第19話 初日の出が出る頃には…
私があの喫茶店で澤村 あやめに出逢った事は奇跡なのか?それとも、必然だったのか?偶然だったのか?
いやいや、天使の誘惑だったのか?悪魔のささやきだったのか?
私は、未だに不思議な感覚があり、理解に苦しむのだった。
しかし、あの時を思い出すと止めどなく涙が溢れ、心の中が温かな気持ちになり、一歩前進する事が出来るのだった。
山田 茜(42)は22年前に初日の出を見に車でドライブに行き、カーブで曲がり損ねてガードレールにぶつかり、脊髄を損傷してから車椅子の生活を余儀なくされてしまった。
当時、付き合っていた彼氏はシルビアを乗っており、ドリフトやスピードを出して山をおりるのが趣味だった。
というよりも、私がスピードを出す事を煽ってしまい真面目な性格を変貌させてしまったのかも知れない。
当時、私は、専門学校を卒業してもイベントプランニングという馴染みのない学科の為に就職活動もうまくいかずにフリーターをしながらキャバクラで働いていた。
たまたま、キャバクラに遊びに来た大学生の中に加藤 昌義(20)がおり、一方的に好きになり、告白された。
真面目な性格の為に私の為に、車の免許を取り、髪の毛を長くしたり、服装を派手にさせて、車の中ではノリの良い曲を流すようにした。
車の免許を取り、車の購入を考えていると相談を受けると「やっぱり、黒のスポーツカーかなぁ?」と伝えるとシルビアを購入した。
彼の両親に初めて会った時には、彼の両親からは「家の昌義とは逢わないで欲しい。」と言われたので、別れを伝えたが、彼氏は私の足にしがみつき、別れないで欲しいと懇願されてしまった。
その為に、私が連絡を入れると直ぐに車で自宅まで来るようになった。
親は深夜に車でドライブする事に反対しており、当時の私は親とは仲が悪く疎遠だった為に反対されでばされるほど、「うるせぇ!あぁ、イライラする。今日も飛ばして!」と煽っていたのかも知れない。
そして、22年前に交通事故にあい、彼氏は亡くなり、私は一命はつながったものの脊髄を損傷して車椅子の生活になってしまった。
彼の両親からは「この悪魔、私達の昌義を返して…と泣きじゃくり、罵声を浴びせられてしまった。あなたに逢わなければあの子は真面目なままだったのに…」と私の両親もそれに対して「貴方の息子が言い寄ってこなければ茜は車椅子の生活にはならなかった。どうしてくれる?」とお互いに罵声を浴びせるのだった。
事故があってから2年間程は損害賠償などで顔を合わせていたが…保険が下りると連絡もなくなってしまった。
その後、私は現状を受け入れる事が出来ずに何度か自殺を考えるようになり、ある日、睡眠薬を大量に服用し救急車で運ばれると、今度は母親の精神がおかしくなっていった。
私の姿をみると母親は「私が悪いのぉ!私があの子の足を動かなくしたのぉ!」っと私の姿を見る為に号泣し父親にあたるようになった。
私と母親は精神病院に2年程入院し、退院すると母親は以前のような姿をみせる事がなくなった。
私の方は入院後に、リハビリや心理カウンセラーの診察を3年程受けた後に28歳で障害者を受け入れる施設で自立の為の訓練を行い、30歳になって現在は製菓工場で勤務している。
12年のベテラン社員として、一つのラインを担当するまでに回復するようになった。
長い年月を経過したが、最近では、障害者年金がおかげで一人暮らしを始め、両親と旅行に行けるようになった。
「ふぅ、久しぶりの夜勤は疲れるなぁ…とはいえ、障害者なので6時間だけだから助かるなぁ…でも、お腹が空いたなぁ…朝食でも食べたくなったなぁ…」
「あれぇ、こんなところに、喫茶店かぁ…それも、駐車場もあるとはついているなぁ…「花言葉喫茶」ねぇ…素敵な名前だなぁ…入ってみよう。
「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ?」
「ありがとうございます。」
