第14話 紅葉が紅く染まる前には…

私が、あの喫茶店で澤村 あやめに出逢った事は奇跡だったのか?それとも、偶然だったのか?必然だったのか?

又は、神様のいたずらだったのか?悪魔のささやきだったのか?は未だに解明出来ず、不思議な感覚がある。

しかし、あの出来事を想い出すと止めどなく涙が溢れとても、心が温かくなり、新しい扉が開き、前進する気持ちになるのだった。


 松永 謙二(32)は紅葉が紅く染まる前の秋が深まる時期になると当時を想い出すのだった。

今から、10年前になるが…大学の就職活動の最中に息抜きに親の反対を聞かずに箱根にあるホテルで住み込みでレストランのウェイターのバイトをしていた。

目の前には、芦ノ湖が広がり、朝方は太陽の光で湖畔が宝石のように輝き、夕方になると夕日によって幻想的な風景になるのだった。

私は、夏の間、バイトを続けて秋には就職活動をしようと決めたが11月までいるとは当時は思っていなかった。

同じように、色々な大学から息抜きや恋愛を目的にバイトに励んでいた。

ある人はここでまとまったお金で車の免許を取る人や失恋を癒す人などさまざまな目的をもっていた。

その為に、色々な大学から同じような目的でこのバイトをして資金を稼いでいた。

当時の支配人は学生には羽振りがよく、仕事が終われば、箱根の観光地に案内してはお小遣いもくれたり、カップルになったら、お祝い金や将来設計といいながら、ここで働いている従業員もいたのであった。

その為、『金になるバイト』として、稼いだお金を遣わずに過ごす事が出来る『神バイト』などさまざまな噂が流れていた。


そんな中に、喘息の療養もかねてバイトに来ていた松村 薫(18)がいた。

松村 薫はリゾートホテルの支配人の娘で常に支配人と連絡を取っている為に、バイト仲間からも煙たがれていた。

私も、最初は常に監視されていると思って話をしないでいた。

最初の1ヶ月は支配人の誘いもあり、バイト仲間のおかげで楽しく過ごし、花火やキャンプ、観光などであっという間に過ぎた。

その後、バイト仲間は次々に辞めていき、残ったのは私と支配人の娘だけになった。

今まで、色々なバイトがいた為にシフトが被った事がなかったが、9月になると同じようにシフトで被るようになると監視されていたのではなく、監視を支配人から受けていた事を知るのだった。

支配人からは9月に入り「喘息がひどくなる事があります。3つ以上の事を瞬時に覚える事が出来ません。その為、時よりパニックになります。」と初めて聞かされたのだった。

8月はレストランの佐藤マネージャーの横に常にいたのは、仕事を覚える為と支配人からの連絡は体調管理の報告だったと始めて知るのだった。

そして、9月になり、バイトリーダーになった。

「先輩、松村さん、オーダー又、間違えたんですよぉ。それも、2つとも…あり得ます?」

「解っているけど…俺もバイトだからなぁ…あんまり強くいえないなぁ…それに、長くいるつもりもないしなぁ…」

「はぁ?バイトリーダーでしょ?オーダーを間違われると調理場は困るんですけど…一人でオーダー取れないなら、フォローに回ってよぉ!おしぼりやお水出すぐらいにしてよぉ!」

