神崎みのり一人だけの物語
ここに一人の女の子が歩いていた。
その姿は老若男女問わず振り返らせ、顔を元に戻し、もう一度振り返る。
長く艶やかな黒髪に、メガネの奥の鋭いようにも凛としているようにも見える目、背が高いわけではないがバランスの取れた体型とそのスタイル。
しかしその凛とした目には、どこか曇っているようにも見える。
人の目に疲労を感じながら、彼女は自分の教室である1年B組に入った。
「・・・よう」
廊下側で談笑しているクラスメイトにすら聞こえないくらいの大きさで、彼女は朝の挨拶をした。
別にする必要は無いのだが、あくまで自分がここにいるという証明のために。
人とコミュニュケーションを取るのが苦手ではない、むしろとても好き「だった」
彼女も自分からコミュニケーションを取るのが嫌になったわけではない。
要するに彼女は、高校生デビューと言うものにに失敗したのだ。
小さい頃から周りには生真面目と言われ、中学に入ると少し距離を置かれることも多かったが、それでも小学校からの友人の仲介があって友達はそこそこ多かったのも事実だ。
しかし高校に入ると、同じ高校に入った友人はおらず、友人の友達という形は当然得ることが出来ず、残ったのは生真面目と言われてしまう立ち振る舞いや雰囲気だけだった。
きっちりと板書を取り、積極的に授業に取り組み、するべき仕事を行い・・・
今の彼女は、ただの少し遠目で見る生真面目な女になっているであろう。
そんな繰り返しが続く毎日は、正直つまらなかった。
というよりも酷く孤独を感じてしまう。
しかし彼女にとって、その程度は気持ち程度の問題だった。
学校を出てしばらくは生徒もまばらにだが歩いているが、バスに乗り1時間ほど揺られると、その状況は一変してしまう。
バス停からほど近い閑静な住宅街。
少し遅い時間だが、会社帰りのサラリーマンや部活帰りの学生とはタイミングが合わず、いつもほとんど人がいない道を通ることになってしまう。
「・・・・・・」
閑静な空間に、自分と「もう1つ」の足音が聞こえている。
(付けられてる・・・)
中学時代から誰かに付けられる感覚を感じていたが、ここ最近では身の危険を感じさせるまでになっていた。
そこでとある日にこっそりと後ろを見ずにスマホで写真を撮ってみた。
(確かに・・・写ってた)
そこには写真がぶれてしまっているものの、ハッキリとこちらを凝視し、後ろを歩く男らしき人影が写っていた。
あまりの恐怖と困惑にすぐに写真を消してしまったが、今でも思い出そうとするだけで体の震えが止まらなくなる。
(確実に今日もいる・・・)
後ろから聞こえてくるコツコツとした革靴の足音がその証拠だ。
少しづつ大胆になっていったその行動は、今ではこちらが気づいていることすら楽しんでいるように感じた。
私は少しづつ歩くスピードを上げ、逃げるように歩き出す。
早くこの場から逃げ出したい一心と、少しでも変な態度をした時の危険性の狭間で揺られながら歩いていると、いつの間にか家の前に着いていた。
ひどい吐き気と、視界がぐるぐると回転が襲ってくる。
嗚咽を吐くのを必死に耐え、男に気づかれない程度のペースを保って家へと歩を進める。
「・・・はぁ」
家に付き、彼女は思わずため息に近い安堵の声が漏れ出す。
それに男が気づかないかと慌てて周りを軽く見回すが、男の姿はどこにもなく、私は安堵で腰が抜けそうになってしまった。
こんな生活を最低でもこれから3年以上しなければいけないと考えると、気が狂いそうになる。
誰かに相談するべき
どんなサイトを見ても、結論にはそう書いてある。
だけど・・・
「おかえりなさい。ご飯もう少しで出来るから」
「ありがと美来、私も手伝うから少し待ってて」
彼女が軽く頭を撫でると、恥ずかしそうにした。
「大丈夫だよぉ。お姉ちゃん帰ってきたばかりだし、ゆっくりしてていいよ」
そう言いながら未来はキッチンの方へと戻っていく。
学校でも中心人物として活躍しているし、家でも完璧な妹だ。
彼女もに自分の良いところを全て持っていった様な妹だと思い、ガッカリしてしまう。
2階の自分の部屋に入り、制服を脱ぐと部屋着に着替え、そそくさとリビングに降りてきた。
「お母さんきょうも遅いの?」
「今日中には帰れないっぽいよ」
「それなら早く食べちゃおうか」
母親が出版関係に勤める私の家では、自分が高学年になった時には家のことをほとんどしていた。
しかし彼女が少し遠い高校に通うようになると、どうしても家のことに手が回らなくなり、今では妹の美来に任せっきりになってしなっている。
「ねぇ、お姉ちゃんご飯食べ終わったら少し数学見てくれないかな?」
「私あんまり数学得意じゃないんだけどな・・・まあ可愛い妹の頼みだし頑張ってみるよ」
「ありがと、後片付け私がしちゃうから。部屋で待ってて」
言われるがままリビングから追い出されてしまったので、仕方なく自分の部屋から中学時代の教科書を持ってきて、美来の部屋で待つことにした。
美来の部屋に入るのは久しぶりだったが、相変わらず物が少ないシンプル過ぎる部屋だった。
しかし机に置いてあったコルクボードには、私やお母さんの写真、そして1枚だけ大切に飾られた3人の集合写真が飾られていた。
「・・・守らなきゃ」
私だけの問題で、この空間を壊しちゃいけない。
彼女はそんな気持ちを持ちながら、美来を待った。
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