第5話 紫陽花の咲く頃には…
私が、あの喫茶店で澤村 あやめに出逢った事は奇跡だったのか?それとも、偶然だったのか?必然だったのか?それとも、神様のいたずらだったのか?悪魔のささやきだったのか?未だに理解出来ず不思議な気持ちであった。
しかし、あの時を思い出すと止めどなく涙が溢れて心が温かくなるのであった…
河合 優子(35)は結婚を秒読み前に、結婚が白紙になり、実家に閉じ籠って、5年の歳月が経過していた。
「優子…そろそろ、部屋を綺麗にして、たまには外に出てバイトでも?」
「お母さんも辛い気持ちは解っているけど宏さんが夢の為に、アメリカに行って、舞台俳優の道を目指したんでしょ?」
「解っているけど…背中を押さなければこんなに辛くならなかったなぁ…ってねぇ?」
「それに、宏さんがアメリカに行ってから、好きだったと日々、思うようになってどうしもなくなって…」
「だからって、部屋の中は踏み場のないゴミだらけにして良いわけないわぁ?それに、今の状態では、きっと逢ってもらえないわぁ?」
「そんな事はないわぁ…宏さんは私に惚れてたからねぇ?」
「そうは思わないわぁ…最後に連絡があってすでに3年よぉ!」
「連絡がなくなってから、食欲は増えてすでに、80キロじゃないのぉ!ジョギングと部屋の掃除ぐらいはしてねぇ。」
「解ったわよぉ。」
「お母さんも一緒に頑張るからねぇ。」
「解った…なら、一緒に部屋の掃除してもらっても良い?」
「もちろんよぉ!あなたが辛かった日々は知っているんだからねぇ?」
「ありがとう。」
私は、それから、部屋の掃除をして、近くのスーパーでアルバイトとして働き始めた。
すべては、新しい道の一歩を歩んだ矢先に…母が同窓会の帰りに交通事故にあってしまった…幸い、命には別状はなかったが…明日は始発で病院にお見舞いに行かなければならなくなった…
「あぁ…もう、交通事故に合うなんて…これからなのに…と、落ち込んでいたら、突然、連絡が入って来た。」
「誰かしら?この番号は知らないなぁ…」
「はい、河合です。」
「あぁ…お久しぶりです。宏だけど…」
「ちょっと、宏なの!」
「ごめんなぁ…連絡出来なくて…3年も経過してしまったけど…ごめんなぁ…」
「どうしたのぉ?」
「俺さぁ…実はアメリカにきて、やっとブロードウェイで舞台俳優の夢、実現したんだぁ!逢えないかなぁ?」
「もちろん、逢いましょう!おめでとう!自分の事のようにうれしいなぁ…でぇ、いつ頃?」
「今、長期公演中だから、来年の4月には逢えると思うんだぁ…でも、友達としてねぇ。」
「はぁ…?私を迎えに行くって…?」
「ごめんな…でもなぁ、やっと夢を掴んだばかりだから。まだ、まだ、なんだぁ…もちろん、一緒にいたいけどなぁ。
背中を押してくれたから、是非とも、日本公演を行うから、その姿を見てもらいたいんだぁ!
もちろん、この先は日本に戻って仕事はしたいけど…」
「ありがとう…それじゃ、日本公演がある時に逢いましょう。」
「ヨッシャ〜!待った甲斐があった!あいつのせいでこのお肉…痩せなきゃ…なぁ!そして、妊娠して、アメリカでも、日本でもいいやぁ。楽しみ。この際、デキ婚でもありねぇ。ブロードウェイはいくらもらえるのかしら〜?わくわく。」
「さてぇ…、明日はお母さんが入院している母親のお見舞いがあるから寝なきゃ…」
はぁ、うれしい事があったから、あんまり寝れなかったなぁ…さてぇ、久しぶりに早起きしたなぁ…今、何時かなぁ?4時かぁ…早いけど、支度しなきゃ…
さてぇ…あちゃ、着れそうな服がないなぁ…太り過ぎたなぁ…ズボンは無理だなぁ…スカートで行かなきゃ…でも、これでも、5キロは痩せたからお母さんのおかげだなぁ…感謝だなぁ…
よし、行こっと…
ふぅ、あちゃ…雨が降っているなぁ…
そう言えば、今日から6月なんだなぁ?
梅雨になったんだなぁ…でも、この雨は最高!
雨が振らなければ虹も出ないからなぁ!
今日は、虹がかかりますように…
それにしても、久しぶりだなぁ…こんなに早く起きて、5時30分に出たのは。
少し、お腹がすいたなあぁ…始発は確か、6時15分だから、駅前で朝食でも食べようかなぁ?