「解った、解った…後で話すよぉ。」

「はぁ?後では、困るから、私からマネージャーに伝えます。」

「はぁ…調理場とホールは仲良くないなぁ…少しぐらい仲良くならなきゃなぁ…」


その後、佐藤マネージャーと松村さんがレストランの隣にある会議室で話をしていた。

「支配人の娘で言いにくいけど…調理場からクレームが上がっていてねぇ…フォローを松永さんに頼むから。」

「はい、解りました。すいませんでした。松永リーダーと一緒にオーダーを取る練習ですねぇ?」

「まぁ、慣れるまでは大変だけど頑張ってねぇ…」

その後、佐藤マネージャーから呼ばれて「ごめんなぁ…バイト終わった後に支配人の娘の松村さんの教育頼むよぉ。」

「ちょっと待って下さいよぉ!正社員にやらせて下さいよぉ。」

「いやぁ、今年入った新卒は18歳だからそっちの教育で手が回らないだよぉ…宴会場のヘルプもあるからさぁ。」

「はぁ…まぁ、それならやむを得ないですけど…」

「じゃ、頼んだなぁ…ちょっと、待って下さいよぉ!」

しばらくすると…松村 薫がやって来た。

「はぁ、はじめまして…松村です。」

「はい、バイトリーダーの松永です。」

「じゃ、早速、お客様の誘導から教えます。」

「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ?はい、言ってみて?」

「い、いらっしゃいませぇ!こ、こ、こちらにどうぞ…ぉ。」

「はい?何、緊張してるんだよぉ!これじゃ、オーダー取る前に緊張して倒れそうだなぁ!」

「ちょっと、こっちに来いよぉ!」

「えぇ…、ちょっと、手を離して下さいよぉ…支配人に訴えますよぉ!」

「うるせぇなぁ…さっさと歩けよぉ…いいから、来いよぉ!」

「ほらぁ、見てみなぁ…この夕日を見たくてこのレストランに来るんだよぉ。」

「はぁ…とても、綺麗ですねぇ。」

「何が綺麗ですねぇ〜だぁ?おまえは観光客なのかぁ…サービス業なめてないかぁ?

ここにはなぁ…初めて来る人や最後にこの光景を見て涙を流す人、新しい扉が開く人などさまざま人がこの光景を見るんだぁ…俺たちはその思い出の1ページを演出しているんだぁ…!その演出がオーダーのミスで台無しにしたら?どんな気分だぁ?お前の自信のなさが罪なんだよぉ!解っているのか?今まで、支配人の娘だから許してきた人もいるだろうけど…俺はバイトだから言わせてもらうよぉ!」

「すいませんでした。そんなに、真剣に仕事をしていたんですねぇ…ごめんなさい。喘息の療養が目的だったので…少し、甘えていました。」

「おい、おい、泣くなよぉ…俺も、ごめん、少し言い過ぎてしまったねぇ…俺も佐藤マネージャーに最初来た時に同じ事言われてねぇ…最初の3日ぐらいは気分転換が目的だったんだぁ…就職活動も上手くいかなかったしなぁ…」

「ところで、喘息の療養の他に何か隠してないかぁ?歩き方もたどたどしいけど…」

「この際だから、伝えますけど、実は喘息の療養の他に、昨年まで脳腫瘍の手術をしてその療養も兼ねているんです。最初は歩く事が出来なくて、家に塞ぎ込んでいたら、お父さんが気分転換に職場に連れてってくれたんです。私も、再出発出来るかなぁ…ってねぇ…」

「そうだったんだぁ…ごめんなぁ…そんな辛い境遇だとは知らずに指導するとはなぁ…いえいえ、脳腫瘍の件は支配人と佐藤マネージャーしか知らないです。松永さんも知ってしまったけど…普通に接して下さいねぇ…」