「それにしても、障害者や高齢者に配慮したお店で助かりました。」
「いえいえ、最近ではバリアフリーに配慮しないとならないご時世になりましたからねぇ?」
「それにしても、お嬢ちゃんが大人になる頃には団塊世代が65歳以上になるから、大変になるわねぇ?最近では、中学生も福祉を勉強するみたいだけど…」
「はぁ、なるほどねぇ…って、ちょっと、ちょっと、私は中学生ではないですよぉ!」
「えぇ?冗談でしょ?中学生にしか見えないけど…」
「私はここの店長ですよぉ!」
「ちょっと、それはいくら何でも嘘でしょ?」
「もう!本当に信用されないなぁ…はい!身分証ですよぉ。」
「はい、はい、見ますよぉ。どれ、どれ、って、本当だぁ!1991年5月13日生まれ!って、今年が2018年になるから…27歳!」
「ちょっと、お客さん、今年は2019年の1月1日ですよぉ!2018年は終わってますよぉ!」
「あぁ…そうだった、夜勤だったから、すっかり忘れてた…そう言えば、平成、最後の紅白歌合戦見忘れたなぁ…録画しているから見なくちゃな…」
「そう言えば、私も元旦からお店開けるとはねぇ…大抵は初日の出を見に行くんでしょうが…」
「そうですねぇ…でも、最近は外出しない人も多くなったみたいですよぉ。」
「そうなんだぁ…でも、元旦ぐらいはゆっくりしたかったなった。」
「あぁ…ところで、お水とかおしぼりはありませんか?」
「あぁ…ごめんなさい。今、お持ち致しますねぇ。」
「はい、お水とおしぼりです。」
「ありがとうございます。」
「それにしても、若いって良いですねぇ?私の身体がこうなって、20年近くだから、若い人をみると元気になるんです。私が出来なかった事を存分に楽しんで欲しいなぁ…ってねぇ。」
「そうなんですか?何か申し訳ないように感じてしまいますよぉ。私は若さに怠けてますねぇ?これといって、やりたい事がなくて喫茶店をしているだけですから…」
「でも、素敵ですよぉ。私もこんな素敵なお店を経営したいですよぉ…私は、昔、イベントプランニングを勉強して、お店に素人さんたちを呼んでライブなどを見せて楽しい空間を作りたかったんですよぉ!ハリウッドみたいな感じかなぁ…」
「なるほどねぇ…」
「でも、この足ではねぇ…ところで、メニューはありませんか?」
「はい、少々お待ち下さい。」
「今日は1月1日ですねぇ?誕生花と花言葉をお伝え致します。
まずは「フクジュソウ」「幸せを描く」「永久の幸福」「悲しき思い出」です。
西洋の花言葉〜「Amuradonis」(フクジュソウ全般)「sorrowful remembrance」(悲しき思い出)です。
花言葉の由来〜花言葉の「幸せを招く」「永久の幸福」は、古くから縁起のよい花とされてきたことに由来します。又、「悲しき思い出」の花言葉は美少年アドニスの伝説にちなみます。」
「なるほどねぇ…フクジュソウにはそんな花言葉があったんですねぇ?」
「次に、「スノードロップ」です。「希望」「慰め」の花言葉があります。
西洋の花言葉〜「Snow drop」(スノードロップ全般) 「hope(希望)」「consolation(慰め)です。
花言葉の由来〜花言葉の「希望」「慰め」は天使がアダムとイブを慰めるため、舞い降ちる雪をスノードロップに変えたという言い伝えに由来するといわれます。」
「なるほどねぇ…素敵ですねぇ!希望かぁ…希望があればいいけど…この身体では生きるのが精一杯だなぁ…ところで、食べ物や飲み物のメニューはありませんか?」
「はぁ?ここはトースト、ハム、玉子、サラダ、コーヒーだけですけど…ハムはベーコン、玉子はゆで玉子又はスクランブルエッグに変更が出来ますけど…」
「あぁ…なるほどねぇ…だから、メニューがないんだぁ…それじゃ、ベーコンとスクランブルエッグに変更お願いします。」
「はい、かしこまりました。ところで、誕生花は選びましたか?」
「はぁ?誕生花と花言葉を選ぶ意味には何かあるんですか?」
「あれぇ、お伝えしていませんでしたか?
