第20話 あの日を忘れない為に…

私があの喫茶店で澤村 あやめに出逢ったのは奇跡だったのか?それとも、必然だったのか?偶然だったのか?

いやいや、神様の奇跡だったのか?悪魔の誘惑だったのか?天使のささやきだったのか?

いまだに、理解に苦しみ、不思議な感覚があるのだった。

しかし、あの時を思い出すと止めどなく涙が溢れて、心が温かく一歩、前進出来るのだった。


 今井 優子(20)は短大を春に卒業し、保母さんとして活躍する事を夢みて、早く春になることを考えていた。

明日は、懐かしい友人に成人式に逢うことを楽しみにしていた。


「ふぅ…あと、もう少しよぉ…のりちゃん待ってて!きっと、あなたを助ける事が出来るから…屋上からダイブしないでよぉ!待っててねぇ…よし、もう少しで屋上だぁ!後、5段、4段、3段、その扉の向こうに小学校から仲の良かったのりちゃんが…」

「落ちたぞぉ!」

「キャー」

「マジかぁ…ありゃ、死ぬなぁ…」

「ヒュー〜ガサァ、バリバリ、ドスン…」

「えぇ!どうして、どうして…間違いよねぇ?」

「おい!屋上から落ちたぞぉ!」

「うわぁ!こりゃ、ダメだなぁ…」

「おまえたち、下がっていろ!早く、救急車を呼べ!」

「なんで、なんでなのぉ!」

私が数分でも早く駆けつていたら…私が…私が…「もう、いやぁ…、神様、助けて!」


はぁ、夢かぁ…!

すごい、汗…シャワーを浴びて、成人式に行かなきゃ…


よりによって、成人式の朝に…

中学の同級生にあっても、あの時の事は思い出さないんだろうし、きっと忘れてはいないとは思うけど…たぶん、口にはしないだろうなぁ…

私は、のりちゃんとはクラスが違ってしまって交流もなくなったけど…家も近所で仲が良かったのになぁ……中学2年から一緒に通学しなくなったなぁ…そう言えば、のりちゃんは一人で通学していたなぁ…何度か、一緒に通学しようと誘ったけど断られたなぁ…後になって気付くと急に仲良くなった友人も裏でいじめていたとはショックだったなぁ…私も、急に友達が出来たと思ったけど…いじめグループの戦略にまんまと引っ掛かっていたとは…

