第9話 夢

「お帰りっ! 今日はご馳走よ!」

玄関を開けた途端、母さんの元気な声が響いく。


 ──なるほど、父さんが帰っているんだな。

リビングに向かう廊下には、いい匂いが漂っている。これは、トンカツと…エビフライか!


「お帰り、最近中々会えなくて済まないな」父さんはリビングに入るなり声を掛けて来た。

 父さんは、国の情報管理という仕事を『中央塔』と呼ばれる庁舎で行っており、詳しくは聞いていないが、年中多忙を極めているらしい。

「仕事、忙しそうだね、身体壊すなよ?」

その言葉に父は頬を緩ませる。

「中央塔の仕事も、AI化に向け取り組んでる最中だからな。上手く行けば、早く帰って来来れる様になるさ、今が踏ん張り時だな」

 父さんは、俺と母さんに向けそう言った。


 久しぶりに3人で囲む夕食。

自然と会話が増え、学校の事など他愛もない内容だったが、胸が暖かくなるのを感じた。

 いつも早口の両親が、珍しく会話していた事も要因の一つかもしてないが。


 つけっぱなしのテレビには、今日のニュースが流れていた。区切りがついた所で最近良く目にするCMに切り替わる。

『これを飲めば、あなたも若返る!幻の霊薬『ソウル』、お陰様でご利用多数……』


「このCM、最近よく見るなぁ。でも、こんなの買える奴がいるのかよ?」俺がそう独り呟いたのには理由がある。

 この『ソウル』というサプリメントは、一粒百万円というとんでもない額だからである。


「これって、材料は何なのかしらねぇ?『説明』されていないのに効果があるって少し怖いわ……」


 ふと、母の独り言により、頭の中で『カチャリ』という響きと共に1つの仮説が浮かぶ。

 ──ここ数日なのだが、頭の回転が早くなった様に思う。あくまで、成績が良くなったという意味合いでなく、感覚が鋭くなったというか……。実際、今晩のメニューもすぐわかったし!

 

 ……話を戻そう、俺が思うに、これまでに起った事象として、

・気持ちが良くなる筈の『SS』が俺の場合、不快なものだった。

・合宿先がエリクサー社の隣で、『偶然じゃない』という言葉が聞こえた事。

・今日、部長はイアの事を『夢の女』と皆に話していた事。


 ──そういった出来事から考えられる仮説…。


 俺は、食後のコーヒーを啜る父に向けて聞いてみた。

「なあ、父さん…さっきのCM、ソウルの販売元って調べる事が出来る?」


 その夜、俺は夢を見た。


『始めまして、奏太くん』

この声は……。 今日聞こえた女の……。

 真っ暗な空間で白いモヤが形を作り、それは女性の姿を形成する。


 そして、その容姿には見覚えがあった。


 それは一昨日、教室のガラス越しに見つけた、校門に佇んでいた女性だった。


『私は『イア』柳瀬さんから聞いているでしょう?』


「あんたが…イアか。やっとお出ましって訳だな…俺達に干渉するのは何でなんだ?」


『ふふっ、せっかちね。私はだだこの国を救いたいだけよ?』

 その女は、微笑を浮かべていたが目は笑っていなかった。


「遙がいってた、この国への侵略ってやつか?」


『まあ、大きな意味ではね。 エリクサーに潜入後は任せて頂戴、あなたを導いてあげるから』


「あんたの言っている言葉が正しければ、俺はエリクサーの企てを阻止したい。ただ、あんたの目的は何か教えてくれないか?」

 このイアって女…恐らくは…『SS』の…


『そうね、私の望みは…『平和な世界』よ』


 ──やっぱり、はぐらかすか。

と云う事は、仮説の対策が必要だと俺の直感が告げていた。

 そこで1つ、俺はイアに対しを告げてみた。

「遙にインストールした『IA』というウイルスソフトを、明日、俺にもダウンロードしてくれないか?」


『理解が早くて助かるわ。でも、どうして明日なのかしら?』

 その要望をイアは俺の要望を聞き入れてくれたようだ。

「スマホの充電忘れてて、明日ちゃんと用意しておくからさ」


『ふうん…わかったわ。じゃあ、宜しくね』

 そう言うと、イアは闇に溶け、俺は深い眠りに落ちていった。

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