神崎みのりと篠田響の物語
「・・・?お姉ちゃんどうかしたの?」
「・・・ううん。何でもないよ。そんなことよりご飯食べよ」
「まあ、お姉ちゃんがそれでいいならいいけど・・・」
美来に指摘されるまでみのり自身も、ほとんど自覚がなかったようだが、どうしても顔に出てしまう。
最近になり、ストーカーに付けられる頻度も増え、さらに付け加えるならば自分との距離が前よりもかなり近くなっている。
いつ何をされるのかも分からないほどに
「・・・・・・?やっぱり何かあったの?」
「ううん、今日もご飯が美味しいからさ」
「あ、分かる?今日はカレーだから少し炊き方変えててね」
そんな他愛もない話でも、美来は楽しそうに私に話してくれている。
(やっぱり・・・守らなきゃ)
思わず、スプーンを持つ手に力が入ってしまう。
そんな姉の姿を楽しそうに話しながらも、美来は見逃さなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
神崎がいつものように帰り支度を進めていると、隣の男子が私に声を掛けてきた。
「今日カラオケ行くんだけどさ。よかったら一緒に行かないかな?俺も神崎さんいた方が楽しいからさ」
「あー・・・えっと・・・」
かなり魅力的なお誘いではあった。
これを機会に友達もできるかもしれない、そんなことが脳裏をよぎった。
「家で妹待ってるから。ごめんね」
「それなら仕方ないよな・・・それじゃ」
肩を落としてその場を後にする男子に、少しだけ罪悪感を感じながらも、私は帰り支度を済ませて教室を出た。
ほかの生徒が仲良く帰っていたり、部活に身を置き、後者の周りを快活な掛け声で走る中で、彼女の中にはやはり「恐怖」の感情しかなかった。
(今日もいるよね・・・)
正直、そろそろ心が壊れそうだ。
妹のおかげで、何とか踏みとどまれているが、もしも妹がいなかったら今頃彼女がどうしていたかなんて分からない。
少しだけ呼吸が落ち着かないまま、私はバスを降りて、いつもの通学路を歩いた。
そうして聞こえてきたのは、やっぱり私とは別のもう1つの足音。
カツ・・・カッ・・・
呼吸がさらに荒くなっていく。
頭の一部に痛みが走り、視界はグワりと歪み始める。
必死で平常心を保とうと、目を見開き歩くスピードを上げ・・・
「ねぇ・・・君」
その瞬間、喉が酸素を欲するようにして大きく息を吸い込んだ。
逃げることしか頭に入っていなかった。
その行動が男を刺激したようで、この日彼女に声をかけてきた。
「どうして逃げようとするんだい」
視界が定まらず、口はパクパクと何かを求めるように開いたり、閉じたりを繰り返している。
こうやって声をかけられた時の対処方法も知っている。
とりあえず自分の身を守るためにも、男と距離を置かなければいけない。
「あっ・・・あ・・・」
身体が動かない。
頭が処理出来ていないのか、体がすくんで動かないのか。
そんなことはどうだっていい、今言い表すべきは「身体が動かない」の言葉だけだ。
「少しお話しようよ・・・」
そう言われ、手を掴まれそうになる。
とっさに身体が動き、手を引いた。
それをすると共に、自分の身体が機能することをはっきりと理解し、そのまま男から逃げるように走り出した。
「どうして逃げるのだい」
少し慌てた様子で、男はこちらに向かって走ってきた。
(このままじゃ・・・追いつかれる)
そうして今度は荒々しく腕を伸ばして彼女の腕を・・・
これからのことを考えないように、流れてくる涙を必死にこらえようと、彼女は目を思いっきり瞑った・・・がいつまで経っても腕を掴まれることはない。
瞑っていた目を開けると、そこには路上に倒れ込む男と、その上に乗りかかるような体制の男子がいた。
「く・・っそ!離せよ!」
「ふざけんな・・・警察が来るまで仲良くしてようぜ・・・」
必死の形相の男に対して、口だけは飄々としている男子
しかも顔を見ると、やけに声をかけてきた男子だった。
「どうして・・・」
思わず私から、そんな言葉が出てしまう。
「ガキなんかに邪魔されてたまるかよ!」
そう言って、男は右ポケットに手を突っ込みカッターを取り出した。
そして刃を出すと、乗りかかっている男子の脇腹めがけて刃を突き刺した。
「っ・・・思ったより痛いな・・・」
それでも男子は少しとして身体を動かさない。
「どけって言ってんだろ!」
カッターを抜き、再び脇腹を突き刺した。
「・・・くっそ痛てぇ・・・」
何度刺されようとも、動こうとしないその姿は守ってもらっているであろうかのじょからみても、狂気じみていた。
「だから邪魔なんだよ!」
「そこの男動くな!」
5、6回ほど刺され、次の刃が向けられようかと言う時に、警察の人たちがカッターを奪い取り、男を完全に拘束した。
「・・・!篠田くん!」
その男子の名を叫びながら、彼の元へと駆け寄った。
「神崎さん大丈夫?何かされてたりしない?」
「私は何もないよ。それよりも篠田くんが!」
「あー・・・どういうことが起きてるのかが分かってると、事前に準備できるからいいよな・・・」
何かを小声で言いながら、着ていたワイシャツのボタンを少し外した。
「これって・・・」
「防弾チョッキに近いやつだ。友達から借りてきた」
どうしてこうなることが予測出来たのか、しかしそれよりも彼女の目に映ったのは、確かに赤く染った箇所だった。
「やっぱり刺さってたか・・・そこだけ布が薄いのに気づかれてさ。それからはそこを滅多刺しだったよ」
「なんで・・・どうしてなの・・・」
すすり泣くようにして聞いてくる彼女に、軽く手を握るようにして彼は言った。
「これ以上目の前で大切なものを失いたくないから。神崎さん居なくなったら勉強教えてくれる人居なくなっちゃうしさ」
そのただのクラスメイトに対する感情ではないものや、どうしてここにいるのか、あらゆる疑問が浮かんできたが、それよりも今こうして助けてくれたことに彼女は涙を流した。
「ありがと・・・ありがと・・・」
(めちゃくちゃ痛いけど何とかなったかな。感情共鳴に本当に感謝だけど、男子に対して苦手意識があったのにここまでの理由があったとはな・・・)
学校での男子に対する感情や、彼女が帰っているであろう時間帯に向けられていた狂気の感情
行けば自分にすら返ってくるかもしれないその状況に、彼は迷わず行動を起こした。
「篠田くん・・・篠田くん・・・」
「泣くなって神崎・・・多分死なないから安心していいからさ」
「だったら多分死ぬかもってことでしょ!嫌だよぉ、死んじゃダメぇ・・・」
「うわ面倒くさ・・・」
救急車を呼び、彼の命には関わらないことに安心した警察官は、彼の有志と1人の女の子の恋が落ちる瞬間に安堵の表情を浮かべた。
能力「状況作成」
自分を含む空間での出来事を可能な限り作り出すことが出来る。
誰にも頼らず、逃げることが出来る能力である。
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