第4話 あの日に帰れたら

私があの喫茶店で澤村 あやめに出逢えた事は奇跡だったのか?それとも、必然だったのか?偶然だったのか?神様のいたずらだったのか?悪魔のささやきだったのか?未だに不思議な感覚があり理解出来ないでいる。

しかし、あの時を思い出すと涙が止まらなくなり、とても、温かい気持ちになるのであった。


金村 晴美(44)は叔母さんの経営している韓国料理屋さんの手伝いを休みになるとしていた。

いつもは、美容院で働いているが、未だに独身を貫いていた。

「あんたは、未だに独身を貫いているけど…何でなんだい?まだ、あの人を忘れられないのかい?」

「いえいえ、そんな事はないわぁ…ただ、今でも、韓国と日本の間には複雑な歴史があるから…それが、原因だと思うなぁ…」

「そうだねぇ…私達の頃は父親が済州島で漁師をしていて日本軍が来た事から始まるけどねぇ?強制的に日本の軍隊に入隊されてた事を亡くなる前まで自分の汚点だったと言っていたわぁ…名前も金から金村に変えて、同じ韓国人を殺した事を思い出しては死ぬ事ばかり考えていたからねぇ?

私も父親を憎んだ時期もあったけど、日本人になった事を後悔してないわぁ。でもねぇ?私達が韓国人である事は戸籍を調べれば解るから…日本の学校では、差別を受けたわぁ。」

「金村は金が、ついているからコリアンだろ?」

「私も、黙っていれば良いのに、そうよぉ!何が悪いのぉ!って言ったら、次の日からいじめを受けたわぁ。石を投げられたり、靴を隠されたり、机には「朝鮮帰れって!」油性マジックで書かれたり、しまいには金がついているだけでいじめが広がったわぁ!でもねぇ…その学校の1/3が韓国から強制的に連れてこられた2世が占めていたのぉ!その為に、いじめはなくなったわぁ。でも、それがきっかけになって朝鮮学校に行く人もいたわぁ…その中には朝鮮戦争が終わって、数年しか経過していなかったから、北に帰れば裕福になれると北に戻った人もいたけど、強制労働されて、監視されたらしいわぁ…真実かは解らないけど…私達は、戦争中に父親が罪を犯したから、韓国には居場所がなかったのぉ。でも、日本にも居場所がなかったわぁ…

でも、あなたの世代までとはねぇ?」

「そうだねぇ…まさか…まだ、反日があるとは…韓流ブームだから、うまくいくとは思っていたけど…結局、駄目だったなぁ…それからは、何故かぁ、うまくいかないなぁ…」

「大丈夫よぉ…」

「でもなぁ…」

「そうですよぉ、春ちゃんには、俺がいますから、そろそろ、返事聞かせてなぁ!」

「あなたは、ないわぁ…」

「おいおい、そりゃねぇ〜なぁ!もう、5年も待っているんだからなぁ…ギャンブルも辞めて、調理師も取って、叔母さんの家で働いてまともになっているんだから、そろそろ認めてよぉ。」

「わかったわぁ、でもねぇ…まだ、少し時間を頂戴。来年までには返事はするねぇ?」

「マジかぁ、答えはイエスだなぁ…よっしゃ!」


「あぁ…良いのかなぁ…これで…」

「さてぇ、明日は休みだけど、そろそろ寝なきゃ…」


「ふぅ…久しぶりによく寝たなぁ…今、何時かなぁ…4時30分かぁ…それにしても、喉が乾いたなぁ…」

「ガチャ、あちゃ〜、ミネラルウォーターがないなぁ…買って来なきゃ…」



「久しぶりに、この時間を歩くのは何年ぶりかなぁ…たぶん、20年ぶりぐらいかなぁ?韓流ブームの時はここもすごい観光客だったけど…政治が冷え込んでいるから、少なくなったなぁ…でも、今年はKpopの女性アイドルが紅白に出るから、少しは良くなったなぁ…叔母さんのお店も赤字から回復したから良かったなぁ…」