「もちろんだよぉ。」

「そうだぁ、良かったら?これから、箱根神社に行きません?」

「そうだなぁ、気分転換に行くかぁ!着替えたら従業員入口に…17時で大丈夫かなぁ?」

「はい。大丈夫です。久しぶりの外出なんです。誘ってくれてありがとうございます。」



「お待たせしました。時間がかかってしまいました。すいません。」

「あれ、制服とは違って可愛いなぁ…」

「そうですかぁ?先輩はジーパンとシャツ何ですねぇ?真面目さんですか?」

「おいおい、真面目さんてぇ…」

「そう言えば、先輩は何処の大学何ですか?」

「言っても、知らないと思うなぁ…頭は良くない大学らしなぁ…多摩野大学って知っている?」

「知らないなぁ…でも、可愛い名前ですねぇ?タマの大かぁ…猫が多そう…」

「おいおい、馬鹿にしてるなぁ…こらぁ。」

「冗談ですよぉ。」

「ところで、松村は高校生活は楽しんでいるのか?今は療養しているから、休学してます。とりあえず、来年から学校に復帰して頑張るつもり…そっか。」

「でもなぁ、無理するなよぉ!」

「解っているって、ほらぁ、もう少しで箱根神社だよぉ。行こう!」

「松村、手をつなぐなって。」

「あれぇ、もしかしたら女性と付き合った事ないのぉ?」

「おい、馬鹿にするなよぉ!」

「顔が真っ赤じゃん、可愛い…図星だなぁ?ほらぁ…先輩、見て、見て!芦ノ湖に鳥居があるよぉ!」

「あぁ…本当だぁ、絵葉書にあった風景だなぁ。先輩?」

「何だよぉ…」

「チュ!」

「松村!いきなり何するだよぉ…」

「先輩のファーストキスを奪っちゃった。」

「おい、松村ちょっと来い!」

「はい、どうしました?」

「大人のキスはこうやるんだぁ。」

「えぇ!ウソぉ…抱きしめてこんなに激しいんだぁ。ブチュ。」

「ほらぁ、手をつないでゆっくり戻ろう。もう少し、歩こう。」

「ですねぇ。私ももう少し歩きたいなぁ…」

「そういえば、松村は星の国の王子様のミュージアムに行った事は…あるのかぁ?」

「ないなぁ。1度は生きたいと思うけど…」

「そうかぁ。なら、今度一緒に行こうなぁ。」

「もちろん、先輩となら一緒に生きたいです。星の国のミュージアムだけじゃなく色々なところに連れて行って下さいよぉ。楽しみにしてます。」

「よし、来週にでも行こうなぁ。」

「今日はありがとうねぇ!楽しかった。又、行こうねぇ。」


しかし、この日を最後に松村は脳腫瘍の再発により入院してしまった。

私の方も、小さな奇跡を信じて星の国の王子様ミュージアムでキーホルダーを渡す為に購入して渡すつもりだったが…

しかし、翌月にはバイトを辞めて、就職活動を再開したのだった。

しかし、就職活動を途中で辞めて居酒屋でバイトをしながら専門学校に通い作業療法士になった。


その後、何度か連絡を入れたが、「元気になって、留学してます。」との返事だけがあり、それ以降の詳細は解らなくなり、月日だけが過ぎていった。

あれ以来、箱根には来ていなかったので…すっかり、松村 薫の事を忘れていた。

突然、昨日のように想い出したのは先週、支配人から連絡が入ったのだった。

「お久しぶりです。芦ノ湖ホテル箱根の支配人の松村です。」

「はい?お久しぶりです。お元気ですか?」

「お久しぶりですねぇ?よく、私の電話番号が解りましたねぇ?」

「実家に連絡を入れまして、連絡先をお聞きしました。実は、私の娘の松村 薫が脳腫瘍で先週、亡くなりまして、日記帳が出てきまして、松永 謙二さんに渡して欲しいと記載がありまして。

是非とも、松永さんにこちらに来て頂ければ有難いのですが…」

「ちょっと待って下さいよぉ。突然、亡くなったから、来て欲しいって言われても…」

「もちろん、申し訳ないとは思いますが…」

「そうですよぉ!何で、こうなる前に連絡して来なかったんですか?」

「松永さんが就職活動中だとお聞きしまして、ご迷惑がかかると遠慮しておりました。薫もあの後、連絡をしようと思っていましたが、脳腫瘍の再発後、車椅子の生活が長くなりまして、一生懸命、リハビリに専念して、歩けるようになったら、連絡するつもりでした。しかし、その後、無理がたたり、転倒して骨折してしまいまして…」