やっと、駅に着いたけど…何処かに、喫茶店はないかなぁ…
あれぇ、こんなところに喫茶店なんてあったかなぁ…確か、ここは、数日前に倒産したコンビニがあった場所だけど…不思議だなぁ…
「花言葉喫茶?」まぁ、良いかぁ…雨も強くなったし…
「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ?」
「はい。ところで、若いのに、こんなに早く家族のお手伝いかなぁ?偉いねぇ?」
「はぁ?」
「店長はいないのかなぁ?」
「はぁい?私が店長ですけど…」
「えぇ…?そんな事ないでしょ?どう見ても、中学生…いやぁ、小学生かと…」
「ちょっと、中学生はまだしも、小学生って!これでも、私は20歳は過ぎて後半ですけど…」
「そうなんだぁ…ビックリ!ところで、水とかおしぼりはないですか?」
「あぁ…ごめんなさい。今、お持ち致します。お水とおしぼりです。」
「ありがとう。」
「ちょっと、聞いてよぉ!私が、中学生ですてぇ…そうなのぉ、でねぇ、うれしくてお兄ちゃんに電話かけたのぉ!それに、小学生だって、もう、おかしくてぇ…笑っちゃうでしょ?」
「そうかぁ…でもなぁ…これで、何回目だぁ…たぶん、2週間に一度は聞いているけどなぁ…
「ちょっと、ひどいなぁ…女性は常に若く言われたいもの何です。女心が解っていないなぁ…」
「悪かった、悪かった…良かったなぁ…ところで、本当にこっちでお手伝いしてくれるのかぁ?」
すいません、すいません、すいません!ちょっと、いつまで、待たせるのぉ!
「あぁ…ごめんねぇ?又、後日、連絡するねぇ?」
「はい、お待たせ致しました。何か?」
「はぁい?大丈夫?まだ、メニューをもらっていないんですけど…」
「ありゃ、そうでしたか…もぅ、お客さんが私の事、誉めるから、うれしくて電話してました。」
「はぁ?誉めてないけど…寧ろ、けなしていたのに…なぁ…」
「はい…何か言いました?」
「いえいえ、すべて…素敵だなぁ…って」
「もう、やだぁ、お客さんたら…誉めても何も出ませんよぉ!」
「ところで、メニューはまだ、ですか?」
「いやぁ〜だぁ…忘れていました。ハイハイ、メニューですねぇ…今日は6月1日です。花言葉と花言葉の由来をお伝えします。まずは「アスチルベ」〜「恋の訪れ」「自由」です。花言葉の由来はごく小さな花が円錐状に集まり、ふんわりとした優しい印象をあたえるアスチルベ。花言葉の「恋の訪れ」はやがてつぼみが開き、ピンクや白のふわふわした花を咲かせる様子にちなむとも言われます。」
「はぁ?なるほど…」
「次に、「カスミソウ」ですが〜「清らかな心」「無邪気」「親切」「幸福」です。
花言葉の由来は花言葉の「清らかな心」は純白で奥ゆかしく、可憐な花姿に由来すると言われます。」
「へぇ、なるほどねぇ?」
「最後に「マトリカリア」ですが〜「鎮静」「集う喜び」です。
花言葉の由来ですが、花言葉の「鎮静」はこの植物が薬草として用いられてきたことにちなむと言われます。」
「なるほどなぁ…って、おいおい…だから、メニューだって…」
「はぁ?メニューですけど…」
「違う、違う、食べ物のメニューだって…」
「あぁ…なるほど、食べ物ですねぇ…最初から言って下さいよぉ!」
「はぁ?大丈夫?メニューと言ったら、食べ物や飲み物のメニューでしょ?」
「ここでは、違いますよぉ。ちなみに、食べ物と飲み物はトースト、サラダ、ベーコン、卵とコーヒーだけです。なお、ベーコンはハム、卵はスクランブルエッグに変更が可能になりました。今日からオプションだった、ベーコンと卵はサービスです。パチパチ。やったねぇ!」
「はぁ…なるほどねぇ?お嬢ちゃんには叶わないわぁ…こりゃ、今どきの娘だなぁ…怒れないじゃん。あの笑顔は怒りを沈めるなぁ…」
「ところで、花言葉は決まりました?」
「はい、今、決めますねぇ?ごめんねぇ。」
「いえいえ、大丈夫ですよぉ。」
「ところで、花言葉は何を意味しているのですか?」
「あれぇ、伝えていませんでしたか?花言葉をもとにして、これまでの人生において、これからの人生の中で逢っておかねばならない人に逢えるんですよぉ!そして、当時の思い出が蘇ります。ここでは、ここに入った段階で異空間です。ですから、若くなりますよぉ…ちょっと、鏡を見て下さい。」
「あれぇ、これが私?」
「そうですよぉ!」
「痩せている。綺麗だなぁ…」
「でしょ。これは、今、あなたが理想としている姿ですよぉ。」
「ところで、花言葉は選びましたか?」
「はい、カスミソウでお願い致します。」
「はい、かしこまりました。では、素敵な時間をお過ごし下さい。」
カラン、コロン
「あらぁ、優子ちゃんじゃないのぉ!元気だった…少し、ふくよかになったんじゃない?」
「えぇ…、おばあちゃん?もう、20年も前に亡くなったよねぇ?えぇ…何で、何で、何でなのぉ!あり得ない…パチン、いたぁ〜、これは、本当なのぉ!」
「もう、大丈夫かい?おばあちゃんだよぉ…アキばーちゃんだよぉ。」
