第3話 衝撃

「全く!お洒落して来なさいって言ったのに、何で昨日と同じパーカー姿なのよっ!襟付きのシャツとか持ってないワケ?」

 1時限目、大嫌いな数学の授業が終わった休憩時間、開口一番それですか、遙さん?


「これには深い訳があってだな…」

 俺は今朝からの経緯を話す。

スマホの充電が切れてしまい、目覚ましが鳴らず、母に起こされたときには時既に遅し。

 三年間、無遅刻無欠席という目標を一年目で頓挫させる訳にはいかない為、起きてから五分で家を出た事を…一応歯は磨いたぞ。

「というわけで、充電器貸してくんない?」

「なにが、というわけよ!ただの寝坊じゃない!」

「すいませんでした、以後気をつけます」 

 手渡された充電器を教室の後ろにあるコンセントに差し込み、電源を入れる。

 そうそう、『SS』のダウンロードは終わってるだろうか?


「そういえば、昨日、如月部長が言ってた『魂を奪うアプリ』俺見つけたかも知んないんだ」

「えっ!?」

「多分、インストール出来てると…」

そう言って立ち上がった画面に目を向けると、『アプリの取得に失敗しました。再インストールして下さい』の文字が。


 ──駄目だったか?

 でも…『SS』のアイコンが表示されているぞ?

「ちょっと、奏太!どういう事?」

 遙が画面を覗き込んで来るのだが、近い、距離が!皆の目もあるのだから、噂になってしまいますよ!


「これ、何だかインストール失敗したみたいだけど、開けるっぽいな」

『SS』のアイコンをタッチして、遙にも見えるよう画面を向けてやる。

「SS?これが部長の言ってた…?」


「そこの二人。仲がいいのは結構だが、授業はしっかり受けんとな?」

「!!」

二人でそろりと教壇に向き直ると……。


 いつの間にか始まっていた授業。

そこで目にした光景は、着席してニヤけた視線をこちらに向けるクラスメイトと、呆れ顔の……。

「先生!?すいませんっ!」

俺の声が裏返った事もあり、教室にクラスメイトの爆笑が響いた。


……………………………………………………


「奏太、お前と柳瀬さんが幼馴染って知ってるけど、いつから深い仲なんだ?」


 昼休みの学食内は混雑を極めている、クラスメイトの瀧本は、焼きそばパンを頬張りながら、ニンマリ顔で聞いてきた。

ちなみに、柳瀬とは遙の姓字である。

 休み時間の度に教室の後ろで二人コソコソしているのが災いしたようで、出来てる説がこの昼休みには確固たるものとなっていた。


「うむ、期待を裏切る様だが、遙は只の幼馴染にすぎんのだ。残念ながら期待している深い仲のアレコレはまだ無いのだよ」

 瀧本とは中学時代からのサッカー仲間で、高校に入っても同じクラスだ。

 今でもサッカーを続けており、1年ながらもベンチ入りしている。

「じゃあ、俺が柳瀬さんに告ってみようかな。結構可愛いじゃないか」

 …果たして奥手な君にそんな事が出来るかな?しかし何だ?この不快な気持ちは…?

「どうぞ、ご自由に」という、俺の言葉は何故か震えてしまい、瀧本に『お前はわかりやすい奴だな』と笑われてしまった。


「ところで、お前たち、休憩時間の度に何やってたんだ?完全に二人の世界が出来上がっていたから、声も掛けれなかったぞ?」

 瀧本はそう言うと焼きそばパンを口に放り込む。

「そうそう、俺、事象研究部に入部する事にしたんだ。突然死について調べてみようと思ってさ、その話をしてたんだ」

 インストール失敗した筈の『SS』は何故か開く事が出来た。発行元は『(財)エリクサー』となっており、ゲームをしている際の脳波の研究に協力すれば、スマホゲームの課金を代わりに支払う、という主旨が書かれていた。

 方法は、ゲームの課金画面で『SS』を起動し、頭にスマホを当てる…昨日見た書き込みのそれであった。

 俺と遙は、流石にリスクを冒してまで試してみるまでは至らなかったのだが……。


「オカ研に入部したんだな。そりゃあ良かった。あそこで実績挙げれば大学から推薦来るらしいからな!」

 口の中で咀嚼しながら器用に喋るものだと関心していたのも束の間、瀧本が続ける。

「うん?突然死って言えば、うちのクラスに親戚がそれで亡くなったって奴がいたような…」

「えっ?そうなのか?」

 危うく持っていた箸を落としてしまいそうになる。

「うーん、確か、杉田だったかな…?今日は休んでるみたいだから、今度聞いといてやるよ」

「すまん、杉田君とは面識があまり無いんだ。助かるよ」 


 入学当初、俺はあの怪我のせいで塞ぎ込みがちだった為、クラスでもまだ話した事が無い者が多い。このままじゃ駄目だと思えたのは、俺の中で過去を精算しつつあるのかもしれない。

「でも、最近、昔のような表情に戻ってきたじゃないか。俺はそれが嬉しいぜ」

 そうだな…瀧本の言うとおり、過去を振り返っていても仕方ないな。

「瀧本…ありがとな」

瀧本は『なにいってんだよ』と照れ笑いを浮かべた。


……………………………………………………


 放課後、オカ研の部室に入った途端、俺は圧倒される事となった。

 総勢20名、全部員が集まっている事と…

「すいません…こんな格好で、大丈夫でしょうかね?」

 皆さんお洒落な服装で、スーツ姿の方もいらっしゃる…これは間違いない、場違いだ!


「ええ、構わないわよ。今日は貸し切りだから。私達が張り切ってしまった様でごめんなさいね」

 如月部長は決して派手では無いものの、ドレススーツというのだろうか、どこから見ても高校生とは思えない。そして、美しい…


「どうやったら、そんなに鼻の下を伸ばせるのかしら?是非ご教授頂きたいものね!」

 遙の視線が突き刺さる。いや、むしろ肘を俺の脇腹に突き刺している…


「今日は佐々木君の歓迎会を行います。自己紹介は各自その時改めて行うとしましょう。

今日は定例報告初日ですので、早速始めましょうか。皆さん準備は出来ていますか?」

 如月部長の言葉に一同が『はい!』と答える。ちょっとした体育会系より統率が取れている様だ。


「佐々木君、今日も見学みたいになっちゃうけど許してね。質問等あれば、気兼ねなく聞いて頂戴」


 かくして、報告会が始まった。

今日は1〜2年の12名による発表が有り、

明日は3年7名の発表が行われるとの事だった。

 そして、各自10分程の発表に俺は衝撃を受ける事となる。


「僕の考察する平行世界の可能性について、発表させて頂きます。大前提としてこの世界自体が電気信号に置き換えられる事が可能という事実から………」

 

 内容はさっぱりわからないが、根拠と証拠、検証と結果を織り交ぜ、相手に持論の正当性を認めさせる…これはプレゼン…いや、戦いだ。

 そして、遙の番が周って来た時には19時を過ぎていたのだが、聞き入ってしまっていたのだろうか、時間があっという間に感じられた。

「………以上の事象により太陽の表面温度は約26℃前後であると仮定することが可能になります。以上です」

 おお、遙、かっこいいじゃないか。

説明を聞いていると、本当にそうかもって思えてくるぞ?!


「遙、とっても良かったわよ。質問は…と、言いたい所だけど、ちょっと時間も押しているようだし、私の見解を含めて明日にしていいかしら」という、如月部長の問に対して部員の異議はなく、『シエル』に向かうこととなった。

 その道すがら、ふと思う。

圧倒されて、如月部長に『SS』の報告忘れてたな…と。

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