それにしても、気付いて上げられたのになぁ…


確か、自殺する一週間前だったなぁ…

たまたま、進路指導の面談の帰り道に偶然逢ったんだったなぁ…

「お久しぶり、のりちゃん、元気?今日は進路指導の面談で残ってたんだぁ…もう、最悪…今のままでは、目標としている、女子高無理だって…」

「そうなんだぁ…、優子は頭が良いから、大丈夫だよぉ!きっと、夢が叶うからねぇ!」

「ありがとう。でも、のりちゃんの方が頭が良いじゃない?一緒の高校に行けたら良いんだけどなぁ…」

「私は、無理だなぁ…私立は無理なんだぁ…最近、父親がリストラにあってねぇ…」

「そっか…」

「うちもお金がないからなぁ…でも、母親が出た私立高校だから…入れたいみたいらしいけど…でもなぁ…昔みたいにのりちゃんと学校に行きたいなぁ…」

「ありがとう。でも、父親のリストラが原因で両親が喧嘩したりで家庭環境が悪いしクラスにとけ込めなくて…」

「えぇ?初めて、聞いたよぉ…のりちゃんはクラスでは、クラス委員でしょ?それに、成績もトップだと聞いたけど…」

「そんなのデマだよぉ…クラス委員は本当だけど…あぁ…ごめんねぇ。急いでいるからぁ…」

「あぁ…そうなんだぁ…又、連絡してねぇ?」

「うん、わかった…」


その後、1週間後に、「もう、だめみたい…学校の屋上に来て…」と留守電が入っていたなぁ…

のりちゃんの家に行くと朝から酔っ払った親父がいて…母親も綺麗に化粧していたなぁ…

「のりちゃんは何処にいますか?」と尋ねると…

あれほど、優しかった母親から「のり?知らないねぇ…どうせ、また夜中に公園にでも行って寝てるだろうけど…」と言われてしまった。

すぐに、学校の屋上に行ったが…まさか、あの時が最後になるとは…


でも、高校、短大の同級生がいるから楽しみだなぁ…そろそろ、振袖をきて成人式に行かなきゃなぁ…

それにしても、待ち合わせは7時だったけど…来ないなぁ…

あれぇ、メールだぁ…「ごめんねぇ…寝坊しちゃった。急いで行くけど…8時にはつくねぇ…」

「もう、玲香ったら…相変わらずの遅刻ぐせはなおらないなぁ…」

「まぁ、いいかぁ…たまには、朝食でも食べて待つかなぁ…」

「あれぇ、あんなところに喫茶店なんてあったかなぁ…コンビニだったような…まぁ、いいかぁ…お腹もすいているから…「花言葉喫茶?」面白そう…入ってみよっと…」

「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ?」

「はぁい?えぇ?朝早くから、お嬢ちゃんが一人で店番?お母さんとか店長はいないのかなぁ?」

「はい?私が店長ですけど…」

「ちょっと、そんなみえみえの嘘はいけないなぁ…」

「ちょっと、さっきから、何を言っているんですか?私が店長ですよぉ!」

「もう、怒った顔もかわいいけど…すいません、店長いませんか?」

「もう、めんどくさいなぁ…はい、身分証です。」

「はい、はい、学生証ねぇ…って、えぇ!

本当だぁ!1991年5月13日生まれ…って事は私よりも7歳も上ですねぇ…すいませんでした。」

「もう、解れば良いけど…それにしても、今日は成人式じゃないでしょ?」

「本当は11日だったんですけど…大雪で交通マヒで急遽、15日になったんです。」

「あぁ…そう言えば、そうだったわねぇ?」

「それにしても、成人式かぁ…うらやましいなぁ…若いって…」

「まぁ、確かに若いですけど…寧ろ、あなたの方がうらやましいなぁ…」

「若くして、喫茶店の店長ですよねぇ?」

「まぁ、そうだけど…趣味みたいなものよぉ…」

「ところで、ここは、お水とかおしぼりはないですか?」

「あぁ…ごめんなさい。今、お持ちしますねぇ。」

「ありがとうございます。」


「お兄ちゃん、そうなのよぉ。私が、お嬢ちゃんですてぇ?あり得る?可愛いって…もう、嬉しくて電話しちゃった。」

「そっか、流石は我が妹だなぁ…可愛いもんなぁ!」

「でしょ!」

「そうそう、あやめ、先月のお客さんの過去を変えたのがこっちで問題になっているんだよぉ…この店も閉鎖になるかも知れないぞぉ。過去を変える事や寿命を伸ばすのは駄目だとお兄ちゃん言っておいたけど…今回で2回目だから次はないみたいだぞぉ…」

「解っていますよぉ。お兄ちゃんには迷惑かけてごめんねぇ…」

「いやいや、兄ちゃんは大好きなあやめの為なら大丈夫だよぉ。寧ろ、あやめが正しい選択をしたと思っているよぉ。」

「ありがとう。」


「すいません、すいません、かわいいお嬢ちゃん店長のお姉さん?」


「ごめんねぇ、お客さん待たせているから電話切るねぇ…」

「じゃ、又、電話待っているなぁ。こっちからも連絡するなぁ…元気でなぁ…」


「はい、お待たせしました。何か?」

「ちょっと、冗談でしょ?ここは注文を取らないのぉ!メニューとかはないのぉ?」

「あぁ…ごめんなさい。すっかり、忘れていました。エヘェ。」

「ちょっと、かわいいじゃない…これではこれ以上怒れないわぁ…」

「はい、お待たせしました。今日は1月15日です。誕生花と花言葉を発表しますねぇ。

「オンシジューム」「可憐」「一緒に踊って」です。

花言葉の由来〜花言葉の「一緒に踊って」は英名の「Dancing lady orchid」(踊る女性のラン)」にちなみます。

「可憐」の花言葉は、かわいいチョウのような小花をたくさんつけることに由来するといわれます。

花名の由来〜属名の学名「Oncidium(オンシジューム)」は、ギリシア語の「Onkos(とげ・こぶ)」を語源とし、唇弁(ラン科植物にみられる昆虫が着地しやすいように変形した花びら)の基部にこぶ状の隆起があることに由来します。

