第16話 紅葉が燃えるように紅く染まる頃には…

私が、あの喫茶店で澤村 あやめに出逢った事は奇跡なのか?それとも、偶然だったのか?必然だったのか?いや、天使の誘惑だったのか?悪魔のささやきだったのか?は未だに解明出来ず、不思議な気持ちになるのだった。

しかし、あの時を思い出すととめどなく涙が溢れ、心が温かな気持ちになり、前に進む事が出来るのだった。


 坂井 カズ(95)は在宅で1人暮らしをしていた。昔から、頑固で常に自分には厳しく、それ以上に他人には厳しい性格だった。子供たちも成長し、独立したが、すでに、子供は先に亡くなり、たまに孫が安否確認の為に来るが常に言う事は「また、お金を取りにきたかい?私は、まだ死にません。死ぬ訳にはいかないよぉ…。あんた達には遺産は残さない。」と言うのであった。

未だに、週に一度のゲートボールを楽しみ、せんべいをバリバリ食べている為、15歳以上離れた友人のトメさんからは神だと思われていた。

しかし、トメさんは78歳になり、杖から歩行器になり、週に一度のゲートボールを休むようになった。

最後に逢ったのは、もう、1年前になり、トメさんの安否確認をしに行くと娘さんから施設に入所した事を聞かされた。

寂しさを紛らわす為に駅前のスナックで昼カラオケに出かけるようになった。

最初は寂しさを紛らわす為に、何気なく2週間に一度行っていたが、最近では、週に2~3度のペースで通うようになり、30歳以上離れた友人もたくさん出来るようになった。

その後、スナックの店長とも仲良くなり、朝ご飯を一緒に食べるようになり、朝カラオケを5時半〜7時半まで楽しむようになった。

その為、最近では、18時には寝るようになり、4時半には起きて、散歩をしながら、朝カラオケを楽しむようになった。

しかし、相変わらずに頑固で世話好きな性格は変わらず、道端で寝ている酔っぱらいにも躊躇せずに「どうした?辛い事でもあったかい?」と声をかけるのだった。

酔っぱらった人も背筋を伸ばして、正座して「はい、ありがとうございました。」となるので、最近は酔っぱらいも少なくなったのが寂しくなったと感じるようになった。

その為、カズさんの説法を度々、聞きたくなる常連さんがわざと酔っぱらうようになり、カズさんの安否確認をするのだった。

もちろん、カズさんは自分の為にやっている事は知っており、最後は一緒になって抱き合って泣く姿が朝の光景になるのだった。

そんな姿をSNSでたまたま通りかかった大学生がツイタァー、フェイスブックなどであげるとたちまち街の人気者になった。

マスコミもこぞって『商店街に神現れる。』と取材を受けるようになった。

その後、商店街の広告塔になり、今では街のシンボルになり、カズさんの事を近所では知らない人がいなかった。

挙げ句の果てに『元気の源〜カズちゃん大福』がお土産ランキング1位となり、物産展を開けば長蛇の列になるのであった。

女子高生たちは、カズさんが泣いていると飴をあげたり、一緒にハグして写真を取るようになった。たまに、車椅子を持ってきて、散歩をしたりと最近では、カズさんを自分のばあちゃんのように接してくれ、楽しい日々を送っている。

突然、人気者になったが、最近はカズさんを守る親衛隊も出来るようになり、昔を思い出すのであった。


「私達はこの戦争で大きな犠牲を生みました!まだまだ、この戦争が正しいと思いますか?東京は焼け野はらになり、食べるのがやっとです。私も大切な人を亡くしました。戦争に負けて3ヶ月が経過し、過去を引きずる訳にはいきません。立ち上がりましょう!」と駅前で演説した事を思い出していた。

当時から背は低く、頑固な性格だったが可愛い笑顔のおかげもあり、カズさんが動けば人々が集まるのであった。

組織として、確立するとさりげなく姿を消す事も出来る為、誰もが神だと思うのだった。

そんな性格の為に、色々なところに顔がきくのもありがたい事で常に気付くと周囲に人が集まるのだったが、恋愛に関しては一途な性格もあり、戦争で戦死した5歳離れた和男さんのみを愛したのだった。


さてぇ、最近は忙しくなって、親衛隊も出来た事もあるから、なかなか1人で外出出来なかったから、こっそりと裏口から出てカラオケでも行こう。

流石に、5時前だから、大丈夫だなぁ…

それにしても、1ヶ月振りに早起きしたなぁ…お腹がすいたなぁ。

久しぶりに、喫茶店で朝食でも食べようかなぁ…よし、軽くパンでも食べよう。

あれぇ、あんなところに喫茶店あったかなぁ?昔は、戦争中はミルクセーキーをこそこそと飲んだなぁ…喫茶店ってお忍びで素敵だなぁ…「花言葉喫茶?」何か魅力的だなぁ…入ってみるかなぁ。