実は誕生花と花言葉を元に、これからの人生において、あって置かなければ後悔する人、又は貴方の事をとても愛していた人にお逢いする事が出来るんです。もちろん、亡くなった人に限りますが…」
「はぁ?ちょっと、ちょっと、いくらなんでも、このご時世で亡くなった人に逢えます?イタコの力を持っていて、霊魂が乗り移るとか?幽霊になって現れるような奇妙な世界があります?それに、奇跡でも起こす力があるんですか?あり得ないし、絶対に信じません。」
「あれぇ、もしかしたら、信じてません?あり得ないとでも?」
「だから、あり得ないですって…それに、こんな身体を見せたくないし、誰にも不幸にしたくないですよぉ…例え、亡くなった人であっても…」
「あぁ…ごめんなさい。泣かないで下さい。私もそんなに辛いとは思わなくて…でも、真実なんです。では、涙を拭いてこの窓を見ていて下さい。」
「はい、こうですか?えぇ!何で、何で、私が専門でイベントの進行でバザーを行った時じゃないのぉ!いつの間に撮られていたんだろう?あれぇ、あの人は昌義さん?知らなかったなぁ…この時、少し話をしたんだっけ…忘れていたなぁ…そう言えば、そうだったんだぁ…忘れていたなぁ。司会進行をしていたから、夢中だったなぁ…あの時の事も忘れていたとはなぁ…」
「どうでした?あなたが思いださなけでばならない記憶を少しだけ、お見せしましたけど…」
「えぇ?これは映像ではなくて、私の記憶ですか?」
「そうですよぉ…そんな事が出来るんですか?でも、これだけでは信じる事は出来ませんよぉ?」
「なら、今、何処にいますか?」
「そりゃ、喫茶店ですよぉ…って、何で、私が空の上にそれも、富士山の真上に…」
「ちなみに、本当の富士山の上にいますよぉ…」
「では、降りて、触ってみて下さい?」
「冷たい…雪です。本当に富士山の山頂なんですねぇ…あぁ…すいません。あれぇ、私に登山客は気付いていないみたい。」
「そうですよぉ…登山客には見えていませんよぉ。それに触ってた雪はすぐに戻りますからねぇ…それでは、戻りますよぉ…はい、戻りましたよぉ?」
「あぁ…喫茶店だぁ!」
「これで信じましたか?」
「はい、信じる事が出来ました。」
「ところで、今、何処に座ってますか?」
「そりゃ、車椅子ですよぉ?」
「本当にそうですか?」
「えぇ?いつの間に、車椅子に座っていないのぉ!」
「ここに座った段階ですでに車椅子ではなくて、自分の足で座ったんですよぉ。」
「びっくりしましたよぉ。ここは何処何ですか?」
「ここは、現世とあの世の中間地点になります。その為、現世を自由に行き来き出来ます。もちろん、過去や未来にも行けます。たまたま、遊びに行ったら、タイムトラベラーとして、写真に写ってしまって、後で叱られたので、最近は行かなくなりましたけど…あぁ…先月、行ったなぁ…東京オリンピックに…。だから、簡単に言えばここは異空間ですよぉ…」
「なるほどねぇ…」
「ところで、決まりましたか?」
「はい、「スノードロップ」「慰め」「希望」でお願い致します。」
「はい、かしこまりました。では、素敵な時間をお過ごし下さい。」
カラン、コロン〜
「茜かぁ…?すごい、逢いたかったよぉ…」
「えぇ?昌義さん?昌義さんよねぇ?私も凄く逢いたかったのぉ!もう、逢えないと思ったわぁ。」
「泣くなよぉ…俺もあの時の事は後悔しているんだぁ…あの時、車を出さないで、電車で行っていれば茜に辛い思いをさせずに車椅子の生活にしなかったとぉ…ところで、足はどうなったんだぁ?」
