聖域侵犯
「えっと・・・響くん一緒に帰りませんか?」
帰りの支度をしていた響に、二色はそうやって何気なく声をかけた。
「別にいいけどさ。他の女子とじゃなくていいのか?」
「響くんがいいです」
どうやら響のこの感じは小学校の頃から鈍感なのは変わらないようだと理解し、少しだけ二色から笑みがこぼれる。
強気の姿勢を持って、二色は動いた。
「それじゃ小夜ちゃんと篠田くんまた明日ね」
・・・言の葉遊び
二色は授かった能力を挨拶をしてくれた女子に使った。
頭の中にさっき言われた文が浮かび上がってきたと同じくして、「篠田くん」そしてまた明日」が赤く色づいた。
どうやらあのクラスメイトも、少なからず響に好意を持っているようだ。
言の葉遊びと自分で名付けたこの能力だが、他人の言った言葉の誤魔化したい事や心の中で強調したい単語を知ることが出来る。
さっきまで頭の中で強く浮かんでいた「篠田くん」と「また明日」から考えるに、響のことをかなり意識していて、明日会えることを楽しみにしていることが分かってくる。
相手に自覚があるかは定かではないが、非常にいい結果が得られたようだ。
「何してるんだ?一緒に帰るんだろ」
「あっ、ごめんなさい。すぐ行きます」
ここでも言の葉遊びが理解した二色は、この下校のタイミングで今の響の情報を知ろうと決めた・・・のだったが
「あれ?篠田くんと二色さん一緒に帰るの?」
教室を出ようとしたタイミングで、神崎に2人は呼び止められた。
響は思いついたようにして神崎に提案した。
「ついでだし神崎も一緒に帰らないか?俺と2人で帰ってもつまらなくなりそうだし」
「いいよ、私も二色さんともう少し色々話してみたかったしね。ちょっと待ってて、すぐに支度しちゃうから」
2人で帰るけいかくが台無しになり、二色は心の中で地団駄を踏んだ。
タイミングに違和感を感じながらも、神崎が支度を終わらせ、教室を後にした。
今の声のかけ方を見れば、能力を使わなくとも二色には神崎が響に好意を抱いていることくらいは分かった。
「俺のことはお互いに知ってるし、2人で自己紹介してみたら?」
「そうだよね。だったら私からしようかな。私は神崎みのりって言います。趣味は読書と裁縫かな。何か困ったことがあったら言ってね」
「私は二色小夜。趣味は・・・音楽を聞くこととかです。頼りにしちゃうかもですけど、よろしくお願いします」
少しだけ神崎さんに好感は持てたが、やはり響のことを考えると逆に侮れなくなった。
そこで二色は少しカマをかけてみることにした。
「神崎さんと響は仲いいですね」
「まあ、結構朝とか一緒に来るからな」
「付き合ってるわけじゃないのですか?」
「付き合ってはないよ!篠田くんってすごくモテるし、私なんかじゃつり合わないよ」
(・・・言の葉遊び)
神崎さんの言葉を読み取ると、「付き合ってない」そして「つり合わない」が強くイメージされた。
神崎自身が響に好意を抱いていることはすぐに分かったが、二色にはそんな神崎がつり合っていないことを気にしているのが少し意外だった。
「別につり合ってないなんて感じたことは無いけどな。むしろ神崎の方が頭もいいし、優しいだろ」
そんなことを言われた神崎は、少し顔を赤らめた。
「神崎さんとも仲良くしたいです。私も朝一緒に来てもいいですか?」
先ほどの神崎で満足することのなかった二色は、再び神崎にカマをかけた。
神崎は思いもよらない二色のその発言に、驚きの声が盛れる。
「えっ!?」
「別にいいぞ。神崎もそんなに驚くことではないと思うんだがな・・・」
「私も別にいいよ!早く仲良くなりたいもん」
「ありがとうございます。あっ、でも方向違うと思います、多分・・・」
「そうだったのか。だったらこっちに来てよかったのか?」
「少し遠回りになってしまいますけど、お2人と話したかったので」
二色にも、神崎という邪魔は入ったものの、何とか響との交流を持つことが出来た。
しかしその状況を神崎はよく思っていなかった。
「・・・・・・こうなったら」
何か小さい声で神崎が呟いているようだ。
「・・・よしっ、少しだけそこのスーパー行ってもいいかな?」
「いいぞ」
「私も構わないよ」
神崎は夕ご飯の買い出しのため、カートを持ってさっさと買いたいものを入れた。
すぐにレジで精算を済ませると、何やら1人の店員が神崎に声をかけてきた。
「ただいま福引きをやらせて頂いてます。こちらの買い物金額ですと・・・1回どうぞ!」
「何かいい物でも当たるといいな」
「1等のアミューズメントパークとか当たればいいんだけど・・・」
神崎は福引を回し、その結果を店員が確認すると、ハンドベルを大きく鳴らした。
「おめでとうございます!1等のアミューズメントパークペアチケットですよ」
その結果に、二色も響もかなり驚いた。
「本当に当たるものなんだな・・・」
「おめでとう・・・すごいね」
「実感無いなぁ・・・本当に偶然だね」
軽く個人情報を書き込んで、後日発送してもらうことにすると、3人は再び歩き出した。
「ねぇ・・・もしよかったら篠田くん一緒に行ってくれないかな?」
「そう言ってくれるなら嬉しいが・・・どうして俺なんだ?」
(運だけは持ってるなこの人・・・それにしても響デリカシーがないね)
「いっつもお世話になってるから、そのお礼をしたくって・・・」
この状況は、あまりのも二色にはよくない展開だ。
「そういうことなら、その運にありがたく乗っからせてもらおうかな」
そんな二色の思いとは裏腹に、神崎の誘いを響は快諾してしまった。
「だったらまた連絡するね。私はこっちだから」
「ああ、また明日」
「さよなら・・・」
・・・・・・・・・
圧倒的運を見せつけられた二色は、初日から「神崎さん」を本当のライバルとして認めなくてはならないようだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
私は2人と別れた帰り道で、少しだけ罪悪感を感じていた。
(少しでもリードしたかったから状況作成で福引当てちゃったけど、やっぱり悪いことしちゃったな・・・)
とはいえ、かなり楽しみなことには変わりないのだが。
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