第22話 雪が降り積もるそんな日には…
私があの喫茶店で澤村 あやめに出逢ったのは奇跡だったのか?それとも、必然だったのか?それとも、偶然だったのか?
いやいや、天使のいたずらだったのか?悪魔のささやきだったのか?神様の贈り物だったのかも知れないとは思いたいが、いまだに不思議な感覚があり、理解に苦しむのだった。
しかし、あの時を思い出すととめどなく涙が溢れて、心が温かくなり、一歩、前進する事が出来るのだった。
石川 寿恵(58)はこれまでの半生を振り返っていた。
駅のドヤ街が近くにあり、治安も悪い地域で産まれた為に環境も悪かった。
父親は仕事もせずにパチンコと競馬に明け暮れて、酒ぐせもとにかく悪かった。
3歳年上の兄は酒をやめさせる為に父親と喧嘩するような日々を繰り返していた。
兄が小さい頃は父親は毎日のように炭鉱に働き泥まみれになって帰ってきて働き者だったが炭鉱の閉鎖とともに、父親は友人の保証人になり、ギャンブルと酒に溺れはじめた。
その為に、家賃も安い地域であるドヤ街に流れついてしまった。
母親は何度も父親に殴られてもしがみついて抵抗した。
母親は昔、炭鉱で誰よりも一緒懸命に働き仲間の為に頑張っていた姿を知っていたからこそ、いつかは更正すると思ったが駄目だった。
そんなおりに、事件が起きた。
いつものように、父親が母親を殴り、止めに入った兄が殴られ血を流して、アザだらけの姿で気を失った。
母親が次の日にその姿を見てしまい兄が亡くなったと勘違いした母親が台所から包丁を取り出して寝ている父親を刺してしまった。
すぐに、我にかえって、警察に自ら連絡を入れた。
しかし、父親は刺された場所が悪く即死だった。
その後、母親は刑務所、私達、兄弟は施設で過ごす事になった。
施設から中学に通学するも、まともに勉強もしてこなかった為に、クラスでは落ちこぼれだった。
しかし、家庭の現状を知っていた女性の高橋 先生が必死に勉強を教えてくれたおかげで家政科がある高校に進学する事が出来、調理師を取り、居酒屋を切り盛りしながら生活する事が出来ていた。
兄は働きながら、定時制の高校に入り、昼は汗水垂らして建築現場で私の学費や生活を支え、少しでも、生活費の足しになるならと高校が終わった後に居酒屋でアルバイトをしていた。時より、酔っぱらいの仲裁に入って、怪我をしながら帰ってくるけど…指一本も出さなかったと当時の店長が言っていた。
とても、責任感が強く我慢強い性格であった。
その後、兄はタクシーの運転手として、働きながらお店の開店資金を出して居酒屋のメニューの仕入れなどをしてくれた。
そのおかげで、兄妹で小さな居酒屋を経営する事が出来たのであった。
本当は昔、アルバイトをしていた居酒屋を店長から譲り受けた事を後で知ったが…兄の人脈のおかげだと感謝している。
母親も刑期を終えて、一緒に働き、私のお店の売上が順調になった時に兄がタクシー強盗にあり、真冬の雪の日に刺されて亡くなってしまった。
後日、父親は炭鉱で仲間を救うために暴力を振るわれており、脳に損傷を受け幻聴や幻覚に怯えており、母親の姿が炭鉱で働いていた仲間に暴力を奮っていた人に見えたのが原因だったと知るのだが…その時にはすでに父親は亡くなっていた。
母親はその事実を刑務所で知り、いつも泣いていた事を知るのだった。
「そう言えば、貫治兄さんが亡くなって、もう30年だなぁ…」
「そうだねぇ…、私も貫治がいなかったら、刑期を終えても働くところがなかったよぉ…私はダメな母親だよぉ。」
「何、言っているのぉ!お母さんがいなければ私は生まれていないんだよぉ…大変な事もあったけど私は幸せよぉ…」
