第8話 あの夏の海を忘れない…

私があの喫茶店で澤村 あやめに出逢ったのは奇跡か?それとも、偶然か必然だったのか?神様のいたずらか悪魔のささやきだったのか?未だに解らず不思議な気持ちになるのであった。

しかし、あの時を思い出すと涙が自然と溢れて、温かな気持ちになるのであった。


 中西 久美(29)はこの時期になると1人で海水浴を楽しむ若いカップルや大学生にも目をくれずに浜辺をあてもなく歩くのであった。

時々、ナンパ目的の若い大学生たちが後ろから近寄っては来るが、髪の毛を束ねずに眼鏡をかけている為に、近くに寄ってきたら「あぁ…何でもないです…」っと言い逃げて行くのだった。

その後、「ありゃ、振られたなぁ…、ありゃ、自殺するなぁ…」っと、ヒソヒソと声が聞こえてくるのだった。


確かに、私は、ここ10年間、男性不信で鬱を発症し、拒食症になっていた。

今から、10年前に私に初めて彼氏がここで出来たのだった…当時は、今よりもふくよかで短大の同級生と3人と海水浴に来ていた。

楽しくビーチボールで遊んでいる時に、「何処から来たのぉ?僕たちは地元の大学に通っているんだけど…」と声をかけてきた。

私達は、日焼けした大学生の中に、眼鏡をかけた優しそうな真面目な人が1人だけいたのだった。

友達2人は日焼けした大学生4人と楽しくビーチでお酒を飲んだり、騒いでいた。

私の方は、優しそうな真面目な大学生を気になってしまい…1人でビーチパラソルで寝ころがっていた。

そこに、優しそうな真面目な大学生が近寄って来て…「何か飲みますか?」と言ってきた。

私は突然、声をかけられてびっくりすると…彼が「すいません、すいません、びっくりさせるつもりはなかったんです。」と私以上にびっくりした表情をした。

「それじゃ、オレンジジュースが欲しいかなぁ…」っと伝えると、「はい」っと言って海の家にもうダッシュで買いに行った。

「はぁ、はぁはぁ…買って来ました。」

「ウフフ…ありがとう。」と伝えると

「いえいえ」と笑顔になった。

その後、聞いてもいないのに「僕は、海に入るのは嫌いだけど、潮の香りが好きなんです。」と独り言を言っていた。

「はぁ?」っと言うと…

突然、自己紹介を始めた。

僕は、東西大3年、里中 大輔(21)です。

実は、テニス部の合宿で来ていまして、今日は先輩たちが海に行きたいと言いまして連れ去られました。

「えぇ?…連れ去られた?何か、解るなぁ…」

「ちょっと、ひどいなぁ…でも、本当なんですよぉ!合宿で今日は練習がないから、寝ていたら…突然、突然ですよぉ、担いでここに来たんですよぉ。あり得ます?」

「まぁ、あり得ないけど、体育系あるあるかなぁ…」

その後、少しずつ会話をしていたら、気付いたら、2時間以上、話をしていた。

その後、「先輩たちのところに戻ります。」と言って去り際に、連絡先の交換をした。

しかし、1人になって30分程してから友人二人が泣きながら戻って来て、「もう、帰る!あの人たちは大嫌い」っと言って家に帰ったのだった。

翌日になって、里中さんから連絡が入ってきた。

「昨日、先輩4人が中西さんの友人2人を襲おうとしたらしくて…たまたま、私が戻って来て止めに入りました。すごく、殴られましたけど…本当にすいませんでした。」

「はぁ?えぇ!そんな事があったのぉ…知らなかった…」

「そうなんですか?知らなかったのですか?」

「今、初めて聞いたよぉ…そうなんですか?

どおりで、涙を流して、血相を変えて帰るってなるなぁ…?」

「それなら、知らなかった事に…」

「わかったわぁ…それなら、海水浴の後に本当は行く予定だった江ノ島に連れてって?」

「えぇ!マジですか?」

「私ではダメですか?」

「いえいえ、僕なんかで良いのですか?」

「もちろんよぉ…それに、中西さんではなくて久美で良いよぉ…」

「はい、久美さん」

「もう、かたいなぁ…久美で良いよぉ。」

「はぁ…はい、久美さん…」

「だから、久美で良いって…」

「はい、すいません!久美…さん」

ここまでなら、本当に良かったのに…何でデートしたのかなぁ…あの日が来なければ…

ごめんねぇ…っと、夕日の暮れる砂浜で波音に消されながら懐かしい思い出を胸に大粒の涙を流していた。


「さてぇ…今日は帰るねぇ?

又、来年もここに来るねぇ!」と言い、立ち上がり、夕暮れの砂浜を背に駅に向かうと少し、お腹がすいてきた。


あれぇ、去年来た時にはあったかなぁ?

