第9話 夏祭りの頃には…

私が、あの喫茶店で澤村 あやめに出逢ったのは奇跡だったのか?それとも、偶然だったのか?必然だったのか?神様のいたずらだったのか?悪魔のささやきだったのか?未だに不思議な感覚があるのだった。

しかし、あの時を思い出すととめどもなく涙が溢れ、とても温かな気持ちになるのだった。


 雪谷 早苗(28)は今年も町内会で行う毎年恒例の夏祭りで神輿を担ぐのにいつも以上にやる気に満ちていた。

昔から、下町で育った為に、男勝りの性格で小さい頃から喧嘩に明け暮れていた。

その為、男友達と遊び、夏になれば祭りで神輿を担ぐ事を楽しみにしていた。

大工の父親は頑固な性格だったが、道を反れるものなら、げんこつが飛んでくるのだった。

それも、早苗の友人であっても容赦はしない徹底ぶりであった。

その為、町内では知らない人がいないほどであったが、酒が入ると泣き上戸になる為にやっかいな性格となるのが弱点であった。

又、酔っぱらうと記憶が飛ぶ為に、次の日は決まって、母親の拳が炸裂するのだった…

そんな下町ならではの日常で育つと義理や人情が身についていた。

しかし、そんな性格の父親を持つと、ささいな事で警察沙汰になるのであった。


『早苗の友達がかつあげにあったって…ほらぁ、返してもらったぞぉ…』


その1時間後には警察が来て、大変な騒ぎに発展するのであった…

『だから、何度も言ってるじゃないかぁ。早苗の友達の祐太がかつあげにあったから、取り返したんだぁって。』

『それは、解るけど…手を出したらいかないでしょ?』

『こいつらが、悪い事したからじゃないかぁ。』

『でもなぁ…こいつらはまだ、高校生だろうが…祐太君はいくつだい?』

『早苗の同級生だから、25歳だなぁ…』

『話を聞くと祐太君の方が悪いみたいだぞぉ。』

『知らねよぉ。3対1だったから、仲裁に入っただけだぁ…』

『まぁ、今回は私の顔に免じて見逃すけど…次はないからなぁ!』

『解りました。気をつけます。』

『ジリジリジリジリ…はい、こちら荒川派出所です。はい、そうなんですか?解りました。今、行きます。』

『おぉ、どうした?』

『いやぁ…何でもない。民間人が出るまくじゃない!』

『おぉ、こりゃ、一大事だなぁ…喧嘩と火事は江戸の花!江戸っ子の本業と決まってらぁ…』

『だからダメですって、ヤクザの抗争ですから…離れて』

『おい、おまえ達、街のまん中で何やってるんだぁ!』

『おめぇかぁ!親分の敵、バキューン!』

『うぅ…バタン』


あれから、3年だなぁ…祭りがあれば一番先に出て、町内を盛り上げていたなぁ…頼まれてもいないのに、出店の焼きそばやたこ焼きを焼いたりヨーヨーやわたあめを売っていたなぁ…

毎年だから、テキヤの兄ちゃんとも仲がよくて一緒に酒を飲んで一緒になって泣いてたなぁ…懐かしいなぁ!

その為、最近では母親が先頭に立って、祭りを盛り上げていた。

テキヤの兄ちゃんたちから姉さんと呼ばれるまでになっていた。


しかし、3年前は祭りの練習の音がなると、雨戸を閉めて、一日中泣いてたなぁ…

でも、テキヤの兄ちゃんたちが「兄貴…俺たちの夏が来ました。見てますかぁ?」と泣きながら祭りの前日に家に来てから、祭りが終わるまでテキヤの兄ちゃんたちとの交流が始まり、母親を担ぎ上げて神輿にのせたのであった。

そして、泣きながら最後はみんなで酒をかぶったなぁ…思い出すと今でも、父親の存在が大きく見えるなぁ…

最後は、姉さん、姉さん…っとみんなで言っていたなぁ…お父さんはどう思うのかなぁ…





さてぇ、後3日で祭りの初日だなぁ…元担ぎに神社にお参りにいかなきゃなぁ…

確か、日の出が出る時が最高に運気が良いんだったなぁ…喧嘩にならないようにしなきゃなぁ!