「そうですよぉ。私も貫治兄さんがいなかったら、寿恵さんと知り合えなかったですから…本当にありがたいですよぉ。」
「ありがとうねぇ。浩次さん。」
「私は亡くなった後に兄のように接してくれた事に対してとても感謝していますから…
最初は店の前で一升瓶抱えて泣いていた自分を温かくお兄さんが迎えてくれて、何も言わずにこの居酒屋で働かせてくれたのに…今では実の兄のように接してくれて…ありがとうございます。」
「何を言っているんですか?浩次さん!兄が亡くなった後に、兄の代わりに一生懸命、お店を支えてくれたじゃないですか。ありがとうございます。ところで、お店は任せますので、お母さんと留守番頼みますねぇ?」
「はいよぉ、兄の命日の墓参りですねぇ?気をつけて行ってらっしゃい。」
「さてぇ、開店準備をするかなぁ…」
「ばぁ〜ちゃん、ランチ用の刺身があるから、取ってもらって良いかなぁ…」
「はいよぉ、浩次さん。」
「ありがとう、ばぁ〜ちゃん。」
「私も手伝うよぉ。」
「じゃ、ばぁ〜ちゃんは煮物を頼むなぁ…」
「はい、はい、大丈夫だよぉ。」
「それにしても、今日は武夫婦が来て店番頼む事になっているのになぁ…遅いなぁ…9時には来るように伝えておいたのになぁ…
明日から、お母さんと俺達夫婦揃っての伊豆に2泊3日の旅行なのになぁ…」
「あぁ…ごめん、ごめん。父さん、遅くなった…これから仕込みだよなぁ。」
「武、大丈夫だよぉ。仕込みは昨日のうちに母ちゃんとしておいたから大丈夫だぁ!それより、明美さんとの間に子供の予定はあるのか?」
「親父、まだその話は今度、話すから…」
「そっか?じゃ、11時半からランチだから頼んだぞぉ。」
「わかったよぉ…ところで母ちゃんは何処に行った?」
「兄貴の墓に行っているかなぁ?命日だからなぁ…」
「親父も母さんの兄の命日に旅行計画するかよぉ?」
「違うんだって、母さんの兄貴がそうしてくれって頼まれたんだぁ。あいつは、命日になれば泣き崩れてしまうから、母親とあいつを旅行に連れて行って欲しいとなぁ…」
「なるほどねぇ…確かに…そうした方がいいよぁ…」
「ところで、武も30歳かぁ…老けたなぁ…腹も俺みたいに出はじめてているなぁ!
とはいえ、2号店は来年には出来るからなぁ…頼んだぞぉ。わかっているって、謙二と一緒に仲良くやるよぉ…。そう言えば、謙二はどうした?」
「謙二は和食店で団体客の接客をしてから、夕方には来るなぁ…。」
「そっか…でも、謙二はホテルの和食店で頑張っているから来年には間に合うのか?」
「わかっているって、店を持たせると言えばさすがに辞めるとは思うけど…」
「なら、頼んだぞぉ。それじゃ、裏にいるから、大変だったら呼んでなぁ…」
一方、兄の命日に墓参りに行った寿恵さんは
「お兄ちゃんが亡くなって30年が経過したけど浩次さんとは仲良くやっているなぁ…二人の子供の母親にもなったなぁ…長男の武は今年で30歳、次男の謙二も27歳になりましたよぉ。」と考えていた。
「そう言えば、朝ご飯食べて来なかったなぁ…少し、お腹に入れて置かないと…何処かに喫茶店でもないかしら?あれぇ、あそこに喫茶店があるわぁ。「花言葉喫茶?」入ってみよう。」
「いらっしゃいません。こちらにどうぞ?」
「はい。えぇ?ちょっと、ちょっと、待って…店長はいませんか!」
「はい?私が店長ですけど…どうかしましたか?」
「えぇ?冗談でしょ?どう考えて、見ても、店長には見えないし、それに、未成年でしょ?保護者、いますか?」
「ちょっと、ちょっと、待って下さいよぉ…お店で騒がれても困るんですけど…」
「なら、身分証とかあるんですか?」
「もう、毎回これだと…困るなぁ…はい、これが身分証です。」
