今に至る

「好きだ。俺と付き合ってくれ」

夕は今日も1人の男の子から告白を受けた。

「少しだけ考えさせてもらってもいいかな」

「もちろん、返事はゆっくり待ってるから」

普段だったら「ごめんなさい」で終わることを、葉桜はこの時だけ返事を渋った。

その告白相手というのが、非常に厄介な男の子だったからだ。

成績優秀、スポーツ万能、品行方正で才色兼備

彼を彩る言葉は聞けば聞くほどに出てくるが、要するに女子からモテモテのイケメン男子ということだ。

そしてもう1人、これから厄介になっていく女子もいた。

夕のクラスの最高位に存在し、自分の考えを曲げない(つまり自己中)で、なおかつ告白してきた男子に好意を寄せている。

今回のことが知られれば、ただの一人ぼっちから、最悪の場合イジメまで発展するだろう。

告白を受ければ当然、周囲にも気づかれ、夕も別に好きでもない男の子と付き合うことになってしまう。

告白を断れば、どんな形かで知られることになるだろうし、「お高くとまっている」なんてことも言われるかもしれない。

そこで夕がとった行動は、ひとまずの「保留」だった。

これでしばらくは他に流れることもない、その間に時間をかけて対処法を考える。

しかしそんな考えは、杞憂に終わることとなる。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「葉桜さん、告白されたらしいわね」

「えっ・・・」

次の日の朝、登校して来た夕の元に近づいてきた女の子は、開幕そうそうに夕の肝を冷やす言葉を話した。

「・・・本当なの?」

ここで嘘をついても、後でバレればさらに事がめんどくさくなるだけだ。

「うん・・・でもまだ返事はしてない」

「そうなんだ」

傍から見ても不機嫌そうな顔をしながら、その時はそのまま元いたグループへと戻っていった。

それからというもの・・・特に何も起こらなかった。

明らかな嫌がらせも、一方的な暴力もふるわれなかった。

しかしそれでも前とは大きく違ったところが出来たのも事実だ。

「付き合おうよ」

「好きなんだけど、どうかな?」

告白される回数がさらに増え、その内容も軽薄なものばかりで喧嘩でも売られているのかと思ってしまったほどだ。

理由はすぐに分かった。

1人の男子が夕に告白し、あえなく振られるとこう言い残した。

「俺みたいなのが好みって聞いてたんだけどな」

吐き捨てるような小さな声だったが、夕にはその言葉がはっきりと聞こえた。

どうやら夕が自分のことを好きだと錯覚させている人がいるようだ。

誰が流しているのか、それを調べようにもこういう形で自分自身も知ったのだ。そう簡単には知ることが出来ないだろう。

そこで夕は完全に暇つぶしとかしていた趣味や嗜好を知ること出来る力「嗜好複製」を使うことにした。

あとは、クラス内で誰もしようとしなかった図書委員の会議で、隣のクラスの男の子に声をかける。

「ここなんだけどさ・・・」

当然、調べ尽くしたその子の趣味や仕草を自然に使い、確実に距離を縮めていった。

この子もまた夕に告白してくることだけは絶対に避けるようにし、確実に情報を回収した。

(やっぱりあの女の子だったんだね・・・)

夕のクラスの実質的な頂点に立ち、夕に告白してきた男の子に好意を寄せていたあの。

告白に誘導させる方法というのも、その人望とは違う、大きな圧力によって錯覚させるというものらしい。

(きっと私が持ってないものでねじ伏せたいんだろうな)

そう考えると、フツフツと怒りが湧いてくる。

(人望ってどういうものか教えてあげようかな)

それからは小学校の頃のような誰にでもいい顔をして、信頼されるように振舞った。

最初こそ、少し気味悪がられてしまったが短期間で信頼を勝ち取り、真の意味での中心的人物像を作り出せた。

「そういえばさ・・・」

あとは簡単だった。

彼女のようにいちいち手間になることはせず、少なからず彼女がいいと思っていたであろう男子に同じような噂を流した。

しかしながら、突如として夕が中心人物になったと思えば、いきなり気になっていた男子から告白をされるのだ。

そのまま彼女は何が正しいのかを掴むことが出来ずに潰れていった。


高校に入学した夕は、これを気に一人暮らしを始め、迷った結果少しランクを落とした高校に入学することが出来た。

当然、誰も何もしてこなければあの時のようなことはしないだろう。

「ちょっとさ、分かってるんだよね」

電車のホームには男性の上に乗った1人の男の子がいた。

「あれって篠田先輩でしょ?カッコイイよね」

後輩からのあこがれの的であり、学校内外でも評判がいい。

あの時の快感を知ってしまった夕には、あまりにも最高すぎる相手だった。

「初めまして」

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