「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ?」

「はい。ところでお嬢さんは店番ですか?小さい可愛いお嬢ちゃんはまだ、寝ている時間ですけど…眠くないのかなぁ?お母さんはいるのかなぁ?お姉さんは心配だなぁ…」

「はい?私が店長ですよぉ。」

「まぁ、可愛い笑顔ねぇ…でも、嘘はいけないよぉ…嘘ついたら怖い、怖い、閻魔様に舌を抜かれるかぁ?針の山を歩かなくてはならないわよぉ?」

「もう、おばちゃん。本当にここの店長ですって!はい、身分証です。」

「もう、身分証って…学生手帳かなぁ?私立の女学校にもあったなぁ…懐かしいなぁ…」

「はいはい、えぇ!本当だぁ!1991年5月13日生まれ。今年で28歳?いや、あり得ないなぁ…どう考えても女学校に通っている12歳〜15歳ぐらいにしか見えないなぁ…不思議ねぇ…」

「ありがとうございます。おばちゃんは視力悪くないですか?」

「ちょっと、おばちゃんはひどいなぁ…せめて、お姉さんと呼んで欲しいなぁ…」

「えぇ、どう考えても、おばちゃんじゃないのぉ?まぁ、65歳ぐらいでしょ?」

「はぁ?私は、95歳になるわよぉ…」

「えぇ?95歳って?」

「ほらぁ?これならどうだい?」

「えぇ!あり得ないですけど…」

「そうかしら?20歳からは女性は年齢を取らない。綺麗になるだけだからって言われたからかなぁ…?」

「へぇ、そうなんだぁ。そんな素敵な事をさりげなく言う男性もいるんですねぇ?」

「そうですねぇ…そのおかげかなぁ…ところで、ここはお水とかおしぼりはないですか?」

「はい、ただいまお持ち致します。」

「はい、お姉さん、おしぼりとお水になります。」

「もう、何て、素敵なお嬢ちゃんなの?うれしくなるわぁ。」

「ありがとうございます。」

「それにしても、本当にお人形さんみたいに可愛いわねぇ?」


「そうなのぉ、もう、ビックリしちゃった。そうなのぉ、あり得る?綺麗なおばちゃんだと思ったら、95歳よぉ…歯も入れ歯じゃないし、足腰もしっかりとしてるのぉ!」

「へぇ、そうなんだ。すごい人もいるなぁ…」

「でしょ。それにねぇ…さっき、そのおばあちゃん、いや、お姉さんに素敵なお嬢ちゃんと誉められたのぉ…すごく嬉しくて、電話しちゃった。エヘェ。」

「そうかぁ。流石は、お兄ちゃんの妹だなぁ…でも、お客さん、待たせていないのか?」

「あぁ、いけない。すっかり、忘れていた。」

「だろうっと、思ったよぉ。今後はお仕事の最中は電話しないようにねぇ…」

「解っているんだけど…止められないかなぁ…」

「まぁ、そんな性格も嫌いじゃないけどなぁ…」

すいません、すいません、お嬢ちゃんいますか?

はい、ただいまお伺い致します。

「それじゃ、お客さん呼んでいるから電話切るねぇ…またねぇ。」

「それじゃ、頑張れよぉ…」


「はい、大変お待たせ致しました。

どうしましたか?」

「あのぉ、メニューとかはないですか?」

「はい、少々お待ち下さい。今日は11月15日です。誕生花は「ヒガンバナ」になります。花言葉は「悲しき思い出」「あきらめ」「独立」「情熱」です。

花言葉の由来ですが花言葉の「悲しき思い出」はヒガンバナが墓地などでよく見られる事に由来するといわれます。

花名の由来ですが和名の「彼岸花(ヒガンバナ)」は秋の彼岸の頃に開花することにちなみます。

また、毒のあるこの植物を食べた後には「彼岸(=死)」しかないということに由来するという説もあります。」

「なるほどねぇ…お嬢ちゃんは花言葉に詳しいですねぇ?」

「いえいえ、今日の誕生花が一つしかなくて申し訳ございません。いつもは後、2、3個はあるんですけど…選べなくてすいません。」

「ところで、食べ物や飲み物のメニューはないのかなぁ?」

「はぁ?ここはトーストとサラダと卵とハムとコーヒーだけです。卵はゆで卵又はスクランブルエッグ、ハムはベーコンに変更出来ますが…」

「なるほどねぇ…それなら食べ物や飲み物のメニューはいらないわねぇ?」

「私があんまり、メニューを覚えるのが苦手なものですいません。」

「ところで、先程のメニューの花言葉の意味するのは?」

「あぁ、お伝えしていなかったですねぇ?誕生花の花言葉が、意味する言葉を元にこれからの人生において出逢っておきたい人やあなたを忘れずに逢いたいと思っている人に逢えるんです。亡くなった人に限りますけど…」