「はいはい、どうせ学生証でも見せるのかしら?どう考えても、中学生にしか見えないしし、私立のお嬢さんよねぇ?どれ、どれ、えぇ!1991年5月13日って!ちょっと、待って、(落ち着け、落ち着け…落ち着かなきゃ…ふぅ、深呼吸して…もう一度、ゆっくりみよう)1991年5月13日…本当だぁ!という事は今年が2019年という事は…27歳…。すいませんでした。あまりにも綺麗でかわいいお嬢さんにしか見えなかったものでして…あれぇ…何処に言ったのかしら?」
「お兄ちゃん、聞いて、またよぉ。」
「どうした?」
「今日ねぇ…あたぁ〜しがぁ、グスン…だってねぇ…」
「泣いているとわからないよぉ…ほらぁ、お兄ちゃんがついているから、深呼吸を一緒にしよう?ほらぁ、吸って吐いて…」
「こう?スーハァ、スーハァ…」
「よし、よし、良いぞぉ。ところでどうした?」
「今ねぇ…お客さんから、店長いますか?って…私が店長ですと伝えたけど…納得しなくて、毎回、身分証見せると辛くなって…お兄ちゃんに電話したのぉ…」
「でもなぁ…お兄ちゃんのたった1人の妹が若くて可愛いくて、綺麗で、素直で一途で、しっかり者で、一生懸命で、頑張っているからこそ、お兄ちゃんはなぁ…尊敬しているんだぁ!涙を流した分、きっと幸せになれるから、お兄ちゃんはたくましく店長をやっている姿を見せて欲しいなぁ。それに、お兄ちゃんは、頑張り過ぎて誰よりも優しく、自分の事を犠牲にしながら人の為にあらゆる努力をする妹がめげない事も知っているよぉ…だからこそ、そんな妹だからこそ、どんな事になったとしても、全力で妹を助けたいだぁ!」
「お兄ちゃん…ありがとう。」
「あのぉ…すいません、すいません、素敵な可愛い店長さん、店長さんいませんか?」
「あぁ…お客さんが呼んでいるみたい…私、行かなきゃ!お兄ちゃん、ありがとう、もっと、頑張るねぇ…」
「そうだよぉ。お兄ちゃんがついているから、大丈夫だよぉ!ファイト!」
「ありがとう。」
「はい、お待たせ致しました。」
「先程はどうもすみませんでした。大変お騒がせをしてしまいまして…申し訳ございませんでした。つい、お嬢さんを守らなきゃ〜!って興奮してしまいました。」
「いえいえ、私もお客さんの立場なら、同じように考えると思います。かわいくて、綺麗で、アイドルなような顔立ち、そして、誰からも愛され、誰からも人気があるなら、当然ですよねぇ?でも、さすがにいきなり大きな声で興奮されると泣きましたよぉ…さっき、悔しくてお兄ちゃんに電話しちゃいました。」
「本当にごめんなさい…傷つけてしまいましたねぇ?私も、兄が亡くなってから、こんな性格になってしまいまして…すいませんでした。」
「いえいえ、お互いに誰かを守りたい気持ちはありますよぉ?それに、正直、嬉しかったです。ありがとうございました。ところで、何か?」
「あぁ…あのぉ、ここは、お水とかおしぼりはないでしょうか?」
「あぁ…いけない、私ったら、今、お持ち致しますねぇ?」
「はい、どうぞ。ところで、これからどちらに行かれるですか?」
「今日は兄の墓参りに行くんです。」
「へぇ、そうなんですかぁ…なんか、聞いたらお兄さんの話は出来そうにないですねぇ…」
「いえいえ、良いんですよぉ…私もこの年齢でも、頑張って、これたのは3歳年上の兄がいたからです。兄は父親が亡くなってから、ときには母親、父親がわりでした。いつも、汗をかきながら、寝る間も惜しんで、私の為に一生懸命に働きました。朝から私のお弁当を作って私を起こしてから仕事に行き、夜は夜間の高校で勉強し、その後はバイトを入れてました。」
「そうだったんですか?素晴らしい兄を持って幸せですねぇ?」
「そうですねぇ…私にとっては素敵な兄だったと感じております。ただ、何の恩返しも出来ていないのが申し訳なくてねぇ…」