「だから、何でなんだよぉ…あんたも父親なら娘の気持ち察して、車椅子の姿だった時に連絡ぐらいよこせよぉ…あの後、連絡したよなぁ…どうなったかぁ?って…さぁ…。

そぉ~したら、がぁ、がいこくに留学しているって言ったよなぁ。頑張っているんだぁ!と信じていたのに…チクショ!」

「本当に申し訳ない…ここまで薫の事が好きだったとは気付ずに…。私は親として失格ですねぇ?薫がどうしても逢えないって涙を流しながら頼むもんだから。なんども、松永様にお逢いしましょう?とお伝えしましたが…」

「解った。詳細は明日聞きます。明日、最後の挨拶に伺います。すぅ、ごぉ〜くぅ、悔しいけど…」

「ありがとうございます。電話ごしで涙を流す姿は親として有難いです。では、お待ちしております。」


「松村さんはあれから、どんな時間を過ごしたのだろうかぁ?私にどれだけ逢いたかったのだろうかぁ?それとも、私がきっかけで再発したのを恨んでいないだろうか?日記帳には何が書いてあるのか?明日になれば解るのだろうか?」


「あぁ…あんまり寝れなかったなぁ…松村さんと行った箱根神社までを往復もする夢を見たなぁ…私は、未だに誰かの後ろ姿を想い出して恋が出来なかったのは彼女だったと今、気がついたのだった。枕元は涙で濡れていた。」

「さぁ!顔を洗って最高の姿でお別れしに行かなきゃなぁ…よし、行こう!」

「それにしても、気合いを入れすぎて、まだ暗いけど…何時だぁ。4時30分かぁ…まだ、始発までは時間があるなぁ…喫茶店なんかあるかなぁ?あれぇ…あんなところに喫茶店…あったかなぁ…確か、箱根そばだったような…「花言葉喫茶?」まぁ、いいか、入るかなぁ…」

「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ?」

「はぁ?ちょっと、ちょっと、お嬢ちゃん…この時間はさすがにアルバイトはまずいよねぇ?それに、どう考えても、小学生?中学生だよねぇ?お母さんとかいるのかなぁ?」

「はぁ?こう見えても、もう少しで30歳になりますよぉ!それに、店長ですよぉ!」

「またまた、冗談でしょ?いくら何でも冗談がきついなぁ…」

「もぅ、信じないなぁ。はい!身分証明です。」

「えぇ!1991年5月13日生まれ。という事は今年で28歳になるのかぁ!」

「ちょっと、レディに対して年齢はご法度でしょ。デリカシーがないんだから…」

「いやいや、あまりに可愛いから驚いているんだよぉ!」

「あれぇ、もしかして誉めてる?」

「そりゃ、お人形のように、可愛いければ誉めるだろう?」


「そうなの…今ねぇ?又、誉められたのぉ!

ちょっと、お兄ちゃん、聞いている?お人形ですって…」

「聞いているよぉ!良かったなぁ…さすがは我が妹だなぁ!こっちまで、うれしくなるよぉ!」

「でしょ。私もお兄ちゃんの妹で良かったなぁ…」

「そう言えば、元君とはうまくいってるのかぁ?」

「うん、最近、軽トラで江ノ島連れて行ってもらったよぉ!今度、期間限定で湘南ラーメン作るって!」

「そうかぁ、たまには元君のラーメンを食べに行かなきゃなぁ…」

「でも、野菜はたっぷりつけなきゃダメだよねぇ?」

「そうだなぁ…そこは肝心かなぁ…」

すいません、すいません、店長、可愛い店長?

「あぁ…ごめんねぇ。お客さん、待たせているから、又、連絡するねぇ?お兄ちゃん、体調には気をつけてねぇ…。」

「ありがとうなぁ…又、連絡してなぁ!」


「はい、お待たせしました。何か?」

「あのぉ、ここはお水とかおしぼりはないですかぁ…」

「あぁ…すいません、もう、お客さんが可愛いって誉めてくれたから、すっかり忘れてました。(肩をパシッっと…。叩かれる。)今、お持ち致しますねぇ?エヘェ。」

可愛いなぁ…これでは、怒れないなぁ…

「はい、どうぞ。」

「ところで、ここにはメニューはないですか?」

「はい、今、お持ち致しますねぇ。

今日は10月15日です。誕生花と花言葉をお伝えします。

まずは「ショウメイギク」〜「薄れゆく愛」「忍耐」です。

花言葉の由来〜ショウメイギクの仲間であるアネモネには悲しい伝説がありアネモネの花言葉(「はかない恋」「恋の苦しみ」「見捨てられた」など)切ないものになっています。