大きな唇弁をもつ花姿がドレスを広げて優雅に踊る女性のように見えるので、英語では「Dancing lady orchid(踊る女性のラン)」とも呼ばれています。今日は1種類しかなくてごめんなさいねぇ…」

「なるほどねぇ…ダンシング レディ かぁ…って、食べ物や飲み物のメニューはないのぉ?」

「はぁ?ここは、トーストとサラダ、ハムと卵、コーヒーだけですよぉ。おっと、今月からオレンジジュースを追加しました。ハムはベーコン、卵はゆで玉子又はスクランブルエッグに変更が可能です。」

「あぁ…なるほどねぇ…それなら、メニューは確かにいらないなぁ…それじゃ、オレンジジュースとベーコンとスクランブルエッグでお願い致します。」

「はい、かしこまりました。ところで、花言葉は「オンシジューム」「可憐」「一緒に踊って」で大丈夫ですか?」

「はぁ、花言葉にはどんな意味があるんですか?」

「あれぇ、お伝えしませんでしたか?誕生日花と花言葉を元にこれからの人生において、出逢っておかなければならない人、あなたに逢いたかったのに逢わずに死んでいった人に逢えるんです。もちろん、亡くなった人に限りますが…」

「はぁ?あり得ないでしょ?このご時世に亡くなった人に逢えるって、馬鹿馬鹿しいわぁ!神様が奇跡を起こさないかぁ、又は幽霊に逢えるとでも?もしかしたら、高い壺や水晶でも売りつけるつもり?怖いわぁ…」

「ちょっと、そんな事はしませんよぉ。もしかしたら、信じてません?」

「そりゃ、信じる方がおかしいでしょ?」

「なら、この窓を見ていて下さい。はい、はい、こうですか?って、ちょっと、ちょっと、なんで、競馬場に来ているのぉ!それも、えぇ?2019年有馬記念って…まだ、今年が始まったばかりじゃない…のぉ!はい、一斉にスタートしました。おっと…出遅れたかぁ…」

「はい、ここまで…これ以上はお見せ出来ませんけど…未来を変えると今度こそ私が叱られますからねぇ…ふぅ…危ない」

「ちょっと、すごいリアルだけど…2018年のところだけ変えただけでしょ…騙されませんよぉ。危なく引っ掛かかるところでした。残念でした。」

「えぇ?信じてないのぉ?なら、これならどうかしら?」

「えぇ?壁がなくなって…ちょっと、ちょっと、どこまで上がるのぉ!地球がどんどん小さくなっているけど…」

「はい、それでは、バンジージャンプですよぉ!」

「ちょっと、ちょっと、やめてよぉ…綱もないから、バンジージャンプというより、自殺じゃないのぉ!キャーぁ!」

「はい、お疲れ様様でした。お客さん、ちょっと、大丈夫?」

「…」

「ありゃ、気絶しちゃった…お客さん、お客さん、もう、しょがないなぁ…花の香りよぉ…」

「う〜ん、良い香りだなぁ…私を連れてって…はぁ!夢かぁ…」

「あぁ…良かった…気がついた?」

「あれぇ、ここは?」

「もう、やだぁ、喫茶店ですよぉ。」

「どう、さっきまで気絶していたけど又、無重力バンジーやってみる?スリルあったでしょ?どう、信じた?」

「はい、あんなに死ぬ思いはまっぴらごめんですよぉ。それにしても、ここは何処なんですか?」

「ここはあの世と現世の丁度、中間点ですよぉ。まぁ、異空間でも、言っておくわぁ。未来も過去も行きたいところは何処にでもいけるわぁ。とはいえ、未来や過去は変えられないけど…でも、タイムトラベラーとして、写真に写った時は大変だったなぁ…あぁ…それと、年齢は27歳だけど…老けないんだぁ…いつまでも、綺麗なまんまよぉ。」