「えぇ、私は車椅子だけど…」
「ちょっと、待てよぉ…歩いて、俺と抱き合っているぞぉ?」
「えぇ!本当だぁ!奇跡が起きているわぁ!」
「ここで起きた事は現世に戻った時には…あぁ…ごめん、これ以上は伝える事が出来ないやぁ。」
「何、何、知りたいなぁ…?」
「ごめんなぁ…言えないんだぁ。ここに来るのも奇跡みたいなぁ…もんなんだぁ。20年以上かかってやっと、願いが叶っただけは言えるけど」
「そうなんだぁ…でも、知らなかったなぁ…最初の出逢いがキャバクラだと思ったら、専門の時のバザーのイベントの時に逢っていたんだぁ…」
「そうだよぉ。あの時に君に一目惚れして、連絡先を交換したのに、連絡が来なかったから、勇気を持って連絡を入れたら、キャバクラの客だと思われて、店に来てねぇ…って、それから、お店に通って見たけど勇気が出なくて、指名出来なくて、友人を誘って指名したんだぁ…でも、どうにかして、夜の世界を辞めてもらいたくて、君にすかれようとして、違う方向にいってしまったんだぁ…」
「私も、就職が思うようにいかなくて…自暴自棄時期になっていたみたい。たまたま、契約社員だけ受かっていたけど…契約なら良いと断ったなぁ…まさか、10年後に世界的規模の劇場に変わるとは思いもよらなかったなぁ…昌義には悪い事したねぇ…謝っても、謝りきれないなぁ。」
「いやぁ、来世で一緒になれたら、良いよぉ…」
「私も、一緒になりたいなぁ…」
すいません、そろそろ、料理が冷めますので…どうぞ?
「美味しいねぇ…もう、涙が止まらないなぁ…何でかなぁ?」
「茜…辛い思いをさせてごめんなぁ…あの世から何度も何度も助けにいきたいって思っていたんだぁ。こうして、おもいっきり抱きしめて、キスしたかったんだぁ。離したくなかった。」
「有り難う。昌義さん…久しぶりに、温もりを感じたよぉ…」
「あぁ…ごめんなぁ…そろそろ、行かなきゃ…又、逢えるからねぇ!初日の出が出る頃には、きっと迎えに行くよぉ。」
「ちょっと、ちょっと、昌義さん行かないで…有り難う。」
「本当にありがとうございました。何とお礼を言って良いやら…こんな、素晴らしい時間を頂いて、本当にありがとうございました。やっと、希望が持てました。ありがとうございました。」
「いえいえ、私も素敵な時間を共有出来てとても嬉しかったですよぉ。こちらこそ、ありがとうございました。今日はお正月で初めてのお客様なので、ささやかですけど…お年玉をつけておきました。現世に帰ったら見て下さいねぇ…それでは、お出口はこちらです。」
「それにしても、今回はおもいきった事をしたなぁ…大丈夫かなぁ…たぶん、叱られるだろうなぁ…でもなぁ、生きる楽しさを知ってもらいたいし…とはいえ、私の寿命を少しだけ寄付しただけだか良いよねぇ?とにかく、助けて上げたかったし…あれぇ、そう言えば、会計…しまった、お客さん、会計!会計!!」
「ふぅ…現世に戻るのは憂鬱だなぁ…はぁ〜車椅子がない!車もなくなっている!えぇ?どうして…あぁ…眠くなってきた…」
「ちょっと、寝てない?茜出番だよぉ?司会でしょ?」
「はぁ?」
「何、寝坊ているのぉ!後、5分でバザーの司会進行でしょ!
顔洗ってから、化粧する時間は私達でカバーするから…大丈夫だから…みんな、待っているから、ファイト!」
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