第18話 トラブル
「奏太…?大丈夫?」
遙は心配そうに顔を覗き込んできた所で、
『はっ!』と我に帰る。
その後ろには微笑のままのイアの姿が。
「ごめん、ごめん。妄想の世界に浸ってた」
その答えに対し、遙は『しっかりしてよね!』という表情になる。
郷間を先頭に人造大理石の床を連れ立って歩く。
その間、企業説明は途切れることなく続いた。
『会議室2』と書かれた扉が開かれ、中に入ると長机が並べられており、その上にはレジュメとお茶が並べられていた。
「ざっと、説明させて頂きましたが、詳細は机の上のレジュメに纏めてあります。折を見て、目を通して頂けると有り難いです」
そう言うと、郷間は着席を促す。
「本当に素晴らしい企業理念ですね。しかし、海外への支援など、資金の調達は如何されているのでしょうか?」
部長…解っていて鋭い質問をしますね…
流石です……。
「はい、我々は旧財閥の流れを汲んでおり、その資産もさる事ながら、国からの補助も頂いております。この先、見学頂きますが、当社の成り立ち等が記載された資料館もございますので、後ほどゆっくり……」
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『始めるわよ』
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郷間が話し終わらないうちに、イアが俺に語りかける。
─― 突然響く警報。
『失礼。』そう言うと、郷間は慌てた様子でスマホを耳に当てる。
「……どうしてそんな事が!?……ああ、わかった。少し待っててくれ」
通話が終わると、俺達に向き直り、
「皆さん、申し訳ございません、少々システムトラブルがございまして、暫くここでお待ち頂けるでしょうか?」と問いかけてくる。
「勿論です、その間レジュメを拝見しておきますわ」
部長の言葉に安堵したのか、郷間は早足に部屋から出ていった。
「何が起こったんだろう?」優弥が呟く。
「部長!これってチャンスじゃね!?」
本田先輩の口角が上がる。
「ええ!行きましょう!やっぱり、遥と奏太君はもってるわね。」そう言うと、部長が立ち上がる。
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『扉を出て右に10メートル。非常階段から六階を目指しなさい。セキュリティは切っておいたから安心よ』
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そのイアの言葉のまま、俺は先頭に立ち皆を誘導する。
「ちょっ!奏太!?何でわかるのよ!」
「静かに。言っただろ、任せとけって」
──よし、ドアの鍵も解除されている。
「どうして?必要と思って準備してたのに…」如月部長は手に何やら機械の様な物を持っている。どうやら、解錠の機械のようだ。
「部長…何でそんな物騒な物を持ってるんですか?」優弥の問いに対し、如月部長は淡々と「ちょっと、こういった仕事の知り合いがいてね。」と返す。
この小さく整った部長の顔は、とてつもなく顔が広い…本当に何者なんだろう?
コンクリート剥き出しの非常階段を登る最中、六階フロアの扉の前で突然イアが『ちょっと待機して』そう言うと、扉をすり抜け姿を消した。
「皆、ちょっと待ってくれ、人の気配がする…」
その言葉に一同は驚きを隠せない様子を浮かべる。
「何でわかるんだ!?」本田先輩の言葉に、慌てて俺は、「すいません、人の気配が無いか調べた方がいいと思いまして…言い間違いです」と、返した。
人の気配が消えると共にイアが姿を表す。
『さあ、進んで』
扉を開けると、夥しい数のコンピュータールームが目に映った。ここが…目的地だ!
隣の遙はスマホを握りしめて真剣な眼差しのまま誰に向けてでなく呟く。
「あと少し…頑張らなくちゃ。」と。
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