「そんな事はないですよぉ。今まで頑張ってきた事をしっかりと見ていますよぉ。何より健康で長生きして、素敵な旦那さんがいる事で恩返しになっていますよぉ。」
「そうですかねぇ…だと良いのですが…あぁ、ところでメニューはないですか?」
「あぁ…すいません。ただいまお持ち致します。今日は2月15日です。誕生花と花言葉をお伝え致します。
まずは「デイジー」です。「純潔」「美人」「平和」「希望」という花言葉があります。
西洋の花言葉〜Daisy「デイジー全般」「innocence(純潔)」「beauty(美)」です。
花言葉の由来〜学名の「Bellis(ベリス)」はラテン語の「Bellus(美しい)」が語源となり、花言葉の「美人」もそれに由来します。
「希望」の花言葉は光がさすと花を開く性質にちなむといわれます。」
「なるほどねぇ…ステキな花言葉ですねぇ…「純潔」「美人」「平和」「希望」かぁ…」
「次に「ミツマタ」です。「強靭」「肉親の絆」という花言葉があります。
花言葉の由来〜ミツマタの強い繊維質の樹皮は上質な和紙や紙幣の原料として利用されています。
「強靭」の花言葉は、その強い繊維にちなむともいわれます。
花言葉の「肉親の絆」は三つに分かれた枝を親子にたとえたものといわれます。」
「へぇ、そうなんだ。なるほどねぇ…「強靭」「肉親の絆」かぁ…素敵だなぁ…お兄ちゃんみたいだなぁ…ところで、食事のメニューはないですか?」
「はぁ?ここでは、トーストとサラダとハムと卵とコーヒーとオレンジジュースだけです。ハムはベーコン、卵はスクランブルエッグ、ゆで玉子に変更出来ますが…それ以外のメニューは出していないんです。すいません…」
「なるほどねぇ…それならメニューは入りませんねぇ…では、ベーコンとスクランブルエッグとコーヒーをお願い致します。」
「はい、かしこまりました。ところで、誕生花と花言葉は選びましたか?」
「はい?誕生花と花言葉には何か意味があるのですか?」
「あれぇ、お伝えしませんでしたか?
誕生花の花言葉をもとに、これからの人生において出逢っておかなければならない人、あなたに逢いたくても逢えないまま亡くなった人に出逢う事が出来ます。もちろん、亡くなった人に限りますが…最近では行方不明の人も増えてますからねぇ。」
「はぁ?えぇ?亡くなった人に出逢える?あり得ないでしょ?もしかして、詐欺まがいの高い壺や宝石などを売りつけるつもりですか?あぁ…なるほどねぇ…そんな事をしなければ経営がうまくいっていないのねぇ…いくら払えば良いのかしら?」
「ちょっと、ちょっと、私はそんな事しませんよぉ!純粋な気持ちでこの喫茶店を始めたのですよぉ。それに、喫茶店で出逢える一時が私にとってもお客様にとっても大事になると思っているからこそ真剣ですよぉ。」
「お嬢さんの熱い気持ちはわかったけど…現実にあり得ないと感じているのぉ。亡くなった人には逢いたいけど現実には無理だと感じているから…でも、ありがとうねぇ…気休めでも、思い出す事が出来たなぁ。」
「もう、信じていないんですねぇ…なら、この窓を見ていて下さい。」
「はい、はい、…えぇ?どうなっているのぉ?風景がはや回しで変わっているけど…あれ、ちょっと待って、私がいるわぁ…そう言えば、雪が降るあの日にタクシーを運転する兄を見送ったのが…最後になったなぁ…あれ、ちょっと待って、あの人は…兄を刺した人だわぁ…兄と会話していたんだぁ…」
「いつも、悪いねぇ…」
「いいんだよぉ。そりゃ、高校の後輩だからなぁ。このご時世だと、仕事も見つからないからなぁ…バブルがはじけて大変だよなぁ…少ないけど…」