ショウメイギクの花言葉「薄れゆく愛」もそれにちなむとも言われます。」

「なるほどなぁ…ところでアネモネの悲しい伝説ってどんな伝説なの?」

「よく聞いてくれました。アネモネの悲しい伝説〜「アネモネと西風の神」はじまり、はじまり。はい、そこ、拍手ないなぁ…」

パチパチパチパチ…

「春と初夏のそよ風を運ぶ西風の神ゼピュロスは、花と春の女神フローラの次女のアネモネを愛していました。

女神フローラは西風の神ゼピュロスが自分を愛していると思っていましたが、愛されているのがアネモネだという事を知ります。

怒った女神フローラはアネモネを自分のところから追い出してしまいます。

西風の神ゼピュロスは女神フローラと平和を保つ為、仕方なくアネモネを見捨て彼女の姿をアネモネの花に変えたといいます。」

「もう、切なすぎて…涙が溢れますねぇ…アネモネ!!」

「ですよねぇ…アネモネの気持ちを考えると切ないですねぇ…他にもあります。聞きたいですか?」

「是非とも、聞きたいです。」

「よろしい。では「美少年アドニス(ギリシア神話)」はい、拍手。」

パチパチパチパチ…

「愛と美の女神アプロディーテーが息子のキューピッドと遊んでいたとき、キューピッドの射た愛の矢が誤って彼女の胸にあたってしまいます。彼女は胸の傷が治らないうちに美少年アドニスを見てしまい、彼に恋してしまいます。

ある日、狩りが好きだったアドニスは、森のなかで一頭のイノシシを見つけます。

アドニスは槍を投げてイノシンに傷を負わせました。

しかし、反撃してきたイノシシに脇腹を突かれてアドニスは死んでしまいます。

女神アプロディーテーは悲しみの涙をこぼし、それがアネモネの花になった。

あるいは、女神アプロディーテーがアドニスの血からアネモネを咲かせたとも言われます。」

「もう、この話も切ないなぁ…間違いなくキューピッドの矢があたった傷が原因ではなく女神アプロディーテーはアドニスに恋をしていたなぁ…女神だから原因が必要だっただけだなぁ…何て切ない話なんだろう…」

「そうですねぇ…恋をしていたと思いたいですねぇ!

あぁ…それと「ミセバヤ」〜「大切なあなた」「つつましさ」です。

花言葉の由来〜花言葉の「大切なあなた」は、恩師に美しい花を贈ったという花名に関する言い伝えにちなむとも言われます。

「つつましさ」の花言葉、長い雄しべをもつ花がほんのりと美しい球状の花序をつくる、繊細で女性的な花姿に由来するといわれます。」

「なるほど…花には花言葉があるとは知らなかったなぁ…勉強になりました。ところで、食べ物や飲み物のメニューはありませんか?」

「はぁ?ここはトーストとサラダ、ハムと卵とコーヒーだけです。ハムはベーコン、卵はゆで玉子又はスクランブルエッグに変更出来ます。」

「あぁ…なるほど、それならメニューは入りませんねぇ?では、ベーコンとスクランブルエッグでお願い致します。」

「はい、かしこまりました。ところで誕生花は選びましたか?」

「いや、まだ決めてないですが、誕生花が意味する事は何ですか?」

「あれぇ、お伝えしませんでしたか?誕生花の花言葉を元に、これからの人生において出逢っておかねばならない人、もしくはあなたに逢いたくてたまらない人に出逢う事が出来ます。しかし、亡くなった人に限りますが…」

「なるほど。ちょっと、待って!それはこのご時世ではあり得ませんよねぇ?神様が奇跡を起こすか?又は、このご時世に未練があって幽霊として現れる以外は不可能ですよねぇ?」