「花言葉喫茶?」

まぁ、良いかぁ、少しお腹もすいたから何か食べてから、帰ろうかなぁ…


「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ?」

「はい…って、あなたはいくつなの?どう、考えても、小学生…いやぁ、中学生よねぇ?店番かなぁ?」

「お客さん、いきなり、ひどくないですか?私は、こう見えても、20歳は過ぎていますよぉ…寧ろ、30歳に近いかなぁ…?」

「えぇ!えぇ…アメイジング!」

「ちょっと、驚き過ぎですって…それに、私が店長ですよぉ…」

「そうなんだぁ…、あまりに若いので驚いちゃった…すいません。」

「いえいえ、私も最近、お客さんから言われるから…ちょっと、大人にならなきゃなぁ…ってねぇ…」

「そんな事ないですよぉ…可愛いと思いますよぉ! 」

「本当に!!」


「ちょっと、聞いて、お兄ちゃん!そうなのぉ…可愛いって!」

「はぁ?」

「だから、又、ほめられちゃったのぉ…ちょっと、何も言わないなんて、切ないじゃんよぉ…はぁ?って、お兄ちゃんはどうなのぉ…」

「そりゃ、可愛いし、綺麗だと思うなぁ…」

「でしょ!良かった…」

「ところで、来週はどうなんだぁ?」


あのぉ〜、すいません?すいません?お嬢さん?

はい、ただいま〜!

「お兄ちゃん、お客さん待たせてるから電話きるねぇ?来週の件は又、連絡するねぇ?じゃねぇ?」


はい、お待たせしました。

「どうされましたか?」

「どうされましたか?って…ここは、水とかおしぼりはないの?」

「やだぁ、お客さんたら、可愛いってほめたからすっかり忘れてました。エヘェ…」

ちょっと…かわいいけど…

「すいません、お水とおしぼりです。では、またねぇ。」

「ではまたねぇって、ちょっと、ちょっと!メニューはないですか?」

「はい、ただいまお持ち致します。」

「はい、今日は7月15日です。」

「そうだねぇ…」

「誕生花と花言葉をお伝えします。

まずは「ネムノキ」〜「歓喜」「胸のときめき」です。

花言葉の由来〜ネムノキの漢名は「合歓木」

。夜になると葉を合わせるように閉じる習性から中国ではネムノキが夫婦円満の象徴とされています。花言葉の「歓喜」「胸のときめき」はこれにちなむととも言われます。」

「はぁ…なるほど。」

「次に、「バラ」〜「愛」「美」です。

花言葉の由来〜愛と美の象徴であるバラ。

花と色別、つぼみ、トゲにも花言葉があり、あらゆる花の中でその数がもっとも多くなります。古くから想い人へ気持ちを伝える花として用いられ、花言葉のほとんどが恋愛に関するものです。

ちなみに、色別などの花言葉は…

「赤いバラ」〜「あなたを愛してます」「愛情」「美」「情熱」「熱烈な恋」

「白いバラ」〜「純潔」「私はあなたにふさわしい」「深い尊敬」

「ピンクのバラ」〜「しとやか」「上品」「感銘」

「青いバラ」〜「夢かなう」「不可能」「奇跡」「神の祝福」

「黄色のバラ」〜「愛情の薄らぎ」「嫉妬」「友情」

「赤いバラのつぼみ」〜「純粋と愛らしさ」

「純粋な愛に染まる」

「白いバラのつぼみ」〜「恋をするには若すぎる」「少女時代」

「バラのとげ」〜「不幸中の幸い」です。」

「へぇ、そうなんだぁ…すごい数あるんだぁ…ためになるなぁ…」

「ふぅ…最後に「ナツツバキ」〜「はかない美しさ」「愛らしさ」です。

花言葉の由来〜花言葉の「はかない美しさ」は、ナツツバキの清楚な花が朝に開花し、夕方に散ってしまう一日花であることに由来します。ふぅ…疲れた。お水、お水…ぷぅはぁ〜、生き返る!」

