第21話 想い

 コツ…コツ…

と、足音を響かせ、緑は姿を現した。

 その場の全員は言葉を失い、ただ呆然と眺める事しか出来なかった。


「緑…何で…?」部長も驚きを隠せず、そのように言葉を絞り出すのが、精一杯の様子だ。


「佐々木くん…よくも、台無しにしてくれたわね…」緑は今まで見せたことの無い、憎悪の貼り付いた表情で話す。


 ……残念だけど、俺の考えは合っていたようだ。

 まず、緑に疑問を抱いたのは、1年だけで行ったあのファーストフード店での会話。

 部長は、遥の夢の話を部員に説明した際、イアの事を『夢の女』と話していた。

 だが、緑は『イア』という名前を口にしている。つまり、緑はイアの存在を知っていたんだ。

 更に、緑は遙のぬいぐるみ『熊五郎』を修理したと言っている。

 俺が触った時に左目が取れたのは、超常現象じゃ無い。男と女では、基礎体温に若干の差がある。きっと、俺が触った際にそうなる様、仕組んだのだと思う。

 イアの言葉に、信憑性を持たせるために。


「やっぱり…緑さんだったんだね。でも、どうしてイアに協力なんかしたんだ?」

 俺の問に対し、緑は淡々と語りだす。

「ねえ、佐々木くん、あなたは人類がこの星にとって、どれだけ迷惑な存在かわかっている? 近年起こる豪雨や暴風といった異常気象…これは全て私達人類が引き起こした事と自覚してる?」


 緑はゆっくり歩みを進め、気がつけば俺の目の前までやってきていた。


「無責任にも程があると思わない? 自分が生きている間は大丈夫なら、それでいいの?いつか、人…いいえ、あらゆる生物が住めなくなる環境になった時、私達の子孫に向かって『最善を尽くした』って胸を張って言える…?」


 緑はやさしい人だ。出会った日からその人柄は、すぐに伝わってきた。その優しさにイアはつけ込んだのだろう。 緑の言っている内容は納得出来るものだが、だからといって、人類を滅ぼすと云うのは行き過ぎている。


「AIの計算では二十年後、この星は大戦が起こるって…この国も例外じゃない。某国からの侵略もあながち嘘とは云えないの。気象の変化で食糧難や移住が起こり、その先で争いが起こる。今まで、他人事の様に現実に向き合おうとしなかった人類は、対処できる筈がない。内乱は世界規模に広がり、そして、大国は押してはならないボタンを押す…終末時計の針は戻らないとイアは言ったわ」


 緑は後ろ手にしていた腕を前に構える…

柄の長いハンマーを持っている!!

 そう思うやいなや、躊躇いもなく、緑はその腕を振り上げた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る