「まぁ、確かにこのご時世では奇跡でも起きなければねぇ…でも、ここは異世界ですので普通に起こりますけど…もしかして、信じていません?なら、このテレビを見ていて下さい。」

「はい、皆さん、こんにちは。今日はチャップリンシアターにようこそ!司会のチャップリンです。どうも、どうも、こんばんわ!今日のゲストはなんと、「M2J」の明智 光秀さんとマリリン・モンローさんだよぉ!なんと、今回、待望のデビューとなったねぇ…おめでとうございます。ところで、出逢いはいつ?」

「えぇ…たまたま、海水浴に行っていたら、ナンパされまして、歌を歌い始めたんですよぉ!そしたら、切ない感じがギュっときて、一緒に歌ったのがきっかけですねぇ。まぁ、そんなところですねぇ?」

「そうそう、最近はM2Jの「ドルフィンキック」を聞かない日はないですねぇ?さびの部分の「愛されずにはいられない…トゥワ、トゥワ、トゥ、トゥ〜 トゥワ…」が残りますねぇ…」

「ありがとうございます。」

「えぇ…このチャンネルは何ですか?本当に本人なんですか?明智 光秀さんって、あの本能寺の変で亡くなった?マリリン・モンローも…本人ですか?」

「そうですねぇ…出逢う事のない二人かも知れませんが…ここでは、前世の記憶はないんです。ただ、前世でやり残した事を叶える異世界といった方がいいかなぁ?結構、居心地が良いのか…残る人もいますけど…たいていはすぐに別の世界にいきますけど…」

「そう何ですねぇ…もしかして、異世界には亡くなった人が多く集まるのですか?」

「どうかなぁ…亡くなった人の中でも想いが強い人が集まるのかも…私も、異世界がどのくらいの人数がいるのか?どんな人がいるのか?解らないんだぁ…リバティというよりもフリーダムの自由はあるから、法律もなければ秩序もないけど…正義のヒーローに憧れていた人がいるから大抵は悪行は出来ないかなぁ…どうです、信じました?」

「はい、ここが異世界だと解りました。」

「では、誕生花を選びましょうか?「ショウメイギクかそれともミセバヤか?さぁ?どっち?」」

「ミセバヤでお願い致します。」

「かしこまりました。それでは、「大切なあなた」「つつましさ」の花言葉を意味する人が来ますので素敵な時間をお過ごし下さい。」


カラン、コロン〜

「お久しぶりです。お元気でしたか?」

「えぇ?どちら様ですか?」

「えぇ!忘れてしまったのですか?松永 謙二さん。」

「私ですよぉ。松村 薫ですよぉ!ひどいなぁ…」

「えぇ!マジで?すごい綺麗になったので、驚いたよぉ!」

「私は、松永 謙二さんに逢える事を楽しみにしていました。私の初恋だったんです。だから、思いきって、箱根神社に誘ったんです。」

「えぇ…知らなかったなぁ…だって、あの時が初めて会話したから、そんな気持ちになれなかったなぁ…」

「ですよねぇ…実は、アルバイトの面接の時から、履歴書を事前に勝手に見せてもらっていたんです。支配人の父親に頼んで、寮も私の隣にしてもらったり、マッサージチェアやホテルで使用しているベッドも、シングルサイズではなく、ダブルベッドにしたりとさりげなく気遣いしたんですよぉ!一夜をともにしたいなぁ…って密かに思っていたんですよぉ!」

「マジかぁ…だから、いきなりキスをしたり、手をつないできたのかぁ?」

「そうですよぉ!でも、先輩は真面目過ぎてビックリしちゃった。最初は、尊敬というか、素敵なお兄さんだなぁ…仲良くなりたいなぁ…だったんだけど、キスして手をつないだら本気になってました。大切なあなたを傷つけたくない。つつましさで見守っていきたいって思ったのぉ…ごめんねぇ」