「ちょっと、ちょっと…これ、私の水ですけど…」

「あぁ…すいません、勢いで…ペコリん」

「本当に、困った人だなぁ…ところで、食べ物や飲み物などのメニューはありますか?」

「はぁ?うちは、トーストとサラダとベーコンと卵、コーヒーだけですけど…あぁ、そうそう、ベーコンはハム、卵はスクランブルエッグかゆで玉子に変更出来ます。」

「あぁ…なるほど、メニューは入らないねぇ…それじゃ、ハムとスクランブルエッグでお願い致します。それと、水ねぇ…」

「はい、かしこまりました。ところで、花言葉は選びました?」

「花言葉?ところで花言葉の意味するのは?」

「あれぇ、伝えてなかったかぁ…すいません。花言葉の意味する言葉をもとに、これから先の人生において逢っておかなければならない人や逢いたい人に逢えるんです。」

「そんなの…あるわけないでしょ?信じるとでも?」

「なら、この鏡を見ていて下さい。」

「あれぇ、どうなっているのぉ?えぇ…えぇ!これは私が一番綺麗だった頃だわぁ…」

「手品ではないわよぉ!ここは異空間ですから…ところで決まりましたか?」

「はい、では、ねぇ…ネムノキでぇ!」

「かしこまりました…それでは、楽しい時間をお過ごし下さい。」


カラン、コロン…

「おぉ〜久しぶりです。中西さん…」

「えぇ?えぇ…えぇ!何で、何で、何で、里中さんがいるのぉ?あなたは、10年前に海に流された犬を救った後に溺れて亡くなったでしょ…あり得ないって、グスン、エーン…すごく逢いたかったのぉ…あなたに似ていれば、勇気を振り絞って、声をかけて騙されて、借金したりと…もう、バカバカ、何で死んだりしたんだよぉ…」

「ごめんねぇ、久美ちゃん、君が精神を病んで、鬱になって、拒食症になった事を心配して、夢の中に出てきたり、姿を見せたけど、逆効果だったねぇ…ごめんねぇ…」

「本当だよぉ…私が幻覚を見たと思って、病院に行って、薬の影響もあって鬱になるし、食べても美味しくなくて吐くし…さんざんよぉ!あなたなんてぇ…大好きだったんだから!」

「ありがとう…でも、新しく変わって欲しいんだぁ…毎年、ここに来ているのは知っている。とても、うれしいけど…久美ちゃんの為にならないよぉ!今でも、胸のトキメキや歓喜する気持ちを持ってくれたのはうれしいけど…無理しないで欲しい。すれ違うのでさえ、奇跡なんだぁ…僕の為に、その奇跡を信じて一歩、踏み出して欲しい。」

「それは無理よぉ!あなたしかいないって思ったんだから!」

「大丈夫だよぉ…久美ちゃんなら、きっと生まれ変われるって…頼むから…ちくしょ〜!涙が止まらないよぉ…」

「わかったわぁ…私、変わってみせる。里中さんの分まで、頑張って生きる!でも、後悔しないでよぉ!」

「そりゃ、後悔するけど…俺は死んでいるから今を生きて欲しい。」

「もう、私も涙が止まらなくなったじゃない…バカ〜ぁ…でも、ありがとうねぇ!」

すいません、そろそろ、料理が冷めますので…

「それじゃ、食べよう?」

「そうだねぇ…食べようかぁ?」

「美味しいねぇ…」

「本当だねぇ?こんなに美味しい食事は久しぶりだなぁ…何か、江ノ島でデートした時を思い出すなぁ…」

「本当だねぇ?江ノ島水族館でクラゲ見て…クラゲのものまねしてさぁ…イルカショー見たねぇ?」

「そうだなぁ…その後、江ノ島に行って灯台登ってなぁ…楽しかったなぁ…」

「本当に楽しかったなぁ…でも、まさか、帰りに犬が流されて来るとは…でも何であの時、泳げないのに…それも、江ノ島の橋の上から海に飛び込んだのぉ…波も高かったのに…どうしてよぉ!あれさえなければ…グスン、エーン…」

「ごめん、ごめん、思い出させてしまったなぁ…あの時は、何とかしなきゃ…っと考えていたら、海に飛び込んでいた。本当に馬鹿だったなぁ…って…犬を助けて我に返ったけど…そのまま意識が飛んでたぁ…」

「でもなぁ…もう、泣くなよぉ、よしよし、お前は笑顔が似合うんだぁ、眼鏡も取って、髪を結べば誰にも負けないぐらいの美人なんだからなぁ…ほらぁ?顔上げて…ちょっと、何するのぉ…」

「最後のキスだよぉ!これで、呪いはとけたよぉ…じゃ、行くなぁ!」

「ちょっと、ちょっと、置いてかないでぇ…1人にしないでよぉ!」

「おっと、忘れてたぁ、未来へのキス…頑張れよぉ!じゃなぁ!」

「もぅ…あの夏の海だけは忘れないからねぇ!ありがとう。」


「ありがとうございました。これで、新しく前に進めそうです。ありがとうございました。何とお礼を言って良いかぁ…本当にありがとうございました。」

「いえいえ、私も貴重なお話しを聞けて嬉しかったです。こちらこそありがとうございました。ありがとうねぇ!出口はこちらです。ありがとうございました。」


「ふぅ…良かったなぁ。きっと、素敵になるんだろうなぁ…私も、素敵な恋がしたくなっちうなぁ…あれぇ、そう言えば、何か忘れているようなぁ…あぁ…しまった!お客さんお会計!会計!!」




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