「はぁ?このご時世に亡くなった人に逢えるわけないでしょ。それに思い出として胸に閉まっておきたいでしょ?」

「あれぇ、もしかして、高い壺や怪しいお札を売りつける霊感まがいにお金をまきあげるとでも思っているみたいですね?」

「だって、どう考えても怪しいですよぉ。亡くなった人に逢えるわけはないんですから?私は、オレオレ詐欺みたいな詐欺には引っ掛かりません。」

「なるほどねぇ…では、こちらを見ていて下さいねぇ…」

「はいはい…えぇ?どうなっているのぉ?ここは私が和男さんと初めてデートした喫茶店じゃないのぉ?和男さんが大学院に通っていて、私が大学生だった時に連れて行ってもらった場所よぉ…あのミルクセーキは美味しかったなぁ…確か、あの後に憲兵に和男さんが連行されたのだったなぁ…学徒出陣もあった年に海軍に入ったんだったなぁ…懐かしいなぁ…」

「はい、どうでした?こんな映像は見れますか?」

「ちょっと、もう少し見せてよぉ。」

「これはあなたの記憶を再現しただけですよぉ…あなたが一番、幸せな時期だったのでは?」

「そうよぉ。私にとっては和男さんと大学でこっそり逢うのが唯一の楽しみだったわぁ。和男さんと一緒に手をつなぎ愛を確かめあったり、幸せな時期だったわぁ。あの時、ミルクセーキを飲んで憲兵に捕まるまでは…あの後に拷問にあって和男さんは変わったわぁ。1週間後には結婚して欲しいって言われ、その翌月には海軍に入って、内緒で特攻隊に志願して私が20歳の時に亡くなったわぁ。すべてが解らなくなったわぁ。私は、何の為に急いで結婚して、女で1人で子供を育てなければならないのかぁ…ってねぇ…。でも、和男さんの遺書で前に進む事が出来たんです。」

「なるほどねぇ…そんな事があったのですか?ところで、花言葉の花は「ヒガンバナ」花言葉は「悲しき思い出」「あきらめ」「独立」「情熱」で大丈夫ですか?」

「はい、お願いします。」

「かしこまりました。素敵な時間をお過ごしください。」


カラン、コロン〜

「カズさん、お久しぶりです。何十年ぶりかなぁ…すごく、逢いたかったよぉ…相変わらずに綺麗なんだなぁ…変わってないなぁ。」

「何を言っているのぉ…私は、90歳を過ぎたおばあちゃんですよぉ。和男さんの方こそ、変わらないですねぇ?」

「そりゃ、亡くなった時から年はとってはいないなぁ。」

「カズさんもとても綺麗ですよぉ。ほらぁ、鏡を見てご覧?」

「えぇ!昔のままなんてぇ!びっくりしたわぁ。」

「カズさんの今の姿も見せてもらったけど…とても綺麗でしたよぉ。一緒に手をつないで歳を取れたら良かったのになぁ…ごめんなぁ。本当にごめんなぁ。私が、軍国主義の洗脳を受けたばかりに私は、変わってしまった。私が、カズさんを不幸にしてしまったよぉ…」

「和男さん、泣かないで下さい。私は、すごく嬉しかったんですよぉ。あなたの遺書を読んで泣きました。私がすごく愛されていた事に私は、1人で子供を育てる強い女になりました。ありがとうねぇ。」

「違うんだぁ!私は、遺書なんて書きたくなかった。死にたくなかった。一緒にいたかったんだよぉ。」

「解っていますよぉ。あなたの気持ちの本音の裏側は私は、理解してましたよぉ。あなたの遺書には不自然な箇所が多かったですから。今でもあなたの遺書を暗記してますよぉ。

「坂井 カズ様

私、坂井 和男は大日本帝国の軍人として、鬼畜米英の軍艦を沈め、本土防衛の要になる為に戦死致します。紅葉が燃えるように紅く染まる頃には私は、靖国神社で人柱として帰ってきます。天皇陛下万歳。」

あなたの文章ではなかったわぁ。

本当の遺書は私の鞄に縫ってあったわねぇ?

