誰もが幸せになるために
「・・・・・・んっ」
目を覚ますと、いつもの天井、そして汗で少し湿ってしまったベッドといつもの自分の自宅だった。
「あっ、起きましたか?」
少し体を起こすと、ベッドの傍らに一人の女の人がいることに気づいた。
「えっと・・・どうして二色先輩が」
「許可も取らずに来てしまってごめんさない。でも響くんが1人じゃダメかもしれないって言ってきちゃったので・・・」
「あの、響先輩は・・・」
二色をここに呼んだ張本人が見当たらない。
「ちょっと足りないものがあったみたいだから買いに行ってもらってます。ちなみに今は夕ご飯で手が離せないみたいですけど神崎さんもいますよ」
「そう・・・なんですね」
そこまで響に心配されているとは思ってもおらず、正直感謝してもしきれない気持ちになっている。
そして何よりも二色、そして神崎までもが自分のために家まで来てくれているのが葉桜にとっては驚きだった。
「起きたことだし体温測りませんか?」
二色から体温計を渡され、そのまま葉桜は脇に差し込む。
少しの間、2人に静寂が生まれてしまう。
「二色先輩の家ってここから近いんですか?」
「ううん、ほとんど反対側だよ」
「だったら別にお気遣いしてもらわなくても・・・」
少し顔を知っているだけだったら、学校に来た時にでも気遣っていたよアピールさえすればいいだけだ。
葉桜の考えも確かに錦の中にはあったが、それでも二色はここまで来た。
「日数的にはまだ2週間くらいだけど、私だって休みって知った時は本当に心配したんだよ」
意外だった。
二色が響に対して恋心を持っていたことは葉桜にも分かっていたが、その上で葉桜は自分の好奇心だけでそれを邪魔した。
嫌われて当然のことをしているはずだ。
「そこに響くんから倒れたって話を聞いてしまったらさすがに少し遠くても行きますよ」
そして付け加えるようにして、そして誇らしげに二色は言った。
「それに響くんと一緒にいると、他人のことが心配で仕方なくなっちゃうんです」
最近になって知り合った葉桜からすれば、ピンと来ない話だった。
「今回でわかったと思いますけど、響くんってすごく心配性でお人好しなんです。私もそれに助けられた人間ですから、その分だけほかの人に優しくしようって思っちゃいますよ」
ただの偽善者、そんな最初の印象から葉桜の中での響は大きく変わっている。
「先輩は・・・」
葉桜が何かを言おうとした瞬間、体温計が測り終わった音を鳴らした。
「あっ、終わったみたいだね。ちょっと見せてください」
そう言われてしまったので、自分で確認した後に二色に体温計を渡した。
「37度2分ですか・・・まだ少し高いですから、ご飯できるまで寝ててください。ちなみにご飯は食べれますか?」
「ありがとうございます。何から何まで・・・」
そんな話をしていると、玄関のドアが開く音がした。
「響くんですかね?」
音の人物は、1度リビングに移動してから、部屋のドアを開けた。
「起きたのか。すまんな、何も分からないから2人も呼んじゃって」
「いえ、こちらこそ・・・」
やっぱり人を呼んだところや、その様子からも下心を一切感じられない。
「葉桜さん起きたんだね。お粥作ったから食べれる時にでも食べてね。食後に薬も忘れずにね」
ご飯を作り終わった神崎が部屋に入り、そう言った。
「葉桜さんも起きたことだし、私は帰ろうかな」
「私もそうさせてもらいます。響くんはどうしますか?」
「もう少しだけここにいるよ。今日は助かった。ありがとう」
荷物を持った2人は、こちらに手を振りながら部屋を出ていった。
「・・・お二人とも本当にいい人ですね」
「意外か?」
そう聞かれた葉桜は、内心意外だと思っていた。
好きな相手を横取りしようとして、わざとのように歩み寄ることを目の前でした。
「そこまで心配されているとは思ってなかったので」
少し前に感情共鳴を使った響からしても、葉桜からは2人への苦手意識、2人からもあまり好意的な感情を持っていなかった。
「多分だけどな。2人は葉桜が人間だったから動いてくれたと思うぞ」
「は?」
何を言い出すかと思えば、訳の分からないことを言われてしまった。
「人が倒れてたら助ける。それが2人には簡単に出来たって話だよ。損得は多分考えてないだろうし」
「すごいですね・・・」
すると響は、葉桜の頭に手を置いた。
「ふぇっ!?ちょっ・・・」
「葉桜もすごいよ。他人のこと1番気にかけてるし、1番周りが見えてる」
本当にカッコイイと響は思っている。
「葉桜は俺が持ってないもの全部持ってるからな。2人と同じくらい良い奴だと思ってるよ」
それは葉桜がかつて誰にでも好かれるキャラを演じていた時にも聞かなかった言葉。
そんなことを言われてしまえば、決め事を破っても仕方が無いのだろう。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「おはようございます。先輩」
「おはよう葉桜、体調は大丈夫なのか?」
「お陰様で」
談笑していた2人に、神崎が近づいてきた。
「おはよう篠田くん、葉桜さんも」
「おはよう神崎」
「それじゃあ行きましょうか」
「そうだな。葉桜と神崎は他に誰か待ってたりするのか?」
「大丈夫ですよ」
「う・・ん・・」
(今、葉桜さんを先に呼んだ!)
面倒くさい女ムーブをしながら、そろそろ差を見せつけようと状況作成をした。
「きゃっ・・・」
通行人に押されるようにして、神崎が響の方に倒れ込む。
(これで葉桜さんに差を・・・)
「大丈夫ですか?」
しかし倒れ込んだ先にいたのは、響ではなく葉桜だった。
「あ・・・ありがとう・・・」
そう言った神崎に、葉桜は小声で言った。
「先輩には簡単に近づかせませんよ?もし無理矢理でも近づいたら・・・」
最後の言葉を聞く前に、神崎の体が危険信号を発した。
「気をつけてくださいよ、神崎先輩?」
突如として現れた後輩は、因果すら揺るがす状況作成を能力を使わずに阻止する。
そして笑顔の眩しい女の子だ。
(あの笑顔はヤバいよ・・・)
嗜好複製、他人の趣味や嗜好を知ることが出来、場合によってはコピーも可能。
そして自分と他とを繋ぐ能力
好きだって言わせたい 安里 新奈 @Wassy2003721
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