「それにしても、ばーちゃんは残念だよぉ…あんなに清らかな心を持っていて、誰よりも無邪気で親切で自分の事より他人の幸福を考えていたのに…どうしたの?」
「私は変わっていないわぁ!」
「優ちゃん!おばあちゃんはちゃんと、これまでを見ていたわよぉ。あんたは、宏さんが一途に愛してくれたのに、自惚れていたでしょ。自分の結婚するタイミングが崩れたから、実家に戻って、部屋はゴミだらけ、仕事も辞めて、ぶらぶらとして、太っていったでしょ?違うかい。宏さんがその間に舞台俳優を目指して死にものぐらいにがむしゃらに頑張って来たのを一度でも見に行って上げたかい?どうなんだい!あんたは、宏さんに頼り過ぎたのよぉ。だから、5年前に彼は自信をなくしたのぉ…解っていたのぉ?あなたは、
結婚したらの話を宏さんに話をしたでしょ?一緒に人生を歩くのに?どうしてだい?」
「はぁ…今まで気付いてなかった…」
「あんたは、宏さんを傷つけたのよぉ…だから、アメリカに行って夢を追いかけたくなったのよぉ!でも、あんたみたいにわがままで、お金にしか執着しなかったあんたでも、最後に背中を押してくれた事に感謝していたのよぉ!だから、3年前、連絡を入れた事を覚えているかい?」
「はぁ…覚えてないなぁ…又、連絡すると思っていたからなぁ…」
「おばあちゃんは知っているわぁ。
優子、俺は今でも大好きです。こっちは正直、辛いけど必ず、夢を実現する。だから、今以上に強くなって、俺が逢いに行く。」ってねぇ?
「あぁ…忘れていた。」
「優子!本当にいい加減にしなさい!あんたが、今度は愛さないでどうするのぉ。宏さんは別れを伝えに来る事を伝えに来るのよぉ!あんたは、誰よりも宏さんの事が大好きなんでしょ?違うの?あんたは、誰より宏さんが大好きだったんじゃないかぁ?おばあちゃん、色々な事を言ってくれたじゃない?覚えていないかい?クラスのいじめられていた男の子をしっかりと叱った事や、一生懸命に頑張っている人を誰よりも応援していたでしょ!私はねぇ、そんな素敵な気持ちを持っている優子を誇りに感じていたんだよぉ…どうしちゃったんだい?」
「おばあちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい…私が馬鹿だった。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
「ほらぁ、泣かないのよぉ…まだまだ、間に合うんだから、しっかりと今の気持ちをぶつけてごらん?きっと、優子の事を大切にしてくれるからねぇ…ちゃんと、謝るんだよぉ。そして、今の姿を見せに行くんだよぉ…」
「解ってわぁ…紫陽花の咲く頃には逢いに行ってみる。もう、優子ったら、泣かないのぉ…」
「ほらぁ、涙を拭いて…」
「おばあちゃんも、ずっと見守っているからねぇ?」
「ありがとう、ありがとう。」
すいませんが…そろそろ料理が冷めてしまいますので…
「おばあちゃん、食べよう。」
「あらぁ、美味しいわねぇ?」
「本当に美味しいねぇ?」
「おばあちゃんと久しぶりに逢えたから、すごくおいしいなぁ…」
「そうかい、私も孫と食事が出来ておいしいよぉ。ありがとうねぇ。」
「ところで、おばあちゃんは向こうでおじいちゃんとは逢えたのぉ?」
「逢えたわよぉ…でもねぇ…最近は、私にひどい事をした事を後悔して、今では借りてきた猫になったわぁ…昔のように、私を大事にしてくれてるわぁ。私が来たら、土下座して、泣きながら謝ってきたから、悔しさも恨みも消えたわぁ…おもいきり殴ってやったわぁ…」
「すごいねぇ!」
「そりゃ、若い子に手を出して、ちゃぶ台はひっくり返すし、やりたい放題だったけど…おじいちゃんの前世の映像を見せられたら泣いたわぁ…実は私の勘違いだったのぉ…辛い事があっても、自分の殻に閉じこもっていたよぉ!私も支えていなかったと反省したわぁ。」
「へぇ、そうなんだぁ…」
「そうよぉ。だから、見えている部分と見えない部分をしっかりと話さなきゃだめよぉ。知らない事が多いからねぇ…」
「もう、泣かないのぉ…やっと、やっと、気付いたのねぇ…良かったわぁ。
それじゃ、優子、そろそろ行くよぉ。」
「ばーちゃん、ばーちゃん、行かないでよぉ…」
「ほらぁ、これ舐めて元気出すんだよぉ…」
「ばーちゃん…」
「ありがとうございました。何と、お礼を言って良いかぁ…ありがとうございました。貴重な時間を共有出来た事に感謝です。ありがとうございました。」
「いえいえ、これで、少しは顔を上げて頑張って下さい。先ほど、雨が止んで綺麗な虹が出ていますよぉ?出口はこちらです。ありがとうございました。ありがとうございました。」
「いやぁ、今回も素敵な出逢いを共有出来たなぁ。良かった、良かった、良かったなぁ…あれぇ、そう言えば、会計!忘れていた、お客さん、会計!!」
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