さぁ、元担ぎにいかなきゃなぁ…今は何時かなぁ…あれぇ、4時30分かぁ…少し早いけどのんびりと行くかなぁ…

それにしても、少しお腹がすいたなぁ…

町内を早く歩くのも久しぶりだなぁ…あぁ、鉄だぁ!大きくなったなぁ…昔は小さかったのになぁ…今日は吠えないんだぁ…珍しいなぁ…やっぱり、祭りの前日は解るんだなぁ…

あれぇ、あんなところに、喫茶店…?あったかなぁ…「花言葉喫茶?」

何だか、面白そうだなぁ…入ってみるかぁ…


「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ?」

「ちょっと、ちょっと、お嬢ちゃん?夏休み?店番かしら?店長はいないのぉ?」

「はぁ?」

「はぁ?じゃないでしょ?今何時?この時間は子供は働けないでしょ?」

「すいませんが私が店長ですけど…」

「ぇ?えぇ〜!店長?どっから、どう見ても、小学生?いやぁ、中学生にしか見えないですけど…」

「本当に?ちょっと、うれしいかなぁ…こう見えても、20歳を過ぎて、もう少しで30歳になりますけど…」

「そうなんですか?信じられないなぁ…」

「もう、疑り深いなぁ…はい、身分証!」

「あぁ…本当だぁ!私と同級生じゃないのぉ!それに、年上って、5月13日なんだぁ…」

「ちょっと、あなたの方が年下って、あなたはいつなの?」

「11月1日です。」


「ねぇ…聞いて、聞いて、同級生にあったのぉ…違う、違うって、同じ年齢の人にあったのぉ…、すごいよねぇ?どう考えても、35才はいってると思ったら、同じ歳だって…すごくない?ちょっと、お兄ちゃん聞いている?」

「聞いているよぉ…すごいなぁ…」

「でしょ、それに、中学生って誉められたのぉ!すごいでしょ!」

「そうだなぁ…あやめは世界一だなぁ…」

「でしょ?私は素敵だって…」

「ところで、来週だけど…」

すいません、すいません、店長?

「あぁ…ごめんねぇ?お客さんから呼ばれちゃったから…又、電話するねぇ…じゃねぇ。」


「はい、お待たせしました。何かぁ?」

「はぁ?何かぁ…って、ここはお水やおしぼりは出ないのぉ…?」

「あちゃ、すっかり忘れてたぁ…ぺこりん、エヘェ…」

かわいいじゃないのぉ…

「はい、どうぞ?」

「ところで、ここはメニューとかはないのかなぁ?」

「ただいま、お持ち致します。今日は8月1日ですねぇ?」

「そうだねぇ…8月になったなぁ…暑くてかなわないなぁ…」

「8月1日の誕生花と花言葉をお伝えしますねぇ?今日は4つあります。

まずは、「オシロイバナ」〜「臆病」「内気」「恋を疑う」

花言葉の由来〜花言葉の「臆病」「内気」は、人目を避けるように夕方から咲き始めることにちなみます。

「恋を疑う」の花言葉は同じ株から赤や白といった違う色の花をつけることに由来します。」

「なるほどねぇ…すごいねぇ?顔のわりに物知りなんだねぇ?」

「ありがとうございます。次に「ガーベラ」です。「希望」「常に前進」という花言葉があります。

花言葉の由来〜花言葉の「希望」「常に前進」は、ピンクやオレンジといった明るい花を咲かせ、陽気な雰囲気を醸し出すその花姿に由来するといわれます。」

「へぇ…花にも色々な花言葉があるんだなぁ…」

「そうですよぉ。素敵でしょ?さらに「アサガオ」です。「はかない恋」「固い絆」「愛情」という花言葉があります。

花言葉の由来〜花言葉の「はかない恋」は、朝咲いて午後にはしぼんでしまう短い花である事に由来します。また、「固い絆」の花言葉は支柱にしっかりとツルを絡ませることにちなみます。」

「へぇ、そうなんだぁ…アサガオは昔、育てたなぁ…アサガオ日記なんて、夏休みの宿題でやったなぁ…懐かしいなぁ…『夏がきた〜!』って感じでテンション上がるなぁ…」

「あぁ…最後は「ミヤコワスレ」です。「しばしの慰め」「別れ」という花言葉があります。

花言葉の由来〜気品ある美しい花を咲かすミヤコワスレ。

花言葉「しばしの慰め」「別れ」は、佐渡へ流された順徳天皇がこの花を見ると都への思いを忘れられると話された事に由来します。」

「へぇ、そんな花があるだぁ…なるほどなぁ…って、メニューはメニューでも、食べ物や飲み物のメニューはありますかぁ?」

「はぁ?はい?ここでは、トーストとサラダとベーコンと卵、コーヒーだけですよぉ。ベーコンはハム、卵はスクランブルエッグ、ゆで玉子に変更出来ます。」

「あぁ…なるほど…それなら、メニューはなかったんだねぇ?ところで、花言葉が意味するのは?」

「あれぇ、伝えていませんでしたっけ?花言葉が意味する言葉を選んで頂いて、その花言葉に沿った人に逢えるんです。もちろん、その先の人生において逢わなければならない人になりますけど…もちろん、この世にいない人、亡くなった人に限られますけど…」