「松村、泣くなよぉ…俺も好きだった。好きになり過ぎて、何度も連絡したよぉ。でも、そのうち、諦めなきゃなぁ…ってなぁ…」

「ごめんねぇ!本当にごめんなさい。私は、車椅子になった姿をどうしても見せる事が出来なかったのぉ…右半身に力が入らない。自助具で食事して、ほとんど床に落とす。介助なしでは、まともにベッドから起き上がれない姿を見せる事が出来なかった。悔しくて、悔しくて、何度も泣いている姿を見せる事が出来なかったのぉ…本当にごめんなさい。」

「馬鹿だなぁ…本当に馬鹿だよぉ…薫は。俺はそんな姿の薫だったとしても愛していたさぁ!好きになるって事は受け入れる事から始まるのさぁ…見栄やプライドなんてものは捨てたさぁ!だって、好きな人が側にいるって大事なんだよぉ…例え、薫が俺の顔を忘れて、暴言や暴力などさまざまな屈辱的な事に直面しても、しっかりと手をつなぎ、そっと、抱いていたさぁ!連絡が取れなくなってから、脳腫瘍の本や介助の方法を勉強したんだぁ…大学を卒業した後、就職活動をしていたけど途中で辞めて居酒屋でバイトしながら専門学校に通って作業療法士になったんだよぉ!それだけ、真剣だったんだぁ…」

「泣かないで…私のプライドが貴方を苦しめていたとは知らなかったわぁ…ごめんねぇ。ありのままの姿を見せる事で嫌われると一方的に思った私がいけないのぉ!それに、私が一方的に好きになったから、貴方がとても純粋で好きになっていたとは気づいていなかった。」

「そう言えば、ちゃんと手紙に好きになった事を書いたよなぁ!何で、返事くれなかったんだよぉ!」

「ちゃんと読んだわぁ。でも、その頃には体力も落ちて、食欲もなくなり、寝たきりになっていたわぁ。貴方の手紙を読んで何度も涙を流して枕を濡らしたわぁ。元気にならなきゃ、逢いに行かなきゃ…って、日記には貴方の事を書いたわぁ。元気になったら、行きたいところ、沢山の旅行雑誌を買ってきてもらって、勝手にデートプラン考えたり、温泉にも行きたかったなぁ…」

「泣くなよぉ…俺まで泣きそうになるよぉ…薫、今、お互いに逢えているんだぁ…笑って!薫は笑顔が素敵なんだぁ…。そうだよぉ!その笑顔は大好きだぁ!」

あのぉ…そろそろ、料理が冷めますので…どうぞ!

「謙二さん、美味しいねぇ…」

「薫、美味しいなぁ…もっと、一緒にいたかったなぁ…」

「謙二さん、私は、最後に逢えて幸せです。ちゃんと、気持ちを伝える事が出来ました。ありがとうねぇ…私も、一緒にいたいけど、謙二さんにはこれからの人生があります。私の分まで長生きして下さい。私は、もう行かなければなりません。謙二さん、紅葉が紅く染まる前にはせめて思い出して下さい。私も、謙二さんが愛してくれた事を感謝して次の世界に羽ばたきます。ありがとうねぇ!」

「薫、ちょっと待て!最後に…」

お互いを見つめて、熱い抱擁と熱いキスをしたのだった…


「ありがとうございました。薫に逢えて良かったです。お互いが愛していた事を知る事が出来て良かったです。私も、これからの人生を一歩、踏み出す事が出来ます。本当にありがとうございました。」

「いえいえ、こちらの方こそ、素敵な出逢いを過ごす事が出来て嬉しかったです。ありがとうございました。薫さんの分まで頑張って生きて下さいねぇ。出口はこちらになります。ありがとうございました。」


「いや、最後は素敵な抱擁とキスなんて…私の方が興奮したなぁ…あれぐらいの素敵な恋愛出来たら最高なのになぁ…やだぁ、もう、何、想像しているのかしら?あれぇ、何か忘れているようなぁ…あちゃ、会計。お客さん、会計!会計!!」



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