「あんまり飲み過ぎないで帰るだよぉ」
「ありがとう。貫治兄さん。」
「へぇ、兄が犯人と仲良かったんだぁ…でも、何で刺されたのかしら?」
「いやぁ…久しぶりに飲んだなぁ…」
「ですねぇ…先輩」
「いやぁ、俺もやっと、料理人になれるかなぁ…と思ったらクビになっちまったよぉ…」
「大丈夫ですよぉ…」
「そう言えば、俺はお前に貸しがあったなぁ…10万円だったなぁ…ヒック、手数料込みで40万なぁ…」
「ちょっと、待って下さいよぉ…そんなお金はないですって…」
「はぁ?期限は守れって…まぁ、いいやぁ、タクシー乗るぞぉ!」
「へぃ、タクシー…」
「あれ、貫治さんじゃないですか?」
「おぉ!裕一かぁ…そちらは?」
「明さんです。」
「あぁ…明さんかい?」
「うぃ〜すぅ。明すぅ。」
「ところで、どちらまで?」
「海老名まで」
「はい、かしこまりました。」
「それにしても、ちんたら走っているなぁ…もう少し、飛ばせよぉ…」
「ちょっと、先輩。勘弁して下さいよぉ…世話になっている貫治さんの車では…」
「はぁ?関係ないやろぉ。こっちは客だって。お前、ムカつくわぁ!」
「やめて下さいよぉ…殴らないで下さいよぉ…」
「キキィ!ちょっと、明君やめないかい。裕一君が嫌がっているじゃないかぁ!」
「うるせい、ジジィはすっこんでいろ!」
「いやぁ、やめないよぉ…」
「黙れ、バシィ!」
「おい、殴ったなぁ…おりゃ!」
「いてなぁ。チクショー、お前、これが目に入らねかぁ〜!」
「はぁ?それでビビるとでも思っているのかぁ…」
「何だと、グサァ!」
「おい、逃げるぞぉ。ついでに現金持って行くぞぉ。おい、早くしろ!」
「チェ。しけているなぁ、7万円かぁ…俺が6万でお前は1万なぁ…」
「ハァハァハァハァ…」
「じゃあ、ここで別れるぞぉ。」
「じゃあなぁ…」
「えぇ?犯人は裕一ではなかったのかぁ…」
「はい、どうでしたか?これでも信じる事は出来ませんかぁ…?」
「ちょっと、確かに夢でも見ているみたいで未だに戸惑っていますけど…信じる事は出来ました。でも、いったいここは何処なんですか?」
「ここは、あの世と現世のちょうど中間地点ですよぉ。あの世はかなり広いのでこのような中間地点は必要なんです。ここでは、現世でやり直したい事をやる事が出来たり、ここから現世に行く事や過去や未来にもいけるんです。もちろん、現世がどうなるのかさえ知っていますが、教える事は出来ません。しかし、このままであれば貧富の差が激しくなり、税金が35%まで上がり、都心から人がいなくなります。というのも、高齢者が都内から離れた地域にシルバータウンが出来始めた為に、そこにコミュニティが集まったからなんです。その為に、都内の企業はより収益が出るシルバータウンの回りに移転して、100年後は都内はゴーストタウンです。あぁ…しまった。これは、内密にお願いします。」
「はぁ?えぇ?聞いていなかった…ゴーストタウンがどうのこうのって?」
「いえいえ、何でもないです。ところで誕生花と花言葉は選びましたか?」
「はい、「ミツマタ」「強靭」「肉親の絆」でお願い致します。」
「はい、かしこまりました。それでは素敵な時間をお過ごし下さい。」
カラン、コロン〜
「お兄ちゃん、貫治兄さん。」
「よぉ!元気だったかぁ?久しぶりだなぁ…何年ぶりだぁ?」
「もう、お兄ちゃんたら…」
「どうした?久しぶりにあったからって泣くなって…ほらぁ、これで涙を拭けって…それにしても、お前もばばあ!になったなぁ…」
「ちょっと、これすごい匂いしてるじゃないのぉ?洗濯してるのぉ?」
「あぁ…これかぁ…そういやぁ、2週間ぐらい洗ってねなぁ〜。悪かったなぁ。」
「もう、相変わらずなんだからぁ!それに、ばばあ!はないでしょ?」
