鏡花水月の花言葉喫茶〜澤村 あやめ

末吉 達也

第1話 桜の咲く頃には


私があの喫茶店で澤村 あやめに出逢ったのが奇跡だったのか?それとも、現実だったのか?偶然だったのか?必然だったのか?それとも、天使のいたずらだったのか悪魔のささやきだったのか?未だに不思議な感覚があり、解明出来ないが…

しかし、あの時を思い出すととめどもなく涙が溢れ温かな気持ちになるのであった。


中村 義雄(58)は通勤で使うこの道にいつの間にか、新しい喫茶店が出来ていた事に気が付いた。

そのドアは木目調でレトロな雰囲気があり、触りたくなる不思議なドアで看板には『花言葉喫茶』と書いてあった。

いつも、通る道にこんなドアがあるとは知らずに開けようと思ったら、携帯がなった。


「もしもし…はい、中村です。…イタァ!」

「どうしました?大丈夫ですか?」

「大丈夫だぁ。ところで朝早くから電話とは珍しいなぁ。」

「今日の会議が13時からに変更になりまして…伝え忘れておりましてメールを送ったのですが返信がなかったので…すいません。」

「あぁ~そうなんだ。ごめんなぁ。今、チェックしたよぉ。メールが来ていたみたいだけど…目を通していなかった。すまない。」

「頼みますよぉ。今は情報化時代ですから、ごまめにメールチェックはお願いしますよぉ。今日の会議の資料は昨夜、作成して、課長の机に置いておきましたので、目を通して置いて下さいよぉ。」

