、そのままマウントポジションをとってくる。


マウントを取られ、動けなくなったところでゴマモンガラは表情筋のない顔面を愉悦に歪ませてに噛みついてくる。

鎖骨を持っていかれた。筆舌に屈しがたい激痛が脳から理性を奪って行く。


「あ゛、あ゛あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


絶叫は周囲のパニックにかき消され、意味のなく蒼穹の下に虚しく響く。

五郎と同じように下半身から体が欠けていく感覚がする。

もう右足の親指がない。左足に至っては足首から下の神経が遮断されている。

痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

乗っているゴマモンガラは肩の骨から筋繊維を噛んで引きはがすという悪趣味に興じている。

もう何も考えられない。痛みは思考を塗りつぶし、視界は既に赤くあかあかく染まっている。

触覚は既にゲシュタルト崩壊。

脳機能のほとんどがその役割を閉ざし、『諦めろ』という最後の判断を下す。



それでも最後の力を振り絞って朱鷺子が逃げていった先を見る。

俺の最後に見る光景は腕やら脚やらを生やしたサイケデリックでグロテスクな魚の群れだった。


────────────────────────────────────────────────













目を覚ますと見知らぬベッドに寝かされていた。ベッドは柔らかく、寝心地はとてもいい。

目覚めはすっきりとしていて頭はしっかり働いてくれている。

来ている服はバスローブのようで着心地は悪くない。


「ここは・・・病院か?」


白いリノリウムと消毒液の薬臭い空気。

苦手な病院のにおいだが今回ばかりはうれしかった。

俺の意図とは関係なく視界がにじむ。


「そうか・・俺は・・・」


助かった。そう言いかけた俺の手には河童のような水かきがついていた。

かつてヒトが魚だったころの名残、それが再生されている。

それに色も青く輝いて、手の甲には一本の黒くて太いすじが通っている。


「なんだ…夢でも見てんのか…」

「お目覚めのようね。大丈夫?」


俺は目の前の奇妙な現実に脳の思考を停止させていると銀鈴のような声が響き、自動ドアの音とともに銀髪の白衣の少女とSPみたいなグラサンの男が現れた。

少女のほうは年はかなり若そうで、小学生といっても信じられるくらいには小柄な体躯とそれに比した体つき。

顔つきはヨーロッパ系の美少女。

銀色の髪はセミロングに切りそろえられて滑らかに肩を流れる。

琥珀色をした目はすべてを見通さんとする鮮烈な輝きを放って俺を見つめている。

まとっている白衣はサイズが合うのがなかったのか、ぶかぶかで裾が地面につきかけている。

まるで研究者ごっこをしている子供のようだ。


男のほうは筋骨隆々とした体を典型的なボタンを閉めないジャケットのスーツで包み、これまた定番のミラー加工の中身が見えないグラサン。

更には名誉の負傷入りのスキンヘッドとまさにフルコンボみたいなやつだ。


「これを?あなたが?」

「そーよ。命の恩人に感謝なさい。私が貴方のA-GOMA手術を担当したニーナ・ルーデルよ。それで、何か質問はある?あなたは目覚めたばかりでしょうし、色々と知りたいことも多いでしょうね。」

「はあ」


上流階級の子供だろうか。妙に高慢ちきな態度で接してくる少女は見た目通りのかわいらしさがあった。

しかしそれ以上に感じるのは堂々たる誇りと風格。

ただの一般人である俺ですら感じ取れる幼女らしからぬ『圧』。

少女は優二の質問に答える意志を示しながら話を続ける。

それは歓迎の意思であり、俺の運命の一言であった。


「でもその前にご挨拶から。ようこそ。対GOMAモンガラ部隊、通称エーゴマ隊に。歓迎するわ。鮫島優二くん。」

「はあ??」

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