葉桜夕の苦悩

小中学校時代の葉桜夕を知る人間はほとんど居ない。

父親が転勤が多いことから、居ても半年、早いときでは半月もあった。

そのことを父親も母親もいい事だとは思ってはいなかったが、それでも夕は楽しそうにしていた。

どんな所に転校になってもすぐに順応し、すぐに他人との距離を縮めることが出来たのだ。

しかし小学生だった夕にも、一つだけ決めていたことがあった。

「夕ちゃん・・・ほかの所でも頑張ってね」

この時は引っ越してきてから2ヶ月

比較的落ち着いていたクラスだったことからも、すぐに友達は出来、短い期間だったがお別れ会まで開いてくれた。

「こっちこそ・・・今までありがとね」

友達「だった」女の子に囲まれ、私の周りでみんなが泣いている。

「それじゃあね!」

帰り道、みんなに手を振ると、私は次の学校のことを考えていた。

誰かに話せば薄情だの冷淡だのいわれるかもしれない。

私はどれだけ仲良くなっても、絶対に肩入れだけはしないことを心がけていた。

いつかは絶対に離れることになるし、そこに肩入れして辛い思いをするくらいなら最初から何も思わなければいい。

そのことを誰にも悟らせなければ、誰も傷つかない何も問題がない。

小学生だった夕はそんな感情が浅はかだとすら考えずに、1ヶ月過ごした学校で卒業式を迎えた。

この時の夕は、少しだけ中学校に入学するのが楽しみだった。

ほとんどの中学校が小学校よりも人数は多いし、歳が違う人とも交流を持ちやすくなる。

確かに夕の考えていたとおり、中学校は多くの交流が持てる場所だった。

しかしそこには小学校とは大きく違う点も存在することに夕は中学校に入学してからしばらくして気づいた。

決定的となったクラス内でのグループ、授業内外でも見えてくるスクールカースト、気に入らない奴がいれば容赦なく叩き潰すその姿勢

その全てが夕が今まで取ってきた行動にとっての障害となった。

八方美人をすれば一部から嫌われ、かといって孤独を選べば嘲笑の的となる。

当然、特定のグループに属するという手もあったが、それは肩入れを絶対しない夕にとっては選ぶことが出来ない選択肢だった。

何よりも最も苦労したのは

「葉桜は○○って知ってる?」

「うん、今流行ってるよね」

地域に合わせた流行に自分を合わせることだった。

本屋やショッピングモールで今ここら辺では何が流行っているのかを盗み聞きしながら調べ、さらに浅い知識だと思われないために徹底的に調べ尽くす。

骨の折れる作業だったが、見返りも大きくやる価値は十分にあった。

しかしそんなある日、何度となく繰り返された父親からの転勤の話。

今度の場合は、本当に期間が短く下手すれば1ヶ月くらいと言われた。

それを聞いた私は、時間や労力、そしてちょっとした気分で一切の下調べをせずに転校初日を迎えた。

案の定、私は1人になってしまったが、特段辛い感情や人と喋りたいなんかも思うことは無かった。

何よりも不安だった嘲笑の的になることもなかったことが大きかった。

その時になって、ようやく私は今までしてきたことの無意味さを実感した。

それからは少し長い期間であっても1人になることを貫いた。

かつての夕が恐れていたようなイジメにも合わなかった。せいぜい教室の影でこちらの方を見ながら何かを言われるくらいだった。

そんな新しい生き方を知った夕だったが、それでも新たな問題が生まれることになった。

そんな期間の間に、私の中で1つの力のようなものが目覚めていた。

どうやら他人の嗜好を知ることが出来る能力のようで、最初のうちは自分にしかない力というものに興奮したものの、今の私には使い道がなく、しばらく経つと暇つぶしに使う程度のものになっていた。

今までも数こそ少なかったもののされていた告白の回数が確実に増えた。

それがどうしてなのかが理解出来なかった夕はある日告白してきた男子に聞いてみた。

「どうして私なのかな?」

「一人でいる時とか何だかほかの女子とは違うって思ったから・・・」

どうやら男という生き物はほかとは少し違った異性に対しての方が好意を抱きやすいらしい。

理由も聞いても理解だけは全く出来なかったが、それでもそれが理由であるならどうしようもなく、夕も半ば諦めていた。

しかし理不尽というのは、誰に対しても平等に降りかかるものだった。

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