第8話 計画

──次の日。


 部室では部長を除く全員の表情に異変が起こっていた。


 まばたきを忘れ目を見開く者に、口を閉じる方法を見失い、危うくよだれを垂らしそうになる者……。

 俺に至っては、その両方プラス、鼻水まで垂れそうになってしまった。


「ぶ、部長? どうやったんですか…?」

 隣に立っていた緑さんは、元々大きな瞳を更に1.5倍大増量中で声を絞り出していた。


「あら、簡単な事よ。私達は社会貢献のため活動している部活で、『社会見学』させて欲しいと言っただけよ」

 ……それをあっさり、エリクサー社に受け入れてもらえたのか?


「だって、シンプル・イズ・ベストって言葉があるでしょう?」

 部長は涼しい顔で流れる様に言葉を続ける。

「でも、参加出来る人数は5人限定なんですって。どうかしら?私と一緒に『社会見学』に行きたい人はいるかしら?」


 勿論、俺と遙は参加する。

昨日、希望していた2年の本田先輩も加わり、あと一名。


「あの、僕も宜しいでしょうか」

 おずおずと挙手する関君の姿がそこにあった。


 こうして、決まった計画参加者は、

3年 如月部長

2年 本田先輩

1年 佐々木(俺)、柳瀬(遙)、関君

の5人だった。


 豊田副部長も参加表明を行ったが、残った部員の統制の為、残ってほしいという如月部長の意向を汲む形となった。


「じゃあ、この件は決まったわね。夏合宿まで、あと1ヶ月も無いから、しっかり自分の課題を纏めておいて頂戴ね!」

 如月部長は『ポン』と軽く手を叩き、『刺激的な合宿になりそうね』と、呟いた。


 部活が終わり、美園さんの提案のもと1年同士でファーストフード店に集まっていた。

 女性陣は今流行の『タピオカミルクティー』とやらに舌鼓を打ちながら、良く回る舌で芸能、ファッションの話題を振りまいている。


「ところで、奏太君も入部早々、凄い事に巻き込まれちゃったわね?」

 由紀さ…

「本当に何なのかしら…夢の女、怖いでしょ! そうそう、いつも熊五郎の修理ありがとね緑っ!」

 遙…

「いいのよ、私も熊五郎好きだから……。 でも、遙の夢に出てきた『イア』も謎よね?」

 緑…

「でさ! 遙と奏太くんってどんな関係なの!?」

 由…


「ちょっと、待て待て! 俺にどのタイミングで会話に入れと言うんだ!?」

 まるで銃弾が行き交う中、突っ切って行ってくださいと言わんばかりの状況だろうが!


 隣の関君も、(ほんとに、コミュニケーション力が凄いよね)と、言わんばかりに呆れ顔でアイスコーヒーをかき混ぜていた。

 カランカランと涼しげな音を響かせながら、関くんは俺のスマホに視線を落とすと、「でも、良く『SS』だっけ? 手掛かりにたどり着いたよね。奏太君はこの国の英雄になれるんじゃないかな?」などと悪戯に笑う。


「そんな大袈裟な……。ほんと、たまたまなんだ。そうそう、皆間違ってもインストールするなよ!」

 そう口にした時だった。


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 貴方は試したのにね…

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!! 今度こそ空耳じゃない!

「誰だっ!」

 

 しかし、周りを見渡しても『声』の主は見当たらない。

 その様子に、皆の不思議そうな視線が集まる。

「ちょ、奏太!? どうしたの?」


「遙、今、女の声が聞こえなかったか?」

俺の問に対し、皆には聞こえなかったという答えが返ってくる。

「奏太、疲れてるんじゃない?今日はもう帰りましょう」

 遙の一声で解散となったが……。


 どうも、様子がおかしい。 疲れてるんじゃなくて、憑かれてなければいいのだが……。

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