「あぁ、解ったよぉ。では、後ほど。」


ふとぉ、目線をドアに向けるとそのドアがなくなっていた。

『いたぁ、確かに喫茶店だったよなぁ。』と一人言を言ってみたが、周囲には誰もいない。

あまりに突然だった為、自分自身が寝ぼけているのか?はたまた、狐にでもつつまれたのかと不思議な気分になった…

帰り道、その道を通ってみたが、朝、見た喫茶店は見つからず、いつも通る道であった。



次の日の朝、昨日よりも、2時間近く、家を出て、事務仕事を片付ける為に早く家を出た。

そう、言えば、いつもなら寝ている時間だけど今、何時だぁ…

「3時50分かぁ…始発が4時30分だから、朝食は食べられるなぁ…」と考えながら、歩いていると昨日、見た見覚えのある木目調のレトロなドアがあった…「花言葉喫茶」

「まぁ、よくわからないけど…朝食でも食べるかぁ…」

「いらっしゃいませ?お一人ですか?」

「はい」

「こちらへどうぞ?」

「あの、この喫茶店は初めて見るけど…」

「そうなんですよぉ、今日からオープンしました。」

「そうなんだぁ。なるほど。」

「もしかしたら、私が最初のお客さんなのかなぁ…」

「そうなんですよぉ。もう、誰も入ってこないかぁ…心配でぇ。」

「そうなんだぁ。おめでとう。ところで、お嬢ちゃんは店番かなぁ?こんなに早い時間から家のお手伝いとは偉いねぇ…」

「ちょっと!失礼ですよぉ。お嬢ちゃんなんてぇ!私はここの店長ですよぉ!!もう!知らない…」

「えぇ?えぇ!!店長って、どう見ても、中学生ぐらいにしか見えないけどなぁ…あれ、どこに行ったのかなぁ…怒ったかなぁ…店長、店長!」


「そうなのぉ、今ねぇ、初めてのお客さんが来てねぇ…ちょっと、お兄ちゃん聞いているのぉ?」

「そっか、良かったなぁ。おめでとう!」

「ちょっと、それだけ?」

「あやめはすごいなぁ!お兄ちゃんの大切なあやめはできるって信じていたよぉ!おめでとう。」

「うん、ありがとう!」


「あのぉ、すいません、すいません、お嬢ちゃん、あぁ…店長いませんか?」


「あぁ…お客さん待たせていたから、切るねぇ?」

「あぁ…頑張れよぉ。」



「すいません、お待たせしました。」

「店長、何かあったのかなぁ?ごめんねぇ?怒らせちゃったかなぁ?」

「いえいえ、怒らせてはないですよぉ。こちらの方こそ、すいません、お客さんがお嬢ちゃん何て言うものだから、うれしくなって、お兄ちゃんに電話してました。てえへぇ。」

「あぁ…そうなんだぁ。笑顔がかわいいから怒れなくなったなぁ…」

「何か言いました?」

「あぁ…何も言ってないよぉ。ところで、おしぼりとか?お水は出ないのかなぁ?」

「あぁ…いけない…私ったら、今、お持ちしますねぇ。」

「はい、お待たせしました。ぺこりんっと。」

「あぁ…ありがとうねぇ。そう言えば、メニューはないのかなぁ?」

「はい、今、お持ち致します。こちらがメニューです。今日は4月1日ですねぇ?」

「あぁ…そう言えば、そうだったなぁ…」

「それでは、4月1日誕生花と花言葉の由来をお伝え致します。

まずは「サクラ」〜「精神の美」「優美な女性」です。

花言葉の由来〜花言葉の「精神の美」はアメリカ初代大統領ジョージ・ワシントン(1732〜1799)が子供の時に謝って父が大切にしていたサクラの木を切ってしまい、それを正直に告白したという話に由来します。

「優美な女性」の花言葉は、サクラのしとやかな美しさを女性にたとえたものです。」

「なるほどなぁ…」

「次に「マーガレット」〜「恋占い」、「真実の愛」、「faith(信頼感)」」です。

花言葉の由来〜「恋占い」の花言葉はマーガレットが「好き、嫌い、好き、嫌い…」と花びらを一枚ずつ散らしながら占う恋占いの花として、使われたことにちなみます。また、マーガレットがギリシア神話の女性の守護神アルテミスに捧げる花であったことから女性の求める最高の幸せとして、「真実の愛」の花言葉がつけられたといわれます。

の2種類から選ぶ事が出来ますが…」

「はぁ…はい?いきなり、誕生花と花言葉を言われて困惑するなぁ。それが、意味するのは?」

「あなたにとって今、逢いたい人と朝食を食べる事が出来ますが…」

「はぁ?このご時世にそんな事を言われても、あり得ないでしょ?まさか、信じるとでも?お嬢ちゃんと付き合うほど暇じゃないんだぁ!急いでいるんで早くしてもらえないですか?じゃ、よくわからないけど…サクラ」

「はい?」

「おい、聞き返すのか?」

「だから、サクラで…」

「でぇ、肝心の食事のメニューは?」

「ここのメニューはトーストとサラダと卵とハムとコーヒーだけです。卵はスクランブルエッグ又はゆで卵に、ハムはベーコンに変更が出来ます。」

「はい?それだけかぁ…なら、スクランブルエッグとベーコンに変更してもらえるかなぁ?」

「はい」

「それにしても、変なお店に来たなぁ…まぁ、あり得ない話だから気にしないで、朝食でも待つかなぁ…」


カラン、コロン〜。

「来たみたいですねぇ…」

「お久しぶりです。あなた?」

「おい、マジかぁ!ちょっと、待て、ちょっと待て!おまえは3年前に亡くなっただろう?美佐江かぁ…本当に美佐江なのか?俺は夢でも見ているのか?何でお前がいるんだぁ?」

「だから、あなたが選んだじゃないですか?」

「はぁ?おまえ何言っているんだぁ?頭がおかしいのかぁ?それとも、俺か?ちゃんと、説明してくれ、納得にいくように。」

「もう、貴方はいつも自分の事ばかりで、少しは私が来た理由が解りますかぁ?貴方は優美の女性を選んだでしょ?」

「はぁ?」

「メニューでサクラを選んだでしょ?」

「そうだけど…お前が来るかぁ?」

「あらぁ、納得がいかないご様子ねぇ?貴方は私を口説く為に、私に言っていたでしょ?おまえは優美な女性でサクラのようだ…一瞬で咲いて、儚く散りそうでほっとけないって…」

