第7話 偶然
部室の解錠を行う如月部長は、静かに口を開いた。
「あなた達は、『吸引力』を持っているみたいね?」
如月部長の言葉の意味がわからず、つい、聞き返してしまう。
「何だか高性能な掃除機みたいですが…… なんの事でしょう?」
授業が終わり、遥と共に部室ヘ向かう途中、偶然にも如月部長と渡り廊下で鉢合わせた。
部室に向かう道すがら、昨日の出来事と、遙の夢の話を報告を行ったのだが……。『吸引力?』って何だろう?
部長は真剣な眼差しで言葉を続ける。
「一昨日、関君が発表した内容覚えているかしら?」
「……えーっと、この世界は電気信号に置き換えられるってやつですね」
「そう、つまり、話にあった『イア』という者が遥の脳に直接メッセージを送った可能性があるということ。 昔から、閃きや天啓という事象で世界が進化して来た様に、何らかの外的干渉は存在すると定義できるわ」
先程から遙は口をつぐみ、黙ったまま話を聞いている。
「方法は解らないけどね。 ただ、遙が事象のきっかけを得たのは事実。 それに、吸引力と言ったのは他でもない、問題解決に至る上で物事は一気に収束する事があるからよ」
如月さんは話しながら、手元のスマホに指を走らせる。
「部長…あの、つまり?」
その問に対し、笑みを浮かべスマホの画面をこちらに向ける。
「エリクサーって企業ね、夏合宿で行く施設の隣にあるのよ」
「ええっ!?」遙が驚きの声を上げる。
そんな偶然あるのか?
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偶然じゃないわ…
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── 妙な体験だった。
突然、直接頭に響く女性の声。
「誰だ?!」と、振り返るもそこには誰の姿もなかった。
── 気の……せいか?
「ど、どうしたの? 奏太?」
怯えが浮かぶ遙の瞳。 驚かせてしまった事を悪く思い、咄嗟に「あ、ああ! 耳元を蚊が飛んでたんだ! まったく、嫌になるよな!」などとはぐらかすと、「もう!脅かさないでよ!」と、遙はいつもの調子を取り戻した。
「…………」
その様子を部長は、何かを考える様に眉をひそめていた。
訪れたしばしの沈黙を破る様に『カチャリ』と扉が開かれた。
「お疲れ様です。って、何だか深刻な状況でしたか…?」そう言って入ってきたのは関君。
ただならぬ雰囲気を感じたようで、申し訳なさそうに退室しようとする。
「あら、関君。出て行かなくていいわよ。突然死の件で報告を受けていただけだから」
「そうでしたか…何か解ったんですか?」
関君は指で髪をクルクルと遊ばせながら、興味の視線を投げてくる。
「そうね、皆が揃ったら説明しましょうか」
如月さんは楽しそうに答えた。
・
・
「如月!それは調査の範疇を越えている!」 豊田副部長が、如月部長の提案に対し、大声で異を唱えた。
そういう俺も如月部長の突飛押しのない計画に、目を白黒させているところだが。
「豊田くんの意見はもっともだと思うわ。でも、遙達の話しにあった、『夢の女』の話が真実なら、貴方は見て見ぬふりをするのかしら?」
豊田副部長含め、部員達が黙り込む。
長い様で短いその沈黙を破ったのは、
「確かに危険かも知れねーな。 でも面白そうじゃねーか! 部長の計画に俺も混ぜてくださいよ!」2年生の本田先輩だった。
本田先輩は文化系というより、『喧嘩強そう』『目を合わせちゃいけませんよ』といった風貌だが、心優しきナイスガイで、実家がめし屋…と、遙に教えてもらっていた人だ。
如月部長の計画、それは……。
そう、夏合宿を利用し、エリクサー社へ潜入、遥の持つウイルスソフト『IA』を実行するというものだった。
「部長! 危険です。そんな得体の知れない企業に潜入なんて……。 それに、潜入自体不可能だと思います!」ゆるふわおさげの由紀さんが、表情を歪め反対する。
全体的に反対の空気が漂う中、如月部長はゆっくり話を始める。
「あらあら、どうしたの皆んな。勿論、この計画は強制参加じゃないわ。こんな大人数だと、動きづらいでしょうしね。 それに、みんなを危険な目に遭わせるつもりも毛頭ないわ」
如月部長は、さも自信ありげに微笑を浮かべる。美しい上に頭も良く、
俺は…遙に向け、「この計画、俺は参加するよ。遥はどうする?」と、投げかけると、遙は「勿論…参加するわよ」と、きつく口を結んでいた。
「部長。 潜入する方法は、もうお考えなんでしょうか?」
俺の問いに如月部長は口角を上げて言った。
「私達の立場ほど、好都合な条件はないでしょう?」と。
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