「確か、この辺にコンビニがあったけど…なぁ…ないなぁ…」

「あれぇ、何かしら、この辺は日中、韓流スーパーに買い出しに行くけど…花言葉喫茶…?少し、小腹も減ったから、寄ってみよう。」



「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ?」

「お嬢ちゃんが店番ですか?」

「はぁ?違いますけど…」

「店主は?」

「私ですが…」

「えぇ…、どう考えても、中学生か高校生にしか見えないですよぉ…小学生かと…」

「いやぁ〜だぁ…これでも、20歳は過ぎてますよぉ…でも、ここに来る人はみんな言うのでびっくりですよぉ!」

「あぁ…そうなんだぁ…ところで、水とかおしぼりはないのぉ?」

「やだぁ、私ったら…今、お持ち致しますねぇ?エヘェ。」

「はい、お持ち致しました。お水とおしぼりです。」


「そうなのぉ…私が中学生って言われたのぉ!うれしくて電話しちゃった。」

「でねぇ…来週の日曜日、どうしようかなぁ…?手伝い?久しぶりにお兄ちゃんの…どうしようかなぁ?」

「あぁ…そうだった、忘れていた。その件は又、電話するねぇ?」


「すいません、すいません、お嬢ちゃん?お嬢ちゃん!」

「すいませんでした…あまりにうれしくて電話してました。」

「もう、びっくりしちゃった。でも、そんな性格は嫌いではないわぁ…でもねぇ…他のお客さんだったら、怒って帰るわよぉ?」

「大丈夫ですよぉ、ここは勝手に入れませんから?」

「まぁ、良いわぁ。ところで、メニューを持って来てもらえます?」

「はい、ただいま、お持ち致します。

今日は5月15日です。5月15日の誕生花・花言葉は…まずは「ドクダミ」です。花言葉は「野生」「白い追憶」です。花言葉の由来は半日陰地を好み、住宅の周辺や道ばたなどに自生するドクダミ。花言葉の「野生」は繁殖力が高く、ちぎれた地下茎からでも繁殖するたくましさに由来すると言われます。

もう1つがカンパニュラです。花言葉は「感謝」「誠実」「節操」です。花言葉の由来は花言葉の「感謝」「誠実」「節操」は、カンパニュラの花の形を教会の鐘になぞられ、教会の教えにちなみむと言われます。」

「はぁ?」

「ふぅ…疲れた…お水、お水…ふぅ…すっきりした。」

「はい?だから、メニューを持って来て欲しいのですが…」

「はぁ?メニューですよぉ?」

「本当に頭が悪いのぉ?食べ物のメニューですよぉ!」

「あぁ…なるほど…食べ物のメニューはトーストとサラダとコーヒーです。追加で玉子とベーコンです。玉子はゆで玉子かスクランブルエッグ、ベーコンの変わりにハムに変更が可能です。」

「じゃ、ハムとスクランブルエッグでお願い致します。」

「はい、かしこまりました。ところで、花言葉はどちらにしますか?ドクダミ?それとも、カンパニュラ?」

「はぁ?よくわからないけど…」

「もう、最低!花言葉を選んで大切な人と素敵な時間を共有できるんですよぉ。」

「えぇ…、そんな事が出来るんですか?」

「もう、知らない…」

「そんな、怒らないでぇ…カンパニュラで、お願いします。」

「ありがとうございます。それでは、素敵な時間をお過ごしくださいねぇ?」



カラン、コロン…

「久しぶりだねぇ?春ちゃん、元気だった…?」

「えぇ…何で、何で、どうして、どうして、いるのぉ!亡くなってから、何年経っているのぉ…16年よぉ。西浦 透さん?」

「おい、おい、驚くなって…とにかく、落ち着いて、ほらぁ、水を飲めてぇ…」

「ふぅ…、落ち着け私、落ち着け…ふぅ、ふぅ…、これは幻ねぇ?パチィ!痛い…」

「やっと、落ち着いたなぁ…良かった。春ちゃんが呼んでくれなかったら、どうしようかなぁ…って思ったよぉ。」

「春ちゃんは元気だったかい?」

「元気なわけないじゃんよぉ!泳げないのに、子供を助けて…目の前で溺死なんて、トラウマになるし、鬱になるし、未だに川の側には行けないわぁ…それに、愛したら死ぬんじゃないかって…いやだぁ、私たら涙がこぼれてしまっている。もう、あんなに、側にいるって言っていたのに…馬鹿、馬鹿、馬鹿!逢いたかったんだからねぇ?」

