第15話 報告会

 合宿2日目、部活としては今日が本番と云えるだろう。そう、各自のテーマ報告を1日かけて行うのだから。


 朝8時から3年生を皮切りに始まり、次いで2年生の発表が終わった頃には既に15時を回っていた。

 しかし、不思議と疲れは感じていない。

時間を忘れる程、先輩たちの研究内容は緻密かつ大胆に構成されており、その発想力と伺える地道な取り組みは、聞く者全ての心にに響くものだったから。

 真剣に取り組んだ事は、人の心を動かす力があるんだと…そう実感した。


 明日の潜入メンバーの発表は、もちろん『突然死』に関するものになった。

部長の発表では集められた膨大な資料と見解が織り混ざり、この国を乗っ取ろうとしている『首謀国』のあたりまでつけていたのは、流石と言えた。

 そして、あのサプリ…『ソウル』の製造元がエリクサー社であることまで突き止めており、『首謀国』と『特権階級』との間で密約が交わされている可能性まで言及していた。

 如月部長は本当に凄いと思う。

ただ、他のメンバーが発表するネタまで全て刈取った訳で…悪意の無い無慈悲な女神というフレーズが頭に浮かんだのは俺だけではない筈である。


 部長の発表後、本田先輩に至ってはその風貌に似合わず、真っ青になっていたのは、触れないでおこう……。


「緑にしては珍しい内容だったわね」

由紀が発表を終えた緑に向け、如何にも驚いた様子で話しかける。

「そうよね…たまには人に関わる研究をしても良いかなと思って…皆の『突然死』のテーマに影響されちゃったかな?」

 そう言い、緑はペロッっと少し舌を覗かせる仕草を見せた。

 緑の発表は『戦争を無くす為の感情制御』というテーマで、いつもの植物研究とはかけ離れていた。『愛という感情の抑制が争いを無くす』という、如何にも異議が起こりそうな結論だったが、人間心理のデータを基に構成された内容に、反論の余地を与える隙は無かった。


 でも、それが真実なら、人って悲しい生き物だな……。


 その後、由紀さんの『人類が地球の支配者になり得た所以ゆえん』という発表のあと、遙と優弥の発表が続いたが、発表内容は部長の内容の枠を出ないものだった。

 

 そして、最後に俺の番。

「すいません、皆さんが発表された内容の殆どが重複となります。まさか、部長が『ソウル』の製造元と突き止めていたとは…俺のとっておきだったんですが……」

 部長と視線が合い、ふふっという微笑が見える。

「これは俺独自の仮説ですが、エリクサーは『SS』で、使用者の脳波を使って精神力のようなもの…言い方は漠然となりますが、『魂』を抜き取り、それを『ソウル』というサプリにして販売しているのだと考えています」

 部員に『おおっ』というどよめきが走る。


「そして、最後に一つだけ……」

 これは暗に宣戦布告だ、解るか?イア。


「仕組まれた『突然死』を俺は止めます」

 そして、目の前に座って居る、ある人物に向けて言い放った。

「この国を、乗っ取らせるつもりはありませんからね」

 〜はぁ、ドキドキした… 俺、何調子乗っちゃったんだろう。 イアから言葉も無いし、気づいちゃいないみたいだけど、危ない、危ない……。


「皆、お疲れ様。本当に素晴らしかったわ。講評については、明日の朝ね、私達はエリクサー社に出向くから、豊田君が進めて頂戴ね」

 如月部長が立ち上がり、辺りを見回しながら話す。

「じゃあ、皆もお待ちかねかしら?」


『バーベキューだぁ!』部員の歓声が食堂に響いた。


 明日の朝から俺達はあの無機質な建物、エリクサー社に潜入する。

 今夜は羽目を外せないけど、楽しむぐらい良いよな。


「奏太、野菜も食べないとダメよ?」

 俺の手を引く遙は満遍の笑みを浮かべていた。

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