第16話 作戦開始
夜が明け、遂にこの日が来た。
そう、エリクサー社潜入の日が。
白を基調とした箱型の大きな建物、敷地を取り囲む塀も高く、等間隔に監視カメラが並んでいる。
「本日、見学をお願いしていました如月と申します。」
入り口門扉の若い守衛に向かい、部長が
微笑と共に語りかける。
若い守衛は少し照れた様子のあと、
「あ、話は聞いています。此方にご記帳の上、このプレートをお付けください。」
と、『Visitor』と書かれた首掛け式のプレートを五つ、ぎこちなく差し出した。
部長の美貌にどうやら心奪われた様子だ。
――守衛さんよ、それは仕方の無いことだ、
部長の魔力には誰も
デレデレした守衛から、エントランスの奥にあるエレベーターで五階ヘ向かうよう指示を受け、俺達は歩みを進める。
堂々とする部長とは対象的に、表情に不安が貼り付いた遙に向け俺は声を掛けた。
「遙、この建物、デッカイ豆腐みたいで美味そうだな!」
そう形容出来る、エリクサー社の外見。
違和感を感じるのは、窓が一つも見当たらない事だが。
「はぁ、奏太は緊張感とは無縁なのね。豆腐って、昨日あれだけ食べといて、まだ食べ物の事考えられるのが不思議だわ」
そう言う遙の表情に笑顔が戻る。
「この建物、窓が無いなんて、不気味ですねぇ」
──うぉい! 関 優弥よ?! 不安を煽る発言は慎みたまえ。 俺のフォローが台無しじゃあないか!
エントランスに入ると、これまた白が基調の広々とした空間が広がっていた。
『ELIXIR』という立体的な社名のオブジェクトが自立しており、辺りには花のような香りが漂っている。
「いらっしゃいませ、如月様。 ようこそエリクサーへ」奥のカウンターに佇む受付の女性が声を掛けてくる。
女性はエレベーターのボタンを押し、涼し気な笑顔で迎え入れてくれた。
五階に到着し、エレベーターの扉が開くと、そこにはグレーのスーツに身を包んだ30代位の男性が待っていた。切れ長の瞳にスクウェアタイプのメガネという出で立ちに、如何にもインテリという印象を受ける。
「よく、いらしてくれました。見学を担当させて頂きます『
バリトン調の声でそう言うと、笑みを浮かべる。何か企んでいると感じたのは、俺の先入観によるものだろう…まさか、如月部長を口説きにかかっているんじゃ無いだろうな!?
おお、本田先輩がガンを飛ばして…いや、これがいつも通りだった。
郷間は『ご存知かも知れませんが…』という言葉に続き、会社概要の説明を始める。
その間、俺はフロアガイドに書かれた文字を注視した。
『六階 中央制御室』恐らく、ここが俺の目的地……。
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『目的地が分かったみたいね?』
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突然頭の中に声が響く。そして、いつの間にか隣に立つ黄色のサマーニットを着たショートカットの女性の姿が。
皆の様子からして、彼女の姿と声は俺にしか認識出来ないのだろう。
「久しぶりだな、イア」
誰にも聴こえない程の小声で呟くと、イアは笑みを浮かべ、『さあ、始めましょうか…宜しくね』と、俺に告げた。
――ああ、作戦開始だ。
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