後輩の努力と真実

「それじゃあ先輩、また明日です」

「ああ、今日は色々とありがとな」

「いえ、お気になさらず。それでは」

礼儀正しくあたまをさげると、葉桜は自分の家があるであろう方向に帰っていった。

一昨日の放課後、そして今日一日を葉桜とほぼ過ごした響はその人間性の凄さが分かってきた。

多趣味で人懐っこいところもあるが、それ以上に他人が何かを考えていれば、その時に合ったことをしてくれる。

後輩としては一緒にいて楽しいし、人としても尊敬したいと言ってもおかしくはない。

(でもどうしても違和感みたいなのがあるんだけどな)

この日はその違和感の正体に気づくことなく、響も家路についたのであった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


葉桜と知り合ってから数日が経った。

(今日は葉桜来なかったな・・・)

いないことへの寂しさとは違う、そこにいた人がいない感覚に響の少し気分が落ちていると、担任が響に声をかけてきた。

「篠田、すまんが来てくれないか?」

「なんですか?テストならどうしようもないんですけど」

「数学にお前は親でも殺されたのか。今日の要件はそうじゃない。ちょっと頼みたいことがあってだな」

そう言って、担任は響に何枚かプリントを渡してきた。

「お前って確か葉桜と仲良かっただろ。あいつ今日休んだから、様子を見てくるがてらプリント渡してきてくれないか?」

「別にいいんですけど・・・どうして俺なんですか?」

正直、プリントを渡すのだったら俺よりも葉桜のクラスメイトの方がいいに決まっている。

「あー・・・葉桜って結構身体弱いんだよ。だからお前が1番ぴったりだと思ってさ」

「っていう建前で本音は?」

一瞬で担任は腰を折ると謝った。

「言うの忘れてて今更気づいたけどもう放課後でした」

「・・・分かりました。でも住所知らないので教えて貰えませんか?」

「ああ、それはもちろんだ」

担任と職員室に移動し、住所の書かれた紙と何枚かの少し懐かしい数学のプリントを渡された。

「それじゃ、頼むぞ」

担任にそう言われ、送り出されると、俺は1人で葉桜の家があるという方向に向かった。

「あいつ何者なんだよ・・・」

名前からマンションかアパートだということは分かっていたが、そこに建っていたのは、雲すらも突き抜けるのではないかと思わせるほどの巨大な高層マンションだった。

その大きさに圧倒されていた響だったが、このまま突っ立ていても周りから笑われてしましそうなので、少し躊躇いながらもエントランスへと入った。

(うげ、葉桜の階って上から2番目なのか)

高いところが苦手というわけではなく、さらに葉桜の経済力に思わず毒づいてしまった。

葉桜の家のインターホンを鳴らすと、ジジッ・・・という音の後に声が聞こえてきた。

「どちら様ですか・・・」

母親だろうか、気持ち疲れているような声だ。

「篠田響です。夕さんの学校のプリントをとどけにきたのですが、少し体調が心配なので直接お渡しさせていただいておいいですか?」

「あー・・・どうぞ」

やけに適当にあしらわれたようにも感じたが、自動ドアは開き、中へと導かれた。

大型のショッピングモールのような大きさのエレベーターに乗り、エレベーターを出てすぐの葉桜の家のインターホンを鳴らした。

「はい、どうぞ・・・ってせんぱぃ!?」

「えっと・・・葉桜か?」

そこにいたのは、眼鏡をかけオシャレというには程遠い格好をした、葉桜の声を発する女の子だった。

「え・・・あ・・・」

葉桜はまだ状況が飲み込めていないようだったが、響はその女の子が葉桜であることを確信した。

「大丈夫か?顔赤いぞ、本当に辛いなら・・・」

その瞬間、激しく目を泳がせていた葉桜が家の中に倒れ込むようにして倒れた。

「大丈夫か葉桜!?」

慌てて響が抱き抱え、軽く額に手を当てると明らかに熱を持っていた。

「一旦家入るからな。しっかり捕まってろ」

おぶるようにして葉桜を持ち上げると、家の中に入った。

(とりあえず寝かせた方がいいよな)

葉桜の部屋を見つけると、急いで部屋の中に入り抱えていた葉桜をゆっくりべっどに寝かせた。

「・・・すみません、せっかく来てもらったのに何も出来なくて」

「病人の家にほとんど勝手に来て起こした俺が悪いからな。今はとりあえず寝とけ」

「そうさせていただきます・・・」

葉桜が寝るまで付き添い、完全に寝たのを確認すると、俺は起きた時の準備をすることにした。

(あの感じを見ると何も食べてなさそうだな・・・。それと冷えピタと保冷まくらくらいは寝てる間にしときたいかな)

そう思った響は、若干の躊躇いはあったがリビングに入り、冷蔵庫を確認した。

(本当に食材くらいしか入ってないな・・・)

見たところ家の人もいないようだし、家の中にもほとんど物がない。

その空間は葉桜夕という人間を知る人からすると、あまりにもかけ離れており、妙な錯覚にすら陥らせてしまいそうだ。

「さーて困ったものだ」

その頃、葉桜はとある夢を見ていた。

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