「透ちゃんこそ元気だった…元気なわけないかぁ…亡くなっているものねぇ?」

「そりゃ、俺も後悔しているよぉ。春ちゃんを1人にしてしまった事を!でもなぁ…あの時、必死だった、無我夢中で目の前の命を助けたかったんだぁ…今まで、ギャンブルと酒に溺れて、借金まみれだった…情けないけどなぁ…」

「はぁ?何それ、借金の話は聞いていなかったわぁ?」

「だから、あの川を過ぎて、両親に逢いに行く前に、喫茶店で話そうと思っていたんだぁ。」

「いくらあったのぉ?300万位かなぁ…」

「えぇ…!貯金が300万ではなく借金が300万かぁ…でも、それでも、愛していたから、気にはしなかったわぁ…それよりも、私は感謝しているのぉ?」

「俺に感謝って何だよぉ…」

「あなたは私が朝鮮人の血を引いている事やお爺ちゃんが人を殺した事を伝えた時に自分の事のように、大泣きしてくれたでしょう?正直、こんなに純粋な人はいないなぁ…それに、ギャンブルと酒に溺れている事は知っていたわぁ。でも、私がいれば、きっと変われると感じたのぉ!それに、私に知り合う前に、近くの居酒屋で、韓流ドラマと韓国人の悪口を言っているの人たちを見かけて「アホぉ、韓国人だとか、日本人だろうが…人間やぁ!ここには、多くの韓国人がいるんやぁ!韓流ドラマにも素敵な作品があるのに…見ずしてけなすなぁ。ドラマや人の悪口言って楽しんかぁ…俺は1人で楽しく飲んでいたいんやぁ…って叫んだねぇ?」でもねぇ?凄く悔しかった。何で、何でやん、うちらが叫ばなきゃならないのに、こんな酔っぱらいに言われるのぉ…ってねぇ?」

「本当だよぉ…いつの間にか、外のベンチに連れて行って、頭から焼酎を浴びせたよなぁ…でも、目を見たら泣いていたから…何も言えなかった…でもなぁ…あの時、いつまでも後をついて来たなぁ…あのきっかけがなければ、春ちゃんと付き合ってないんだよなぁ…」

「そりゃ、酔っぱらいに水を上げないで焼酎を浴びせたからねぇ?その後、冷静になったら、謝らなくちゃ…って、でも、自分からどうしても言えなくて…」

「そしたら、ほらぁ、これ食え…ってホットクをくれたよねぇ?」

「お互い、涙を流して食べたよねぇ…?」

「だったなぁ…」


そろそろ、料理が冷めますので…

「うまいなぁ、久しぶりに朝食食べたなぁ…そう言えば、春ちゃんが作った辛ラーメン旨かったなぁ…」

「あらぁ、覚えているんだぁ!」

「そりゃ、覚えているよぉ、春ちゃんスペシャル〜キムチに半熟卵、ネギ、キャベツ、椎茸に、牛肉…だめだぁ…涙が止まらないなぁ…チキショー…やっと、逢えたのになぁ…

「もう、泣かないでぇ…」

「ありがとうなぁ…」

「もう、私まで涙が止まらなくなったじゃないの!馬鹿…」

「でもなぁ…俺も、お前が幸せにならないと死んでも死にきれないからなぁ…ほらぁ、顔上げて…」

「えぇ…、何でキスするのよぉ…忘れなくなるじゃない?」

「アホぉ、忘れては駄目だぁ…俺が亡くなった5月15日は忘れるなぁ…あの日に帰れたらうれしいけどそれが出来ない。だから、せめて、思い出して欲しい。でも、幸せになって欲しいんだぁ…」

「解ったわぁ!忘れないわぁ!」

「ありがとうなぁ…じゃ、そろそろ、行くな!じゃな!」

「ちょっと、ちょっと、待ってよぉ!

もう…謙ちゃんたら…何なの…もぅ…涙が止まらないじゃないのぉ…馬鹿!でも、ありがとう…これで、幸せになれるよぉ。」


「ありがとうございました。とても、貴重な経験が出来ました。何とお礼を言っていいかぁ…ありがとうございました。」


「いえいえ、こちらこそ、貴重なお話しを聞かせてもらいました。ありがとうございました。出口はこちらになります。ありがとうございました。」



「いやぁ、今回も素敵な出逢いにもらい泣きしちゃった…ありがとうございました。ありがとうねぇ!…って、ちょっと、ちょっと、待って…お会計!!お客さん会計!!」

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