「そうなんだぁ…だからかぁ…どうりで若いと思ったわぁ。」

「では、「オンシジューム」「可憐」「一緒に踊って」で大丈夫ですか?」

「はい、お願い致します。」

「それでは、素敵な時間をお過ごし下さい。」


カラン、コロン〜

「誰が来たのかしら?おばあちゃんかなぁ?それとも…」

「えぇ?のりちゃん?高村 紀香じゃないのぉ!生きていたのぉ?」

「お久しぶりねぇ…大きくなったねぇ…優子」

「私は亡くなっているわよぉ。ただ、一言、謝りたくてねぇ…」

「何を言っているのぉ!私の方こそ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…親友が傷ついていたのに、手を差しのべる事ができなくて…」

「もう、優子泣かないで…私の方が変な正義感を持って先の事を考えなかったのが悪いのよぉ…」

「どう言う事?」

「あれぇ、知らなかった?」

「私はクラスの中に金持ちの船越 こずえがカンニングして、万引きしているのを担任に伝えたのがきっかけだったのぉ!まさか、担任とできているとは知らずに…そこから、いじめにあって、お金を使って、父親を痴漢の冤罪にして、リストラになり、職安で声をかけられて近くの家具屋の店長になるけど負債を抱えて借金だけが残るし、それを返す為に母親は昼夜ともに働き、突然、知らない男たちに父親の前で母親が強姦されてあげくのはてにはヤクザの愛人になり、父親はアル中になるし…そして、気がついたら、友人を守る為に私は屋上から飛び降りていたわぁ。でも、あなたを守れて良かったわぁ…私は危なく友人を売るところだったから…」

「えぇ?どうして…「私は、屋上に来て…」の留守番電話は優子を誘き出す為だったから…さすがに断ったけど断る事が出来なくて、死ぬつもりはなかったけど…飛び降りたわぁ。」

「はぁ…馬鹿じゃないのぉ!飛び降りたら、死ぬに決まっているじゃないのぉ!それに、何でそうなる前に伝えなかったのよぉ!

一緒に踊っていた可憐なあの頃のように、何でも話をしてくれでば良かったじゃないのぉ!」

「そうだねぇ…」

あのぉ、そろそろ、料理が冷めますから…どうぞ?

「優子、美味しいねぇ…」

「本当だねぇ…こんなに美味しい料理は久しぶりだなぁ…ありがとうねぇ。最後に私を守る為に走って来てくれて…」

「あたり前でしょ!親友だったから…でも…私はずっと、守る事が出来なくて…苦しんでいたんだからねぇ…」

「ごめんねぇ…私もそこまで考えていなくて…ごめんなさい、ごめんなさい、本当にごめんなさい…」

「のりちゃん…涙を拭いて、私は船越 こずえを許さないんだか…」

「優子、大丈夫よぉ…あの後、母親が灯油を被って、船越宅で自殺をはかって一家は死んだわぁ…ついでに、母親もねぇ…」

「えぇ?いつの事?」

「あれぇ、それも知らなかったのぉ…3年も前の事よぉ…たまたま、遺品を整理したら私の鞄から遺書が出て来て…はじめて真相が解ったみたい…」

「そうだったんだぁ。」

「あぁ…そろそろ、行かなきゃ…成人式おめでとう!あの日を忘れない為に、成人式に参加してから旅立つねぇ…写真だけにはおさまるから、現像したらビックリするねぇ。」

「ちょっと、事前に話さないでよぉ…」

「冗談よぉ。でも、あの日を忘れない為に、記憶として、残すから、みんなで墓参りには来てねぇ…」

「それをしなかったら呪い殺すからねぇ…」


「ありがとうございました。最後に真相が解ってほっとしました。もちろん、友人を死なせたのは事実ですけど…新しく一歩を踏み出せそうです。ありがとうございました。」

「いえいえ、私の方こそ、素敵なお話を聞けて良かったです。きっと、友人も最後に思いを伝える事が出来て良かったと思いますよぉ。ありがとうございました。出口はこちらです。」


「ふぅ、まさか、そんな事があったとはなぁ…小さなきっかけが二人の友情を台無しにして、なおかつ、家族を失うとは許せないなぁ…それにしても、その担任はどうなったのかしら?許せないわぁ!見つけしだいこの苦痛をあじあわせなきゃ!女を甘くみた罪は怖いんだからねぇ…って思うけど…それは、報告書に記載しておけば良いかぁ…ところで何か忘れているようなぁ…はぁ!しまった会計!お客さん、会計!!」



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