もっと早く、見つけていれば、恨む時間が少なかっのに…せめて、私の事を考えているなら一度目の無理心中をした際には出てきて欲しかったなぁ…

「坂井 カズ様

私は、あなたの笑顔を見ながら平和な日本で一緒に過ごしたかった。私は、軍人にはなりたくなかった。あの時、私は、軍人にならなければ恋人を戦地に看護士として連れて行くと言われた。私は、どんな手を使っても守りたかった。特攻隊に志願したのも、私は、志願しても未来ある大学院生を志願しても軍部の上層部が止める。『きっと大丈夫だと思った』からだった。しかし、現状は違っていた。『よくぞ、言ってくれた。誇りだぁ!愛国神だと持ち上げられた。』

その時点でも、『辞退します』と言えば良かったが…出来なかった。

そして、特攻隊で命を落とす事になってしまった。許して下さい。カズさんを誰よりも愛しています。ありがとう。私と結婚してくれてありがとう。来世は幸せになろう。」と書いてありましたねぇ?

私は、あなたが戦死した日から毎日、恨みました。

何で、私を1人にして、子供を抱えて生きなければならないのぉ…私は、本当の遺書が見つかる前は子供を連れて無理心中を2回しました。

しかし、2度目の無理心中をするときに、鞄に縫っている遺書を見つけたんですよぉ。

和彦が「お母ちゃん、生きたいよぉ…まだ、死にたくないよぉ…って」鞄を上下に揺さぶって、鞄が破けたら、出てきましたねぇ…それも、お金と一緒に…私は、その場で崩れ落ちて、息子と一緒に泣きました。

「ごめんなぁ…カズさん、1回目の時は出るのが…遅かったんだぁ…意識がなくなってこら、手を握っていたんです。助けて下さい。カズを助けて…って、幽霊になって声を出せない自分を恨みました。手の温もりも感じず手を置くことが精一杯だったんだぁ…」

「もう、大丈夫よぉ…泣かないで…私は、貴方の本当の遺書を見つけてからは貴方だけしか愛していませんよぉ。」

「ありがとう、ありがとう、カズさんありがとう。」

あのぉ、そろそろ、お食事が冷めますので、どうぞ…?

「カズさん食べましょう?」

「和男さん、美味しいねぇ…」

「もう、どうしたのぉ…泣かないで…」

「こんなに美味しい食事は久しぶりでねぇ…お粥がご馳走だったから…涙が溢れてしまったよぉ。それに、大好きだったカズさんがいるんだから…泣かないで食べれないよぉ…」

「もう、和男さんたら…あなたたち、軍人さんのおかげで平和になりましたよぉ。今まで、日本が負けて責任を背負ってきたんでしょ?もう、良いのよぉ。自分を解放して…私も来世でも、一緒になりますよぉ。」

「ありがとう。私だけではなく、戦争で負けた事に軍人はみんな、責任を背負って死にました。成仏出来ない仲間もまだ、います。だからこそ、今のカズさんの言葉で成仏出来そうです。でも、カズさんを一人には出来ないよぉ…」

「大丈夫よぉ…私も、和男さんに出逢う事が出来たから、悔いなくそちらに行けそうです。こちらこそ、ありがとうねぇ。ありがとうねぇ…」

「カズさん、泣かないでください。」

最後に、お別れのキスだぁ…

「和男さんたら…ありがとう。」

「カズ、そろそろ行きますねぇ…紅葉が燃えるように紅く染まる頃には一緒に入れたら嬉しいです。」

「ありがとう。その頃には…」



「ありがとうございました。何とお礼をお伝えすれば…良いのかぁ…本当にありがとうございました。」

「いえいえ、この年齢まで若く保つ事が出来たのも、愛があったから何ですねぇ?愛の力は偉大ですねぇ?こちらこそ、素敵な出逢いを共有出来てうれしかったです。ありがとうございます。お出口はこちらになります。」


「はぁ…切なかったなぁ…好きな人が一緒に居ることが出来なかった…戦争って…誰が幸せだったんだろう…考えさせられたなぁ。でも、私もこの時代に生まれていたら、戦争に加担したんだろうなぁ…ふぅ…辛いなぁ…あれぇ…そう言えば、何か忘れているよねぇ?何だっけなぁ…あぁ、しまった会計!お姉さん、会計…会計!!」


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