「そりゃ、そうは言ったけどなぁ…」

「もしかして、マーガレットを選んだら、おまえに知り合う前に、高校時代に大恋愛して、白血病で亡くなった笹村 美砂に逢えたのか?」

「おい、店員、そう、言う事かぁ…」

「まぁ、そうなりますねぇ…」

「チキショー、マジかぁ。」

「ちょっと、それはないんじゃない?」

「解っている、解っているけどなぁ…死ぬ間際には逢いたかったなぁ…ってなぁ…」

「それは、私にも解りますけど…私が笹村さんの気持ちを届ける為に託された事は知って欲しいわぁ。」

「ありがとう、ありがとう。」

「じゃ、伝えるわぁ。お久しぶりです。中村 義雄さん、当時はよしさんでしたねぇ?私を本気で愛してくれてありがとう。貴方の性格上、目の前の事にがむしゃらになってすぐに答えを出しますねぇ?私はそんな性格が男らしく、時には危険だと感じておりました。すぐに夢中になるけど、私の事を大事にする事によって、次に出逢った美佐江さんを傷つけてはないでしたかぁ?でも、美佐江さんは貴方が亡くなった私を深く愛していたからこそ、耐えてきたそうです。それに、義雄さんは口は悪いが浮気は一切しなかった事を誇りに感じているそうです。私も3年前に美佐江さんにお逢い致しました。私よりも大人で義雄さんにとって、美佐江さんは素敵な女性でした。美佐江さんは、貴方を支えてこれたのは、真剣に裏表がない、真っ直ぐな気持ちだったそうです。美佐江さんは、義雄さんの前では一切泣かなかったそうですねぇ?でも、義雄さんは誰よりも相手の気持ちが解る為に、さりげなく出掛けて、花を買ってきたり、コンビニで甘いお菓子を買ってきたり、手紙をくれた事を深く感謝していたみたいです。でも、私が亡くなった4月1日の夜は写真を見て泣く姿は耐えられなかったと聞いております。これからは私の為に泣かないで欲しいけど無理かなぁ?でも、私と美佐江さんを忘れないで頑張って下さい。こちらの世界では、美佐江さんには、夫婦になる事を許してもらっております。」

「もう、泣かないのぉ…」

「ありがとう…」

「私もありがとうねぇ?結婚してから、貴方には本当に感謝してます。毎月、私の為に食事や旅行に連れて行ってくれたり、辛い時に支えてくれましたねぇ?私は、本来の弱い部分を見せてくれたら、もっと寄り添う事が出来たのに、美砂さんの死後に強くなるという意志を貫き過ぎて本気に愛せなくなっていました。もちろん、本気で愛さなくても、愛されていた事やお互いになくてはならない空気のような存在で楽しかったから後悔はないわぁ。それに、私が亡くなってから、泣きながら食事したり、写真を見ては泣いている姿を見てはうれしい気持ちになりました。これからは、命日の時は泣いて、それ以外は毎日笑って過ごしてねぇ?せめて、桜の咲く頃には、私だけを思い出して欲しいなぁ?」

「解ったよぉ…桜の咲く頃にはきっと思い出して…涙が止まらないなぁ…何で何だろう…亡くなってから気付く何て馬鹿だなぁ…俺って…」

「だから、泣かないのぉ…」

「ありがとう。ありがとう…」

「あのぉ〜、そろそろ、お食事が冷めますので…どうぞ?」

「あなた、食べましょう?」

「いやぁ、久しぶりに美佐江との食事は美味しいなぁ…」

「そうねぇ?久しぶりにあなたと食事が出来てうれしいわぁ。でも、あなたを残して亡くなった事は今でも辛いわぁ…本当にごめんなさい。ごめんなさい。」

「美佐江、泣くなって!大丈夫だよぉ。お前が残してくれた料理のレシピや家事のやり方などを見ながら1人暮らしを頑張っているよぉ…でも、無性に美佐江に逢いたくなる時があるよぉ。俺は美佐江に何も恩返ししてないと今でも感じている。老後は世界一周のクルージングしたかったなぁ…一緒にオローラ見たかったよぉ。ちくしょ!涙が止まらないなぁ…」

「もう、泣かないで、頑張っている姿は見ていますよぉ。辛かったねぇ…頑張ったねぇ…でも、心配になるでしょ。」

「解っている。解っているけど…辛くてなぁ…」

「あなたは、これからがあります。私を忘れて、新しい恋をして下さい。それが、あなたの為です。約束出来ます?」

「出来るわけないよぉ。出来るかよぉ。」

「もう、頑固なんだから!あなたはこのままなら、孤独死するか、自殺でもするわぁ。そんな最後は見たくないのぉ!解ってちょうだい。」

「解ったよぉ。美佐江の為にも、努力してみるよぉ。」

「良かったわぁ。これで安心してあの世に行けるわぁ。」

「それじゃ、私は行きますよぉ。」

「待って、待って、待ってくれよぉ!」

「ほらぁ、しっかりと最後に抱き締めて…ありがとう。」

「それじゃ、あなた、さようなら…」

「美佐江、美佐江!」


「はい、お客様、そろそろ、始発が来ますよぉ…」

「あれぇ?何で寝ていたんだぁ…素敵な夢を見ていたなぁ…不思議だなぁ…ありがとう。」

「はい、行ってらっしゃい。」

バタン。


「あぁ、良かった。これで、少しは元気になれたかなぁ。よし、今日は気分が良いから、お兄ちゃんのお仕事のお手伝いしに行こう!又、清掃かなぁ…間違いないなぁ…でも、久しぶりにお兄ちゃんに逢えるなぁ…楽しみ。

そう言えば…何か忘れているなぁ…何だっけなぁ…はぁ、しまった、お客さん、会計!お会計!!」

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