第26話 福利厚生はしっかりしないと

「それで、用件ってのは何なんだよ」


つくば対ゴマモンガラ研究所、つまるところエーゴマ隊本部の指令室にはニーナとゴリウスが待っていた。

俺に1週間魚みたいな食生活を送らせて心も体も魚に成り下げやがった下手人どもがミスドのおねえさんの名前を聞くことすら邪魔して俺を呼びだし、俺はそれに渋々従ってここに来た。

いかにも悪の組織のような逆光がニーナの小さい体から生える影を拡張し、その背後に控えているハゲ頭をたっぷりアピールするようにテカらせる。

何ともまあ、こだわりを持って作ったものだ。


「今度は戦闘訓練よ、私たちは強力な武器をあげるから貴方はゴマモンガラの模型を迎撃して頂戴」

「ああ、ブロケードが受けてるっていう。っつーかいい加減に肉食わせてくれ。水族館のイルカじゃねーんだぞ俺は」

「ごめんなさい。次は焼いて出すわ」

「火加減の問題じゃねーよ!!」


斜め上の回答が返ってくる。いや、なんで俺は魚扱いされてんだ。

腐っても新人類じゃなかったのか俺。


「いや、だってあなたマエコウを取り込んでいるのよ。もし仮にポークステーキを腹いっぱい食べて豚になったらどうするのよ。わたしそういうの最近この国のアニメで見たわよ。たしか千となんとかっていうタイトルの————」

「序盤も序盤なトラウマシーンじゃねえかそれ!!後俺そんな体質になってるの!?」


たしかに世界でもかなり有名なアニメだけど!!ギネス記録持ってるけど!!


「だって貴方たちマエコウなんていうオーパーツじみたもので半魚人になってるのよ。私たちだってどう扱えばいいかわかんないのよ」

「そうなのか・・・・・・」

「本当はホンソメだけ食べさせる予定だったんだけど、そんなことをしたら全国の水族館やペットショップを回っても足りないからね」

「あいつらペットショップにいるのかよ・・・・・・」

「普通に売ってるとこあるわよ」


意外なことを聞いた。世界には往々にして好事家というものがいるのだな。


「ちなみにあなたに与えてるエサは今日は朝から順にキュウセン、ニシキベラ、ニシキベラよ。勉強になったわね」

「全部聞いたことねえよ!あれ白身で美味しかったけどタラとかじゃなかったのか!!」

「小さすぎてさばくのが苦労したと調理場から文句が出ていたわ」


与えられた餌は思いのほか種類が少なかった。

後で調べたが全部イワシレベルの小魚だった。

餌へのこだわりについては水族館のイルカよりはマシらしい。


「絶対ロクな死に方しねえぞお前・・・・・・」

「貴方よりマシだと思うけれどね。ほら、これあげるから機嫌なおしなさい」


ニーナはポリ袋を投げて渡す。

どれどれ中身は・・・・・・

ちりめんじゃこ、乾燥わかめ、酢昆布、鮭の燻製、煮干し、ちくわ、チータラ。


「ふっざっけんじゃねえ!!結局魚じゃねえか!!」


ポリ袋をおもいっきり投げ返す。これどっかで経験したことあるぞ!!

決してデジャヴではない何かだ。それも今回は悪意満々で。

ポリ袋は空気の壁に阻まれてニーナの手のひらに帰る。


「あら何するのよ。っていけないわ・・・・・これチーズ入ってるじゃない・・・・・・」

「しまった!!」


貴重なチーズを食べられる機会を逃してしまった。

しかし後悔は先に立たず。チータラはポリ袋ごと没収されてしまった。


「まったく日本人というのはわからないものね・・・・毎食毎日違うものを食べたいなんて・・・・・・」

「食いたいに決まってんだろ!」

「カルチャーショックだわ・・・・・・」

「てめえはイギリス人か何かなのか」

「流石にあの食の暗黒島の住人と一緒にされるのは心外だわ。」


さらっとイギリスをディスんじゃねえ。

そういえばこいつよくわかんないスラングを使っていた以上英語圏の出身じゃあないことは確かなのか。


「まったく・・・・・・うるさい男ね。いいこと?あなたのほかにもA-GOMA手術の被験者がいてかなりの失敗例が出たってのは話したけれどその中に面白いものがあってね、菜食主義者ベジタリアンの半魚人で確か手術ベースはオーストラリアのオールドワイフっていう魚だったんだけれども」

「なんだよ、もしかして体中が緑色になって光合成できるようになったとかいうんじゃあないよな、エコでいいじゃないかそれ」

「違うわ。心が穏やかになりすぎて何の反応も示さなくなったのよ。まさに仏ね」

「なにそれこわい」


思っていたより俺の食生活というのは恐ろしい影響を体に与えるらしい。

よくもまあそんなトンデモオーパーツを体内に取り込む気になったもんだよゴマモンガラは。


「まあいい、わかった。ならもう飯の文句は言わないさ」

「あら素直ね」

「ホンソメワケベラになっても豚になりたくないもんでな」

「あっはは、なにそれ貴方面白いこと言うじゃない。それじゃあ私の話を聞いてもらっていいかしら」

「ああいいぞ。で、射撃訓練ってのは何なんだ。まさか捕まえたゴマモンガラと格闘しろってんじゃないだろうな」

「貴方のそれについての実戦経験は日本一よ。誇っていいわ」


どうでもいいところで日本一になってしまった。

まあ2度もロクな武装無しにゴマモンガラとガチバトルしているから確かに日本一であるが。


「じゃあどうすんだよ」

「決まってるじゃない。まずは射撃訓練よ」

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