エリクサー
なかと
第1話 噂
――なあ、お前知っているか?
ソシャゲのガチャ無料になるアプリの事。
――うん、噂は知っているけど、僕、スマホゲームはあまり好きじゃないから、使った事ないけどね。
――良かった、あれな…やめておいた方がいいぞ。
……………………………………………………
終礼が終わり、教室内は喧騒で溢れかえる。それはまるで、授業で抑えられていた若いエネルギーが一気に解き放たれたように。
『今日どこ行くー?』
『なあ、お前…』
『明日も練習だな!』
クラスメイトが口々に会話を始め、言葉の洪水が教室を包む。
「ねえ、
隣の席から、
「ん、ゴメン。聞いてなかった」
「だから、今日は事象研究部を見に来るんでしょう!」
遙は幼馴染で家も隣、住宅地には共有道路もあり、幼い頃からまるで兄弟のように遊んでいた為、お互いの事は熟知している。
遙は昔から空想や妄想の類が好きで、よく自分の考えた仮説や理論を話してくれたが、これまで、俺に理解が出来た試しがない。
昨日は、太陽の温度は30度も無いなんて言っていたが、流石に『そんな訳あるか、太陽の温度は6000度って習っただろ。』と、反論したのがきっかけで、約1時間に渡り磁場がどうだの、大気の摩擦がどうだの持論を展開されたばかりだった。
そういう趣味が相まってか、遙はこの高校に入った途端、事象研究部と言うクラブに入部した。 超常現象なども研究しており、周りからは『オカルト研究部』略してオカ研と呼ばれているのだが、部長が新種の昆虫を発見し新聞に取り上げられるなど、学校への功績も高く立派な『部』として成り立っている。
「奏太、いつまでも落ち込んでちゃ駄目よ、私が研究の楽しさを教えてあげるから、早速行きましょ!」
ふと、中学3年のあの試合が頭をよぎる。
全中サッカー県予選の決勝。 相手のスライディングが俺の足首に刺さり『ブチッ』っと、頭に音が響いたあの光景を……。
「あ…」
遙が、心配そうな表情を向けてくる。俺は一体どんな表情をしていたんだか。
「じゃあ俺は、女体の研究を極めてみるとするか!」
遙は笑顔で、「バカじゃない!」と言った。
「お疲れ様です!入部希望者を連れてきました」
「失礼します、佐々木 奏太と申します。今日は体験入部で来ました。宜しくお願いします」
「体験!?」隣に立っていた遙が1オクターブ高い声を上げ、此方を見やる。まだ、入部するとは一言も言って無かったのだが。
奥の席、部長席と云うのだろうか、長い黒髪の綺麗な女性が先程まで談笑していた男性二人との会話を辞め立ち上がると、透き通った声を掛けてきた。
「初めまして、部長の
「おお、入部希望者か。君が入れば、部員は20人の大台に乗るな!」
如月さんの隣に座っていた体格の良い男性が嬉しそうに言う。彼は3年の副部長で、豊田と名乗った。
部室にはすでに十名程の部員が集まっており、各自自己紹介をしてくれたが、断言しよう。 聖徳太子でも無い俺には一度に覚える自信がないと。とは云うものの、気の良さそうな人たちで、想像していた陰気なイメージとは違うようだった。
部室は広く、教室の半分位はあるだろう。
壁には如月さんの『新種発見』に送られた感謝状や先代の功績だろう、様々な優秀賞と書かれた賞状が所狭しと飾られていた。
「私達の部活内容については遙から聞いてるかしら。簡単に言えば、各自テーマに沿った自由研究の様なものだけど、チームを組んで当る事も多いわ。奏太君は何か調べたいが事あるのかしら」
如月さんが髪をかきあげる仕草に大人の魅力が溢れる。本当に同じ高校生だろうか?
「いえ、特にこれと云っては…強いて云えば、今、社会問題となっている『突然死』について調べたいかなって思っています」
──何かまずい発言をしただろうか?
部長含めた全員が『おっ』と、驚きに似た反応を示す。
如月さんが目を細め、嬉しそうに、「あら、奇遇ね…今、私もその件で調査をしているの。入部してくれたら、私とチームを組んでくれないかしら?」と真っ直ぐの視線を向けて来た。
そして、続けざまに言った言葉は……。
「原因は、『魂を奪うアプリ』の存在と睨んでいるの」だった。
……………………………………………………
――それって、どういう事?
――先月、親戚の子…と言っても、俺の1つ上なんだけど、例の『突然死』で亡くなったんだよ。
――それは可哀想に。
――例によって、死因が老衰に似ていたんだと。
亡くなる直前もそいつと話してたんだぜ、
その時は『ちょっと身体がダルい』とか言ってたんだけど、ソシャゲの話をしている時はピンピンしてたんだ。
課金せずにガチャ出来るアプリのお陰で、すっげー強くなったとか…
――それが、さっきの話にあった…
――そう、『SS』っていうアプリだよ…
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