「はぁ?あるわけないででしょ?この世に逢えるのは夢の中か、写真や動画だけじゃないのぉ…」

「あれぇ、ここは異空間ですけど…知らなかったのぉ…」

「店長、あるわけないでしょ?ないないって…」

「もしかしたら、信じていないのぉ?」

「なら、外見てみたら?」

「はいはい、外を見ますよぉ…えぇ…何で、何で、雪山の山頂なのぉ…あり得ないんですけど…」

「寒いから、閉めてねぇ…でも、外に出たらここには戻ってこれないけどねぇ…」

「いやぁ、本当にビックリしたぁ…信じる、信じるわぁ!」

「ところで、花言葉は決まりましたかぁ?」

「ちょっと、待って…「アサガオ」でお願いします。」

「はい、かしこまりました。では、素敵なひとときをお過ごし下さい。」


カラン、コロン…

「早苗かぁ?早苗だなぁ…、お父ちゃんは逢いたかったぞぉ!相変わらず、元気だなぁ…良かったよぉ…ごめんなぁ、ごめんなぁ、母ちゃんや早苗を守れなかった…ごめんなぁ…」っと言って、逢った瞬間にあれほど頑固で強気の親父が膝から崩れて号泣しはじめた。

「もう、お父ちゃん、早苗も逢いたかったよぉ…頑固だけど手が早くて、言葉にする事が苦手だけどそんなお父ちゃんが大好きだったんだよぉ…父ちゃん、泣かないで…」

「ありがとうなぁ…母ちゃんは大丈夫なのか?俺が亡くなったから、強い母ちゃんは弱くなってないかぁ?あれでも、めちゃくちゃ弱いんだぁ…」

「大丈夫だよぉ、テキヤの兄ちゃんたちが、祭りの前日にみんなで集まって、母ちゃんを朝まで慰めてくれたんだぁ…本当に父ちゃんはすごいなぁ…って!今では、テキヤのお兄ちゃんたちの間では姉さんとして慕われていて、先頭になって父ちゃんがやってくれた事をやってくれているよぉ!」

「母ちゃん…!ありがとう、ありがとうなぁ…ウワァー〜〜〜〜!最高だなぁ…!チクショ〜、あいつら泣かすなよぉ…早苗、頼みがあるあいつらに思いきり酒をかけてくれ!祭りの最後の締めを父ちゃんが大事にしていた神棚の酒をかけて上げてくれ!」

「父ちゃん、わかっているよぉ…毎年同じ事をやっているよぉ…もう、父ちゃん…涙が溢れてくるじゃん!」

「馬鹿野郎!早苗は泣くんじゃ〜ねぇ!バシィ!」

「ちょっと、いきなり殴るかぁ、親父!こんにゃろぉ〜!今日という今日は許さねぇ!って無理だよぉ…何で、何で、死んじまったんだよぉ…!それに、女の子なんだから…たまには、親父に肩車されたり、動物園に何かに行きたかったんだかねぇ…バカ、バカ…でも、ありがとうねぇ。いつも守ってくれて…」

「ごめんなぁ…でも、俺は無理だったなぁ…照れくさくてしゃらくさくてできやしねぇ…江戸っ子ってそんなもんだぁ!」

「知っているよぉ…だからこそ、江戸っ子のおやじがみんなから慕われていたんだよねぇ?固い絆でしっかりとどっしりとしていたねぇ。」

「かぁ…何言っているんだぁ…あぁ、しゃらくせぇ!!」

すいません、そろそろお食事が冷めますので…

「かぁ…何だぁ、パン?って、飯を持ってこいやぁ、日本人はごはんと味噌汁と漬物が定番だぁ!店長いるんだろう!もってこいやぁ!」

「ちょっと、ちょっと、恥ずかしいなぁ…やめてよぉ。最後ぐらい文句言わず食べてよぉ…」

「たくぅ〜、まぁ、早苗が言うなら食べてみるかぁ…なぬぅ、うまいぞぉ!こんなうまいのかぁ?パンっていうやつは?いやぁ、こりゃ、うまいなぁ…こんなうまいもんがこの世にあったのかぁ…知らなかったなぁ…やべぇ、うますぎて涙が溢れちまったよぉ…馬鹿だったなぁ…」

「でしょ?頑固は時には損でしょ?」

「そうだなぁ…でも、頑固で良いのだぁ、ほなぁ、母ちゃんに宜しくなぁ…行くなぁ!後な毎年、正月には神棚に日本酒を置いて、祭りの頃には必ず最後に締めにかけるんやぁ…良いなぁ…そんで、親父はずっと見守っているからなぁ…踏ん張るんやぁ!」

「ちょっと、ちょっと、父ちゃん行かないでよぉ!父ちゃん、お願いだから…」

「アホぉ…何、ぬかしているんやぁ!」って頭を撫でて照れながら抱きしめた。

「父ちゃん…ありがとう。」



「本当に何とお礼を言ったら良いかぁ…本当にありがとうございました。これで、明日の祭りを最高に気分良く楽しみます。ありがとうございました。」

「いえいえ、親父の分まで楽しんで来てねぇ?こちらこそ、貴重なお話を聞けて嬉しかったです。ありがとうねぇ!ありがとうございました。出口はこちらです。」



「いやぁ、今回も素敵な出逢いが出来て良かったなぁ…頑固な親父もたまにはカッコいいなぁ…でも、私は無理だなぁ…あれぇ、何か忘れているような…あれぇ、何だっけなぁ…あぁ…会計だぁ…お客さん、ちょっと、ちょっと、待って、会計。会計!!」

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