「わりいなぁ〜。でも、良かったよぉ…こんなに立派になってお兄ちゃん、うれしいよぉ…毎年、墓参り来てくれてうれしかったよぉ…ありがとうなぁ。でもよぉ、墓参りではいつも、泣くなって…笑ってくれって。心配になってあの世にいけないでいるんだぞぉ。」
「えぇ?そうだったのぉ?」
「そりゃ、タクシー強盗が後輩で驚いただろうけど…あいつは罪を被っただけなんだぁ。まぁ、あいつの指紋しか出て来なかったから犯人になったけどなぁ。」
「私も知らなかったから、ずっと恨んでいたわぁ。でも、そうだったとは知らずに悪い事をしたわぁ。」
「そっか。でもなぁ、それで良かったかも知れない。あいつは罪を被ったけどそれで救われたのかも知れない。もし、あの時あの場所にいなかったら…殺されていたからなぁ。」
「えぇ?どう言う事?あいつは、父親の入院費用に多額の借金をサラ金業者からしていたんだぁ。生活保護の申請をして、楽になった方が良いと伝えても首を縦に降る事はなかった。その為、ヤクザからいつも、逃げていた。たぶん、あのままだったら、自殺を装って殺されていたんだぁ。」
「そうだっただぁ…」
「今は、小さな港町でひっそりと暮らしているから大丈夫だよぉ。」
「そうなんだ。」
「ちなみに俺を刺した明は酔っ払って、駅のホームに落ちて電車に轢かれたけどなぁ…まぁ、悪い事をしても良い事は…ないけどなぁ。まだ、一緒にいたかったけどなぁ…。」
「もう、お兄ちゃん…。」
あのぉ、そろそろ冷めますのでどうぞ?
「あぁ…そうだなぁ。食べよう。」
「お兄ちゃん、美味しいねぇ…」
「そっか?俺はやっぱり、ご飯だなぁ…」
「もう、相変わらずだなぁ…」
「それにしても、「強靭」「肉親の絆」を選んでくれてありがとうなぁ…お前には逢えないかもって思っていたからなぁ。兄ちゃん、うれしいなぁ…」
「もう、泣かないでよぉ。」
「だってよぉ…30年だぁ!どれだけ、逢いたかったか…母ちゃんは元気なのか?俺はさぁ、やっぱり、妹は大事だったけど…母ちゃんは許せなかったんだぁ…何であんなやつを愛していたのかぁ…優しすぎたとなぁ。」
「もう、お兄ちゃんたら、お母ちゃんもあの後、兄ちゃんが亡くなってから、精神を病んでしまったのぉ…やっと、立ち直ったんだからねぇ…大変だったんだから。」
「えぇ?そうだったのか…悪い事をしたなぁ。」
「でも、母ちゃんには逢わない方がいいわぁ。いまだに、父ちゃんと兄ちゃんの区別がつかないからぁ…」
「あぁ…そろそろ行かなきゃなぁ。ありがとうなぁ…」
「お兄ちゃん、行かないでよぉ。」
「バカ野郎!お前はこれから、お兄ちゃんの代わりに店を守るんだろう?お兄ちゃんの気持ちが解るなら、立派になれよぉ。雪が降り積もるそんな日には兄ちゃんを思い出すんだぞぉ。俺も忘れらるのは嫌だけど守る人がいるんだからなぁ。でも、無理はするなよぉ。」
「お兄ちゃん…」
「ありがとうございました。何とお礼を言って良いかぁ。お兄ちゃんに逢えた事には感謝しても、しきれません。ありがとうございました。」
「いえいえ、お兄さんに逢えた事で少し救われて良かったです。こちらこそ、ありがとうございました。では、お兄さんの墓参りは笑顔でねぇ。では、出口はこちらです。行ってらっしゃい。気をつけてねぇ…」
「はい、ありがとうございます。」
「いやぁ、30年ぶりに逢うのはどんな気持ちなのかなぁ?すぐに打ち解けるものなのかなぁ…私なら涙を流して見れないかもなぁ…あれ、そう言えば、何か忘れているなぁ…何だっけ?あぁ…しまった。会計!お客さん、会計!!」
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